ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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11年目の憂鬱(司書教諭講習を終えて)

2012年09月17日 | 知のアフォーダンス

 


(石山寺公式ブログ「石山寺 四季のたより」より)

 JR石山駅を出たバスが商店街を抜けて京阪石山駅付近にさしかかると、急に視界が開け、豊かな水をたたえてゆったりと琵琶湖にそそぐ瀬田川の景色が目に飛び込んでくる。静かな川面をミズスマシのようにすべっていくカヌー。晴れた日には広い空のかなたに湖南アルプスを望むこともできる。やがてバスが石山寺山門前を通過するころには、この土地の清々しい気に包まれて身も心もすっかりリラックスしている。そして、ほどなくバスは滋賀大学石山キャンパスの西門に到着する。
 この大学で例年夏に開講されている学校図書館司書教諭講習の講師をお引き受けして11年になる。担当してきたのは「学校経営と学校図書館」「学習指導と学校図書館」「読書と豊かな人間性」の3科目。学校図書館法の改正にともなって新しい司書教諭講習が始まったとき、来るべき新しい時代に向かう学校改革の一端を担うことになるかもしれないという期待をもって臨んだ。これまで学校図書館のことを専門的に研究してきたわけではない。40年におよぶ教職経験のなかで学校図書館の経営にかかわったのは1994年から2002年までのわずか8年間にすぎない。そんな私とってチャレンジングな仕事ではあったが、なんとか現場の感覚を大事にしながら、県内の先生方を中心とする受講者の皆さんとともに学校改革の担い手としての学校図書館や司書教諭の具体的なイメージをつくりだすことを目指した。
 3科目をとおして講習の基軸に据えたのは以下の3点である。(もう少し具体的なシラバスを下に記す)

・現実社会の文脈のなかで学校教育を問い直し、学校図書館のあり方を考える
・学習者一人ひとりの多様なニーズに応えるメディア・センター(コミュニケーション・センター)としての学校図書館のビジョンを形成する
・情報とメディアのリテラシーを培う教育のコーディネーターとしての資質の向上をはかる

 講習が始まった当初、会場となった視聴覚教室は受講者で埋め尽くされ、暑い熱気につつまれていた。だが、その数年後に大学で司書教諭資格を取って卒業する新卒者が採用されはじめると、現職の先生方の数が少しずつ減りはじめる。そして、教員免許の更新制度が導入されてからは、教育学部のある石山キャンパスは8月の日程の大半が更新講習のために割り当てられ、司書教諭講習はその合間を縫うように行われることになる。そんななか、今年も8月後半から末日にかけて少しばかり変則的な日程で行われたが、受講者の皆さんが、それぞれの想いと問題意識をもって能動的に参加してくださったおかげで、密度の高い充実した8日間を過ごすことができた。とはいえ、かつてに比べると先生方の気概というか熱気のようなものが希薄になっているのは否めない。
 近年、学校図書館をとりまく学校現場の状況が講習で目指してきた学校図書館像と乖離しつつあるのを感じる。大都市からの人口流入による生徒数の増加にともなう教師の多忙と教室不足のために学校図書館を縮小せざるをえなくなった特別支援学校。同じく校務が多忙になったために図書館担当教員の人数を減らして、学校図書館の実質的な運営を学校司書一人に任せざるをえなくなった高校。自治体や学校がICTの推進を重点目標にすることによって学校図書館への関心が読書活動に絞り込まれていることなど・・・。もちろん、以前に比べて学校図書館が充実し活性化されている学校も少なくないし、公共図書館との連携や支援にも、さまざまな工夫がみられるようにはなっている。しかし、問題は、学校図書館にたいする基本的な認識と学校における位置づけがほとんど変わっていないことにある。多くの学校で、学校図書館は、いまだに読書材を提供する場所あるいは調べものをする場所としてしか認識されておらず、学校経営の要として組織的に運営されるようになっていないようだ。その結果、図書館担当者は、図書を整理し、利用を増やし、施設を維持・管理することだけに専念することになる。生徒一人ひとりの問題や欲求に寄り添い、多様なメディアを活用して情報の評価力や判断力を高めるといった、きめの細かい教育活動を展開することは多忙な教員にとっておろそかになりがちである。そして、何のために学校図書館が必要なのかが問い直されることもないまま、惰性的な図書館運営がつづくことになる。学校図書館が、学校教育における切実な問題にかかわるものとして教職員に認識されることはないし、教師自身が学び合うことをとおして教育実践を豊かにする場として機能することもないだろう。
 読書活動に偏重する(あるいは逃げ込む)ことによって学校図書館機能が矮小化されているといえないだろうか。「コミュニケーションと創造的な学びの場」という視点が抜け落ちてしまっては学校図書館の機能は半減する。この状況は、単に言語活動に学校図書館が欠かせないことを訴えて人と財源の確保を求めるだけで解決できる問題ではなさそうだ。まずは学校図書館担当者自身が、学校の現実に対する切実な問題意識をもって意識の転換をはかることが必要ではないか。利用可能なあらゆる資源を活用して学校改革のために学校図書館を活用するという方向に大きく舵を切ることを期待したいのだが・・・。せっかくの司書教諭講習が現場で生かしきれていないのは、もったいない話である。

 いまや危機的状況にある学校教育のあり方を深くとらえなおす視点を学校図書館はどのような形で示すことができるのか。そんな問題意識をもって、私は昨年の秋に立教大学の司書課程主催で開催された連続講座の企画にかかわり、この秋には、あらたな課題を掲げて連続セミナーをはじめようとしている。(関心のある方はご参加いただければ幸いです)

連続講座「情報を評価し判断する力を育む(終了)

連続講座の報告
「混沌を生きるリテラシー」(”St. Paul’s Librarian” pp.53-56 No.26 2011、立教大学 学校・社会教育講座司書課程)

連続セミナー「ホリスティック(総合的)な知を育む学校・図書館をつくる」(参加申込受付中)

第1回「『希望をつむぐ高校』という希望」(2012年9月30日)

第2回「ホリスティックな知とはなにか? シュタイナーとクリシュナムルティ」(2012年10月21日)

以下の論考についても直接入手して読んでいただければ幸いです。
「図書館を使いこなす力」(学図研ニュース No.319、2011年9月号)

※ 参考までに以下に今年(2012年)の夏に滋賀で実施した司書教諭講習の大まかな内容を紹介しておく。多少の変更はあるが、基本的なテーマは11年間ほぼ同じである。

「学校経営と学校図書館」

学校教育と学校図書館

現代の教育課題と学校図書館

学校図書館法

学校図書館職員

学校図書館の実務

学校図書館メディア

学校図書館の施設・設備

学校図書館のパブリック・サービス

学習者の多様性と学校図書館

特別支援教育における学校図書館

多文化社会における学校図書館

学習スタイルと学校図書館

教育とコミュニケーション

学校経営と学校図書館

学校図書館の評価

学校経営と学校図書館

学校図書館経営の革新

「学習指導と学校図書館」

探究型学習と学校図書館

情報の収集と整理(演習)

創造と共有(演習)

探究型学習の評価(演習)

学校図書館の情報サービス(演習)

学習指導における司書教諭の役割

 

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1 コメント

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司書教諭講習と大学での司書教諭資格付与課程 (中村百合子)
2015-12-17 12:45:54
こんにちは。今度、この2クラスの授業内容についての検討のシンポジウムでもやりたいなーと思いました。私もこの2科目は10年以上教えているので、お互いの授業のシラバスを見せ合って検討しあうと面白そうです。
 今回、樹村房から出した『学校経営と学校図書館』の教科書では、足立先生が教えておられたうちの「学習者の多様性」と「学校経営」の問題は上手に取りあげることができていないような気がします。いろいろ教えていただきたいです。いっぽう、「学習指導と学校図書館」は、私は司書教諭と教科等の教諭のコラボレーションの授業案作成と模擬授業にだいぶ時間を割いているので、これまた、足立先生の授業できちんと網羅されている内容の一部を十分に正面から取り扱うことができていないのではないかという気がします。今度、開かれた場で、議論できると嬉しいのですが。
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