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『すべての神様の十月』

2014-06-23 12:30:00 | 本の話・読書感想





『すべての神様の十月』 小路幸也 著(PHP研究所)
 単行本にまとまるのを待ってた〈神様シリーズ〉!「十月」っていうのが粋ですよね、神様が集う月。神様が集う小説。
 通して読んでみて、ああ日本人でよかったなあって、そう思いました。生きているし生かされているということを、日本人は生きているだけで感じることができるのかなあって。
 お地蔵さんに手を合わせ、ご飯を食べるときに「いただきます」って手を合わせ、右手と左手を合わせることで感謝の姿勢を取ってるわたし達。
 心のバランスを整えてくれる、パワースポットのような一冊です。



小路さんの看板になった『東京バンドワゴン』シリーズをはじめ、これまでの作品でも一作一作に登場人物は結構多くて、それを読者が混乱しないようにキャラ設定されていて、会話が楽しくてするする読めますよね。

この、会話。

これまでもなんとなく思ってたことですが、小路さんの作品にとって一番のポイントなのは、会話なんですよね。
お互いを理解しあうために。
気持ちや感情を共有するために。
事態を打開するために。
そうして、少しずつストーリーは走り出す。
で、ここからが大事なんですけど。
走り出したストーリーの中で、登場人物はみんな、笑顔なんですよね。泣いていても、ほのかに笑みが浮かぶ。怒っててもいつしか大笑いしてる。
笑顔でいる、笑うということが、生きていくうえで大切なんだよって。いつまでも泣いてんなって。

小路さんの作品を読んでいると、楽しくなる元気になる、というのはそういうこと。
わたしもそうです。

そしてこの新作。
いろいろな神様の物語。
神様にとっての日常なんて考えてもみなかったけど、神様って、楽しいのかなあ。人間の方が楽しそうな気がするなあ……。と思いながら。

でも、なんだか神様も楽しそうでしたw責任も重いけどね。

以前アンソロジー『HAPPY BOX』に収録された、小路さんの〈幸せな死神〉を初めて読んだとき、神様にとっての幸せなんて意外な切り口で唸らされて、それからずっとこの〈神様シリーズ〉が一冊にまとまるのを待ってたんですよ。
ああ、本当にいいなあって思う。
神様って、すぐ身近にいるというか、心の中にいるんだなあって。
ところどころ、ささくれだってたわたしの中を、スッと何かが通り過ぎたような気がしました。心が凪いだ。包み込まれたような気がした。

小路さんのお話を読んでるといつもそうなんですが、今回は特に、日々いろいろあって偏ったりいびつになったりしてたわたしをチューニングされたような感じです。

右でも左でもなく、中庸に。その真ん中の幅がどんどん広くなっていく感じ。
ニュートラルで、自然に笑顔になってる。

それと、「名前」が大事ってことも、改めて。
「名前」はたぶん、一生であり、魂の名札みたいなもの。アイデンティティに近いもの。
この短編集で登場人物は人間も神様も入り混じってるけど、明確に違うのがこの名前の影の濃さ。
名前で呼ばれていても、それは人間のフリした神様だったりするのです。
これを踏まえて、〈動かない同祖神〉は深いなあ、と思いましたよ。
毎日の中で出会う人のすべてが、たとえ一期一会であっても、相手は神様かもしれない。相手にとっても、自分は神様になるかもしれない。人は見かけによらないって、こういうことなのかも。
また最終話の、〈福の神の幸せ〉なんてもう、人間と同じ。
だとしたら。
神様と人間の違いって何だっけ?
人間は儚い命で、感情的なぶん極彩色みたいな存在、かな。それくらいしか(苦笑)

日本人にとっての神様って、初詣でひくおみくじや、お守りや御札という分かりやすい人工物から、大樹や大岩や霊山や滝といった自然信仰、困ってる自分を助けてくれた恩人も神様に思えるし、猫は二十年生きたら尻尾が割れて猫又になったりもして(笑)、もう本当に何でもありなんですよね。
目に見えようが見えまいが神様は神様で、誰の神様も受け入れて否定しない。
長い時間を重ねてきたモノにも魂入れるくらいですからw
これって、神様が日本人に与えた特性なのかなあ、それとも厳然とした自然に長い時間寄り添ってきた中で醸成されたものなのかなあ。
結局、神様と人間の境界線って、そんなにはっきりしたものでもないってことかな。
そしてこの曖昧さが、ユルさが、きっといいんだと思います。

ところで。
ミステリ好きでもいらっしゃる小路さんですが、「後期クイーン問題」なんて言葉が出てくるとは思ってなかったので「うおお!」って声が出ました(笑)。ニヤニヤしてしもたwww
小路さんの後期クイーン論、聞いてみたいなあ☆

あ、そうそう、この短編集、イケメン率がめっちゃ高い!
見た目がイイ男なのはもちろん、「いい人」という意味で使う「カッコイイ……!」な人も含めて。
それと、犬や猫が登場しない(苦笑)
「猫を飼おうか」と考える描写があるくらいで、これって結構珍しいんじゃないかな、小路さんの作品にとって。
たぶん。
神様にとっては、人間も犬も猫も変わりないけど、犬や猫は神様とか死ぬことへの恐怖とかそんな小難しいこと考えなくても生きられるのに対して、何かと複雑に考えすぎる人間の方が「世話を焼いてしまう生き物」なのかなあって。そう思うと、「猫を飼おうか」と考えたくだりは実に人間臭くて、ここでも絶妙なミスリードになってるんです。

一話一話に神様側からの意図や仕掛けが埋め込まれていて、死神や貧乏神や疫病神の仕事には人間というか人生のバランスを良くするための意味があって、神様がその人間の手を放すときのタイミングが、人間側から見れば人生の転機になってる。そんなシーンを描いた連作短編集でした。

人間が毎日いろいろ考えて生きる日々の中に、神様の意図がどれくらい織り込まれてるのかなんて知らないし知らなくていいことで、とにかく生きていればそれだけで神様は喜んでくれる。ですよね?神様。


これからも、笑っていきましょう。



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