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『バカをつくる学校』をどうする?

2006年09月10日 | 「学び」を考える
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 教育の問題は多面的、重層的に考える必要があります。そのための手掛かりになると思われる資料を、比較的最近出版されたもののなかから、いくつか紹介します。

ジョン・テイラー・ガット著、高尾菜つこ訳『バカをつくる学校 義務教育には秘密がある』(成甲書房、2006)
バカをつくる学校

成甲書房

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成甲書房
NY州最優秀教師による全米覚醒のベストセラー。集中力を育てない「チャイム」、対立させる「クラス分け」、敗者だと自覚させる「競争」、階級を意識させる「成績評価」、自分の頭で考えない人間の生産工場……それが義務教育。日本の教育もまったく同じ惨状だ。30年間公立校の教壇に立ち、ニューヨーク州最優秀教師賞にまで輝いたガット先生が「義務教育」が真に求めるものを見つけた。義務教育は子どもたちに「チャイムによる思考中断」「クラス分け」「無関心」「感情的な依存」「知的な依存」「条件付きの依存心」「監視」を強いている。そんな教育に順応した子どもは「大人の世界に無関心」「集中力が長続きしない」「未来に対する認識に乏しい」「歴史に関心がない」「他人に対して残酷になる」「親しさや正直さを拒絶する」「物質主義的になる」「依存的、受け身、新しい挑戦に臆病」といった人間になる。米国にフリースクール旋風を巻き起こしたベストセラー、待望の邦訳。

 本書のタイトルや、ここで明らかにされている義務教育学校の諸問題の記述は多少過激にみえるかもしれないが、まぎれもない真実であり、それはまたアメリカだけの話でもない。本書は、これまで何度も指摘されてきた、学校教育が構造的に抱えている負の側面を現場教師の視点から分かりやすく指摘しているにすぎない。では、こんな学校をどうすればいいのか? 著者によれば、「そもそも正しい教育とは説明するまでもなく、子どもたちのやり方を尊重し、彼らにそのための場所等時間を与えることだ。」問題は、多くの教師も親も現在の学校の価値観に埋没してしまって、学校が抱える負の側面が見えなくなっていることである。学力低下をなげき、教育改革を叫ぶ前に、まず自ら学校の現実に目を向け、本書で指摘されているような教育をやめる方法を模索しはじめることが大切ではないか。

目次
学校という神話―はじめに
義務教育における七つの大罪
精神病の学校
学校教育の「第四の目的」
私はこうして教師になった
もう学校はいらない
終わらせよう、学校教育の悪夢

著者のHP
John Taylor Gatto

 学びを積極的に変えるための具体的な提案や実践も多い。次に紹介するのは、そんな一冊である。

ジェニ・ウィルソン&レスリー・ウィング・ジャン著・吉田新一郎訳『「考える」力はこうしてつける』(新評論、2004)
「考える力」はこうしてつける

新評論

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新評論
 まだ続けますか「暗記のための学び」を!
 この本には、「教え込みの授業」、「教科書をカバーするだけの授業」、「暗記のための(したがって、テストが終わってしばらくしたら忘れる)授業」を回避し、知識はもとより「関心・意欲・態度、思考力、判断力、表現力など」を授業で磨くための方法が満載されています。
 具体的には、質問、学習日誌、概念図、契約、そして自己評価の五つの方法について詳しく紹介されています。
 この本は、学校の先生たちを主な対象にしたものですが、わが国においてはこうした手法を使って考えたり、判断したり、表現したりする練習をしてきていませんから、社員教育を中心に社会教育の場でも必要であり、また使える内容になっていると思います。
 さらにこの本では、「関心・意欲・態度、思考力、判断力、表現力など」を練習するための基盤として欠かせない理論的な部分や、お互いを知り合う活動や仲間づくりの活動などについても紹介してくれています。


目次
1 生徒たちに自分で考えさせる教室と授業をつくり出す
 教師と振り返り
 自立した学習者を育てる
 単元を計画する
2 振り返りとメタ認知能力を磨くための方法
 交渉
 質問
 学習日誌
 概念図
 自己評価
 成功の鍵

 学力問題をきちんと把握しておく一冊は・・・

21世紀COEプログラム 東京大学大学院教育学研究科 基礎学力研究開発センター編『日本の教育と基礎学力 危機の構図と改革への展望』(明石書店、2006)
日本の教育と基礎学力―危機の構図と改革への展望

明石書店

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学力論争で明らかにされた学力問題の構図を社会の危機と関連づけて明らかにし、国際比較のなかでとらえ直す。

目次
序章 学力問題の構図
第1部 基礎学力問題の構図(社会の危機と基礎学力
転換期の教育危機と学力問題―学力論議と学校の変容)
第2部 国際比較の中の基礎学力(学力論争における国際学力比較調査の役割
PISAをいかに読み解くか―求められる評価リテラシー
国際比較の中の日本型学力―求められる学力育成システム再編の理念)
第3部 国の課題と地域の可能性(義務標準法制改革と少人数学級政策―国の学級編制標準40人の改善は実現できるか
地域からの教育改革・学力向上施策―市区町村のとりくみ全国調査から
基礎学力の平等保障をめざす犬山市の教育改革―研究的教育実践と教育の地方自治)
第4部 学校教師のこれから(教師の力量形成―協働的な知識構築と同僚性形成の場としての授業研究
義務教育の地殻変動と「学力」問題のゆくえ―階層格差拡大を導く「分権化」という名の地域格差拡大政策)

 さらに根源的に、教育や子どもや教師を見る眼差しを問い直すために、少し難解な一冊を。帯に「教育とは何かではなく、教育を生み出すものとは何か」とある。

鈴木晶子編著『これは教育学ではない 教育詩学探究』(冬弓舎、2006)
これは教育学ではない―教育詩学探究

冬弓舎

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冬弓舎

目次
1 「教育詩学」断章 鈴木晶子・弘田陽介
2 対論 教育はどこまでフィクションか―見立て・美学・倫理 今井康雄×鈴木晶子
3 教育学における臨床知の所在と役割 皇紀夫
4 生きること死ぬこと―日本の自壊 野口裕之
5 言葉をめぐってどのように語るのか―メタファーと教育<詩>学 鈴木晶子・弘田陽介・小野文生
6 教育<詩>学(ポイエティーク)探究 鈴木晶子

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