『輝天炎上』 海堂 尊 著(角川書店)
崩壊三部作のラスト、というこの作品。バチスタ→螺鈿→輝天という順番。
これをもって桜宮サーガの到達点、ということですが(まだ未来編は続きますけど)、この一冊が海堂作品初めての人でも海堂ワールドが見える、というのは誇張だと思う……今までのを読んでなきゃわからんよ。
んー……わたしがハマった海堂作品、バチスタシリーズってのはこんなんじゃなかったような気がするなあ……というのが正直。
そう思うと、本編での白鳥さんの存在価値って大きかったのね。
恋愛感情描写、邪魔。わたしにとっては、ですが。
面白くないわけじゃないんですけど、『ケルベロスの肖像』で燃え尽きちゃったからなあ……。
いやもちろん、碧翠院側からのストーリーで東城大崩壊の物語が完成するというのはそのとおりで、肖像のときには唐突に感じたアレやコレが一気にパズルのようにカチカチと嵌っていくのは面白かったですよ。
とくに。
今までの海堂作品に出てきたほとんどのキャラクタが登場するし(天城先生とかジェネラル・ルージュとか名前だけの人もいますが……その名前だけの人がご贔屓キャラであるわたしはちょっと淋しい……)、
お馴染みのキャラがあっちやこっちと繋がっててびっくりもしたし。
一番かなしかったのは彦根先生とミラージュ・シオンの別れ。
肖像ではシオンが茫然自失で戸惑ってた描写になってたけどこの輝天は決然と離れていったようになってるのは、物語の立ち位置が田口先生サイド(東城大)か小百合サイドかの違いでそこには田口先生から見たシオン、小百合から見たシオン、のバイアスがかかってるような感じがしました。
でも、彦根先生やっぱ鋼鉄の精神よね、うん。
肖像のラストで、斑鳩さんが彦根先生とやりあって、悔しがるシーンがありましたけど、この事態を半分阻止できても結局炎上させてしまったという現実を受け止めた彦根先生はまた一段と強くなっていくんでしょう。あの見えすぎる眼で。
それと、高階病院長の存在。肖像の方が書き込まれてるんですけど、大物感はこの輝天に軍配が上がるかも。小百合から見た「仇敵がくずおれない」心理的敗北感によって。
で。
この輝天で一番読みやすくて面白かったのは、手紙もどき/日記くずれ のところ。
東城大サイドよりも、小百合サイドよりも一番のキモにあたる部分で、ここで本編と螺鈿と肖像のすべての秘密(伏線)が回収されてるんじゃないかと思います。
いわば、神の視点。亡霊の視点ではあるんですけど。
終盤の炎上シーンで、小百合でさえ実はすべての事態を掌握できていなかったという、さらに上の立場の人間が存在していた事実が、東城大メインでサーガに寄り添いシリーズを追いかけてきたファンにとっては悲しいこの物語において、ほんの少しの救いになってる。
それでも、バチスタを除く、螺鈿・輝天にそれほどシンパシーを感じなかったわたしはたぶん、天馬くんとハコちゃんはいいとして桜宮一族やツイン・シニョンの彼女にどうしても苛立ったんです。
いえ、桜宮一族が軸なのは当たり前だし。それはいい。(っても、小百合もすみれもわたしは好かんが)
この輝天の。
ツイン・シニョンがいることがこの物語の機動力になったし彼女に向けて天馬くんが信頼を寄せることが加速装置であったわけなのでそれはしょうがないんですが、
そもそもわたしは閉じてる人を無理やり立たせて歩かせて前を向かせるキャラクタが大っ嫌いなんですよ昔から。心の中の聖域に土足でズカズカ踏み込むことと同じに思えて。傲慢にしか見えない。
閉じてることに飽きたら出てくるでしょうよ、たとえそれが遅きに失した感があっても。
ま、そんな個人的感情はこれくらいにして。
これで、東城大と碧翠院の因縁と炎上の真相と決着をすべて知るただ一人、天馬くんがどうなったのか。(あ、城崎さんとマリツィアさんもいるのか。でも彼らはもうかかわらないでしょう)
それが未来シリーズに繋がるんですかね、神殿の連載とか他の作品読んでないから分からないんですが。
ともあれ、桜宮サーガはこれからどんどん終息の方向に向かいます。
淋しい一方、現実社会が少しでも良くなるようにと願う海堂先生の蒔いた種がきれいに花咲くことを、わたしも願います。