ひとり井戸端会議

主に政治・社会・法に関する話題を自分の視点から考察していきます。

恣意的な通達は許されない

2010年11月18日 | 憲法関係
政治的発言する部外者「呼ぶな」は妥当…仙谷氏(読売新聞) - goo ニュース

 仙谷官房長官は17日午前の記者会見で、防衛省が中江公人次官名で政治的な発言をする部外者を関連行事に来賓などで呼ばないよう求める通達を出したことについて、妥当な対応だったとの考えを示した。
 仙谷長官は「自衛隊員の政治的な中立性が確保されなければならない。防衛相の責任の下に必要な対応がとられたと認識している」と語った。
 通達のきっかけとなった3日の航空自衛隊入間基地の航空祭で地元代表者が述べた「民主党政権は早くつぶれてほしい」との発言に関しては、「非常に荒々しい政治的発言であることは間違いない。どこまで許されるのかということだ」と論評した。



 通達とは、監督行政庁が、組織上の監督権にもとづいて所管の下級行政庁に対し、法律の解釈や裁量判断の具体的指針等を示して、行政上の扱いの統一を期すために発する「行政組織内部での」命令である(原田尚彦『行政法要論』)。したがって、通達は行政機関を拘束するだけで、直接国民(私人)を拘束するものではない(南博方『行政法』)。

 よって、たとえ通達に違反した行為を国民がしたとしても、そうした行為を通達を根拠に罰することができないのは当然である。通達とはあくまでも行政内部でのみ効力を有し、組織の一体性を保持し、国家意思の分裂を防ぐために発せられるものだからである。



 以上が通達に関する前提知識である。確かに、通達が発せられることにより、間接的に国民の権利ないし自由が制約される場合というのは考えられよう。通達によって従来の法解釈を変更することができるのは当然であり、それによって国民に不利益が生じても構わないとするのが判例・通説の考え方である。

 しかしながら、今回の通達の場合、事情が異なる。何故ならば、通達の目的が行政組織内の一体性を保持し、国家意思の分裂を防ぐことにあるにもかかわらず、今回の通達はそうした目的に照らし関係のない国民の意思表示を妨害するために発せられているからだ。

 また、通達は法律などのように、国会による審議を必要としないし、法律による授権も不要である。そのような性質の通達をもって、いかに自衛隊の敷地内という制限があるとはいえ国民の発言を制約するというのは、法治国家のやることではない。尖閣の件といい、民主党というのは日本を法治国家だと考えていないようだ。

 今回の通達に関し仙谷氏は、「シビリアンコントロール(文民統制)の上から防衛省で規律を保持することは、防衛相の責務だ」(産経新聞)と述べたというが、そもそもシビリアン・コントロールの対象になるのは軍事力であって国民ではないし、たとえ自衛隊の敷地内であっても私人たる国民がそこにおいて政治的な発言をすることと自衛隊の規律の維持とは関係のない話だ。彼の説明は詭弁である。

 今回の政府の対応は、通達の本来の目的から大きく逸したものであり、通達という手軽な手段を用いて、自分たちに都合の悪い言論を封殺しようとするものにほかならない。



 ところで、何をもって「政治的発言」とするのか。すなわち、「政治的発言」の定義とはどのようなものか、また、具体的にいかなる発言が政治的発言に該当するのか、ということだ。そして、そもそも、通達は政治的発言をしそうな団体は出席させないように、との内容のようだが、そのような発言をしそうか否かを一体どうやって判断せよというのか。

 たとえば、以前橋下知事は「口ばっかりで、人の悪口ばっかり言っているような朝日新聞のような大人が増えれば、日本はだめになる」と、伊丹市の陸上自衛隊伊丹駐屯地で開かれた陸上自衛隊中部方面創隊48周年記念行事で発言したが、このような発言は通達にある「政治的発言」に該当するのか。

 思うに、政治的発言というなら、自衛隊の行事等で、「昨今は北朝鮮の核実験や中国の軍事力増強等、日本の周辺では軍事的な脅威が・・・」云々と述べるのも、政治的発言と言えるのではないか。特定の政党、政権、政治家等を批判することだけが政治的な色彩を帯びた発言ということにはならないはずだ。

 しかしながら、アバウトに「政治的発言」と一緒くたにして、こうした発言をしそうな個人または団体の出席を禁止するとなれば、自衛隊の行事等における挨拶それ自身の意味をも没却させかねないことになる。

 それとも、現政権は「民主党政権は早く潰れて欲しい」と言われたら、それに同調する自衛隊員が大勢出て、クーデターでも起こるとでも考えているのか?そのように考えるとすれば、何か思い当たるフシがあるのか?(笑)だとしたら、民間人の発言にいちいち反応して無茶な通達を出して言論統制に走るのよりも、自分たちの政治姿勢を顧みるのが先ではないのか?


 このように考えるならば、今回の通達は先述したように、自分たち=民主党政権にとって都合の悪い言論を封殺しようとするものにほかならないものであり、そうした意図をもって発せられているのは明白だ。もし、今回の通達の契機となった発言が、民主党の提灯持ち的なものであったとしたら、それでもなお、民主党は同じように政治的発言だとし、これを問題視して通達を発しただろうか。

 彼らの言う「政治的発言」とは、要するに自分たちを批判ないしは敵視する発言に対して適用されるものであるのは、通達を指示した北沢氏が、かかる発言に対し激怒したことがきっかけになっていること、ならびに、「自民党内閣の時にこういう事があったら、私は多分同じような事を為さるんだろうという風に思っております。」と答弁していることからしても明らかだろう。

 なお、当該批判をした民間人は、自民党政権のときも自民党政権批判を繰り返していたのだ(自民党、衛藤氏)が、当然のごとく自民党政権はこのような通達を出してはいない。



 民主党に言っておきたいが、未来永劫あなたたちが政権与党であることは万に一つもない。にもかかわらず、将来自分たちの首を絞めるような通達を発することのデメリットを考えているのか。もし、いつの将来か自民党が政権を取って、この通達を根拠に、自民党政権を批判した者を自民党政権が自衛隊の式典から締め出しても、当然民主党は自民党の肩を持つのだろうな?まぁ、それまで民主党という政党が存在していれば、の話ではあるが(笑)




 最後に、参考として、阿比留瑠比記者のブログに当該「発言」の詳細が掲載されていたので、ここにも掲載する。以下、発言内容。


 入間基地航空祭おめでとうございます。また、普段国防の任に当たられている自衛隊の皆さん、いつも大変ご苦労さまです。祝賀会の主催者として、一言ご挨拶申し上げます。本日は、極めて天気もよく絶好の航空祭日和となりました。これも國分基地指令の日頃の行いのなせるものだと思います。

 私も、随分昔から、入間基地航空祭には、参加をさせて戴いておりますが、このように天気がいいのは、あまり記憶にありません。本当に良かったと思います。

 さて、現在の日本は、大変な状況になっていると思います。尖閣諸島などの問題を思うとき私は、非常に不安になるわけであります。自衛隊は、遭難救難や災害救助が仕事だと思っている世代が増えてきています。早く日本をなんとかしないといけない。民主党には、もっとしっかりしてもらわないといけない。

 他方で、戦後から日本の経済的繁栄などを思うとき、これらが先人の努力・犠牲によってなされたことを思い起こすべきであります。そのように考える時に、靖国神社に参拝するなどは当たり前のことだと思います。靖国神社には、日本人の魂が宿っている。菅内閣は誰一人参拝していない。これでは、日本の防衛を任せられない。

 自衛隊の最高指揮官が誰か皆さんご存知ですか。そうです内閣総理大臣です。その自衛隊の最高指揮官である菅総理は、靖国神社に参拝していません。国のために命を捧げた、英霊に敬意を表さないのは、一国の総理大臣として、適当でない。菅総理は、自衛隊の最高指揮官であるが、このような指揮官の下で誰が一生懸命働けるんですか。自衛隊員は、身を挺して任務にあたれない。皆さん、どう思われますか。

 領土問題がこじれたのは、民主党の責任である。菅政権は冷静だと言われているが、何もしないだけである。柳腰外交、中国になめられている等の現状に対する対応がなされていない。このままでは、尖閣諸島と北方領土が危ない。こんな内閣は間違っている。まだ、自民党政権の内閣の方がまともだった。現政権の顔ぶれは、左翼ばかりである。みんなで、一刻も早く菅政権をぶっつぶして、昔の自民党政権に戻しましょう。皆さんそうでしょう。民主党政権では国がもたない。

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