Colors of Breath

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エピソード2『底なし沼』(3)

2008-06-27 18:50:15 | 22.思い出物語


エピソード2

『底なし沼』(3)

 

おそらくこんな感じの道があったんだろうと思う。(道の細い延長線は獣道のような藪道)


(『底なし沼』へのご案内も併せてどうぞ)
(『底なし沼 』(1)も併せてどうぞ)
(『底なし沼 』(2)も併せてどうぞ)





いちいは不自然に突き刺さったその棒を見た時、初めて自分がしていた事の危険に気付いた。みるみる不安に囚われ、改めてその暗い緑を認識するかのように頭上から回りを見渡した。途端に周りの景色のうっそうとした木々の、ざわめき揺らぐ枝擦れの様は、まるで唸り声を上げながら蠢く化け物たちに変わり、頭の上から覆い被さるように迫ってくる気がした。いちいは一目散に逃げた。逃げたという表現が正しいのかは分からないが、何かから逃れようとした。

最早、その道が正しいのかも解らず、速さを増す心拍数に追い立てられるようにただただひたすらに前へ進んだ。視界は視線をその先の地面のみに保ち、とにかく足早に前へ進んだ。やがて辺りは目が覚めるように明るく拡がった。

どれ位の距離だったのか、どれ位の時間だったのかは解らなかった。夕暮れとは言え、見慣れた景色が森の中と比べ物にならないほど明るく開けた事だけは確かだった。目前に開けたいつもの村の景色は暖かな夕焼けに包まれていた。詰めていた呼吸がふと緩んだ瞬間だった。その後は何事もなかったように呼吸を整え帰り着くと、平静な顔をして玄関の戸を開けた。「ただいまー。」




 


今思えば、一つ間違えたら遭難しかねない危険極まりない探検三昧の日常だった。「大変だ!夜になってもいちいが帰ってこない!」村人総出で「いちいちゃ~ん、どこだ~!」「聞こえたら返事しろ~!」なんてことにならなくて良かったと思う。まるでトム・ソーヤーかハックルベリー・フィンだ。そういえば、『となりのトトロ』にもそんなシーンがあった。「めいちゃーん!どこだー!」

少し後に母と暮らせるようになって、相変わらず山歩きしたりする私は、あまり責任のない親戚には「おじいちゃんそっくりだ」と笑われたが、母には「頼むから、ひとりで山の中を歩くの止めてちょうだい。何かあったらと心配でしょうがない。」とよく叱られた。私が採ってきた芹等を料理する反面、その心持ちは複雑だったろう。今頃になって、あの頃の母の心配がよく分かる。そして、あんなだった私もどういう訳か、今はあの頃の母に負けない位心配性である。もしも私があの頃の母で、自分の子どもがいちいみたいだったらと思うと…。(笑)『親の気持ち、子知らず』本当にその通りだ。

ところで今もあの沼はあるんだろうか?それ以前にあの景色が、あの環境が残っているのかどうか…。月日が巡り、今住んでいる場所の周りの景色を見ると、この場所でさえ見る見る変わって行く。きっと、あの山もがらりと様変わりしてしまったかも知れない。いつかまた里へ帰ることがあったら、あの幼い頃の時間の思い出を辿ってみようと思う。    (終わり)




 
何とも病気がちなくせにアウトドアな子どもでした。
私を見守り育ててくれた全てに感謝です。

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2 コメント

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やまのこのはこぞう (さなや)
2008-06-28 19:00:28
・・・という子供向の物語があります。
底なし沼とはちょっと違うけれど、
この感覚、ichiiさんならきっと頷けるはず。
もしも書店で見つけるような事があれば、
こっそりパラパラッっと覗いてみてください
(絶版になってなければいいけど・・・)。

完結するまでコメントを控えていた甲斐がありました(笑)。
私も近い(かな?)体験をしているので…5年ほど前に
(イイ歳してですよ、大丈夫か私)。

いつもバスを釣りに行くダムにての出来事です
(車で20分の距離にてあるのです)。
毎度の如く淵釣りの為に深い水深の所にて糸を垂れていると
何だか気になる手応えが・・・。
「?」と思って軽く手首を揺らすと、気配が消える。
「気のせいか・・・」と竿を定位置の角度にすると
またもやワームを突く感触が・・・。
何度かそれを繰り返すうちに、足を滑らせて砂利の斜面から
ダムの水面まであと3~4Mの地点迄ずり落ちました
(熱中するあまり淵に近づき過ぎたみたいです)。
幸い子供の頃の体験にて、地面に体全体をつけて着水を防ぎ
声を出して仲間に助けを求めることができました。
いやー、しこたま怒られましたねーあの時は(笑)。

ただその様子を見ていた一人の友人が言うには、
「糸はすこし弛んだままだったよ、ずっとね。
なんであんなに前のめりになってるのか、おかしいな?と感じてた」
との事。

さて、私を呼んだのは一体誰(何)だったのでしょうね?
返信する
さなやさんへ (ichii)
2008-06-30 01:34:31
『やまのこのはこぞう』検索したらありました。
沢山の方が随分、思い入れのある本として挙げていました。
あらすじも載ってましたので、ブログを見て下さる方の参考までに。

ある少女が森に迷い込みます。そこで出会った「やまのこのはこぞう」。
頭がまつぼっくり、木の枝や葉っぱで出来た不思議な森の精霊に少女は森の中に閉じ込めらてしまいます。
どう探しても出口が見つかりません。
そこで出会った森の動物たちは、少女に人間が森や動物にしてきた数々の仕打ちを訴えます。
森の動物裁判にかけられた少女の運命は?
児童書(絵本)でありながら自然破壊をテーマにした読みごたえのある本です。

頷いてしまいました。『底なし沼』だけでなく、『冬の氷の滝の発見』や、
『焼け焦げた胡桃の巨木がゴジラになって襲ってくる錯覚的妄想で、
慌てて沢から逃げ帰った記憶』や、小さい頃の山歩きと確かに重なるものが…。
面白そうですね。絵も魅力的らしいので、機会があったら見て
みます。

『さて、私を呼んだのは一体…』きっと山のヌシが感性の鋭いさなやさんに働きかけてきたのかも。
でも水の事故にならなくて本当によかったです。
釣りをしてるとキラキラした海面にふっと吸い込まれそうになって、
ドキッとする時がありますよ。気をつけなきゃ。
返信する

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