My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

「MBA後は転職すべき」幻想の罠

2009-09-19 20:09:22 | MBA: アメリカでの就職

コメント色々いただいてますが、お返事できなくてすみません。
何かまだ、本調子じゃない・・・。
大事を取って早めに寝ます。

とはいえ、今日はボストン界隈の日本人の学生・研究者が集まるイベントがあり、行ってきた。
そこで話していて気が付いたこと。
何か「MBA後は、転職してステップアップするのが美徳だ」と思っている人、多くないか?

私など、「MBA卒業したらどうするんですか?」といろんな人に問われるが、
「○○○○○○(会社名)の日本オフィスに戻るつもり」と答えると、「えー、意外と保守的ですね」と残念がられる。

私の性格や行動パターンなどから、何か面白いことをやって欲しい、という期待が先方にあるらしい。
(アメリカで起業する、と言ったら喜ばれるのかも)

更に、こんなことをおっしゃる人もいた。
「○○大学のMBAは社費で来ている人も転職する人が多い。
MIT Sloanに行った人は社費で行った人は会社に帰る人が多い。(それ自体事実なのか不明だが)
MITはリスクを取れない人が多くて、ダメじゃないの?」

私は、転職したい人はすればいいし、もとの会社に戻りたいなら、別に戻ればよい、と昔から思っている。
アメリカでの就職について色々書いてるが、あれは、転職したいとすでに心を固めている人に向けて、コツを書いてるだけで、転職自体を勧めてるつもりは全くない。

リスクは、勝算のあるリスクをとるべきだ。
そして、「MBA後は転職すべき」などというのは、ビジネススクールのマーケティングに乗せられてるだけじゃないか、と思っている。

ちなみに、ビジネススクールにいると、学校でも、転職が善しとされる傾向がある。
アメリカだから、転職は次のステップアップにつながることが多い、というか
転職しないとステップアップできない業界もある、という理由もあるのだろう。

しかし、それ以上に、ビジネススクール(以下Bスクール)というビジネスの性質上、
学生が転職をするのは、学校にとってメリットがあるから、言ってるだけじゃないか、と思っている。

Bスクールの収益源は、主に学費と寄付金の二つだ。
このうち、企業や個人からの寄付金は通常、収益源の大きな割合を占める。
それを得るためには、寄付金の好循環につながる、優秀な人材を確保するのが重要になる。

米国のBスクールは、今苛酷な競争環境にある。
そもそも米国内にBスクール自体が増えている。
欧州のBスクールが強くなり、日本・中国・シンガポールなどにも増えてきた。通信制のMBAもある。
こういうところに、寄付金のパイを奪われつつある。

また、昔は米国企業も、「社費」でMBAに人を送り込んでいた時代もあったが、今では社内にMBAと同じようなプログラムを短期間で行う仕組みを持った企業がたくさんある。
そういう企業は、MBAに人を送らないし、寄付もしなくなりつつある。

この厳しい競争に打ち勝ち、優秀な学生や企業をアトラクトするには、
「うちのMBAは、来た学生を圧倒的に成長させてます(=インプットに対するアウトプットが高いです)」
ということを強力にアピールする必要がある。

そのためには、「学生が、前職に比べ、どのような職にステップアップできたか」といったわかりやすい指標が必要になってくる。
学生が、転職してどんな良い職を得たか、というのは重要なアピールポイントなのだ。

私のように、MBAに行く前に、すでにMBA後のポジションにいたうえ、MBA後も同じポジションに戻ることになるのは、大学から見たら、つまらないの極致なのだ。
学校側が転職を勧めてくるのは当然だ、と思っている。

もうひとつは、この厳しい競争の結果、MBAの目的が、「転職予備校」となってしまっている、ということも大きい。
多くの学生が、経営について学び、研究する目的でMBAに来るよりも、転職のための手段として来ている。
彼らが、重視するのは何か?
「そのMBAに行ったら、ちゃんと志望の業界の良いポジションに転職できるか。給料は上がるか」といったことだ。
だから、MBAが出している報告書には、詳しく、どの業界に行ったひとが、どれくらいの給料をもらっているか、ということが詳しく報告されている。
MIT Sloanの報告書はここ

だから、学校側が、転職を勧め、現職より給料の高い職に行くことを進めるのはある意味当然なのだ。
(もちろん、個々の就職アドバイザーは、本人の希望に沿ったアドバイスをくれるのだが、)

スタンフォード大学MBAの応募者向けパンフレットを見たときは驚いた。
紹介されている12人の卒業生すべてに、どこからどこに転職したのか、ということが大きく書かれていた。
ここまではっきりと転職人材を求めてられると、面食らうが、どこのMBAもそういう傾向はある。
応募するほとんどの学生が、そこを重視するからだ。

MBAというのは、ゆっくり学生に戻り、今後の10年、20年をどう生きていくか、ということを考える良い機会だ。
だから、当然、会社から派遣で来ているような人だって、転職の可能性も考えて活動し、それに向けたインターンをやるのもよいと思う。
そして、本当に、今の会社に残るのが、自分にとってメリットがあるか、をよーく考えるのが良い。
今の会社に自分を賭けていいのか、あるいは日本という国に賭けてもいいのか。

更に言うと、いろんな会社からこんなに引く手あまたになるのは、MBA後くらいなのだから、一回くらい転職してみても良いかも知れないしね。

そんなわけで、ビジネススクールのマーケティングや、それにすでに踊らされている人に、踊らされないように、人生設計しましょうね、という話でした。

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4 Comments

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効用関数 (Willy)
2009-09-21 01:00:18
各卒業生からの寄付金はゼロを下回らないし、たくさん稼いだ卒業生は限界効用の逓減や税制上のメリットから年収のより高い割合を寄付するでしょうから、各卒業生からの寄付の期待値は年収の凸関数になってるんでしょうね。そうすると確かに、大学とリスク・ニュートラル、リスク・アバースな在学生との間には利益の相反が生じてそう。

ちなみにPhDプログラムでは、アカデミックへの就職率、そしてトップ校へ行く人数を増やすのが大学側の希望ですが、後者を気にするあまり、大学側と学生側の利益はやはり一致していないような。
返信する
うーん、それって (Lilac)
2009-09-21 12:40:13
>Willyさま

「MBA後に転職」というリスクをとることが、将来の年収期待値の増加につながるなら、論理的にはそうかもしれないでしょうけど、
実際には、MBAに来るというリスクをすでに取っていながら転職しない人たちは、転職が期待値増加につながらない人たちだと思いますよ。
(まあ、年収だけが指標じゃない、ってのもありますけど。)

それをリスクアバースというのか、と。

経済学では、こういう2種類の人たちがいるときは、効用関数はどのように定義するんでしょうか(素朴な疑問)
返信する
必要ではない (Willy)
2009-09-21 13:22:18
ご指摘のケースを含めて、利害が一致しないための十分条件を書いたつもりです。

リスク選好的な在学生を仮定すると、期待値がマイナスでも利害が相反しない可能性がありますよね。だから大学側は「リスクを愛せ」と在学生を説得しているという話かと思いました。
返信する
大学の思惑 (Lilac)
2009-09-22 07:23:22
>Willyさま

大学側は、在学生が将来的に寄付をしてくれることを念頭に転職を勧めてるのではなくて、
今年、来年という短期間の転職指数が、入ってくる学生の質を決める→ランキングを決める→寄付も増えやすい
という好循環を生むので薦めてるだけみたいです。

まだ効用関数を考えてくれてるほうが嬉しいですよね。
でも、考えてるのは超短期間。

同じ理由で、学生に「職場と給料の交渉をしろ」とまじめに言いますよ。
MBA卒後の初任給は大事な指標だから、それをできるだけ上げたい。
別に、初任給が高いほうが将来的にその学生からの寄付が増えるなんてことは考えてないです。
(上記で引用してるMIT Sloanの報告書をご参照ください。ここまで詳しく書くか?というほどやってます)

ビジネススクールもビジネスですからね。
しかも斜陽産業。
結構苦しいんだと思います。
返信する

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