※ この短編(?)は,私と某はにゃん氏によるリレー小説です。どちらがどの部分を書いたのか? など想像しながら,楽しんで読んでいただければ幸いです。
なおタイトルは,たった今私が独自につけたということを付け加えておきます。
1
サー,というノイズに重なるようにして,耳元では会話が流れ続けている。別にテレビを見ているわけではなく。ラジオを聞いているわけではなく。
通信という概念一つとっても,世の中進歩した物だと思う。たかだか十数年しか生きていない俺が,そんな分かったような口を叩くのはおかしいのかもしれないが。
俺は今,パソコンを通してチャット――会話という方がいいだろうか――している。一方的に二人の会話を聞いているという方が正しいか?
その証拠に俺の発言頻度はごくごく少ない。半ば盗聴している――させられている?――ような気分になる。もちろん意図的ではないが。
この何とかというアプリケーション――名前にはさほど興味がない――の存在を知ったのは,つい先日のこと。
2
この何とかというアプリケーション──どうやら海外で作られたもののようだが確かに便利は便利だと言える。
だが,これは同時に人々から無理に会話を引き出す恐ろしいソフトとも言える。
通信の概念は個性を次々と剥奪し今や巨大なネットワークを創造する。
俺は話したいから会話をしているのか,俺は誰かと会話しているのか?
俺はコンピューターと会話しているのか,あるいは──。
このソフトの存在が俺を会話空間へと引き寄せる。
「はーっきゅしょい!」
肉体がクシャミしてフッっと俺は現実に引き戻される。
会話をしているんじゃない,空気を共有しているんだ。
そんな気がして窓の外を見れば,静かにサーチライトが夜の街から何かを探していた。
3
空気の共有――。そう俺が極力無言で通しているのは,会話をしていないからなのだろう。
昔からそうだ。他者の会話に意味は生じず。感じず。無個性な,集団に埋没しようとしているかのような。そんな相手と会話をしたところでそれは,俺の個性をも埋没させようとする集団の策略に自ら飛び込んでいくような。そんなものでしかない。
だから俺は誰かと会話をしたことはなく,その必要性も感じない。
俺が他者と行うのはただ一つ。それが,空気の共有。
ヘッドフォンを通した向こう側では未だに会話が続いている。この二人はどうなのだろう? と。ふとそんなことを思った。
今まではどうせいつものように無個性な会話が流れていくのだろう。そう思っていた。だがよくよく聞いてみると,この二人の会話には確かに個性が存在する。
これは何だろう――? 個性に見せかけた無個性でしかないのか。それとも――?
まだ夜は深い。サーチライトは未だ何かを探す。
4
空気は静かに流れていた。
俺がこの部屋で暴れ出せば空気は澱み,新しい小さな風を起こすだろう。
その小さな風は100年もすれば海の向こうで竜巻になるかもしれない。
あるいは──3日後に砂漠に雨雲を運ぶかもしれない。
だけど俺はジッっと息を潜めていた。
俺の中には新しい個性など,何もなかった。
与えられた情報から,目に見えない何かを見つけようとしていた。
嘘だけを,俺は嘘だけを見ようとしていた。
頭の中にあるギュウギュウ詰めの人混みで視線の台風が発生しているような気がした。
時空に穴を開けて十数年の時間を100年にしたり1秒にしたり色々こねてみた。
歪みはあるような気がしたが,個性と呼べるかどうかは謎だった。
ドアが突然「バタン!」と開いた。
冷たい空気が流れ込んできた。
この風は,誰かの個性から──?
ドアの向こうから、夜の光が薄ぼんやりと漏れていた。
5
冷たい空気が俺の肌をなで,部屋の奥へ奥へと抜けていく。
ドアの向こうには来訪者がいるかもしれないというのに。だというのに俺は瞼を閉じている。
視覚情報が全く失われているにもかかわらず,俺はドアの方向を注視する。見えないのに注視というのも妙な話ではあるのだが。
俺は何かを感じる。感じようとする。
それは吹き抜けた風の流れであり。それはドアの向こうにいる誰かの存在であり。それは俺の奥底に潜む何かであり――。
”あなたは違う”
それはドアの向こうからか。ただの幻聴なのか。はたまた未だ続く耳元での会話なのか。
とにかくその声が,やけにはっきりと俺には聞こえた。
「何が違う?」
俺は問い返す。ドアの向こうに。マイクの向こうに。あるいはどこでもないどこかへ。
返事は――来ない。それを少なからず落胆する俺がいる。
何を期待していたのだろう? 俺は何が聞きたかったのだろう?
とりあえず,マイクの先の二人は会話に熱中しすぎているのか,意図的に無視しているのかは知らないが何も返しては来ない。それだけは厳然たる事実。
「ふぅ――」
瞼は閉じたまま。耳元の会話を聞き続けながら。俺は一つ,深く息を吐く。
そして瞬間,ドアの向こうからもう一度空気が吹き抜けた。 <続>
なおタイトルは,たった今私が独自につけたということを付け加えておきます。
1
サー,というノイズに重なるようにして,耳元では会話が流れ続けている。別にテレビを見ているわけではなく。ラジオを聞いているわけではなく。
通信という概念一つとっても,世の中進歩した物だと思う。たかだか十数年しか生きていない俺が,そんな分かったような口を叩くのはおかしいのかもしれないが。
俺は今,パソコンを通してチャット――会話という方がいいだろうか――している。一方的に二人の会話を聞いているという方が正しいか?
その証拠に俺の発言頻度はごくごく少ない。半ば盗聴している――させられている?――ような気分になる。もちろん意図的ではないが。
この何とかというアプリケーション――名前にはさほど興味がない――の存在を知ったのは,つい先日のこと。
2
この何とかというアプリケーション──どうやら海外で作られたもののようだが確かに便利は便利だと言える。
だが,これは同時に人々から無理に会話を引き出す恐ろしいソフトとも言える。
通信の概念は個性を次々と剥奪し今や巨大なネットワークを創造する。
俺は話したいから会話をしているのか,俺は誰かと会話しているのか?
俺はコンピューターと会話しているのか,あるいは──。
このソフトの存在が俺を会話空間へと引き寄せる。
「はーっきゅしょい!」
肉体がクシャミしてフッっと俺は現実に引き戻される。
会話をしているんじゃない,空気を共有しているんだ。
そんな気がして窓の外を見れば,静かにサーチライトが夜の街から何かを探していた。
3
空気の共有――。そう俺が極力無言で通しているのは,会話をしていないからなのだろう。
昔からそうだ。他者の会話に意味は生じず。感じず。無個性な,集団に埋没しようとしているかのような。そんな相手と会話をしたところでそれは,俺の個性をも埋没させようとする集団の策略に自ら飛び込んでいくような。そんなものでしかない。
だから俺は誰かと会話をしたことはなく,その必要性も感じない。
俺が他者と行うのはただ一つ。それが,空気の共有。
ヘッドフォンを通した向こう側では未だに会話が続いている。この二人はどうなのだろう? と。ふとそんなことを思った。
今まではどうせいつものように無個性な会話が流れていくのだろう。そう思っていた。だがよくよく聞いてみると,この二人の会話には確かに個性が存在する。
これは何だろう――? 個性に見せかけた無個性でしかないのか。それとも――?
まだ夜は深い。サーチライトは未だ何かを探す。
4
空気は静かに流れていた。
俺がこの部屋で暴れ出せば空気は澱み,新しい小さな風を起こすだろう。
その小さな風は100年もすれば海の向こうで竜巻になるかもしれない。
あるいは──3日後に砂漠に雨雲を運ぶかもしれない。
だけど俺はジッっと息を潜めていた。
俺の中には新しい個性など,何もなかった。
与えられた情報から,目に見えない何かを見つけようとしていた。
嘘だけを,俺は嘘だけを見ようとしていた。
頭の中にあるギュウギュウ詰めの人混みで視線の台風が発生しているような気がした。
時空に穴を開けて十数年の時間を100年にしたり1秒にしたり色々こねてみた。
歪みはあるような気がしたが,個性と呼べるかどうかは謎だった。
ドアが突然「バタン!」と開いた。
冷たい空気が流れ込んできた。
この風は,誰かの個性から──?
ドアの向こうから、夜の光が薄ぼんやりと漏れていた。
5
冷たい空気が俺の肌をなで,部屋の奥へ奥へと抜けていく。
ドアの向こうには来訪者がいるかもしれないというのに。だというのに俺は瞼を閉じている。
視覚情報が全く失われているにもかかわらず,俺はドアの方向を注視する。見えないのに注視というのも妙な話ではあるのだが。
俺は何かを感じる。感じようとする。
それは吹き抜けた風の流れであり。それはドアの向こうにいる誰かの存在であり。それは俺の奥底に潜む何かであり――。
”あなたは違う”
それはドアの向こうからか。ただの幻聴なのか。はたまた未だ続く耳元での会話なのか。
とにかくその声が,やけにはっきりと俺には聞こえた。
「何が違う?」
俺は問い返す。ドアの向こうに。マイクの向こうに。あるいはどこでもないどこかへ。
返事は――来ない。それを少なからず落胆する俺がいる。
何を期待していたのだろう? 俺は何が聞きたかったのだろう?
とりあえず,マイクの先の二人は会話に熱中しすぎているのか,意図的に無視しているのかは知らないが何も返しては来ない。それだけは厳然たる事実。
「ふぅ――」
瞼は閉じたまま。耳元の会話を聞き続けながら。俺は一つ,深く息を吐く。
そして瞬間,ドアの向こうからもう一度空気が吹き抜けた。 <続>
後編、期待して待ってます!!
中編,後編も上がってるのでよろしくです。(もう読んでそうですけど 笑)