My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

最近夢見てます?-「人に笑われる夢」を掲げるのはイノベーターの条件

2009-10-19 06:01:21 | 2. イノベーション・技術経営

SloanMBA1年生のSyntaxさんのブログ記事「笑われるような夢でなければ-ダイアン・ガーニック氏講演」を読む。

私は水曜は忙しくて、この講演には行けなかったけど、読んで、あーこれは行きたかったな、と思った。
こういう面白い人の話をしょっちゅう聞けるのは、MBAの醍醐味のひとつだと思う。

記事によると、ダイアンさんは、NYの貧しい母子家庭に育ち、15歳で出産して中学中退してしまうヤンママだったが、その後頑張ってコミュニティカレッジまで進学。
カレッジで賞を取った際、新聞の取材に「連邦準備委員会の議長になる」と語って周囲に笑われてしまう。
でも、その後、ウォール街で職を得て、そしてメリル・リンチでの資産運用で業績を上げたりして、有名になる。
アメリカンドリームを体現したような人。

途方も無い夢を語って、人に笑われたり、気が狂ってる扱いされても、実現に向けて一歩を踏み出し、成功してきた人は国を問わず古来よりいる。
マルコ・ポーロもコロンブスも、豊臣秀吉もリンカーンもエジソンも。

私は、特に技術の世界では、途方も無いが、実現したらすごいことになる夢を、明確に掲げられるのは、イノベーターの条件だと思う。
現在の技術の積み上げだけでは、とてもじゃないけど実現できない夢を、トップダウンで描く力。
そして、その夢を人に笑われても、語り続け、人を動かし、本当に実現していく力。

昔の記事「未来を夢想する力-イノベーションに必要なもの」でも書いた、AT&Tのベル研のケリー氏の話。
彼は、「今は動作が不安定な電話も、20年後には、全てのアメリカ国民が自由自在に話せる世界になってるべきなんじゃないか」という夢を持っていた。
で、「そのためには真空管でない新しい技術(トランジスタ)の開発」が必要だと論じ、ショックレーやバーディーンなどの科学者を惹きつけて、成功させる。

今の技術じゃ克服できないかもしれないけど、10年後の世界には何があるべきなんだろう、という夢を明確に描く。
たとえ周囲が「無理だろー」って笑おうとも、夢を見続け、それを可能にする新たな技術(Enabler)によって実現しようとするパラノイアがイノベーションを生むのだと思う。

この話は、半導体物理学者の菊池誠氏の半自伝「日本の半導体四〇年」に載っている話。
もうひとつ、この本の中に、私の好きな、「人に笑われる夢」の話がある。

トランジスタでラジオを開発した、ソニーの井深大氏の話。(本より引用)

1953年頃、井深さんは、ニューヨークに行った折りに、ウィスタン・エレクトリック社のトップの人たちの昼食会に招かれている。そのとき、トップの誰かが、
「このごろ何をしようと考えていますか?」
と尋ねた。尋ねられた井深さんは即座に、
「トランジスタでラジオを作ろうと思って」
と、応じた。その時、周辺の何人もが、一緒になっていっせいに大声で笑ったのである。それは、夢みる少年のことばに、大人が笑うという構図であった。
(中略)
笑った人々のこころは、
「まだ、海のものとも、山のものとも判らない、性能の点でも不十分なトランジスタで、ラジオを作るなんて、なんという冒険!夢みたいな話を本気で喋っている。」
ということだった。それはやめておきなさい、と何度も忠告されたという。

井深さんには、今までの重たいラジオの代わりに、人々がどこにでも小さなラジオを携帯できる世界が明確に見えていたのだろう。
そして、それはまだ不確実な技術であるが、トランジスタを使えば出来るはず-いや、それしかない、と信じていたのだろう。
ここに、彼我の差があったということか。

その後、1956年にソニーがトランジスタ・ラジオの開発に成功し、苦労しながらも世界に普及していったのは、皆さんご存知の通り。

昨日書いたGoogleのLarry Pageの話だって、まだ金になるか分からないLarryの夢に、
大量のお金を使って、世界中から計算機科学の天才学生を集めるなんて、当時の人が聞いたら馬鹿げてると思うだろう。
Larryは自分の考えている検索エンジンが世界にどのようなインパクトをもたらすか明確に認識しており、
それを実現するための第一歩がはっきり見えていたわけだ。
そして、その夢と現実的な一歩にセコイア・キャピタル
が説得されて、お金を出し続けたから出来たこと。

ところで「夢を見る」時は、誰も興味の無い妄想を繰り広げるんじゃダメだ、と思う。
想像力を駆使し、その製品・技術がどんな人たちに使われて、その結果人々の行動や生活がどのように変わっていくのか、をちゃんと夢想するのが大切じゃないか。
そうすることで、顧客に本当に必要とされる製品なのか?を確認出来ると思うから。

技術サイドから出て、結局市場で売れない製品とは、多くが、「その技術を極めること」や「技術からの積み上げ」で、
その製品によって実現する世界を、本当に夢みていなかったりするんじゃないかと思う。
具体的にユーザエクスペリエンスがどう変わるかを夢想して、開発にフィードバックをかけていくのは大切なプロセスだ。

どんな新しい技術も、夢がなければ始まらない。
「人に笑われるような」無謀な夢を、具体的に夢想して、信念を持って第一歩を踏み出すことは、時代を超えてイノベーションを生む大切な要素だと思う。

追記(2009/10/19am @Boston):
友人から「友達に超能力が世界を変えると思ってる人がいます・・(以下略)」と言われて、それは全く違うだろう、と思う。
「人に笑われる」ような夢でも、世の中の多くの人に正のインパクトを与え、かつ科学的であることは重要。
私が言っているのは、「科学的・技術的な可能性」を信じずに笑う人のことでございまして。

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4 Comments

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リーダーシップの旅 (Doubles)
2009-10-19 11:23:09
今晩も失礼致します。
ブログ楽しませてもらいました。

さて本文を読んでいまして、タイトルで触れています『リーダーシップの旅』を思い出しました。
【URL: http://www.amazon.co.jp/リーダーシップの旅-見えないものを見る-光文社新書-野田-智義/dp/433403389X】

(余談ながら、私は著者の野田氏が事務局長を務めておりますISL【URL: http://www.isl.gr.jp/】にてインターンシップをさせて頂いておりました。本著から感銘を受けて、働かせて頂きました)

Lilac様が既に本著をお読みなっていましたら、リピートになって申し訳ないです。

本著のエッセンス。
野田氏が再定義したLeadershipとは:
『見えない未来を感じ取った自らの心に気づき、それをこの瞬間、体現する力。まず自らをリード(Lead the Self)し、他者とその夢が同期化し、(Lead the People)、その結果社会全体がその夢を信じる(Lead the Society)』

当時の世界観と離れた理想を『今』掲げ、それを貫き通すことで『未来』は創られる。
その孤独な1歩が後に『Innovation』と呼ばれたのだと思います。

感性豊かに、よりワクワク出来る未来を目指して毎日『自分』を生きれたら素晴らしい。

Lilac様のメッセージ、素敵だと思います。

Doubles
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Unknown (outernationjp)
2009-10-19 11:24:40
大学や高校の教室の机の上に並ぶノートパソコンや、iPhone、OLPCなどを見ると、アラン・ケイのダイナブック構想やパロアルトの研究、それに連なるappleの一連の製品など、1970年代・80年前半の若手の技術者達の夢が実現したんだ、と感慨深く感じてます。

会社組織が成長して営業や企画・マーケティング部門等と分業構造がする中で、要素技術の性能向上にストイックに取り組んでくれる職人気質の技術者が日本企業の競争力を支えてきてくださったわけですが、ビジョンを技術を通じて製品に落とし込んでいく過程でいろんなしがらみ(制約)を突破・乗り越えていく信念とリーダーシップが組織の中にあれば日本も活気が出てくるんでしょうかねぇ。
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Up to Date (YasuharuOISHI)
2009-10-19 12:30:50
まさに笑われている立場で、楽しく拝読させて頂きました。
本人には明瞭に描けているパスを、他者はイメージ出来ないから笑いになるのかなぁと感じています。
共にイメージできる人物を見出す手法という点で昨日の記事に通じるところを感じますね:D
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コメント有難うございます (Lilac)
2009-10-19 21:23:38
>Doublesさま
その本は知りませんでした。ドラッカーのリーダーシップ論に通じるところがありますね。
ご紹介有難うございます。

>outernationjpさま
感慨深いものがありますよね。
じゃあ、そういった制約を乗り越える信念やリーダーシップは育ててて増やせるものなのか(MBAやMPAで)、というとどうなのか?
ちょっと考えてみる必要があるな、と思ったりしました。

>YasuharuOISHIさま
コメント有難うございます。
まさにリーダーシップというのは、他者を自分の夢に同巻き込み、人を動かすか、という部分は大きいと思います。
行き過ぎると宗教団体になるので、記事にも書いたように、現実的で役に立つ、必要もあるわけですが。。
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