前の記事で、大きな保存容量や処理速度を持たず、常時ネットに接続する機器が将来は主流になるかもしれない、と書いた妄想の続き。
機器のひとつとして、net-iPodみたいなものもあるかもな、と思っていた。
iPod-shuffleかそれより小さくて、WiFI、Bluetoothとちょっとした処理機能だけがついてる。
勝手に登録したオンラインのMusic Storageにつながって、オンラインでつくった自分のアルバムからランダムに音楽を流す。
いや、これだけだったら、イヤホンやヘッドフォンだけでも機能を果たせるかもしれない。
勝手にネットにつながって、自分のアルバムの曲を流すヘッドフォン。
あーでも、これだと今のWiFiじゃあ、移動中に接続できなくてだめかもしれないな。
新しい無線規格が必要になるのかなあ。
ついでに私はアンチ・アップルなので、Apple以外の会社が実現してくれると面白いんだけどなあ。
などなど、あれこれ考えていた。
私はもともと、授業を聞かず、窓の外を眺めて物思いに耽るのが好きな小学生だった、妄想家タイプ。
今もあまり変わらない。
さて勝手に妄想を繰り広げていたところ、何と、前回のUtterback先生のイノベーションのクラスに、Irving Wladawsky-Berger氏が講演に来た。
彼はもともとIBMでCloud Computingを主導していた、この業界では著名な方。
Cloud Computingというのは、インターネットでソフトウェアやサービスなんかを提供するやり方の総称。
もともとはビジネス分野で、SaaSといって、ソフトウェアをインストールしたり、サーバを買ったりしなくても、オンラインで会計管理や顧客管理のソフトウェアを提供できる(貸し出す)サービスのコンセプトから始まった。
今は、オンラインでパワーポイントやエクセルが使えるGoogle Docや、写真ソフトのPicasaやMac photo、更に広く、FacebookやTwitterのようなリアルタイムメッセージングサービスもCloud Computingの仲間に入れられる。
さて、氏が講演に来たときのこと。せっかくなので、
「Cloud Computingによって、10年後の消費者の生活-カスタマー・エクスペリエンスはどう変わるのか、そのためには現状の技術では何が足りないと思うか」と質問してみた。
ついでに、上記のオンライン音楽機器のアイディアを例として話してみた。
ところが彼の答えは、
「そういう風に未来を夢想して、それを実現するためには何が必要なのかを考えられる力こそが、イノベーションに必要なものだ」
というものだった。
「実現するために必要な技術はR&Dを頑張れば、いくらでも出てくる。
少なくとも、現在までは、克服が不可能なのではないかと思われるようなことでも、圧倒的な速さで克服してきた。
12年前を覚えているか?
インターネットなんて、パソコンにモデムをつけて、ダイヤルアップで接続して、それでもせいぜい60kbpsの速さしか得られなかった。
それが、今は無線で100Mbpsの世界だ。
技術はいくらでも変わりうる。
それよりも必要なのは、未来を夢想する力だ。」
傍目には、質問をはぐらかされたようでもあるが、ハッとするものがあった。
その昔AT&Tのベル研究所で電子管部長を務め、トランジスタの開発に深くかかわったマービン・ケリー氏の逸話を思い出した。
ケリー氏が、当時MITの博士課程の学生で、後にトランジスタ開発でノーベル賞を受賞したショックレーをスカウトしたとき、自らの夢を語るのだ。
ケリー氏は、
「10年後、20年後、このアメリカという国が求めるものはなんだと思うか。」
とショックレーに問う。
「それは、全てのアメリカ国民が、この国のどこにいても、いつでも、まるで向かい合っているように会話を交わせる通信システムだ。
そのネットワークをつくるためには、残念ながらAT&Tが誇る真空管ではできない。
真空管とは違ったほかの技術が必要なのだ。
それを開発してもらうために君に来てもらいたい。」
ショックレーは、このケリーの夢を聞いて感銘を受け、ベル研に移動し、本当に現在の電話ネットワークの基礎となっているトランジスタ(半導体)を開発する。
この話はもともと菊池誠氏の「日本の半導体40年」に載っていた話だが、記憶が定かでないので、言葉はちょっと不正確かもしれない。
この本を読んだ当時は学生だった私も感銘を受け、こういうケリー氏みたいな人になりたい、と思った。
留学してから、なんとなく忘れかけていたが、コンサルタント時代は、「自分が目指す姿」として色んなところでこの話をしていた。
将来、どのように人々の生活が変わるのか。
人々がどんな新しいことを経験できるようになるのか、どんなふうに便利になるのか。
そういうことをはっきりとイメージできることが、技術を主導するハイテク企業の経営者、そしてそれをサポートするコンサルタントにも必要なことだ。
などと偉そうに語っていたものだった。
未来を夢想する力-The ability to dream the future world-がイノベーションを主導するのに大切だということ。
Irving Wladawsky-Berger氏は、そのことを思い出させてくれた。
私の妄想は、ベル研のケリー氏のような夢想のレベルに達しておらず、はっきり言って技術好きのただの妄想の粋を出ていない。
更なる勉強と想像力の研鑽が必要だ
でも、彼のような、企業や産業が本当に目指すべき世界をはっきりと思い描き、それを主導していくような人になりたい、と思う。
そういうことを、久しぶりに思い出し、襟が正されるような講演だった。
流石IBMの技術の主導者だと思う。
白人至上主義者であったとか部下や周りの人に対して傲慢であった(学問の世界では徒弟制度が生きている日本ではあたり前ですけどね)とか言われているがそれを含めてもそれをはるかに凌駕する貢献だと思います。
ベル研での基礎的な研究に飽き足らず、カリフォルニアに移って自ら研究所を作り、そして彼の考えが今日MOSFETと呼ばれている実用的な半導体に発展し、彼の集めた人物が中心となってシリコンバレーを形成し、今日の半導体産業を作り上げた人物ですからね。
Cloud Computingは、一時期日本でももてはやされたユビキタスに含まれる考えの延長線上にあるのでしょうね。
Googleが言い始めて、Microsoftも多額の開発費をかけているようでアナウンスメントはあるが、なかなか現物がでてこないのは、やはりセキュリティーの問題がクリアできないのではないでしょうか。
それにソフトやデータをセンターに集中させるのは、元は単なる端末であったパソコンが今や単独でマルチタスクであるというように分散化によって進んできたComputerの歴史を考えると、このままそういう方向に行くかはどうでしょうね。
今はハードの開発のスピードが鈍化してソフトに追いつかれ対応しきれないからCloud Computingなんかの考えがでてきているが、ハードの開発が進めば主流にはならないような気がします。パソコンの能力は今やかつてのSuper Computerを個々人が使っているのだと考えることもできるのですから。
コメントありがとうございます。
私も「20世紀で最も世界を変えた発見は何か」と言われたら、すかさず、トランジスタだと答えます。
理論家のバーディーンやトランジスタ発見を支えた氷山の下の方にいる人たちも、本当にすごい貢献だと思いますが、世界を変え、シリコンバレーを中心にひとつの産業を作り、彼の弟子がフェアチャイルドになり、インテルになっていったけいいを考えると、やはりすごい人だったのだと思います。
ところで、Cloud Computingについては私はよく知らないので質問です。
Utterback先生のクラスでは、Cloud Computingをやっている人も多くて、彼らも口をそろえて「セキュリティが問題だ」と言っていました。
このセキュリティの問題っていうのは、現在のインフラやソフトウェア以外の部分を変えずに解決することが出来る問題なのでしょうか?
IPv6がないと解決しないのか、必要ないのか。
無線ではWiFiという通信規格は根本的にだめなのか、それともこの通信規格でも何かがあれば出来るものなのか。
Cloud Computing自体は、本当に往時の「端末」を思い出させる概念ですから、双方の技術の進化にともなって、振り子のように、あっちにいったりこっちにいったりしながら進んでいくのでしょうね
Googleが広告収入に頼らない新たな収入源を模索しているのだろう程度に受け取る考えもあるように思います。
一般的に言うとどんなものでも完全なセキュリティは不可能でしょうし、暗号化技術がいかに向上してもコストと時間をかければ、最後には全照合という手段で破られますよね。ハリウッドでも98年の段階で「マーキュリー・ライジング」で自閉症の9歳の少年でさえ最高度の暗号を解いてしまうという警告を描いていましたね。
セキュリティと言ってもコストとそれに見合ったセキュリティが確立できるかということで、現状ではそれさえクリアできていないレベルで、実務上問題が発生することが予見できるのでまだ市場にでてきていないのでしょう。
Cloud Computingでの最大の問題は、データの現物が事実上他人の手に委ねられてしまっていることでしょうね。現状ではサーバーの管理者がデータの存在がわかればデータを改変したり、物理的に破壊できるというリスクがあるでしょうからね。
もう一つは人的要因もあるでしょう。4桁のダイヤルキーは普及しているがコストはあまり違わないのにより安全な5桁のダイヤルキーでは人が覚えられないので普及していないなんてこともあります。またGoogleでユーザーの誤解があって、書き込んだデータが流出して問題になったようなことも最近あったこともご存知でしょう。
セキュリティの問題は、最終的な解決はできないが時間の問題で妥協点を見出されて徐々に色んな形で出てくるでしょうね。
IPv6は細かい違いは色々ありますが、端的に言うと、電話の市内局番が足りなくなって3桁が4桁になった程度のことだと考えます。セキュリティ面はメリットデメリットがあって、インターネットが直接接続になり、ユーザー認証やなりすましの防止に効果がある反面、IPv4では中継機を通じての間接的な接続がインターネット側からはホストが見えないのでかえって安全が保たれているということがあります。また既に普及を始めているNTTの光ネクストではまだ通信障害の問題が残っていたりします。
WiFiは無線通信としての利用なのでそんなに悲観しなくてもよいのではないでしょうか。重要なセキュリティの必要のあるものは、そもそもどんな無線通信でも避けないといけないでしょう。
私も専門的にわかっているわけではないので、こんな程度ですがいかがでしょう。
分かりやすい説明、ありがとうございます。
なるほど、一般の人のセキュリティの問題と重要なセキュリティの問題で違うわけですね。
伺ってると、一般の人のデータ管理その他では、操作を間違えないようなユーザビリティと、「感覚」「慣れ」の問題をクリアできれば、割とスムーズにCloud Computingに移行できる気がします。
あれだけインターネットでの個人情報の扱いやカードの利用が難しいと10年前には騒がれていたのに、今では殆どのサイトがCookieを使っていて、多くの人がクレジットカードの番号をサーバに記憶させておくことに抵抗が無くなっているわけですから、個人のセキュリティは「気分」と「慣れ」の問題といえなくは無いかもしれません。
一方、おっしゃるように企業の重要なセキュリティの問題は、通信規格よりもホスト側の安全性がより問題ということでしょうか。
ホスト側は、サーバの管理者ですら、情報のありかがわからない、というようには出来るんでしょうかね。
そうするとそもそも「管理」が出来ないのではないか、という気もしますが。。