終身雇用を望む若者vs.身軽になりたい企業
東洋経済オンライン
2014/11/17 07:50
高城 幸司
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終身雇用を望む若者と、身軽になりたい企業の綱引きが始まっている?
(写真:KAORU / Imasia)
終身雇用と年功序列は、日本企業の古くからの人事政策。
ただし、時代とともに維持することが難しくなり、
崩壊しかかっている……という認識が今は通常かもしれません。
今回はその終身雇用を題材に日本企業の取り組みを取材してみたところ、
興味深い動きが見えてきました。
決して、終身雇用が復活しているといった話ではありません。
そうではなくて、
《戦略的な終身雇用の廃止》
がじわじわと加速しているのです。
差し迫っての取り組みとまではいかないものの、
中長期的に会社および組織の「あるべき姿」を考えて
終身雇用をやめていく傾向にあります。
どうして、そのような判断をする会社が増えているのか?
みなさんと考えてみたいと思います。
■安定雇用するだけの業績拡大は、今後、見込みにくい?
そもそも終身雇用とは、企業が社員の入社から
定年までの長期間について雇用する制度。
長期的な雇用の約束が社員の忠誠心を高める一方、
意欲的な社員からすれば
「安定志向の社員ばかりで刺激が少ない」
という不満を抱く傾向があります。
大企業では終身雇用を前提に新卒採用で優秀な人材を確保して、
出世競争はあるものの、誰もが定年まで勤務できるポストを準備して、
その社員に対して給与を十分に払えるだけの業績拡大を続けてきました。
この採用システムが日本企業を支えてきたのは事実。
先日、取材した食品製造業の会社では人材確保は新卒採用のみ。
さらに入社した社員の8割以上が定年まで勤務するとのこと。
こうした、終身雇用が継続している会社は
大企業が中心ではありますが、
歴史の長い製造業では中小企業でも
維持しているケースはたくさんあります。
ただ、これからも終身雇用を続けるのか?
と質問をぶつけると「難しいかもしれない」という回答が返ってきます。
ここで、日本企業の終身雇用の歴史を振り返ってみましょう。
終身雇用の歴史は意外と浅く、昭和に入ってからであり、
本格的普及は戦後のこと。
それまでは手に職を持つ職人の時代。
職人は若い頃には高い技術を持つ親方につき、
自身の技術を高めて最終的には独り立ちする。
腕がよければ報酬も高いという、
いわゆる能力給のシンプルな社会構造に属していたのです。
商人も同様。まず丁稚奉公から店に入り、
商売のイロハを少しずつ学び、人脈を広げ、
出世していく流れでした。
終身雇用なんて存在していなかったのです。
ところが、産業革命で官営会社、
国策会社などの大規模な企業が登場して状況は変わりました。
大量生産のために大量の人材が必要になり、
売り手市場が常態化。
せっかく手間と時間をかけて育成した工員や鉱員が、
賃金の高い職場を求め他社へ簡単に移ってしまうということが、
当たり前の状況になりました。
これに頭を悩めた経営者は、社会保障と福利厚生に着目。
当時は国による支援がなく、
ひとたび事故や病気に見舞われれば、
労働者は生活の糧を失い、
路頭に迷う状況でした。
経営者は自社の福利厚生などが他社より充実していることや、
長く安心して勤められるということを強調し、
技術労働者の安易な離職を防ごうとした……これが、
終身雇用制の始まりです。
■「万策尽きてのリストラ」から「日常的リストラ」へ
さて、そんな終身雇用を謳歌したのは団塊の世代前後まで。
その後、景気低迷が続く中で、
それが悪しき慣習であるかのような風潮が強まり、
《2000名の早期退職募集》
といった経営判断(リストラ)をする会社が増え続けました。
新卒で終身雇用を前提に入社した社員たちで、
早期退職の対象者として肩たたきされた人は「裏切られた」と思ったことでしょう。
こうした報道が頻繁に登場したのは、
バブル崩壊して数年が経過した
1990年代前半あたりであったと記憶しています。
あれから早期退職、リストラという言葉にも
誰もが慣れて、終身雇用の崩壊は着実に進んでいるようにも思えます。
ただ、あくまでリストラを行い、
終身雇用にメスを入れたのは業績が
どうしようもなく厳しい企業ばかりでした。
「3年続けて赤字に転落して、もはやリストラしか手がない」
と万策尽きての手段だったのです。
可能なかぎり雇用は守りたいとの前提で、
「致し方なし」というタイミングまで
終身雇用を壊したくないと考える経営陣が多かったからでしょう。
ところが、状況は変わりました。
戦略的に終身雇用をやめ、
同時に大胆なリストラに取り組む会社が出てきています。
取材したある製造業では、5年後に
工場を海外移転することに決定。
現在は業績も順調ながら、
国内工場で勤務している社員に対して
早期退職の募集を検討中とのこと。
一方で海外展開に伴うグローバル人材の新規採用は
果敢に行う予定。このように
業績不振に陥る前に戦略的に人材のリストラにも着手。
その機会に終身雇用の考え方を改める企業が出てきたのです。
日本企業も長く厳しい時代を経験して、
防衛本能を身に付けたのかもしれません。
将来的に起きる問題を予測して、
前もって人事的な施策に取り組む姿勢が出てきています。
ある意味で頼もしいと思えますが、
職場で働く社員にとっては厳しい時代の到来ともいえます。
■売り手市場の中で、企業は「折衷案」を出す?
一方で、若手社員には終身雇用を望む傾向が高まっています。
2013年版厚生労働白書では、労働政策研究・研修機構による
若者のキャリア形成に関するアンケート調査の結果によると、
20代の若者でひとつの企業に勤め続けたいと考える人の割合は
50%を突破し、1999年の37%から大幅に増加。
複数企業でキャリアを形成したいと考える人や
独立自営したいという人の割合は低下しています。
つまり、現代の若者は以前と比べて、
1社での終身雇用をより強く望んでいるということです。
内閣府が行った「世界青年意識調査」の結果も
興味深いものがあります。
同調査では「職場に不満があれば転職するほうがよい」と考える人の割合が、
日本は諸外国に比べて圧倒的に低く(米国は日本の2.5倍、
フランスは2倍、韓国は1.8倍)、
多少の不満があっても同じ会社に
勤め続けることを望む傾向が鮮明になっています。
要するに今の日本の若者は、転職を繰り返すことや、
正社員にこだわらない形でのキャリア形成を基本的に望んでいないのです。
これを踏まえ、会社側はどうしたらいいのか?
戦略的にリストラも行い、終身雇用をやめて、
人材の流動化のできる強い体質を目指す会社は、
安定を望む多くの学生からすれば魅力的にみえない可能性があります。
前向きな改革をしたい会社側にとっては、
悩ましい問題ではないでしょうか。
それでは今後どうなるか。おそらく、
日本企業は「折衷案」的な方向性を示していくことになるのでしょう。
終身雇用も可能なキャリアプランも準備するが、
報酬はあまり増えない低位安定コース。
別にリストラも辞さないが高報酬の可能性があるチャレンジコース。
こうした2系統の伏線型人事制度を検討してはどうでしょうか?
ちなみにグループワーク製品で有名なサイボウズ社では
ライフスタイルに合わせて働き方を選択できる「ライフ重視型」、
「ワークライフバランス型」、
「ワーク重視型」の3つの働き方があり、
社員が年に1度選択できるしくみになっています。
この仕組みを導入以後に退職率は劇的に下がったようです。
このような折衷案を実践した取り組みをする企業が
出ている点は注目すべきでしょう。
ただ、折衷案的な人事戦略で、企業が生き残れるのか?
人材の流動化が進まないという問題点は放置され、
さらに中小企業、ベンチャー企業の人材不足もより深刻化しないか。
日本的雇用慣行からの脱却には、
まだまだ時間がかかるかもしれません。
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20141117-00053429-toyo-nb&p=1より
東洋経済オンライン
2014/11/17 07:50
高城 幸司
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終身雇用を望む若者と、身軽になりたい企業の綱引きが始まっている?
(写真:KAORU / Imasia)
終身雇用と年功序列は、日本企業の古くからの人事政策。
ただし、時代とともに維持することが難しくなり、
崩壊しかかっている……という認識が今は通常かもしれません。
今回はその終身雇用を題材に日本企業の取り組みを取材してみたところ、
興味深い動きが見えてきました。
決して、終身雇用が復活しているといった話ではありません。
そうではなくて、
《戦略的な終身雇用の廃止》
がじわじわと加速しているのです。
差し迫っての取り組みとまではいかないものの、
中長期的に会社および組織の「あるべき姿」を考えて
終身雇用をやめていく傾向にあります。
どうして、そのような判断をする会社が増えているのか?
みなさんと考えてみたいと思います。
■安定雇用するだけの業績拡大は、今後、見込みにくい?
そもそも終身雇用とは、企業が社員の入社から
定年までの長期間について雇用する制度。
長期的な雇用の約束が社員の忠誠心を高める一方、
意欲的な社員からすれば
「安定志向の社員ばかりで刺激が少ない」
という不満を抱く傾向があります。
大企業では終身雇用を前提に新卒採用で優秀な人材を確保して、
出世競争はあるものの、誰もが定年まで勤務できるポストを準備して、
その社員に対して給与を十分に払えるだけの業績拡大を続けてきました。
この採用システムが日本企業を支えてきたのは事実。
先日、取材した食品製造業の会社では人材確保は新卒採用のみ。
さらに入社した社員の8割以上が定年まで勤務するとのこと。
こうした、終身雇用が継続している会社は
大企業が中心ではありますが、
歴史の長い製造業では中小企業でも
維持しているケースはたくさんあります。
ただ、これからも終身雇用を続けるのか?
と質問をぶつけると「難しいかもしれない」という回答が返ってきます。
ここで、日本企業の終身雇用の歴史を振り返ってみましょう。
終身雇用の歴史は意外と浅く、昭和に入ってからであり、
本格的普及は戦後のこと。
それまでは手に職を持つ職人の時代。
職人は若い頃には高い技術を持つ親方につき、
自身の技術を高めて最終的には独り立ちする。
腕がよければ報酬も高いという、
いわゆる能力給のシンプルな社会構造に属していたのです。
商人も同様。まず丁稚奉公から店に入り、
商売のイロハを少しずつ学び、人脈を広げ、
出世していく流れでした。
終身雇用なんて存在していなかったのです。
ところが、産業革命で官営会社、
国策会社などの大規模な企業が登場して状況は変わりました。
大量生産のために大量の人材が必要になり、
売り手市場が常態化。
せっかく手間と時間をかけて育成した工員や鉱員が、
賃金の高い職場を求め他社へ簡単に移ってしまうということが、
当たり前の状況になりました。
これに頭を悩めた経営者は、社会保障と福利厚生に着目。
当時は国による支援がなく、
ひとたび事故や病気に見舞われれば、
労働者は生活の糧を失い、
路頭に迷う状況でした。
経営者は自社の福利厚生などが他社より充実していることや、
長く安心して勤められるということを強調し、
技術労働者の安易な離職を防ごうとした……これが、
終身雇用制の始まりです。
■「万策尽きてのリストラ」から「日常的リストラ」へ
さて、そんな終身雇用を謳歌したのは団塊の世代前後まで。
その後、景気低迷が続く中で、
それが悪しき慣習であるかのような風潮が強まり、
《2000名の早期退職募集》
といった経営判断(リストラ)をする会社が増え続けました。
新卒で終身雇用を前提に入社した社員たちで、
早期退職の対象者として肩たたきされた人は「裏切られた」と思ったことでしょう。
こうした報道が頻繁に登場したのは、
バブル崩壊して数年が経過した
1990年代前半あたりであったと記憶しています。
あれから早期退職、リストラという言葉にも
誰もが慣れて、終身雇用の崩壊は着実に進んでいるようにも思えます。
ただ、あくまでリストラを行い、
終身雇用にメスを入れたのは業績が
どうしようもなく厳しい企業ばかりでした。
「3年続けて赤字に転落して、もはやリストラしか手がない」
と万策尽きての手段だったのです。
可能なかぎり雇用は守りたいとの前提で、
「致し方なし」というタイミングまで
終身雇用を壊したくないと考える経営陣が多かったからでしょう。
ところが、状況は変わりました。
戦略的に終身雇用をやめ、
同時に大胆なリストラに取り組む会社が出てきています。
取材したある製造業では、5年後に
工場を海外移転することに決定。
現在は業績も順調ながら、
国内工場で勤務している社員に対して
早期退職の募集を検討中とのこと。
一方で海外展開に伴うグローバル人材の新規採用は
果敢に行う予定。このように
業績不振に陥る前に戦略的に人材のリストラにも着手。
その機会に終身雇用の考え方を改める企業が出てきたのです。
日本企業も長く厳しい時代を経験して、
防衛本能を身に付けたのかもしれません。
将来的に起きる問題を予測して、
前もって人事的な施策に取り組む姿勢が出てきています。
ある意味で頼もしいと思えますが、
職場で働く社員にとっては厳しい時代の到来ともいえます。
■売り手市場の中で、企業は「折衷案」を出す?
一方で、若手社員には終身雇用を望む傾向が高まっています。
2013年版厚生労働白書では、労働政策研究・研修機構による
若者のキャリア形成に関するアンケート調査の結果によると、
20代の若者でひとつの企業に勤め続けたいと考える人の割合は
50%を突破し、1999年の37%から大幅に増加。
複数企業でキャリアを形成したいと考える人や
独立自営したいという人の割合は低下しています。
つまり、現代の若者は以前と比べて、
1社での終身雇用をより強く望んでいるということです。
内閣府が行った「世界青年意識調査」の結果も
興味深いものがあります。
同調査では「職場に不満があれば転職するほうがよい」と考える人の割合が、
日本は諸外国に比べて圧倒的に低く(米国は日本の2.5倍、
フランスは2倍、韓国は1.8倍)、
多少の不満があっても同じ会社に
勤め続けることを望む傾向が鮮明になっています。
要するに今の日本の若者は、転職を繰り返すことや、
正社員にこだわらない形でのキャリア形成を基本的に望んでいないのです。
これを踏まえ、会社側はどうしたらいいのか?
戦略的にリストラも行い、終身雇用をやめて、
人材の流動化のできる強い体質を目指す会社は、
安定を望む多くの学生からすれば魅力的にみえない可能性があります。
前向きな改革をしたい会社側にとっては、
悩ましい問題ではないでしょうか。
それでは今後どうなるか。おそらく、
日本企業は「折衷案」的な方向性を示していくことになるのでしょう。
終身雇用も可能なキャリアプランも準備するが、
報酬はあまり増えない低位安定コース。
別にリストラも辞さないが高報酬の可能性があるチャレンジコース。
こうした2系統の伏線型人事制度を検討してはどうでしょうか?
ちなみにグループワーク製品で有名なサイボウズ社では
ライフスタイルに合わせて働き方を選択できる「ライフ重視型」、
「ワークライフバランス型」、
「ワーク重視型」の3つの働き方があり、
社員が年に1度選択できるしくみになっています。
この仕組みを導入以後に退職率は劇的に下がったようです。
このような折衷案を実践した取り組みをする企業が
出ている点は注目すべきでしょう。
ただ、折衷案的な人事戦略で、企業が生き残れるのか?
人材の流動化が進まないという問題点は放置され、
さらに中小企業、ベンチャー企業の人材不足もより深刻化しないか。
日本的雇用慣行からの脱却には、
まだまだ時間がかかるかもしれません。
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20141117-00053429-toyo-nb&p=1より