『あの日に帰りたい 駐在日記』 小路幸也 著(中央公論新社)
前作から二年、待望の続編です。
昭和五十年から始まる、簑島周平巡査部長と妻の花さんの日記。続編は前作の九か月後。それでも昭和五十一年です。昭和六十四年が平成元年、そして平成も三十年で終わり現在令和元年です。昭和も「時代」という言葉がくっついて違和感がないくらいにはもう遥か昔のことですね(苦笑)
相変わらず長閑で静かな雉子宮。善良でお節介な人々。
UターンやIターンと言われるより前の時代、都会と田舎、起きる事件も性質が違います。殺伐とした事件の多い現実とフィクションが多い中、のんびりゆったりのちょっとした「騒動」を書き留めた日記。
楽しかったです。
ちなみに、前作『駐在日記』の感想はこちら。
この感想の最後の方で、周平さんと花さんの赤ちゃんが生まれたらその続きが読みたいとかなんとか書いてましたが、まさかの九か月後でまだおめでたい兆候はなかったですね(苦笑)
いや、予想より早く続編が読めてめっちゃくちゃ嬉しかったのでぜんぜん良いんです!
周平さんと花さんが元気でいてくれることがまず良かった。
小さな集落でみんな良い人で、でも中には厄介な人もいて当たり前で新参者のふたりが苦労してないだろかとか。
突然大きな事件に巻き込まれてひょっとしてあっという間に横浜に戻る事態になってないかとか。
花さんの手の具合とか。
うん、みんな元気でのんびり仲良くて良かった。
前作は、本当に着任したての巡査夫婦ということで、雉子宮の紹介がてら周平さんと花さんそれぞれのパーソナリティも描かれて、まだ都会の匂いがぷんぷんする二人に見合うように起こる「事件」も結構物騒。雉子宮に赴任する経緯を知り整えてくれた周平さんの上司さんたち警察の偉い人の声も出てきましたけど。
九か月経ち、二人もすっかり雉子宮に慣れてみんなに受け入れられ、静かで穏やかな毎日を過ごしている様子。
前任者が居る頃から住み着いてる三匹の猫、それから前作ラストでわふわふパピィだったミルも大きくなりました。
二人の家族に迎えられたワンコのミルは、作者の小路先生とご家族が愛していらした亡きミル女王様が物語の世界で新しい犬生を生きるようにと…。小説家っていいですね、愛犬愛猫の旅立ちを見送ったとしても元気だった頃の姿で物語の中で生き続けることができる。
笑顔が素敵だったミル女王様も、きっと喜んでると思います。
まだ黒電話しかない時代、テレビとラジオしかない世の中、人それぞれの世界はほどほどに狭くて、都会には都会の時間が、田舎には田舎の時間があって、生まれ故郷はまだ誰の心にも特別で。
昔、まだ幼かったころの、いろんな記憶が、誰の心にも薄まりつつも残っている昭和。
戦争と敗戦や、高度経済成長と公害問題や、都会への人口流出の本格化や、義理人情とお節介や。
長かった昭和には、今の日本になるまでのあらゆるトピックスがごちゃまぜでした。
今ではネットやSNSで日本国内どころか世界中とも一瞬で情報を共有できる時代になってますが、昔、情報が拡散するスピードはゆっくりで、そのぶん確実でわりと正確だったような気がします。バズるのも炎上するのも人の口にのぼることだけがそのエネルギーでしたから。
人の心は複雑で、みんな毎日いろんな感情とともに生きていて。
大好きな気持ちがあれば明るいニュースとして、
正直嫌いな人の話はひそひそ噂話で。
ただ、毎日顔を合わせるような狭い集落の中では、悪意に育つより前に、お節介が解決していたのでしょう。
そんなぬるま湯に我慢できない若い人はクールでスマートな都会を選ぶわけですが、元々が都会育ちの周平さんと花さんが雉子宮の若い人達にはもちろん、保守的な年配層にも受け入れられている理由が「駐在さん」(それも超がつくほど有能な。元は優秀な刑事さん)なだけではなくて周平さん花さん夫婦の都会風を吹かさない物腰。
でも、田舎特有の煮詰まり具合を程良く薄める都会志向があるのも事実。
都会から来た若い駐在さん夫婦の存在は、雉子宮の人々にとって、爽やかで新鮮な風であり新しい人生のモデルケースになったんだと思います。
派手で大きな事件はそうそう起きない地方の田舎、騒動を調べる周平さんの推理はフーダニットではなくてホワイダニット。
家族への思いが深い人達の、見えにくく分かりにくい愛情や思いやりが発端。
見えにくく分かりにくくしているのが、田舎特有の価値観、道徳、ルール、濃密すぎる付き合い。
誰もが家族の幸せを願って、友達の幸せを手助けして、
法律より集落の平穏の方が優位で、
雉子宮で静かに暮らしたい、ただそれだけ。
登場する人達みんな、年を取っていきます。
もしまた続編が出るとしたら、シリーズ化されるとしたら、お別れするだろう人もいるし、周平さん花さん夫妻をはじめとして家族が増えそうな人達もいるし、のんびりした田舎といえど変化は起きるはず。
淋しくなったり賑やかになったり、ほんの時たま物騒になることもあるかもしれないし。
それに。
花さんの手の怪我の元となって「事件」については、まだ明かされていませんから。
これは、続きますよねw
シリーズ化してほしいなあ。
忙しく余裕のなくなった毎日ですが、久しぶりに田舎の祖父ちゃん祖母ちゃん家を思い出しつつのんびりゆったり読みました。
小路先生、優しく楽しい時間をありがとうございました!
※10/9追記。
小路先生のTwitterでお知らせがありました。
この『駐在日記』シリーズ化決定しました!
来年にも、連載が始まるそうですよー!!わーいわーい♡♡♡
このお話、映像化にも向いてるんじゃないかと思ってるので、三丁目の夕日じゃないけどノスタルジーと人情味溢れる群像劇でいかがでしょうかメディアの方々。
周平さんは、うーんそうですねえ、竹内涼真くんとか。
花さんは…二階堂ふみさんとか、どうですか?
俳優さんにあんまり詳しくないので、わたしでも知ってるお名前あげただけなんですけどねw