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うっすらとした雲に包まれている
まばゆい光と
おびえる影はなく
建物や林は 溶けあっている

意志さえも無彩色に塗られ
ささくれは
フラットになる
だれかと歩きたい

二人は
細線で囲われ
隔たりをなくし
ひとつの平面になる
人型がゆれている

窓辺の球体は
転がり落ちず
かすかなバランスを保ち
薄白色の空を映している
その下でたたずむ

もとめていた
つかの間の幻
どこへも向かわず
曇り空は曇り空のままで

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エアコンの止まない部屋から
怠惰を振りはらって
昼どき近い玄関に身をさらす

ちょうど風はわずかで
赤城山も榛名山もくっきり見える
山なみの輪郭から
冷気は伝ってくるのか
無造作に建つ鉄塔をよけながら
シャッターを切る

頬にさす痛みは慣れて
そうして進むと赤い屋根の家が
真ん中あたりに置かれて
よい構図になった
あの自動販売機のある場所まで行こう

バス停に向かう人
積み荷を降ろすドライバー
人は影を引きずらず
それぞれがまばらで
よこたわり 重なりあい

立ち枯れの枝の先には
長くのびた電線が矩形をつくり
青い空を分けている
その一片一片にシャッターを切る
まだ続きそうなこの寒さ

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初めて腕時計を買ったのは
高校一年生のとき
町で唯ひとつのデパートで
金属製のバンドに青い文字盤

おどおどと手首にはめると
急に大人になった気がした
そでに隠して まくって眺めて
傍らで輝きはじめた

ガラス越しの長針と短針は
朝と夜をおなじに抱えて
弧をゆっくりと描きながら
くり返し行き来した

たえまない軌道は
昨日と今日のふちを重ね
その過ぎた分だけ
よろこびや落胆があった

願いは浮き 沈み
投げやりにさえなったが
時はいつでも平坦に
予期せずここまで運んでくれた

耳に近づけると
錆びついた針の遅れと
加速する私の時が交わり
残された目盛りばかりが気になる

手首についた白色の痕
ケースに仕舞われた腕時計は
おなじ姿のままで
今では時を見つめている

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一九世紀後半
パリの歓楽街を描いた画家の
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは
美食家としても知られている

作られたレシピは二百種類
たびたびアトリエに友人知人を招いては
自慢の手料理でもてなす
賑やかなパーティーを開いた

ワイン酒はふんだんに注がれた
大皿にはカモやウサギの肉料理
もの真似や変装のご披露
デザートは油絵の鑑賞付き

招待客を飽きさせないことが
彼一流のテーブルマナーだった
しだいに”小さな王様”と
もてはやされた

ロートレックは南仏の伯爵家の一人息子
幼いころの転倒事故で両脚の成長が止まった
乗馬もできない息子を父親はたしなめた
ひとり郷里をはなれた
「もし ぼくの脚があと少し長かったら
絵など描かなかったであろう」

パーティーには
馴染みの踊り子たちも招かれた
夜の酒場は彼の背の低さなど
気にとめる者はだれもいなかった

山高帽子に丸めがね
一本の杖をかかえ
ワイングラスを片手に女性たちを
いったいどんな会話で口説いたのだろう

踊り子との同棲生活は二年間
後年は娼館で人間の底辺を描きつづけた
パーティーはアル中と梅毒により
三十六年でお開きとなった




※NHK・BS「ロートレックからの招待状」、「芸術新潮」二〇〇一年一月号などを参考にしました。

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父は畑仕事と酒ばかりの毎日で
よくある家族旅行のような
団らんのシーンも見つからないが
たまに釣り堀だけは
連れて行ってくれたことが思い出される

平日のまだ早い時間
軽トラックで里見街道をのぼり
倉渕村の雪解け浅い道を入って行く
駐車場から池まではデコボコ道で
このときだけは父が車いすを押してくれた

父はせっかちだったからか
目方でたくさん釣れる場所を選んだ
三十分くらいすると
バケツはマスでいっぱいになった
風流というより慌ただしい釣りだった

帰りは山あいの食堂でお昼を食べた
私はいつもラーメンを注文した
山の空気に気持ちが洗われたせいか
その美味かったこと
父と二人で向かいあって食べた

家に戻って袋に詰めた大漁を母にわたすと
こんなにと驚いた声で笑った
多いときはとなり近所に配った
残った分を夕食に焼いて家族三人で食べた
写真一枚にさえも映っていないが
いま思うと楽しいひとときだった

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4月、5月に撮った風景と花の写真です。

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・今まで撮った写真をスライドにしてみました。

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少女は本を読んでいる
背もたれのまっすぐな椅子にかけ
小さく閉じたひざの上
きりりと結んだ口もとが大人びて見える

少女は指先で文字列をなぞり
ていねいにページをめくるが
かたくなに姿勢はくずさず
ただ本を眺めているだけのようだった

ときおり聞こえる薄紙のこすれる音が
羽音のように
破片のように
わずかな意志であるかのように

多くの望みは持たなかった
ほつれたスカートのすそ
立ち上がるきっかけを失くして
時間だけが行き過ぎた

わたしは私
まとったベールを脱ぎ捨てて
いっとき海と砂浜の広がる場所で
はしゃいでいる姿を思い浮かべる

水平線をすべっていく
遠くへ運ばれていく
演じ続けることを休めたとき
ようやくひとつの物語りを話しはじめる

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見なれたアスファルトが削られている
白線が擦れている
ゴミ置き場に残されたビニール袋
わずかなすき間から雑草は伸び

歩道の切れ目を追っている
どこかに落としてきたものがあり
拾えなかったものがある
傾斜はしだいに増して

交差点で行き先にとまどう
顔のないハイヒールが通りすぎる
ふり切れない心残り
点滅する停止線

前向きにと
視線を合わせる場所が見つからない
正しい姿勢が保てない
うすれた影はゆれやすくて

首の骨がきしんで
陽がまぶしくて
落ちてくるものを受け止められなくて
ただ重心は低く

うつむきながら
周りの音には耳をそばだて
他人の足跡をさがし
香水の匂いを嗅ぐ

この道を歩めば
どこかにたどり着く
方角を聞かれることもあるだろう
いい風景があるかもしれない

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マイクロバスは
やわらかな陽差しにつつまれて
さんかく屋根の町並みを通りぬける

グラウンドでは体操をはじめる人
焼きたてのパンの香りに
配達のモーターバイク
のんびり顔の山が大きなアクビをして  
窓いっぱいに魚が泳ぎ出す

朝もやにそびえる建物にたどり着くと
そこはみんなが元気な顔をして
おはようと声をかけてくれる
理由もなく不機嫌な日は
とたんに心がポッと明るくなった

曲がりくねった身体の汚れは
大きな浴槽できれいさっぱり
錆びつきはじめた関節には
ほっそりした指のマッサージ
たらふくランチにひとときのうたた寝

さてそろそろゲームで踊って
歌なんかもいっせいに飛び出して
座り所をさがしていると
フルーツケーキのおやつに頬がふくらむ
辺りはもう夕焼け

深夜 楽しかったはずの一日の眠りにつくと
女の尻をつかんでは
烈火のごとく怒りをぶちまけていた
どこからともなくやって来たあいつの姿が
夢の中にたびたび現れて
なかなか寝付けないのだ

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