goo blog サービス終了のお知らせ 

ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

石川伸一「食べることの進化史」

2020-11-20 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.石川伸一・著『「食べること」の進化史』.

 人類の古今の食事を,その方法・目的と弊害,多様性などを切り口に再考し,未来の食生活に思いを馳せるエッセイ集.「食べる」という行為は,個々人の欲求を原動力に持ちながらも,社会が規定する美意識とか,人間関係といったものと連動し,合理性や科学技術を拒否し続ける,ユニークかつ多面的な営みであることが改めて感じられる.また,家族の団らんの場としての食事というものが,たった150年前に国家が強制して定着した,新しい習慣だというのは初めて知った.惜しむべきは,各章の結論がそれまでの文脈から飛躍する感じがあり,読み手は置き去りになることと,本文中に他の資料などからの引用が多く,いささか主体性に欠けることの二点.


石川伸一: 「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ
光文社,2019,
ISBN 978-4-334-04411-4

蓮池透「私が愛した東京電力」

2020-11-17 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.蓮池透・著『私が愛した東京電力』.

 東京電力の技術者として,福島原発の管理に携わった著者が,3・11の事故と,今後の原子力開発について,見通しや問題点を語る.主なメッセージは,原発は放っておいてもそのうち立ち行かなくなる,という楽観論で,読み手はやや肩透かしを食らうが,業界の内情へのリアルな言及は興味を引く.また,「拉致問題」をめぐって特別な立場にあり,政府の不誠実な対応に苦しめられてきた氏ならではの,公権力と大衆に対する冷ややかな視線に一貫しているのも,大きな特徴.


蓮池透: 私が愛した東京電力 福島第一原発の保守管理者として
かもがわ出版,2011,
ISBN978-4-7803-0471-8

いよいよ硬直化する世相について

2020-11-10 | 政治・社会
 今回の新型ウイルスの存在に人類が気が付いてから,そろそろ一年が経とうとしている.世界中で奪われた夥しい数の生命には,改めて手を合わせたい.それと同時に,僕がいま最も気がかりなのは,感染予防の名のもと,いよいよ多様さを失う世の中のことだ.あえて感情的な言い方をすれば,病気で死ぬよりももっと怖いことが,社会のあちこちで進行中だと思うのだ.

 コンサートやイベントを中止に追い込んだり,マスクを着けないお客を追い出したり,わが子の帰郷を拒否したり,不運にも罹患してしまった人たちを非難するなど,本当に悲しいことが日々起こっている.どうか冷静になって,自分がいったい何を言ったのか,何をしたのか,考え直してほしいのだ.これはもう,ただただ,人間性の問題であり,品性の問題である.人命のためなら,何をしてもいいのか?生きるために病気とたたかっているのであって,病気とたたかうために生きているのではないのではないか.そして,ただ死なずに済むことと,人間らしく生きることは,ちがうのではないか?

 この2,30年のあいだに,日本社会は急速に硬直化したと僕はもともと思っていて,とくに,正義や科学を盾にするとき,その足並みからはみ出す者を,コテンパンにやっつける窮屈な時代がやってきている.「ウイルスさえなければ…!」という言い方をする人もいるが,そうではなく,たまたまそれが引き金になっただけで,実はずっと前からこういう大衆なのだ.さらに,すべては僕たちが自らの意志で,感染を避けることを優先したために起こっているのであり,ウイルスのせいではない.当然のことながら,ウイルスの脅威に,無防備に立ち向かっていく選択肢だって,あったのである.

 話が少し逸れたが,それが正しいかどうかということと,そうでない人を攻撃していいかということは,同じではないはずだ.かつて,ユダヤ人を絶滅させることも,朝鮮人を懲らしめることも,多くの人々の心からの願いであったし,その時代の科学に裏付けられた正義だった.僕は,どんなときでも人間を第一に考えたいし,たとえ正しいことだとしても,「でも,それってイヤじゃん」と言える感性を持ちたいと,つくづく思うのである.


外部リンク:
「音楽ファンは腹をたててほしい」 3ヶ月ぶりにオケを鳴らした指揮者が訴えたいこと - バズフィードジャパン (2020.7.7)
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-mickey/

山本太郎「抗生物質と人間」

2020-11-06 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.山本太郎・著『抗生物質と人間』.

 この100年ほどの間に次々に発見・開発された多数の抗生物質について,働きとメカニズムを明らかにし,医学界がその便利さに依存してきたことで,現代人の体内や生活環境に取り巻く,細菌の生態を撹乱しつつあることを指摘する.それは,長らく共生してきた人体と細菌一般の関係を,劇的に崩壊させることであり,すでに私たちの生活習慣病やアレルギーの一因になっているとの仮説は,はなはだショッキングである.また,歴史的にも系統学的にも,地球は微生物を主体とする惑星なのであり,人類はその片隅にふと現れた,まったく取るに足らない存在だということが,改めて実感される.残念なのは,著者の口癖なのか,各トピックの結論を「~というのだろうか」のような疑問文で提示するので,読み手はあいまいな気分になることと,全編にわたって何度も登場するキーワード「ポスト抗生物質時代」の意味を,まったく説明していないことの二点である.


山本太郎: 抗生物質と人間 ――マイクロバイオームの危機
岩波書店,2017,
ISBN 978-4-00-431679-4

黒田恭史「豚のPちゃんと32人の小学生」

2020-10-30 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.黒田恭史・著『豚のPちゃんと32人の小学生』.

 大阪のとある小学校で三年間にわたって行なわれた,豚の飼育を通した「食といのち」の授業を,当時の担任教師である著者が,厖大なテープ記録をもとに詳しく振り返ったもの.もともとは,自分たちで育てた豚を食べるという計画のもと始められたプロジェクトだが,世話をするうちに愛着が沸いてしまい,最後の決断をめぐってクラスじゅうを激しい葛藤と議論のなかに引きずり込んでいく.そこで子どもたちから発せられる,豚のPちゃんへの思い,飼い主としての責任論の一つ一つは,読んでいるこちらもびっくりするほど筋が通っており,反論しがたい真っ当さである(小学生って,こんなに考えるのか!).いっぽうで,「ほかに手段がないのだからしかたない」という,ずいぶん割り切った意見も出る.結末は全員が納得するものにはならなかったが,その後味の悪さこそがひとまずの成果であろうし,何より,児童・教員と学校,地域,保護者たちが,たえず対立しつつも強い関心を持って,正解やゴールのない手探りの教育シーンに携わったことは,とりわけ意義深い.


黒田恭史: 豚のPちゃんと32人の小学生 命の授業900日
ミネルヴァ書房,2003,
ISBN 978-4-623-03833-6