あの郵政解散によって吹き飛んだものがある。
あまり知られていないが、障害者虐待防止法案もその一つ。当時、福岡県の知的障害者施設で起きた虐待事件をきっかけに、超党派の国会議員が厚生労働省を巻き込んで勉強会を重ねていた。各党が法案を作成してすり合わせることにもなっていた。
ところが、青天の霹靂(へきれき)の解散・総選挙で、熱心だった議員らがこぞって落選した。巨大与党の出現で情勢は一変し、まるで何もなかったかのようになってしまった。
あれから3年。ひどい虐待が絶えない。今年に入っても、大阪の施設で職員が障害者に暴力を繰り返し、札幌の食堂では障害者を長年ただ働きさせたうえに年金まで搾取していたことが発覚した。
子どもには児童虐待防止法、お年寄りには高齢者虐待防止法があるように、判断能力にハンディがあって自分でSOSを発することが難しい人のためには、<発見→通報→救済>の手続きを法的に保障して機能させないといけない。子どもや高齢者よりも年齢層が広く、さまざまな場面で権利侵害の危険にさらされている障害者を放っておいていいはずがない。
今、ねじれ国会であれもこれも膠着(こうちゃく)しているように見えるが、水面下では障害者虐待防止法の議論が各党で盛んになってきている。
日銀総裁人事も道路特定財源も、ねじれたからこそ国の骨格を変革する議論にまで発展した面は評価したい。踏みつけられても声を上げられない人にはやさしい政治であってほしい。少し熟した<ねじれ>の奥の深さも見たい。
毎日新聞 2008年4月6日 0時05分
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