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ターザンが教えてくれた

風にかすれる、遠い国の歌

さて、「いら夏」の季節がまた来たわけだが。

2010-08-05 13:21:41 | 日々
2002年の金曜ドラマ枠で放送された

「愛なんていらねえよ、夏」

ご覧になっていた方はおいででしょうか。

これが、さ、
このドラマが何故か無性に好きでね、
毎年この8月になるとじっくりと観返すこと、
今年でもう7回目になってしまったんだなぁ。

それまでは、
たかがテレビドラマのDVDなんて
自分には縁はないと思っていたんだけど、

放送が終わった後にも
それをビデオテープに録画したやつで楽しんで、
その後、また、再放送を観て、
で、やっぱり欲しくて
DVDボックスセットとやらを購入。

そんなものを買ってしまう自分にびっくりだよ。

それほどまでに、
惹かれて、魅せられて、考えさせられる物語。









オープニングタイトルのバックには、
柔らかな日差しの中で微笑む女の子が
スローモーションでゆれる。
一見、無邪気で幸せそうで気持ちが弾む。

次にシーンが切り替わると、
一転して真っ暗な影の中にかろうじて
顔の輪郭だけがわかる男。

苦い表情で抗うこともなく
逃げることもない静かな男の姿。

そのふたりがゆっくりと交互に
映し出されながらスタッフロールが終わる。

この時の主題歌がいいんだよな、
池田綾子さんの「Life」
透明な歌声が肌を撫ぜるように響いて
切なくて、そして力強い。




新宿歌舞伎町でのし上った伝説のホスト「レイジ」。
その冷徹なこころは、彼に店を乗っ取られ
挙句に自殺した男のことを聞いても
そこに罪悪感の微塵もなく、ただ笑うだけ。

午前零時に、
ゴミ箱に捨てられていたレイジ

冷凍直前の
へその緒を付けたままのガキだったレイジ

子供を捨てるような
冷たい親から生まれたからレイジ


そうやって、
冗談まじりに自分のことを名乗るんだけど
おそらくそのどれもが本当のこと。


悲しくて、悲しすぎて、やさしい人



何かに急き立てられるように
次々と自分の店をオープンして
まさしく歌舞伎町のキングと呼ばれたある日、

レイジに大金を貢いでいた客の
横領事件に巻き込まれ収監されてしまう。

半年経ってようやく歌舞伎町に戻ると、
自分の店はかつての従業員の裏切りのために
どれも人手に渡っていて、
おまけに、
レイジに恨みのある大勢の者たちによって
7億3千万の借金までもを背負わされていた。

レイジは一瞬ですべてを理解する。
だって、ついこの前までは
レイジ自身がそうやって誰かを
食い物にしながら生きてきたのだから。

返済期限の2ヵ月後には、
名うての借金取りに
おそらく命までも取られるだろう。

そんな状況の中でまでも、
洒落たせりふのひとつもほざきながら
レイジという男は、
面白そうだからという理由でついて来た
弟分のホスト「ナル」と共に
己の人生という名のゲームを続けようとする。











鎌倉の由緒ある大邸宅で暮らす亜子には
幼い頃に生き別れた母親と兄がいた。

どちらとも長い間音信不通のままになっており、
お母さんに会いたい、お兄ちゃんに会いたいと
泣き暮らす亜子は、いつしかそのことを諦め、
次第にまわりにこころを閉ざした少女になって行く。

そんな中で彼女を襲う病魔、
そのせいで彼女は次第に目が見えなくなっていた。

不幸なわが子をどう扱っていいのかが
まったくわからないままの彼女の父親は、
ますます仕事に没頭し、彼女の世話を全部
自分の女性秘書に任せたまま、
結局はその父も
莫大な遺産を残したまま亡くなってしまう。

彼女のもとへ
可哀想、と、愛していると言いながら
その奥に様々な魂胆を持って
近づいてくる者たちから
父親も母親も兄さえも奪われた
少女にとって、
己の身を守るのは
誰も信じないということだけ。












冬の凍る闇で生まれ
暗い夜の街で生きてきた男

自分がその暗闇の中でしか
生きられないということさえ
とうの昔に忘れてしまったレイジ


遺産を狙う者たちに囲まれながら
見えない目で他人を睨みつけ
誰に頼ることなく
楽しいことも、悲しいことも
見えない暗闇の中で
全部ひとりで忘れて生きてきた亜子




彼女の兄が不慮の事故で死んだことによって
偶然にも出会うことになる
ふたつの闇。


その闇の中で

愛なんていらない。と、叫ぶふたりが

ほんとうに切なくて、愛しい。





レイジが死んだ兄に成りすまして
まんまと乗り込んだ亜子の屋敷。

期限までに金を手に入れなければ
確実にその身が危ない状況のレイジとナルは、
亜子を騙すだけでは飽き足らず
兄として全財産を手に入れるべく
その命さえ奪ってしまおうと画策を始める。

こんなにも悪人しか登場しないドラマというのも
なかなか珍しいんじゃないかと思うなぁ。

亜子に近づく者たちも
亜子の周りで一緒に暮らす者たちも

みんな嘘をついてばかり、
もう、可笑しいくらいに悪人ばかり。

でも、不思議とそこに
目を背けたくなるほどの醜さはない。
悪巧みを重ねる中での
ほんのわずかに見せる人の
弱さだとかやさしさだとか、

そう言ったものが人間の心の中で
ゆらゆらと揺れるありさまを描くことにおいて
この物語はすごく上手い。


嘘の中にこそ見つけることができるほんと

闇の中でこそ見ることができる一筋の光


一見、絶対にありそうもない作り話なのだけど
それを描くシーンと心理描写がリアルで生々しく、



暗闇の中で何を信じることが出来るのか

そして、

愛という、決して目には見えないものを
人はどうやって確かめて行けるのか、


そういったテーマが
一段と観ている者へ迫まり問いかける。



愛なんていらねえよ、夏

こタイトルからしてわかるように、
妙にキザでどこか垢抜けない
古臭くかっこ悪い感じが、
登場人物たちの台詞には多数登場する。

ストーリー上ではそのずれた感じが
みんなの嘘を上手く隠してしまう
効果を生むのだけども、

はからずも、
その嘘の中にある
ほんのわずかな真実というものの姿も
いっそうくっきりと浮かび上がらせて行く。


人が真剣に何かを求めようとするときには
それは十分にダサいものだよ、かっこわるものだよ。

恥も捨て、外聞も捨てて、
あがいてあがいて、転んで、転んで、
最後にようやく何かを見つけるものじゃないかな。










愛なんていらねえ、と、叫ぶ
その声そのものが、
自分が生きてきた闇の中から
ついに光を目指す合図
というものになるのだということ。



このドラマを見ながら
ぼくは、そんな事を思う。












「愛なんていらねえよ、夏」

2002年7月12日よりTBS系列にて放送 全10回


キャスト

渡部篤郎(白鳥レイジ)
広末涼子(鷹園亜子)
藤原竜也(芥川奈留)
鈴木一真(五十嵐彰)
ゴルゴ松本(一条晴男)
半海一晃(真壁恭一)
西山繭子(名波季理子)
松尾玲央(伊藤楓)
黒川智花(永岡ミエ)
野沢秀行(永岡明良)
石田えり(須之内あさみ)
森本レオ(ウエダタクロー)
坂口良子(中田咲子)
荒川良々(鷹園礼慈 タメゴロー)


スタッフ

プロデュース:植田博樹
脚本:龍居由佳里
演出:堤幸彦、今井夏木、松原浩
音楽:見岳章、武内亨
主題歌:池田綾子『Life』















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