「主権者」は誰か――原発事故から考える (岩波ブックレット) | |
クリエーター情報なし | |
岩波書店 |
この一年間、原発事故にたいする政府や東電の対応を通して市民の生活がいかにないがしろにされているかが、はっきりと見えてきた。昨日も紹介した日隅一雄さんの『「主権者」は誰か』(岩波ブックレット)は、私たちが主権者として振る舞うことを制限する制度やシステムの問題点を明らかにし、改善策を分かりやすく整理してくれている。原発事故を題材にしているが、本書の軸になっているのは、戦後すぐに使われた中学1年生の社会科の教科書『あたらしい憲法のはなし』(文部省)である。日本国憲法の精神と内容をイラスト入りで分かりやすく解説したもので、以下のように、ところどころ肝心なところが『「主権者」は誰か』に引用されている。
「国を治めてゆく力のことを「主権」といいます」「この力が国民ぜんたいにあれば、これを「主権は国民にある」といいます」
『あたらしい憲法のはなし』は、1947年5月3日に憲法が公布された直後の同年8月2日に発行されたが、朝鮮戦争の始まった1950年に副読本に格下げされ、1952年には姿を消した。私が中学に入ったのは1953年なので、残念ながら、この教科書を知らない。だが、現在は著作権保護期間が過ぎているので、復刻版やネットで読むことができる。たとえば、青空文庫版は無料で提供されている。
内容は、一 憲法、二 民主主義とは、三 國際平和主義、四 主権在民主義、五 天皇陛下、六 戰爭の放棄、七 基本的人権、八 國会、九 政党、十 内閣、十一 司法、十二 財政、十三 地方自治、十四 改正、十五 最高法規の15項目で構成されている。このうち六と七を渡辺知明さんの朗読をポッドキャスティングで聞くことができる。
六 戰爭の放棄
みなさんの中には、こんどの戰爭に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戰爭はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。・・・
七 基本的人権
くうしゅうでやけたところへ行ってごらんなさい。やけただれた土から、もう草が青々とはえています。みんな生き生きとしげっています。草でさえも、力強く生きてゆくのです。ましてやみなさんは人間です。生きてゆく力があるはずです。天からさずかったしぜんの力があるのです。この力によって、人間が世の中に生きてゆくことを、だれもさまたげてはなりません。・・・
このように血の通った話し言葉で書かれた日本国憲法の解説は、いま読んでも抵抗なくすっと心に沁み込んでくる。
さて、日隅さんは『「主権者」は誰か』を以下の文で結んでおられる。
私たちが主権者として振る舞うために、「思慮深さ」を身につけたうえ、積極的に政治に参加していかなければ、この国は変わらず、また取り返しのつかない「何か」が必ず起こるだろう。
政治とメディアのリテラシーを身につけるために、学校教育の在り方を考え直さなくてはならない。まずは、『「主権者」は誰か』と『あたらしい憲法のはなし』を中学や高校の副読本として使ってみてはどうだろう。
これはもっともっと読まれてほしい本ですね。