もうすぐ大統領、のオバマさんは、どうやら強力な味方と、しばらくお別れみたいだ。
その名はブラックベリー。カナダのRIM社が開発した電子メールやインターネットが便利な携帯電話である。次期大統領は中毒と呼ばれるほどの愛用者で、侍の刀のようにいつもベルトの腰に着け、選挙戦中も親指で小さなキーボードに文字を打ち込む姿がキャッチされた。
懸命の訴えもかなわなかったか。利用不可の理由は主に二つだ。まず暗号化されたメールが何者かに解読される情報漏れの恐れ。そして情報公開法によりメールの開示を求められ、思わぬ面倒に巻き込まれる心配で、側近や弁護士が譲らなかった。
なぜおもちゃのような小さな機械にそれほど執着する? 先週、米CNBCテレビで本人が話していた。「ホワイトハウスの外とのコミュニケーションを保ちたいのです。(側近が)用意する管理された情報とか、いつもいい話しかしない人、私が部屋に入るとき起立して迎える人からの情報ではだめだから」。外界から遮断され、守られたカプセルの中に住みたくない、との抵抗である。
人気の高い権力者の周囲にはイエスマンが集まる。企業の世界もそう。斬新さが魅力だったトップも成功するにつれ、批判が耳に届かなくなり、判断を誤ってしまうことは珍しくない。
肝心なのは自分が間違えているかもしれないと疑う心を自信と同じくらい大事にし続けることなのでは。新大統領はブラックベリーを使えなくなっても、目立つ所に置いておけばいい。画面の文字の奥にある批判の声さえ必死に分かろうとしていた自分を忘れなければ大丈夫。(経済部)
毎日新聞 2009年1月16日 東京朝刊
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