ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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自立した学習者を育てる学校図書館:「21世紀の学習者のための基準」が問いかけるもの

2010年09月05日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 『学習者のエンパワーメント』(全2巻)が全国学校図書館協議会から刊行された。2007年10月にAASLによって策定された「21世紀の学習者のための基準」にもとづく学校図書館の活動を具体的に解説したSTANDARDS FOR THE 21st-CENTURY LEARNER IN ACTIONとEMPOWERING LEARNERS: Guidelines for School Library Media Programs(いずれも2009年刊)を、それぞれ『21世紀を生きる学習者のための活動基準』『学校図書館メディアプログラムのためのガイドライン』として翻訳したものである。

 「21世紀の学習者のための基準」については、すでに2007年11月7日12月22日の記事で紹介したが、これからの学校図書館の在り方を考える上で示唆に富む内容なので、この機会に、あらためてその特徴と意義を紹介させていただくことにした。なお、基準の全文訳については、2007年の試訳あるいは上記の本を参照していただきたい。


 基準そのものは、きわめてシンプルである。1998年の情報リテラシー基準は9項目にわたっていたが、新しい基準は、それを踏まえて児童生徒が
自立した学習者として探究的な学びを行うプロセスを4つの項目に整理してある。

基準1は、知識を獲得するプロセスである。問いや疑問をもって、批判的(クリティカル)に思考することが必要だとしている。

基準2は、知識の活用と創造のロセス。結論を出し、意思決定を行い、知識を新しい状況や場面に適用して新たな知識を生み出す。

基準3は、獲得した知識を占有するのでなく、倫理的指針にしたがって知識を共有し学び合うプロセスを示しており、コミュニケーションを基盤とする民主主義社会への参加と貢献を促すものである。注1

基準4は、個人のニーズや興味・関心にしたがって自ら学ぶプロセス。人格と美意識の発達という、高いレベルの人間性を追求する学びである。自発的な読書は、この基準を満たす行動である。

 今回の基準には、その前提として私たちが共通に理解しておくべきことがらが9項目にわたって示されている。その一つとして、自立した学びを行うには、問いや疑問をもって調べたり考えたりするスキルだけでなく、スキルを実行に移す気質(心性)、自らの学びに対する責任、自らの学びを評価する力も合わせて必要であることが指摘されている。このことは基準にも反映されていて、4つの基準それぞれに、学びを構成するこれら4つの要素(ストランドという)の具体的な指標が示されている。

 新しい基準の前提となる共通理解のなかで、とくに重要な意味をもつのは、読みとリテラシーの概念の広がりだろう。まず、読むという行為について、それが書籍ばかりでなく、あらゆる表現形式と文脈で提供されるテキストを理解し、解釈し、発展させる行為であることを確認したうえで、情報リテラシーについても、それが単一のものではなくて多数のリテラシー(multiple literacies)を含むとしている。その背景には、多元的リテラシーの理論なども視野に入っていると考えられるが、いま一般的にmultiple literaciesに含まれるとされているのは、批判的メディア・リテラシー、印刷物のリテラシー、コンピュータ・リテラシー、マルチメディア・リテラシー、文化リテラシー、エコ・リテラシー、社会リテラシーといったところであろう。一方、今年に入ってオバマ政権は、「学校図書館によってリテラシーの向上を図る補助金 (the Improving Literacy through School Library grant program) を削減し、他の5つのリテラシー・プログラムと合わせてリテラシー育成の基金を一体化すると発表しているが、その背景にもリテラシー概念の多元化があると考えられる。このことについて2009年-2010年にAASLの会長だったC.バーネットは、6月28日に行われたダンカン教育長官との対話集会におけるコメントのなかで、「21世紀の学習者のための基準」を示して、学校図書館が幼稚園に入る前から高等学校まで、多数のリテラシーを含む一貫したリテラシー教育の枠組みを提供していることをアピールしている。

 同じコメントのなかでバーネットは、オバマ政権が制定を奨励している統一カリキュラム(Common Core State Standards)や高等学校で高度な教育を行うチャレンジ・カリキュラム(Challenging high school curriculum)についても、新しい基準に示された学びのスキルと探究のプロセスを教科内容の指導に組み入れることによって応えられるとしている。オバマ政権の教育政策の指針となる「改革のための青写真」には、その他にも児童生徒の学習スタイルや優れた点を利用して全体的な学力の向上を図る加速学習や、基礎科目だけでなく(芸術、外国語、歴史、公民、経済、環境教育など)幅広いカリキュラム(well-rounded curriculum)によって教養教育を充実させることが大学教育や職業に備えることになるとして奨励しているが、ここでも学校図書館がさまざまな形でリーダーシップをとることができることは想像に難くない。

 

 問われているのは、学校図書館専門職の仕事の仕方ではないか。1998年の『インフォメーション・パワー』には、情報リテラシーの育成を核とする学びの共同体としての学校図書館を明確にしたうえで、「テクノロジー」を活用し、「コラボレーション」を行い、「リーダーシップ」を発揮する学校図書館専門職(SLMS)の働き方が示されている。これを踏まえて策定された「21世紀の学習者のための基準」から浮かび上がってくるのは、児童生徒の学びのプロセス全体に関わって自立した学びへと導いていく(guide)学校図書館(専門職)の姿である。そのために欠かせないのが、リソースとツール、そして刺激的でありながら温かい環境とを提供する学校図書館であり、他の教職員とコラボレーション注2を行うスクール・ライブラリアンである、というのが最後に記されている共通理解である。教師とスクール・ライブラリアンがお互いの専門性を越えてともに学習者の学びに関わることで、お互いの活動はより拡張的になり、それぞれの守備範囲はますます不明確になる。それは、今まさに、さまざまな業界や分野で起こっていることでもある。


 アメリカの学校図書館基準が提起するこうした課題にたいして、はたして日本の学校図書館はどのようなスタンスをとり、現代の教育課題にどのように応えようとするのか。いまだ、そのビジョンは明確とはいえない。

 

注1:ジョン・デューイは『民主主義と教育』の第1章で次のように述べている。

This education consists primarily in transmission through communication. Communication is a process of sharing experience till it becomes a common possession. It modifies the disposition of both the parties who partake in it. (John Dewey, “Democracy and Education”, 1916

「この(生存のために自己を変革する)教育は、主としてコミュニケーションによる伝達にある。コミュニケーションとは、経験を分かち合って、共通の財産とする過程である。コミュニケーションは、それに参加する双方の当事者の気質(心性)を変えるものである。(足立訳)

注2:ここでは、教科担当の教師と一緒に授業の計画を練り授業や評価を行うことを意味している。それは、学校図書館で児童生徒にたいして授業に関連する資料・情報を提供するCoordination(協調)、教師からの要請によって授業支援を行うCooperation(協力)の次の段階。桑田てるみ著『思考力の鍛え方』(静岡学術出版、2010)の238ページに紹介されているMontiel-Overall1の協働モデルにおけるCあるいはDの段階である。


付記:
コラボレーションを視野に入れて学校図書館職員と教職員との連携を進めるために、
学校文化に根差した学校図書館活動を推進するツールを開発しようと考えています。その構想は、後日あらためて、このブログで紹介させていただくつもりですが、関心のある方は左のコラムからメッセージをお送りください。

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オバマ政権の教育改革とアメリカの学校図書館(教育長官とスクールライブラリアンの対話集会をめぐって)

2010年07月03日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 64日の記事で紹介したように、アメリカ教育省は313日、初等中等教育の改革のための青写真(A Blueprint for Reform: The Reauthorization of ESEA)を発表し、それを実行するために2011年度の教育予算を抜本的に組み替えて43億ドルを捻出した。その一方で、2001年から続いてきた学校図書館によってリテラシーの向上を図る補助金(the Improving Literacy through School Library grant program) 1900万ドルを削減し、他の5つのリテラシープログラム(Striving Readers, Even Start, the National Writing Project, Reading Is Fundamental, Ready-to-Learn Television)と統合して、リテラシー育成のための基金として新たに45000万ドルを充てることにした。使途を学校図書館に特定した補助金がなくなり、リテラシー教育の予算枠を他の5つのプログラムと競い合うことになることにたいして、学校図書館関係者からは、懸念と反対の声が高まっているこの補助金は、主として貧困率の高い学校の図書館の充実に使われており、教育省の調査でも、この基金を受けたプログラムによって読解力などのテストの成績が向上していることが報告されているからだ(1)
 このような状況の下、628日、約2万人の参加者を集めてワシントンDCで開催されていたALAの年次総会において、教育長官アーン・ダンカン(Arne Duncan)とアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)の新旧役員約75名による非公式な対話集会が約30分間にわたって行われた。米国教育AASL(アメリカスクールライブラリアン協会)のブログなどで見るかぎり(2)、対話は終始和やかな雰囲気で行われた様子がうかがえる。その席でダンカンは、冗談交じりに毎日学校図書館から蛇の本を借りて帰る自分の息子の例を引いて、子どもの情熱を掻き立てるスクールライブラリアンの仕事を評価したり、「健全かつ強力で活気のある図書館にライブラリアンがいることで、児童生徒は、よく学び、よく読み、テストの点も上がる」などと学校図書館プログラムにたいする肯定的な認識を示したうえで、オバマ政権が進める教育政策への理解と協力を求めた。リテラシー教育のための基金に関しては、州と学校区は、児童生徒のリテラシーを向上させるライブラリーサービスのためにこの基金に応募できるとした。これに対して、AASLの新しい会長ナンシー・エバーハート(Nancy Everhart)は、バスケットボールの選手だったダンカンに対してスポーツの例を引きながら「登録選手名簿に載っていなければ、試合にも出られないでしょう」と、改革の青写真や各種の補助金プログラムに学校図書館が明記されていないことへの懸念を表明したという。
 また、旧会長のカサンドラ・バーネット(Cassandra Barnett)は、学校図書館とスクールライブラリアンは、初等中等教育の改革のための青写真で明らかにされた5つの優先事項(3)の履行の先頭に立っていることを具体的に述べて、「スクールライブラリアンは、教師として、さまざまなリテラシー(multiple literacies)やテクノロジーのツール、倫理と責任をともなう情報の利用、自己評価の方略(4)などの指導を行う」ことによって、初等中等教育の改革に貢献できるとした。これに対してダンカンは、「皆さんの成功を後押したいが、ただ良さそうだというだけで資金を出すわけにはいかない」ので、州や学校区で予算配分のテーブルにつけるように、今後、教育省やALAと連絡を取りながら、模範的な図書館プログラムを具体的に示し、どこがうまくいって、子どもたちの生き方はどのように変わったか、総合的な教育をどのように行っているかを伝えていくように激励した。そして、財政難のおりから少ない財源で多くのことを行うために、まず教職員の雇用や給与の在り方を見直す教育関係雇用法案(education jobs bill)を議会通過させることへの協力を要請した。
 対話集会を終えてAASL関係者の論調は、ダンカンからスクールライブラリアンと学校図書館プログラムをサポートする発言を引き出せたことに満足しているようだ。だが、リテラシー教育の予算が、学校図書館に特定せず、他のリテラシー関連のプラグラムと統合されたことで、スクールライブラリアンは、自らの専門性を見直し、新しい時代に対応する教育実践を創出し、それを実証的に伝えてゆくという活動をますます活発に行わなくてはならないだろう。
 時代や社会情勢が求めるリテラシー教育のための学校図書館プログラムや専門職の在り方、財政危機下における教職員の雇用といった問題は、わが国でも、早急に対応策を検討しておくべきだろう。アメリカのような、実証的研究をベースに学校図書館担当職員の専門性の見直しと活動の指針あるいはスタンダードの策定は可能なのだろうか。わが国独自の取り組みは、どうあるべきなのだろうか。

注:
(1)
IMPROVING LITERACY THROUGH SCHOOL LIBRARIES (LSL) Abstracts – 2009 Funded Grant Applications by State
Second Evaluation of the Improving Literacy Through School Libraries Program

 (2) 参照したブログなど
US Department of Education Blog
AASL Blog

American Libraries Magazine

 (3) 青写真で設定された5つの優先事項(この5項目に関する優れたプログラムに対して補助金を交付する)
 1.大学教育と職業にたいする備えのできた生徒を育てる。2.すべての学校に優れた教師と指導者を配置する。3.すべての生徒に公平性と機会を与える。4.教育の水準を高め、優秀さに報いる。5.革新と継続的な改善を推進する。

(4)  ここに挙げられている4つの項目は、2007年に策定された新しい学校図書館基準21世紀の学習者の基準」の要となる部分である。

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アメリカの新しい学校図書館基準「21世紀の学習者のための基準」

2007年12月22日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 今年の10月に発表されたアメリカの学校図書館基準「21世紀の学びの基準」の日本語に訳してみましたので、PDFファイルでアップロードしておきます。11月7日に紹介したときの書き込みでは「今週末にも」全文を試訳したいと書きましたが、多忙にまぎれて一ヶ月半も放りっぱなしにしていました。泥縄式に取り掛かったので、訳文については自分でも納得できないところがありますが、内容は理解していただけるのではないでしょうか。とりあえず皆さんにご覧いただいて、ご意見をいただきながら訳文の修正をしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

「21世紀の学びの基準」(原文:AASL Standards for the 21st-Century Learner

 「21世紀の学習者のための基準」(日本語試訳)

 さて、私がアメリカの学校図書館基準に関心を持ったのは、1998年に「児童生徒の学びのための情報リテラシー基準」に出会ったときであった。1995年に起きた阪神淡路大震災で全半壊した校舎の再建する過程でメディア環境の構築に関わり、新たな実践に取りかかったばかりの頃だった。当時、国内では、私たちが目指したメディア教育の構想を実現するための指針や先行実践のモデルがあまりにも少なかった。たしかに資料提供や「調べ学習」の優れた実践は数多くあったが、それらを支える理論が希薄に思えた。少なくとも教育学や教育方法学の最近の動向からみて、今後のわが国の教育の在り方を展望する広がりを感じ取ることはできなかった。そのときに出会ったのが『インフォメーション・パワー』(ALA, 1998)とアメリカの学校図書館基準であった。しっかりとした理念に基づく明確なビジョン、それを実現するための具体的な方策が包括的に述べられていて新鮮で魅力的だった。それは、わが国の学校図書館界でも大いに話題にはなったが、基準の背景にある教育の動向を見通して学校教育を捉えなおす試みはどの程度なされただろうか。

 10年を経て出された新しい規準は、前回よりはっきりと社会構成主義的な探究活動に焦点をあてたものとなっている。多様なリソースを学びに取り入れ、学習者同士の協働を促すことを通して学校の教育活動を拡張し、学びを現実社会と結びつける具体的な方策を示すことで、教師と学校図書館専門職が一緒になって21世紀に求められる学びをデザインし実践できる素地が明確になった。その背景としてアメリカにおける多文化共生教育の流れと児童生徒中心のプロジェクト学習の伝統が支えになっていることは容易に推察できる。だが、ひるがえって、わが国の学校図書館を考えるとき、現代の教育課題を世界的視野で展望して具体策を提示するには理論的にも実践でも熟しているとはいえない。それが実現するには、まず従来の枠組みを越えた新しい学校図書館専門職の教育プログラムを整備するところから始めなければならないだろう。

 

時期を同じくして、長年、社会構成主義の立場から学校図書館活動に理論と実践の両面で貢献してきたCarol C. KuhlthauによるGuided Inquiry – Learning in the 21st Century (Libraries Unlimited, 2007)が出版されたことにも注目したい。

Guided Inquiry: Learning in the 21st Century

Libraries Unlimited Inc

このアイテムの詳細を見る
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21世紀の学びの基準

2007年11月07日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 アメリカの新しい学校図書館基準21世紀の学びの基準」が1025日に開かれたアメリカ学校図書館員協会(AASL)の全国大会で発表された。1998年の「児童生徒の学びのための情報リテラシー基準」からほぼ10年を経て新しく改訂された新しい規準を一読した限りでは、これまでの基準と比べてそれほど目新しいものではなく、インパクトも感じられない。とはいえ、21世紀の学校図書館のあり方を方向付けるものとして提示された今回の基準は、よりいっそう探究的な学びに照準を合わせて、そのために必要な活動が細部にわたって体系的に整理されていて一覧しやすく、学校図書館の仕事を示すツールとして利用しやすくなったといえる。これまでの基準は、児童生徒が自ら学ぶために身につけるべきリテラシーを「情報リテラシー」「自立的な学び」「社会的責任」の3つの項目にまとめて、9つの基準とそれを達成するために必要とされる技能や態度など29の指標を列挙するものであった。新しい基準では、9項目の共通認識を確認したうえで学び手がめざすべき4つの目的を具体的に示し、それぞれの目的を実現するために身につけるべき「技能」「資質」「責任」「自己評価の方法」を合わせて83項目挙げている。4つの目的とは次の通りである。

1.疑問を持って調べ、批判的に考えて、知識を獲得する。

2.結論を導き出し、情報に基づいて意思決定を行ない、知識を新しい場面に適用して、新しい知識を生み出す。

3.知識を分かち合い、倫理的かつ生産的に民主主義社会に参加する。

4.一人の人間として魅力的に成長する。(すなわち、豊かな人間性を育む。)

 このうち最初の3つについては、これまでの基準における「情報リテラシー」「自立的な学び」「社会的責任」にほぼ対応すると考えていいだろう。しかし今回は4つ目に「豊かな人間性を育む」という目的を掲げて、それを実現するために必要な技能や態度などを具体的な行動として表すことを求めている点が注目される。そのほか新しい基準全般を通して特徴的なのは、疑問を持って調べる姿勢、学び合い、情報や自らの思考を批判的に吟味して思考を進めていくクリティカル・シンキングの技能、社会文化的文脈にたいする認識が重視されていることである。このことは資料・情報の提供や情報リテラシーの育成を授業改善や教育理念の実現と結びつける活動を学校図書館専門職にたいして求めているといえる。とりわけ自分の学びや思考のプロセスを社会文化的文脈に照らして振り返り、修正・コントロールしていくメタ認知能力を育成しようとする姿勢が貫かれていることは、民主主義社会で自立的に生きていくだけでなく、社会の活動に積極的に参加しながら新たな知を生み出すことをもって社会を変えていく、いわば社会変化の担い手を育てるという理念の表れと考えていいのではないだろうか。

 翻って私たちは、わが国の学校図書館は教育の理念をどのような形で示しうるのだろうか。その合意は、どのような方向性をもって、どのような方法で可能になるのだろうか。

 「21世紀の学びの基準」(AASL Standards for the 21st-Century Learner)アメリカ学校図書館員協会のホームページからPDF形式でダウンロードできる。今週末にも本文の試訳を供したいと考えているので、皆さんのご意見をいただければ幸いである。

http://www.ala.org/ala/aasl/aaslproftools/learningstandards/standards.cfm

http://www.ala.org/ala/aasl/aaslproftools/learningstandards/AASL_Learning_Standards_2007.pdf

 ちなみに新しい基準の前提として確認されている9項目の共通認識とは次のようなものである。

・読むことは世界に開かれた窓である。

・探究活動が学びの骨格である。

・情報の利用にあたって倫理的に行動することを教わらなければならない。

・テクノロジーを使いこなす技能は将来、職に就くためのかぎとなる。

・公平なアクセスは教育にとって重要な部分である。

・情報源やテクノロジーが変化したので、情報リテラシーの定義はいっそう複雑になっている。

・情報が拡大しつづけているので、すべての人が自分の力で学べるようになる思考の技能を身につけることが必要である。

・学びは社会的文脈の中で行なわれる。

・学ぶ技能を伸ばすために学校図書館は不可欠である。

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外国の学校図書館事情から日本の学校図書館の行き方(生き方)を考える

2006年09月10日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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IFLA(国際図書館連盟)韓国大会・北欧学校図書館視察報告会

 学校図書館メーリングリスト(sl-shock)では、下記の通り、この夏IFLA(国際図書館連盟)韓国大会と北欧学校図書館視察に参加された皆さんの報告会を開きます。「公共図書館に力を注いでいるフィンランドには、学校図書館は無い!と言ってもいいくらい。」これは北欧に行かれた方の感想の一部です。またIFLAの参加者に聞くかぎり韓国の学校図書館が際立った実践を行っているという印象も受けません。フィンランドも韓国も、独自の読書推進活動を行っていて、2003年に実施されたPISAの読解力テストでは高成績をあげていますが、そのことは必ずしも学校図書館の実践と直接的に結びついていないのでしょうか。これにたいして「スウェーデンやデンマークでは学校図書館職員(専門職)の教育が充実している」、「デンマークでは司書教諭もきちんと配置されていて、“司書教諭は読み聞かせはしない。それは学級担任の仕事”という説明があった」という話も聞きます。この機会に諸外国の学校図書館事情を見聞された複数の方々のお話を聞いて、これから日本の学校図書館の進むべき方向について考えたいと思います。そのほかの国の学校図書館を訪問された方がおられましたら、ぜひ当日、お話を聞かせてください。厳しい残暑もおさまり秋の気配が感じられる京都の一夜を、夕食とお茶をご一緒しながら、発表者と聴衆という枠をこえて和やかに語り明かしませんか。

IFLA韓国大会報告
真鍋由比 松蔭中高図書館司書
 「英語初級者からみたIFLA Library Tour」
中井裕子 京都府立朱雀高校教諭
 「国語教育と図書館、韓国と日本の【あいだ】」
松山巌 玉川大学教育学部専任講師
 「ソウルの児童図書館・学校図書館訪問記(仮題)」

北欧学校図書館視察報告
藤田利江 厚木市立南毛利小学校司書教諭
 「公立小学校の司書教諭が見た北欧の学校図書館」
家城清美 同志社女子中高司書教諭
 「私学中高の司書教諭が見た北欧の学校図書館」

コーディネーター 足立正治・中村百合子

日時:9月22日(金)午後6:30~9:00
場所:同志社大学 新町キャンパス(地図左上)
 尋真館1階 司書課程資料室(Z5番教室)
 地下鉄今出川駅から徒歩5分
 京阪「出町柳」駅から徒歩15分
参加費:無料
 参加を希望される方は、氏名、所属、連絡先を記入の上、下記までご連絡ください。折り返し正式な申し込み方法をご返事いたします。
masa-sem@goo.jp

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探究に焦点をあてた学び(Focus on Inquiry)

2006年04月06日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 カナダのアルバータ州教育省が2004年に刊行した、資料・情報を活用する学び方の指導書“Focus on Inquiry : A teacher’s Guide to Implementing Inquiry-Based Learning”(探究に焦点をあてた学び)がインターネット上にPDFファイルで提供されていて、営利目的でなく教育目的であればこれを複製することが許可されている。これまでにアルバータ州教育省が刊行した“Focus on Learning”(1985) 、“Focus on Research”(1990)に続く第3冊目にあたるこの指導書は、アルバータ大学のDianne ObergとJennifer Branchが中心になって作成されたものである。Dianne Obergは、1988年から1998年にかけてアメリカで実施されたLibrary Power Programの成果をまとめた“Inquiry-Based Learning Lessons from Library Power”の共著者でもある。このことから窺えるように、“Focus on Inquiry”は、アルバータ州やアメリカにおける長期にわたる実践を踏まえて、メタ認知能力を基盤とする探究学習の意義と指導上のヒントを具体的に解説した意欲的な試みであり、2005年度にIASL(International Association of School Librarianship)のPROQUEST INFORMATION AND LEARNING -- E-LIBRARY COMMENDATION AWARD(もっとも優れた、あるいは革新的な学校図書館のプロジェクト、プラン、出版物、プログラムに対して与えられる)を受賞している。

 “Focus on Inquiry”の中核をなすのは、すべての教科や学年を通して基準となる探究のプロセスを図式化した「探究モデル」(Inquiry Model)である。円形のジグソーパズルに探究の各段階を表すピースをはめ込んだ形の「探究モデル」は、①このプロセスが循環的であること、②必要に応じて何度も前の段階に戻ってやり直せることなどを視覚的に印象づけることで、子どもたちが、③探究のプロセスを理解しやすくし、④メタ認知能力を発達させ、⑤学校の外で出会う新しい状況にも適用できる(転移)ように配慮されている。子どもたちは、自ら進んで探究活動に参加して全プロセスを経験することで、このモデルを他の探究活動にも適用できることを理解し、生涯を通して活用する技術(スキル)を身につけることができる。

 以下に「探究モデル」、他のモデルとの対照表、メタ認知のプロセスなどをPDFファイルにしてあります。

PDFファイル「探究モデル」

探究モデル

プロセスを振り返る

Phase 1 計画を立てる
・ 探究のテーマを決める
・ 利用できそうな情報源を挙げる
・ 発表の形態と聞き手を決める
・ 評価の基準を決める
・ 探究計画のアウトラインを作る

Phase 2 情報を探索する
・ 情報探索の計画を立てる
・ 資料を見つけて収集する
・ テーマと関連のある情報を選ぶ
・ 情報を評価する
・ 探究計画を見直して修正する

Phase 3 情報を処理する
・ 探究の焦点を絞る
・ 適切な情報を選ぶ
・ 情報を記録する
・ 情報を関連づけて推論する
・ 探究計画を見直して修正する

Phase 4 制作する
・ 情報をまとめる
・ 作品を創る
・ 聞き手のことを考慮する
・ 修正と編集を行なう
・ 探究計画を見直して修正する

Phase 5 分かち合う(共有)
・ 聞き手とのコミュニケーションをはかる
・ 新たに理解したことを伝える
・ 聞き手としてふさわしい行動をとる

Phase 6 評価する
・ 作品を評価する
・ 探究のプロセスと計画を評価する
・ 自分の探究モデルを見直して修正する
・ 学んだことを学校外の新しい状況に適用する

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カナダ・アメリカ学校図書館視察団の報告が刊行されました。

2006年03月30日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 今日の朝刊各紙は、文部科学省が29日に公表した、主に高校1年生が来春から使う教科書の05年度検定結果を伝えています。朝日新聞によると、勉強嫌いやノートを持ってこない生徒に配慮して、マンガを載せる教科書や書き込み式の教科書が登場する一方で、進学校向きには学習指導要領の範囲を超える「発展的な学習内容」を盛り込む教科書が登場するなど、教科書も二極化の傾向がみられるということです。もちろん、これを学びのスタイルの多様化に対応するものとみることもできます。しかし、残念ながら、日本では、学校選択にあたって多くの人たちの関心は、教育の方法と内容による学校の特色よりも、学力テストや入試の結果を基準とする序列に向いていて、学校教育の改善も進学実績を上げるという1方向にしか向かっていないようです。もしも、教科書の二極化が、現実に進行している学力の二極化を反映しているとすれば、その傾向をさらに助長することが懸念されます。学力の二極化を食い止め、児童生徒の多様性に対応する学校教育を展開するには、それぞれの学校が独自の教育目標を設定し、それにしたがって独自の教育課程を編成し、教科書だけでなく多様な資料や情報を活用して授業を展開してほしいものです。それには学校図書館を再構築することが不可欠です。

 このたび、2005年1月2日から9日にわたって実施された全国学校図書館協議会のカナダ・アメリカ学校図書館視察旅行に参加したメンバーの共同執筆によって『カナダ・アメリカに見る学校図書館を中核とする教育の展開』(全国学校図書館協議会、B5版143ページ、税別1900円)が刊行されました。ブログで報告させていただいたとおり私はこの視察を途中でリタイアせざるをえなくなりましたが、本書ではアルバータ州の中高の授業で使用された資料を翻訳させていただきました。
以下に、本書で取り上げられている主な項目を挙げておきます。
・ カナダ・アメリカの学校図書館から学ぶもの
・ 教育委員会とリソース・センターの役割
・ 学校図書館専門職員の養成と研修
・ 司書教諭の勤務の態様
・ 学校図書館・公共図書館の開館時間
・ 資料の貸出・返却と返却遅滞・紛失への対応
・ 学校図書館を活用する授業
・ 学校図書館を活用する授業の実際
・ 授業以外の学校図書館活動
・ コンピュータ・インターネットの利用
・ 学習困難児・優秀児への対応
・ 地域・公共図書館との連携
・ 資料の選択
・ 学校図書館におけるオンライン資料とその利用
・ 資料の組織化・装備
・ 資料の種類・検索法
・ 校舎内における学校図書館の位置
・ 学校図書館の環境・雰囲気作り
・ 学校図書館機器の管理と活用
そのほか、視察団が訪問した教育省、教育委員会、学校の紹介などが掲載されています。

 関口礼子先生によると、今回視察団が訪問したアメリカ・カナダの学校図書館において「総じていえることは、授業と図書館が乖離(かいり)しておらず、相互に密接な関係にある」ということ、すなわち「図書館は、授業外の時間に読む本を借りる場所ではなく、学校教育の中心である授業で用いられる場所である」(p.18)ということです。これからの学校に最も求められることは、子どもたちが、ひとつの視点にとらわれず、広い視野に立って、自らの意思と力で、ものごとを公平に検討し、評価し、判断できる能力を育てることです。そのために学校図書館は、必要で十分な資料や情報を提供し、子ども同士が互いに刺激しあい学び合う環境を整備することが大切です。視察団が訪れたアメリカやカナダの学校図書館や司書教諭は、そのような使命をじゅうぶんに認識したうえで活動しています。とくにアルバータ州の教育省が2004年に発行した学校図書館の指導書Focus on Inquiry(探究に焦点をあてた学習)には、ものごとを批評的に考えるクリティカル・シンキング(critical thinking)のスキルを高めることを中心においた指導法が示されていて、このクリティカル・シンキング教育を自らのライフワークとしてきた私が今もっとも注目しているプログラムのひとつです。

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マルチタイプ・ライブラリー・システム(図書館など情報サービス機関の連携)

2005年02月25日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 よく学校図書館と公共図書館との「連携」ということが言われるが、ともすれば団体貸出など、公共図書館から学校図書館への一方的な資料提供しか行われていないことが多い。資料数という点からみると、公立図書館と学校図書館の差があまりにも大きいので、はたして、相互に恩恵を与え合い、公共図書館にとってもメリットがある対等の関係が両者の間で成立しうるのかどうか疑問でさえある。しかし、資料が充実している公共図書館が不足している学校図書館を支援するという側面だけで連携を考えていると、学校図書館はますます衰退し、その影響を学校教育が少なからずこうむることは必至である。連携というからには、まず、学校図書館が公共図書館とは違った役割と特色を持つ図書館として充実し自立することを前提にすべきである。学校図書館に人がいてそれなりの役割を果たしていれば、もっと大きな視野での連携がはかれるはずだ、と千葉県市川市の高桑弥須子さんはいう。『現代の図書館Vol.39 No.3(2001年9月)特集:ネットワーク時代の図書館資料相互貸借』参照。

Multi-type Library System
 カナダのサスカチュアン(Saskatchewan)州では1996年に図書館相互協力法(The Libraries Co-operation Act)が制定され、それに基づいて館種を横断した連携を推進するマルチタイプ・ライブラリー委員会が設置されている。公共図書館、大学や短大など高等教育機関の図書館、学校図書館、専門図書館、その他の情報サービス機関と州立図書館が手を組んで、それぞれの独自性を維持し、それぞれの目的を果たしながら、なおかつ、それぞれの管轄領域を横断してサービスと資源を提供し合い、地域社会に貢献するマルチタイプ・ライブラリー・システム(multi-type library system)を作り上げようというのである。崇高かつ壮大な試みである。

 高度情報化社会といわれる時代にあって、私たちが正気で生きていくには、必要に応じて多様な情報をいつでも容易に取り出して、有効に活用することができなければならない。地域社会の中で、そのような情報環境を整備していくことは図書館関係者の最も優先されるべき使命であろう。自ら所属する図書館、館種、管轄領域に拘泥していては、本来の使命は果たせない。

Communication is a process of sharing experience till it becomes a common possession. (John Dewey, Democracy and Education)
コミュニケーションとは経験を共有して、お互いの財産とするプロセスである。(ジョン・デューイ「民主主義と教育」)

 コミュニケーション、すなわち人類の生存のために時空を越えた協力関係を確立するという点において教育者も図書館関係者も同じ土俵に立つことができるのではないか。

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WHAT MAKES DIFFERENCE?

2005年01月22日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 日本では、アメリカやカナダと比べて学校の授業で学校図書館が使われることがそれほど多くありません。メディア・センターとかリソース・センターとか呼ばれる最近のアメリカやカナダの学校図書館には、司書教諭と電子メディアなどの準備やメンテナンスなどを担当する技術職員がいて、司書教諭は、資料を整えて提供するだけでなく、各教科や担任の先生と相談して単元のカリキュラムを作ったり、資料や情報を活用して学ぶ指導すなわち情報リテラシーの育成を担当するのが標準になっています。こういうことが、日本で一般的に行われていないのは、ひとつには司書教諭が図書館専任の専門職ではなくて、専門教科との兼務であるということがあげられます。少し恵まれた学校には学校司書がいて図書館の実務を担当していますが、それも専門職でなかったり、非常勤である場合も多く、教育職でもないのでカリキュラムを開発したり授業を行ったりすることはできません。授業を行う先生を助けて資料を提供したり、子どもたちに本の紹介や調べ方の助言をすることはありますが、教科の先生と対等な立場で一緒に授業を組み立てるようなことはめったに行われません。
 図書館文化の違いから、日本の学校図書館をめぐる諸々の整備が遅れていることが原因でしょうか。私は、他にも大きな問題があると思います。私は、何日か前にカテゴリー「学びを考える」で加藤幸次先生や陰山英夫先生の主張とお二人が共通して指摘しておられる問題点を紹介しました。それは指導要領の問題です。指導要領がガイドラインではなくて、法的拘束力をもち、その基準を満たす検定教科書を使って教育をすることが義務付けられていることです。つまり、検定教科書はひとつの資料ではなく、教科書が中心なのです。ということは、検定教科書以外はすべて、教科書の内容を理解し発展させるために用いられる補助資料、補助教材ということになるでしょう。それが日本の教育の標準になっているところが、多様な資料や教材から学ぶことを前提にしているアメリカやカナダの教育と大きく違うところですから、学校図書館に期待される役割も違って当然といえるでしょう。
 わが国でも、指導要領をアメリカやカナダのようにガイドラインとし、検定教科書といったものもなくて、地方や学校が独自にカリキュラムを開発して授業を展開できるようになれば、教育委員会や教職員が協力して、創意工夫が活発に行われ、そのなかで、さまざまな資料や教材を活用する教育が行われるようになるのではないでしょうか。子どもたちが、課題や問題に対して、多様な資料や情報を比較検討して、自らの知識としてまとめていくプロセスのなかでこそ、ほんとうの意味での考える力が養われるでしょう。思考はつねにクリティカル(疑問を持つ)でクリエイティブ(創造的)でなければなりません。


インフォメーション・パワーが教育を変える!―学校図書館の再生から始まる学校改革

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21世紀の学びのための学校図書館について、アメリカの「ライブラリー・パワー・プロジェクト」に学び、情報リテラシー教育の理論とノウハウを具体的に解説した実践的手引書。日本における実践例も紹介する。

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危機に立つカナダの学校図書館

2005年01月18日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 オンラインで提供されている『カナダ学校図書館の危機』(The Crisis in Canada's School Libraries: The Case for Reform and Reinvestment)という冊子には、私たちが想い描いていた理想とは程遠いカナダ学校図書館の苦悩の現実が報告されています。予算の削減により、司書教諭が数校をかけもちしていたり、パートタイムで勤務していたり、他の教員と対等の教育活動ができないなどの悩みを持っている。オンタリオ州の小学校では、25年前には42%であったフルタイムの司書教諭は今では10%に。アルバータ州では、ハーフタイム以上の司書教諭は、1978年以降550人から106人に減少。ブリティッシュコロンビアの学校区では、生徒一人あたりの図書予算は、年間80ドルから35ドルに減少。同時に、カナダの子どもたちの読書力、リテラシー、情報活用能力も低下している。バンクーバーではほとんどすべての学校の保護者が、図書館の本を買うための寄付を行っているが、その額は学校区が支給する予算とほぼ同額。
 このように、カナダの学校図書館に対する行政の対応や政策は、決して私たちがお手本にするようなものではありませんが、過酷な状況の下で、なおかつ学校図書館を活用した高いレベルの資料活用教育を維持しようと努力している現場の司書教諭や教育省の担当者の皆さんの姿勢から学ぶことはたくさんあると思います。このような文脈のなかで、あらためてFocus on Inquiryを見直してみると、妥協を許さない理想の高さに感動さえ覚えます。

この資料は、カナダ各州の教育省に対して、13項目の勧告をしているので、紹介しておきます。

THE CURRENT CONTEXT
1.正確なデータを確保するために:州の教育省は、図書や使用認可済みデータベースなどのメディアにかかる経費とともに、学校図書館専門職の有資格者とサポートスタッフの現在の水準を正確に反映するデータを収集し公表すること。
2.州の指導力を発揮するために:州の教育省は、省内と州全域において、各教科領域と各種図書館において、そして各学校区にたいしてガイダンスと支援を行うために、司書教諭及びリソースベースラーニング(情報資源を活用する学び)の専門家を最低一名は配置すること。

IMPACT ON STUDENT LEARNING
3.根拠にもとづく決定をするために:州の教育省は、学校図書館が児童生徒の学力、リテラシー、文化に及ぼす影響の調査に資金を投入すること。
4.責任ある事業と財務を行うために:州の教育省は、学校図書館と司書教諭の有資格者が中心的な役割を果たすという認識のもとに、一貫性のある調和の取れた資金投入と経営を行うこと。
5.公平なアクセスを促進し、情報格差を埋めるために:州の教育省は、サスカチュワン州の(学術、公共、学校をふくむ)マルチタイプ図書館システムのような、接続された学びの共同体を構築するために指導力を発揮すること。

IMPACT ON READING
6.読書の促進と学力向上のために:州の教育省は、学校図書館のコレクションを悪化させている条件の見直しと是正を行うこと。
7.適切で新しい資料を保持するために:州の教育省は、学校図書館コレクションの維持・向上のために基準を設けて、目的を特定した資金の投入を行うこと。

IMPACT ON CULTURAL IDENTITY
8.学校図書館がカナダ人としてのアイデンティティの形成に果たす重要な役割を認識するために:
州の教育省は、カナダの本などの学校図書館向け学習資源を選択するために情報資源の提供を行うこと。

BEST PRACTICE
9.理想的な実践を行うための手引きを提供するために:州の教育省は、理想的な実践のモデルにもとづいて学校図書館および司書教諭に関する政策の見直しと改正を行うこと。
10.投資に対して最大の利益を得るために:州の教育省は、司書教諭の役割の見直しと改正を行い、資格の最低条件を義務づけること。
11.学校全体の変化を促進するために:州の教育省及び教育委員会は、効果的な学校図書館の鍵となる要素とその学力への影響を認めること。明確な運営計画と役割の明確化、同僚とのコラボレーション、柔軟な時間管理、リテラシーと情報問題解決の重視、必須の訓練。
12.現場の実践のモデル化を奨励するために:州の教育省は、大学の教育学部と協力して、教員養成機関では必ず専任の司書教諭課程担当者を最低1名は確保すること。
13.適切なコラボレーションと教育評価を奨励するために:州の教育省は、大学の教育学部と協力して、教師と管理職にたいして司書教諭と学校図書館を効果的に活用できるように教育すること。

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考える力を育む学校図書館

2005年01月13日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 先に紹介した「カナダ・アメリカ学校図書館見学記」にアルバータ州の教育省が開発した教師向けガイドラインFocus on Inquiry(問いに重点をおいた学び)が紹介されています。多様な資料を活用する学びの指導についての知識を共有するために、現場の司書教諭や教員の意見も取り入れて作られたもので、アルバータ大学の教員養成課程のテキストにもなっているそうです。インターネット上でPDF書類として提供されている2004年度版は第3版になるそうです。
自ら問うことをベースにした学びはcritical thinkingがベースになっています。自分や他者の経験や思考を振り返って統合するメタ思考を学校教育に取り入れることは大切です。higher order thinking(高次の思考)、reflective thinking(反省的思考)といってもいいでしょう。「考えること」=「ひたすら問うこと」に重点をおいた学びを育むために、リソースセンターとしての学校図書館が大きな役割を果たすはずです。私自身、そのような発想を1960年代から何度か本校の学校図書館に提案しては門前払いをされてきましたが、幸い20世紀の終わりになって、曲がりなりにも実現しました。しかし、まだまだ、どの教科の学習指導にも取り入れるまでにはいたっていません。これから、わが国でもこのような考え方が主流になることを願うばかりです。

参考資料

Inquiry-Based Learning: Lessons from Library Power (Professional Growth Series)

Linworth Pub Co

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(学校図書館で自ら問うことをベースにした学びを展開するために参考になります。)

The Critical Thinking Community
(1988年から1989年にかけて私が師事した、カリフォルニア州立大学ソノマ校のDr. Richard Paulが中心になってcritical thinking教育の研究と普及につとめている機関です。)

Institute of General Semantics
(クリティカル・シンキング教育の草分け「一般意味論研究所」)

知能環境論―頭脳を超えて知の泉へ

NTT出版

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(学校図書館は、子どもたちに働きかける環境の力としての「知のアフォーダンス」を提供する場として機能してほしい、というのが私の切なる思いです。)

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カナダ・アメリカ学校図書館見学記

2005年01月12日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 今回の視察旅行に私と一緒に参加された庭井さんが訪問先の概要をカナダ・アメリカ学校図書館見学記」と題するブログにまとめられました。概要とはいえ、現地に行かないと知りえない学校図書館の活用状況や雰囲気など、ご自身が感じ取られたものを簡潔にまとめてくださっているので、我が国の学校教育や学校図書館に関心を持つものにとって、たいへん参考になります。
 ぜひ皆さんに読んでいただきたいのですが、各方面への配慮から、このブログにアクセスするにはIDとパスワードが必要です。「学校図書館メーリングリスト(sl-shock)」に登録して[01598]のメールをご覧いただけばIDとパスワードが書いてありますので、ご面倒でも、よろしくお願いします。
 ちなみに、配慮というのは、著作権、肖像権のほか、今回の訪問の記録を主催者であるSLAが出版することになっており、先行して詳細な報告を流すことは控えたいということと、SLAで集約しておられる現地の資料でしか確認が取れない情報もあって、あいまいな面もあるという事情からです。
 それでも、庭井さんの個人的な感想や情報をみんなで共有し、話し合うことは有益だと思いますので、ぜひアクセスしてコメントをお寄せいただきたいと思います。

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アメリカ・カナダ学校図書館視察旅行団帰国

2005年01月09日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
 視察団の乗ったバンクーバー発Air Canada3便が、予定より1時間ほど遅れて今夜6時前、無事成田に到着したようです。長旅でさぞお疲れのことと思いますが、明日1日ゆっくり休んで、11日からの新学期に備えていただきたいと思います。
 盛りだくさんの視察だったようですが、少し落ち着かれたら、記憶が新鮮なうちに見聞をシェアしてくださるのを楽しみにしています。写真は藤田さんがバンクーバーから送ってくださった携帯メールに添付されていたものです。
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学校図書館の使命

2005年01月07日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
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 現在のアメリカ・カナダの学校図書館が日本の学校図書館と違う点の一つは、その使命が図書館担当者だけでなく、教員、児童生徒、保護者、地域住民のあいだでも、かなり明確に意識されているところにあると思います。一言でいえば、学校図書館は、児童生徒が本やインターネットなどさまざまなリソースを活用して、知識や情報を有効に利用するすべを学ぶ場である、ということでしょう。(写真参照)
 そのような認識がはっきりと共有できるところでは、学校図書館がどのような施設・設備を備え、どのように運営されるべきか、担当者にどのような資質や能力が必要か、コレクションやレイアウトのあり方といったことが明確に意識されて、具体的な方策を立てやすくなるでしょう。我が国の学校図書館も、使命やビジョンをもっと明確にし、その共有をはかりながら経営していかなければ、図書館担当者のせっかくの努力も報われないのではないでしょうか。
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ご心配をおかけしました

2005年01月07日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編
 ご心配をかけましたが、5日夜に帰国、6日に義母を送りました。皆さんから、ブログの内容に関するご感想も含めて、個人宛のメールや、メーリングリスト、ブログのコメントなど、さまざまな形で反応を寄せていただき、ありがとうございました。
 カテゴリー「学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編」は、いったん休みますが、このブログは学校教育や学校図書館関係以外の知人や友人たちにも読んでもらっているので、また新たなカテゴリーを設けて仕事や私生活に関する話題を書き込んでいくつもりです。たまにアクセスしていただければ幸いです。
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HERE COMES EVERYBODY (HCE From Finnegans Wake by James Joyce)

いま、ここに生きているあなたと私は、これまでに生きたすべての人、いま生きているすべての人、これまでに起きたすべての事象、いま起きているすべての事象とつながっていることを忘れずにいたいと思います。そんな私が気まぐれに書き綴ったメッセージをお読みくださって、何かを感じたり、考えたり、行動してみようと思われたら、コメントを書いてくださるか、個人的にメッセージを送ってくだされば嬉しいです。

正気に生きる知恵

すべてがつながり、複雑に絡み合った世界(環境)にあって、できるだけ混乱を避け、問題状況を適切に打開し、思考の袋小路に迷い込まずに正気で生きていくためには、問題の背景や文脈に目を向け、新たな情報を取り入れながら、結果が及ぼす影響にも想像力を働かせて、考え、行動することが大切です。そのために私は、世界(環境)を認識し、価値判断をし、世界(環境)に働きかけるための拠り所(媒介)としている言葉や記号、感じたり考えたりしていることを「現地の位置関係を表す地図」にたとえて、次の3つの基本を忘れないように心がけています。 ・地図は現地ではない。 (言葉や記号やモデルはそれが表わそうとしている、そのものではない。私が感じたり考えたりしているのは世界そのものではない。私が見ている世界は私の心の内にあるものの反映ではないか。) ・地図は現地のすべてを表すわけではない。 (地図や記号やモデルでは表わされていないものがある。私が感じたり考えたりしていることから漏れ落ちているものがある。) ・地図の地図を作ることができる。 (言葉や記号やモデルについて、私が感じたり考えたりしていることについて考えたり語ったりできる。)