ターザンが教えてくれた

風にかすれる、遠い国の歌

水面に落ちる花びら

2006-06-27 15:28:19 | 香り様々
いつになっても梔子をくちなしと読めないわたくしですが、
くちなしの匂いには惹かれてやみません。

夜更けにいつもの公園の道を歩いていると
突然に艶っぽい花の匂いが立ち込めているのに驚く。
思わず足を止めてしまうほどに濃厚なくちなしの香りでした。
その公園の垣根にされていたくちなしの白い花は
誰に見せるともなく中輪の花を夜の帳の中へ無数に咲かせていて、
それはまるで、「我の小さな花の姿を
忘れさせてはなるものか」と言わんばかりに、
その強い芳香を夜の風の中へ溶かし込んでいるのでした。

風に乗ったくちなしの甘い香りは、
公園の奥へ奥へとまるで道案内するかのように続いて、
こちらも思わず夜の散歩に長居をしてしまいます。
梅雨の湿った空気はくちなしの葉に無数の水の粒を乗せては、
水銀灯の色の雫をゆっくりと落としていました。

ようやく家に着いて、雨に濡れた体を拭いていると
ふっと先ほどのくちなしの甘い香りが鼻をくすぐります。
雨に湿ったポロシャツにあの香りまで持ち帰って来ていたのです。
植物が織り成す甘味な芳香に雨の匂いが混ざり込んでできた
その夜の花の香りはたいへんに印象深く
いつまでも自分の記憶に留まることになるのでした。

くちなしには派手な八重咲きの西洋種、俗に言う「ガーデニア」や
小ぶりな一重咲きの和種くちなしがあるそうですが、
その外見に違わず、香りのほうもそれぞれの特色を持っています。
甘いクリームのような濃厚さの西洋くちなしに対して、
一重咲きのさっぱりとした爽やかな甘さは可憐で繊細です。

ガーデニアといえば思い出すのがこの人、
「Billie Holiday/ビリー・ホリデイ」ですね。



たぐいまれなる歌の才能を持ちながらも、
人種差別の様々な迫害の真っ只中で、
毎晩ひとりステージに立ち続けたミュージシャン。
リンチにあって殺された黒人たちが
ポプラの木にぶら下げられた光景を
「奇妙な果実」とそのしぼり出す声で歌った女性、
ビリーホリデイ。
その彼女が愛して止まなかったのがガーデニアでした。
現存している写真を見ても、
浅黒い肌にくちなしの白い花はとてもよく似合っていて、
それを髪飾りにして歌うステージには
さぞかし、くちなしの甘味な芳香が漂ったことでしょう。


くちなしの香りには、重層的な魅力があって、
一見、おとなしく控え目、でも、時折見せるのは
その白い花の奥に秘められた情熱。
上品な佇まいの裏にある、驚くほどの華やかさ。
自分のイメージを固着されるのを避けるように、
その芳香の中に様々な要素を抱き込んでは、
毎年夏のはじめ頃になると、
道行く人の足を止めているのですね。


くちなしの香りの香水はたくさんの種類がありますが…

まず、なんと言ってもこの一品でしょう。

シャネルの「GARDENIA・ガーデニア」パルファンです。

世紀の名香 No.5 を作った調香師エルネスト・ボー
(Ernest Beaux)によって生み出された傑作。
1925年発売という歴史のある香水ですが、
そのくちなしの香りはたいへん完成度が高いと思います。
まろやかでクリーミーな甘味、爽やかな青っぽさ、
そして、格調高いスパイスのアクセント。
それらは創立者ココ・シャネルの目指した
自立した女性のための「モード」を表現するのには最適です。

パリの本店処方、US処方、日本処方と、
何種類かの「GARDENIA」があって
それぞれに少しずつ印象が変わりますが、
共通しているのはお洒落なオバサマ然としたマダミーな印象。
男でこれを使いこなせる兵(つわもの)はなかなかいない
と思いますので、わたくしが只今特訓中であります。


そして、こちらは目下一番気に入っているガーデニア、

マークジェイコブス 「MARC JACOBS」オードトワレです。

  

こちらのくちなしは少し変わっていて、
花の香りとしてはこっくりと甘めな調香なのですが、
そのバックグランドには水を思わせるアクア系の香りが…
この組み合わせにはたいへん驚きましたね。
「水面に落ちた白いくちなしの花びら」とは、
デザイナーであるマークジェイコブスさんの言葉ですが、
そうです、この水をまとった花の香りは
あの夜風に溶けるくちなしの香りを思い出させますね。
ほんとうにお洒落で素敵な香りだと思います。

それでは、そのくちなしの香りをお勧めする方ですが、
ズバリ、坊主頭限定のスーツ兄貴ですね。
花の香りと思ってしまうともういけません、気色悪いです。
このくちなし、ほんの少量だと人肌のような匂いなんですよ、
うまく香らせることが出来たら、すごく色っぽいです。
エロではなくて、あくまでも色気ですね。
それには使用する分量がとても大事で、
実験の結果、太ももに1/3プッシュがいい感じでした。
香るというより、雰囲気を漂わせるようにかな。

しかし、気を抜くとどうしても多くつけてしまって
いい雰囲気どころではなくなり、
しっかりとくちなしの香りがしてしまいます。
他人に変な人だと思われたくなかったら、
自分の鼻の下に香水つけとけって話なんですけどね。。。(笑)



モンド>エキゾチカ

2006-06-13 17:20:06 | 風に流される音楽もあった
灰色のプラスティックでできたトレーに
CDを乗せて再生ボタンを押し込む。
ブルーのインジケーターのランプが点って、
しばらく待つ間にも少しずつ音楽が聞こえて来ます。

部屋を満たす空気の粒は、スピーカーから流れ出てくる
音楽に合わせ小刻みな振動を始めて、
それは精巧なイリュージョンのように再現してくれるのです。
雪を抱く白い山の風、小動物が囁く夜のジャングル、
時には、誰もいない熱帯雨林の生暖かい雨の匂いまで。

記憶は音楽という魔法の絨毯に乗り込み、
距離と時間を越えて一瞬のうちに旅をします。

Take Me With You When You Go.

さてさて、今宵の行き先は、
EXOTICA エキゾチカ、南の島の楽園です。

50年代初頭、レス・バクスター(Les Baxter)が
ジャズをメインに、太平洋の島々やアフリカ、中南米の音楽を
大胆にブレンドした音楽スタイル、「エキゾチカ」を創造します。
その猥雑で一風変わった音楽は評判を呼びますが
何といってもその名を広く知らしめたのは、
マーティン・デニー(Martin Denny)でしょう。
彼は、涼しげなビブラフォンのコンボに、
「キィー、キィー」という鳥や猿などの
鳴き声を真似たバード・コールをあしらい
よりいっそう異国の楽園を思わせるスタイルを確立し、
それは上質な大人のカクテルラウンジミュージックとして
爆発的な人気となるのです。

♪Les Baxter Music Sample



♪Martin Denny Music Sample



Les Baxter Sweet Official Site

The Temple of Martin Denny


いかがですか?
秘密のジャングルに迷い込んだみたいでしょ。
そして更に興味深いのは、
このエキゾチカという音楽を軸として
新しいアートスタイルが生み出されて行くのです。
それが、「TIKI・ティキ」です。

ティキとは、ハワイやポリネシアの島々に伝わる、
神を模った木の彫り物の総称なのですが、
そのオドロオドロシイ外見はいかにも
未開の南の島国を思い起こさせて、
当時の欧米の人々が考えるエキゾチック
というイメージにぴったりだったのです。
そしてカクテルラウンジを舞台に、
ティキの世界は様々なアイテムを指定しながら
そのスタイルを確立して行きました。

椰子の葉で覆ったバーカウンター、
しゃれこうべの蝋燭立て、魚網、
ガラスの浮き、火山、溶岩、トーチ、
天井には小さな赤い提灯を連ねて、
ティキの形をしたマグには強い酒、
美しい花を連ねたレイは甘い香りを放って…

 

どう見ても、実際にはそんなスタイルはありません、
全部が作り事、でもだからこそ面白い。
当時の人々が勝手に創り上げた楽園というイメージは
今でも大勢の人々を魅了し続けています。
想像することは世界の中で最大の旅です、
そして、その行き先は一瞬で且つ無限なのです。

その空想の楽園TIKIを「自分の家で造って見たい」と
思う人のためにTIKI専門のサプライヤーが
ウェブにはたくさん揃っています。
その中のいくつかを紹介しますので、
興味をもたれた方は是非一度覗いて見て下さい。
イマジネーションがブルっと震えますよ、きっと…

Tiki Farm・・・・http://www.tikifarm.com/
Tiki Zone・・・・http://www.tikizone.com/

Mike's Tiki Room 内のティキルームアーカイヴ。
ティキに魅せられた人々の自慢のティキルームの紹介。
・・・・・http://www.tikiroom.net/gallery/homedecor

伝説のティキガーデン、そのメモリアルページです。
Tiki Garden Memorial・・・http://home.earthlink.net/~tikigardens/page1.html


そして、エキゾチカならではの
プリミティヴな音楽もTIKIにはぴったりです。

Arthur Lyman---Martin Denny 楽団のヴァイブ奏者から独立。
        怪しい名曲「TABOO」をはじめ、土着的な楽曲を
        涼しげなヴァイブで奏でるそのスタイルはシビレマス。

Arthur Lyman Music Sample


Yma Sumac---世紀の歌姫、彼女こそ本物のDIVAと言えるのではないでしょうか。
      その、とても正気の沙汰とは思えない世界を堪能下さい。

Yma Sumac Music Sample


Yma Sumac Official


今年もまた蒸し暑い日本の夏がやって来ます。
どうしても眠れない熱帯夜には、
エアコンを止めて窓を開け放したら、
照明も落としてキャンドルを灯しましょう。
ココナッツの香りのお香を焚いて
甘い香りを堪能しながらすするお酒は
ラム酒にパイナップル、オレンジ、
レモンのジュースをミックスした
トロピカルカクテルの女王、マイタイ。

僕はこれをやりたいがために
熱帯夜指数が上がるとちょっと心が躍ります。
ベランダの植物なんかも部屋に持ち込んだりして、
薄明かりの中でエキゾチカの妖しい曲を楽しんでいるのです。

そこで、最後に紹介するのは、
ラスベガスにあるティキラウンジ「Vegas Vic's」の
ネットラジオです。同じくPodcastもあり。
http://www.vegasvics.com/
さぁ、これで24時間ノンストップエキゾチカ…


~モンドミュージックとわたし~
シリーズ3回目は「エキゾチカ」をお送りしました。
みなさんがティキの魔力に魅せられることを
心から願っています。
次回の第4回は「スペース・エイジのための電子音楽」です。
どうぞお楽しみに・・・(ウソです)。

今日をよく味わって

2006-06-02 17:22:04 | モノローグ
「鬼子母神」

昔々、500人の子供を持つ美しい女神がいました。
ところがこの女神、自分の子供を育てるために
人里に下りては人間の子供をさらって食べていたのです。

人々は恐れおののいて釈迦に救いを求めます。
そこで釈迦は一計を案じ、
この女神の一番末の子供を自分の元に隠してしまいます。

愛する子供がいなくなったことを知った女神は
気も狂わんばかりに嘆き悲しみ、世界中を探し回りました。
もちろんいくら探しても子供は見つかるはずもなく
ついに釈迦の元へ来て救いを請います。

釈迦は頭を垂れる女神に、
「おまえはたった一人の子供がいなくなっただけで
このように嘆き悲しんでいるが、
大勢の大切なわが子をお前に食われた人間の母親たちの
心はお前にも今はわかるのではないか」と諭して
隠していた子供を女神に返します。

女神は心の底から改心し、釈迦の教えを受けて
永遠に世の子供の守り神となりました。


この「鬼子母神」の昔話が大好きな僕は、
基本的には「経験主義者」なんだと思う。
何かを本当にわかると言うことは何なのか。
頭の中だけではわからない事の方が多いのではないか、
人は己の身を持って体験することで
はじめて何かを理解することができるのではないか。

人の気持ちに触れたとき、
自分の今までの経験からその相手の感情を
推し量ることはできるけど、
果たしてそれが「わかる」ことになるのだろうか?
人が自分と同じ気持ちになることを
追い求めるということはどうなんだろう。
その先には残念ながら幸せは見えては来ない気がする。
こんな事を口にするとなんだか冷たい人間のように
誤解を受けることもあるのですが、
まったく同じ気持ちになることはあり得ないと
わかっているからこその結びつき。
でもやっぱり諦めることなく
相手の気持ちに近づいてくれようとすること、
もうその事自体が愛なのではないかと・・・そう信じているのですね。
「わかる」事ではなく、わかろうとする事、
そして、わかろうとする事を止めないということ、
それはとても素敵なことではないかと思うのです。

この自分をわかって欲しいと
相手に求めるが故に不幸になる姿、
誰も私を理解してくれないと
嘆く故に孤独になってゆく姿、
それらを眺めながら、どうして、どうしてと謎解きは始まり、
無理な望みだとしたら諦めよう、
諦めようと言うか初めから望まない、
もう、それから手をポーンと離してみる。

そうやって、無理に望まないという強さと
引き換えに手に入れるのは小さな自由。
自分のことよりも
相手の事を理解したいと願う事の嬉しさ。

もしかしたら、人を理解するということは
自分を理解することなのかもなぁ。

そして、そうやって時を経る間で
まったく予期しない瞬間にわかってしまう
「あの時のあの人の気持ち」
間違いなく「あぁ、これなんだ」と言い切ることができるような
確信と共にわかってしまうあの気持ち。
これはもう人智を超えた何かとしか説明のしようがない瞬間。

そして、「その瞬間」は、
わからないことだらけの日々の暮らしの中で
明方の星のようにポツリ、ポツリと小さく輝いて、
まるで道標のように僕たちを明日へと歩かせるのかもしれない。

そう思うと、わからない事だらけの世の中も
捨てたものではないように見えてくるね。

わからないからこそさ、明日もがんばれる気がするんだ。