ハシボソカラスの黒ちゃん

保護をしたのは去年の５月２７日のこと。　この時期はハシボソカラスの雛たちが巣立ちを迎えるころで、ホワァンちゃん夫婦の２羽の雛たちもこの２週間ほど前に巣立っていた。そしてお隣の縄張りの東側ボソ夫婦のところでも２羽の雛が巣立っていた。そんな中、この日は昼前からここを縄張りにしているホワァンちゃん夫婦が威嚇鳴きをしながら大騒ぎをしていた。いつもなら絶対に入って来ないうちのコーポの屋根まで飛んできて騒ぎ立てている。コーポツバメたちもパニックだ。「何があった？」彼らの視線の先・・それは私の玄関の前の田んぼ。見るとそこには田んぼの泥に浸かって動けなくなっている雛が１羽・・・　その時はきっとホワァンちゃんたちの子供なのだろうと思い、そのうち親が誘導して移動すると思っていた。ところがいつまでたってもホワァンちゃん夫婦は雛のそばに来ない。雛はしきりにおねだり鳴きを繰り返していたが、無視・・そのうちホワァンちゃん親子はこの雛を置いてどこかへ行ってしまったのだ。・・・この子は、ホワァンちゃんの子供ではないの？　でもなぜこの田んぼの中にいたの？　見たところ巣立って間もない幼鳥だ。とても別の縄張りからここまで飛んでこられるほどの状態ではない。それにホワァンちゃんのそばには確かに巣立った２羽の雛たちも一緒にいた。

この子は・・どこの子？　それでももしかしたら日の入りまでにはホワァンちゃん夫婦がこの子を迎えに来るのではないかとかすかな期待をしてそのまま様子を見続けていた。・・・が、とうとう迎えに来ることはなかった。もちろん一度も給餌もないわけだから、半日以上この子は餌を食べていない。夕方にはぐったりしてそのまま頭が下がって来てついには田んぼの中にうずくまってしまった。　このままでは間違いなく翌朝には死んでしまうだろう・・・どうしよう・・・玄関ではうちのツバメたちが子育ての真っ最中。困った・・でも見殺しになんてできないよ。でもツバメのいる家にカラスはまずいだろう～・・・どうしようどうしよう・・・

「玄関パパ、ごめんね。この子助けたいから。協力してね・・」
タオルを持って長靴をはいて、田んぼの中に入って行った。雛は泥まみれ、抱き上げると少しだけ抵抗したけれど、もう力が入らない。この子をタオルに包んで家のお風呂場に持っていき、泥を落とし、冷え切った体をヒーターで暖めた。

体が乾いたので、メジロ用の練り餌に卵の黄身、ビタミン液を混ぜたものを口に入れるが飲み込む力もない。仕方がないのでスポーツ飲料水をスポイトで流し込む。スポーツ飲料水はこんな時にとても役立つね。もう１度練り餌を口に入れてそのまま喉の奥まで指で押しこむ。「食べた」　少しづつそうやってお腹に入れた。しばらくすると水のような糞から練り餌が吸収された糞が出てきた。とりあえず衰弱しきったこの子に私が今してあげられるのはここまで・・・ケージにこの子を入れて布をかぶせ・・明日の朝まで持ちこたえてくれれば・・・
翌朝、「冷たくなっていたらどうしよう・・」怖々布を取ると・・・

良かった～　元気元気　ちゃんと止まり木の上にちょこんと乗っている。
それにしても・・・ハシボソの巣立ち雛って・・可愛い。嘴の付け根がピンク色で、目の色はグレーブルーなんだなぁ・・・いやぁ・・・可愛い・・・

この日からすぐにこの子は私を親と勘違いしたのか、羽をプルプルさせておねだり鳴きをしては私の手から餌をもらうようになった。九官鳥の餌とドッグフードをふやかしたものを時々ビタミンを加えながら与えた。日光浴もさせなくてはいけないけれど、ツバメたちがパニックになってしまったら困るしね。ゲージごと布をかぶせてツバメたちにわからないようにして車に積み込んで、河原へ行っては日光浴をさせた。
羽を広げて寝そべるように気持ち良さそうにしている。

口の中は濃いピンク色。だんだん色が薄くなってきて成鳥になって口の中まで黒くなるには１年以上かかるそうだ。

そのまんま「黒ちゃん」と名前を付けて、ブトボソさんや同じハシボソカラスを保護している方にいろいろと教えていただきながら、黒ちゃんは元気に回復し育っていってくれた。カラスは人間の手で育てられてしまうとリリースしても仲間の群れに加わることが出来なくなる場合が多いそうだ。この子はどうなるのだろう・・・
雪が降り出す前にリリースしてあげたほうが良いかなぁなどと考えていた矢先、黒ちゃんの尾羽がどんどん切れていってしまった。気づくと尾羽の短いぶかっこうなハシボソカラスになってしまった・・獣医さんに相談をしたところ
「尾羽のない状態でリリースさせたらかわいそうです。」と・・・そうだよね。ましてこの子、異常なほど怖がりで臆病弱虫カラス・・・なにかあるとすぐに体をブルブル震わせて私の腕の中に潜り込んでしまう。ミルワームをためしに与えた時なんか大パニックになってチビりまくっていたし・・こんなんで自然界で生きていけるはずないか・・餌だって自分で食べられるのに私の顔を見れば羽をプルプルさせておねだり鳴きしているし・・
そんなわけで事情を説明し、県に保護の許可をもらって現在家族の一員として暮らしている。
保護してから９か月。甘えん坊でちょっぴりいたずらっ子な黒ちゃん。でもとても可愛い男の子。カラスだけに賢くて言葉もかなり把握している。
「バシャジシャ(水浴び)」　「ごはん」　「ねんね(寝ようね)」　「ちょっと待っててね(そうするとポールに飛び乗ってじっとしている)」　「黒ちゃん可愛い(これを言うとすり寄って来て目をつむる)」 etc・・・

この子は・・・今にして思うと、去年の暮にお星様になってしまったホワァン母さんの子供だったのかもしれないなと・・・母さんが、「この弱虫な子をよろしくね」って託してくれたのかなって・・・そんなふうにこの頃思ってる。母さんからの大切な宝物・・・私はこの子をこれからもずっとずっと家族として大切に愛していきたい。
母さん黒ちゃんの里親に、私を選んでくれて・・・ありがとう。これで良かったんだね。

　　　　　　　　黒ちゃんのいたずらに夢中の動画です