ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

社会を正気に保つ学びとは? powered by masaharu's own brand of life style!

本とインターネットをめぐる最近の議論

2010年07月12日 | メディア

にほんブログ村 教育ブログへ人気ブログランキングへ


 本とインターネットをめぐる論争に関して、7月10日のニューヨークタイムズ紙はオピニオン蘭に「メディアはメディアである」(
The Medium Is the Medium)と題するデイビッド・ブルックス氏(David Brooks)論評を掲載している。リテラシー教育とテクノロジーの活用は、AASLを中心にアメリカの学校図書館が取り組んできた課題であり、オバマ政権が進める教育改革の重点事項にもなっている。記事は、私たちが必要な情報を入手し、最新の動向を知り、教養を身につけて、しっかりとした思索をするのに役立つメディアのありようを考える一つの視点を提供している。以下は、その要約である。


 リチャード・アリントン(Richard Allington)らが、恵まれない児童生徒853名にたいして、学年末に自分で選んだ12冊の本を家に持って帰らせることを3年間続け、読解力テストの得点を観察したところ、他の生徒よりも有意に高い結果を得た。低所得層の児童生徒にみられる休暇中の成績低下もなく、夏季講習に出席するのと同様の効果があった。これまでにも、27カ国で行われた調査で、500冊の本がある家庭に育った子どもたちは長期間にわたって学校教育を受け、成績もいいという結果が出ている。また、インターネットの利用に関してノースカロライナ州の5年生から8年生まで50万人を対象とした調査によると、家庭用コンピュータと高速インターネット接続の普及が数学と読解力の得点の低下と関連していることが分かった。ツイッターやフェイスブックが始まる前の2003年から2005年までのデータによるものである。
 これらの調査は、ニコラス・カー(Nicholas Carr)の著書“The Shallows”(『浅はかな者たち』)をめぐる議論と関わってくる。カーによれば、インターネットは移り気で飽きっぽい文化をもたらすという。彼は、幾重にも気をそらす仕組みになっているハイパーリンクの世界が深い思索や真剣な熟慮を行う能力を低下させるという調査を数多く引用している。これに対して、コンピュータゲームやインターネット検索によって情報処理能力や注意集中力が向上することを示す証拠を挙げて、学校はインターネットの恩恵をうけているという議論もある。

恵まれない子どもたちに本を提供している慈善活動家によると、物理的に本が存在することよりも、生徒が家庭で書斎をつくるときに自分にたいする見方が変わることが大きな影響をあたえているという。自分たちのことを読書家という、これまでとは違ったグループの一員と見るというのだ。

インターネットvs.書籍の論争は、メディアはメッセージであるという仮定にもとづいているが、メディアはメディアにすぎない場合もある。大切なのは、2つの活動を行っている人たちが自分のことをどう思うかである。文筆の世界は、古典的な文学作品から漫読にいたる階層的宇宙を形成している。この世界に入った新人は、時間をかけて偉大な作家や学者の作品を学んでいく。読書家は、恒久的な知恵を得るために奥深い世界に浸り、その知恵を伝える作家に敬意を払う。これにたいして、現代のアメリカを舞台とするインターネット文化は、平等主義であり、階層を打破し、敬意を問題にしない。そういうことには老人よりも若者のほうが熟練している。新しいメディアは、古いメディアより良いとされ、そこでは、束縛を受けず、礼儀を重んじることもない、反権威主義的な議論が行われている。

異なる文化は、異なるタイプの学びを育む。エセイストのJoseph Epstein(ジョセフ・エスタイン)は、情報通であることと、トレンディであることと、教養があることとを区別した。インターネットは、情報通になること、つまり新しい出来事や議論、重要な流行を知るのに役立つ。それは、トレンディであること、すなわちエプスタインのいう「退屈なメインストリームの外側のイキイキとした水域で」起こっていることを知るのにも役立つ。しかし、教養を身につけ、恒久的な意味をもつ事柄を学ぶには、文筆の世界が役立つ。それには、自分より偉大な知性に従わなくてはならない。時間をかけて偉大な作家の世界に浸らなければならないし、教師の権威を尊重しなければならない。今のところ、文筆の世界は、このようなアイデンティティを助長することに優れている。インターネット文化は、面白い話ができる人間を生み出すかもしれないが、文筆文化のほうが、優秀な生徒を生み出す。重要なものと重要でないものとを区別し、重要なものをさらに磨きをかけるのにも適している。

今後、おそらく、この状況は変化するだろう。すでにウェブ上には「昔風の」前哨基地が広がりつつある。これから本当に議論すべきは、書籍かインターネットかではなく、人々を真摯な学びに誘いこむインターネット上の対抗文化をいかに構築するかであろう。

ニコラス・カーの『浅はかなる者たち:インターネットは我々の脳に何を起こそうとしているか』は、6月に発売されたばかりだが、アメリカで大きな反響を呼んでいる。(邦訳は『ネット・バカ』というタイトルで青土社から出版されている。)9月には、続編『浅はかなる者たち:インターネットは私たちの思考と読書と記憶の方法をどのように変えようとしているか』の出版が予定されている。

The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains
クリエーター情報なし
W W Norton & Co Inc

The Shallows: How the Internet is Changing the Way We Think, Read and Remember
クリエーター情報なし
Atlantic Books


邦訳『ネット・バカ』(青土社)

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること
ニコラス・G・カー
青土社


にほんブログ村 教育ブログへ人気ブログランキングへ

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「大人のための絵本サロン・... | トップ | ぶどう酒びんのふしぎな旅(... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

メディア」カテゴリの最新記事