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読書へのアニマシオンはクイズか?

2006年08月21日 | 「学び」を考える

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 「読書へのアニマシオン」は、スペインのモンセラ・サルト氏によって考案された読書教育の手法で、子どもが読書に興味を持ち、読む力を高め、自発的、積極的に読めるように手助けをするために75の作戦が用意されている。作戦は本と子どものことをよく知っている熟練したアニマドールによって計画的に進められるが、アニマドールの役割は、教えることではなく、子どもの力を引き出すことにある。遊びと沈黙による内面化を通して読みを深め、批判的かつ創造的に考える力をつける足がかりにしようとするものである。

 遊びと学習には密接な結びつきがある。遊びは、リラックスした雰囲気(楽しみ)のなかで自発的かつ積極的な参加を促し、大人の介入を最小限にして子どもを中心としたコミュニティを形成する助けとなる。遊びのなかで、子どもたちは、お互いに感情の共有や表現の交流を図るとともに、さまざまな体験を通して認識能力を発達させ、ものの考え方や原理、方法論などを身に付けることができる。

 私は、黒木秀子さんの穏やかでていねいなアニマシオンを何度か体験しているうちに、押し付けがましくなく、ゆったりした気分で知らず知らずのうちに深いところまで読み込んでいくことになる、その魅力に取り付かれてしまった。

 しかし、最近このアニマシオンをめぐって気になることがあった。何人かの小学校の先生と話をしていて、アニマシオンが話題に上ったとき、「読書クイズ」ということばを使っておられるのである。アニマシオンとクイズは、私の頭のなかでは、どうしても結びつかない。むしろ対極にあるものと認識していたから、戸惑った。そこで、知り合いの小学校の司書さんにお願いして、小学校で使われている国語の教科書を調べてもらったら、次のことが分かった。

・大阪書籍の『小学国語3下』には、クイズで本をしょうかいしあおうという項目があって、「物語ばらばら」クイズ、「だれがどうなった?」クイズ。「読んでなるほど!」クイズが紹介されている。
・教育出版の『ひろがる言葉 小学国語3下』にも、「読書クイズ」を出しあう、という項目があって、じゅん番にならべよう、かわっているのはどこ、だれの物かな、わたしはだれでしょう、などが紹介されている。

なんだかアニマシオンの作戦に似たような名前のクイズである。

 光村の教科書には、アニマシオンや読書クイズという単元はないが、光村から出ている『「読むこと」の指導[中学年]一人一人に確かな「読む力」をつけるために』という先生方への手引書には「アニマシオンで昔話を楽しもう―だれでもできる読書クイズ」という項目があって、おおむね次のような指導の手順が詳しく書かれている。

 3年の国語教科書にでている「三年とうげ」を扱ったところで、7時間をかけて、 さまざまな「昔話」を学習材として指導する際にアニマシオンの作戦を用いる。 まず、日本の昔話「ばけずきん」を教師が読み聞かせたあと、「昔話」を学習材 として「ダウトをさがせ」「物語バラバラ事件」「クイズで決闘だ!」を順に実 施する。児童がいろいろな国の昔話を読んで「ダウトをさがせ」「クイズで決闘 だ!」のクイズを作る。自分たちが作ったアニマシオンクイズをグループ内で出 しあい、グループ対抗でアニマシオン大会をして、得点を競わせる。

 あの小学校の先生方は、こうした子どもたちにクイズを出させあう活動を「アニマシオン」と呼んでおられたのかもしれない。かつて、ある高校の司書さんが、全校生徒にこういったクイズを出し合わせて、競わせ、優勝チームを決めるといった実践をやっておられたのが、「読書のアニマシオン」として新聞に大々的に取り上げられていたことに違和感を覚えたことを思い出す。

 アニマシオンは遊びの要素は強いけれども、クイズで勝敗を競い合うものではない、と私は理解している。一人ひとりの記憶があいまいだったり、じゅうぶんに読めていなくても、お互いの多様な受けとめ方を尊重し、みんなで補いあう場とプロセスを大切にするものではなかっただろうか。いくら子どもたちが活気付いたとしても、人間という幅広い存在を賞罰と競争でコントロールすることで、子どもたちの自由な発想を引き出す可能性を狭めてしまう。アニマシオンをそのように利用してほしくないと思う。また、国語の教科書で扱われている読書クイズでは、特定の学年で一時的に、とくにゲーム性の強い作戦だけを取り上げているが、読書へのアニマシオンで用意されている75の作戦は、子どもの能力や発達段階、扱う本の内容に応じて使い分けながら計画的、継続的に実施することによって全体として読書力を高めるのに役立つものであろう。

 こう考えてくると、「読書クイズ」と「読書へのアニマシオン」は、まったく別のものと考えたほうがよさそうだ。鳥取県の小学校の先生、倉光信一郎さんは、このあたりのところを自問自答し、試行錯誤しながらアニマシオンに取り組んでおられ、その真摯な姿勢に胸を打たれる。 
読書へのアニマシオン


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 すべての人の想像世界をつなぐファンタージエンを蝕んでいる現代の虚無について、ラルフ・イーザウは「人間の魂に精気を吹き込む芸術や文化の創造力が衰えている」といっている。読書へのアニマシオンは、いまや学校にも蔓延しつつあるそのような虚無に立ち向かう活動のひとつともいえるのではないか。「読書へのアニマシオン」が単なる読書推進活動でなく、ひとつの教育運動として認識されるとき、学校図書館や言語教育との新たな接点見つかるのではないだろうか。

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2 コメント

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まさにおっしゃるとおり (CHIBE)
2010-06-15 16:41:14
まさにおっしゃるとおりです。
倉光さんに師事し、モンセラさんの75の作戦を実践しているものです。
国語の授業の中での位置づけを探っています。
返信する
小学校でアニマシオンを実施して。 (アニマドーラ 佐藤)
2016-11-16 15:41:56
私も全く同感です。サルト氏のアニマシオンにであって、教育意義を持った読書トレーニングが
純粋に行われる事を願ってやまない一人です。
75の作戦という手段で、読みを深める。
アニマドーラは、その導き手として、寄り添う。
一人一人に本を手渡す。この基本をはずしては
アニマシオンとは、呼べないと考えます。
決してアニマシオンはクイズではありません。
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