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ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

小出裕章「原発ゼロ」

2020-09-19 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.小出裕章・著『原発ゼロ』.

 福島の原発事故の実態と,原子力開発をめぐる国・企業・科学者たちの責任,一刻も早く行なわれるべきエネルギー政策の転換について,小出氏のいくつかの講演内容をベースに,改めて丁寧に解説した一冊.福島各地で見つかったという「黒い物質」のことは今回初めて知ったし,除染作業が新たなビジネスチャンスとなってゼネコンの参入を招いている現実には,「復興」さえ金儲けの一環なのかと,胸が悪くなる.また,原子力というものが,放射能というおよそ人の手に負えない公害を伴うことや,一貫して軍事上の目的のもと研究され,社会的・経済的弱者へ被ばくを押し付けながら発展してきたことにも,じゅうぶんな言及がある.私たちの国が,あれだけの惨事から一向に何も学ぼうとしないことに深く失望しつつも,専門家の一人として自身のあり方や道義を確認しようとする,著者の謙虚さが節々に顕れており,読み手としても襟を正したくなる思いだ.


小出裕章: 原発ゼロ
幻冬舎ルネッサンス,2014,
ISBN978-4-7790-6093-9

小出裕章「原発のない世界へ」

2020-09-11 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.小出裕章・著『原発のない世界へ』.

 原子力開発の危険や,それを強引に推し進めてきた国・電力会社・研究者たちの間違いを告発しながら,福島の原発で何が起こっているのか,そして今後のエネルギー政策への展望を解説した書簡・講演録集.もちろん,各章はもともと連続して記されたものではないが,理論上の基本知識とデータ分析の両者に丁寧にアプローチしていて分かりやすく,社会にはびこる差別や貧困,戦争の暴力といったさまざまの問題との関連についても,十分な言及がある.また,明治大学で行なわれた講演会の冒頭で,小出氏は専門家として,福島の事故を防げなかった,原発を廃絶できないまま悲劇が起こるのを許してしまったことを謝罪しており,その意外さにショックを受けるとともに,ほんらい責任を負わねばならないのは誰なのかと考えると,何とも居心地の悪い沈痛な気分になる.


小出裕章: 原発のない世界へ
筑摩書房,2011,
ISBN978-4-480-86073-6

小出裕章「日本のエネルギー、これからどうすればいいの?」

2020-09-10 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.小出裕章・著『日本のエネルギー、これからどうすればいいの?』.

 原子力開発がそもそも原理上もつ問題点,また,福島の原発事故がもたらした被害の大きさを改めて振り返り,今後のエネルギー政策について,若い世代に向けて分かりやすく解説する質疑応答集.ここでは,自然エネルギーへの転換が危急の課題であるのは当然としたうえで,近代化以降の人類が急速にエネルギーの使用量を増やしてきたことや,その大部分を先進諸国が独占するアンバランスの実態を明らかにし,これらを改善しなければ根本的な解決は不可能であることを強調する.何より,エネルギーのあり方を考えることは,誰もが差別されずに共に生きる社会を追求することであり,経済性や科学の進歩といった目先の「豊かさ」への信奉から,私たちは今こそ脱却することが求められている.


小出裕章: 日本のエネルギー、これからどうすればいいの?
平凡社,2012,
ISBN978-4-582-83573-1

小出裕章「フクシマ事故と東京オリンピック」

2020-09-03 | 政治・社会
 先日買った本を読んだ.小出裕章・著『フクシマ事故と東京オリンピック』.

 この何年かというもの,東京でのオリンピック開催に奔走する日本とその政府に,今こそ福島の原発事故を直視し,その後始末に集中するよう迫るプレゼンテーションふう小エッセイ.被災地の現状を鮮明に映した写真が数多く挿入され,なかでも,処分の目処の立たないまま溜め込まれる,膨大な汚染水タンクや土嚢の光景は,取り返しの付かない事態が起こったことを改めて読み手に思い起こさせる.全文は,事故が現在もいっさい収拾できておらず,汚れた土地に住民が棄てられ続けているという,最も危急で核心的な話題に限った,よく整理されたもの.これらの悲劇をカムフラージュもしくは黙殺するようにして,オリンピックでの金儲けを目論むこの国の首脳・大企業と,それをまったく批判してこなかったマスメディアのありように,失望は深まるばかりである.


小出裕章: フクシマ事故と東京オリンピック
径書房,2019,
ISBN978-4-7705-0228-5

小出裕章「原発と戦争を推し進める愚かな国、日本」

2020-08-27 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.小出裕章・著『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』.

 京都大学の実験所を退官して間もない小出氏による,科学者として,また一人の先輩として,この国の原子力開発と社会のあり方を問いただすエッセイ集.話題は,福島の原発事故へのいま一度の分析に始まり,原子力発電が抱える原理上の弱点はもちろん,これまでの原子力政策をめぐる問題,すなわち,それが国家と大企業,メディアが結託して起こした大きな犯罪であることや,過疎地と貧困層への差別のうえに成り立っていること,また,核兵器の製造技術と背中合わせであり,ひいては一極集権・秘密主義的な暗黒政治にひと続きであることまで,広汎におよぶ.近年,軍事力への傾倒を加速させる自民政権を嘆くいっぽうで,今や世界の潮流は脱原子力,自然エネルギーへの転換であり,権力の無法を監視する市民運動が,国内でも高まりつつあることへの歓迎を表しながら,著作は結ばれる.惜しむべきは,トピックの多彩さの反面,ところどころで説明が駆け足になることで,たとえば注釈を加えるなどして,単語の意味やエピソードについて補足してあると,なおよかった.


小出裕章: 原発と戦争を推し進める愚かな国、日本
毎日新聞出版,2015,
ISBN978-4-620-32326-8