建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

マンションの長期修繕に向けた調査は、引渡しから10年になる前に。

2014年09月22日 | 建築物の安全
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

杭の届かないマンション事件が発覚してから3ヶ月以上が経過し、その後、住民に対する説明として、
追加で杭を打つ方法での補修の方針が示された、といった報道がなされています。

建築士兼弁護士の目線からすると、仮に技術的に補修が可能であれば、建替えとか買取といった対応は過剰反応だと思うのですが、
まだ技術的な検証としても不十分ということなのでしょうか。

補修方法も気になりますが、どちらかというと、原因の方が気になります。
施工管理として不十分だったから生じた問題なのか、それとも、現在の施工技術で回避しがたい問題だったのか?
元意匠設計者としては、正直なところ現場の専門的な管理にお任せしている部分で、
そのような問題が生じるとは考えていませんでしたので。
仮に裁判になった場合、監理者責任を追及されかねない立場でしたね。
(但し、認められるか否かは別の話です。)

なお、引渡しから10年を超えた物件の法的責任としては、前述の施工者の過失の有無は大問題になってきます。
10年を経過することで、売主に瑕疵担保責任を問える期間は終了し、施工者らに不法行為責任を追及することとなりますが、
不法行為責任は、瑕疵担保責任と異なり、過失がなければ問えません。


一般的には、長期修繕計画は引渡し後10年を超える頃から実行に向けて動きだし、調査も10年を超えてからの場合が多いように思いますが、
住民側の立場に立てば、この調査は10年よりも前に行う方が良いと思います。
10年超で仮に重大な欠陥が見つかっても、売主に瑕疵担保責任を問うことができないからです。
そして、その場合は、施工者や設計者・監理者に対し不法行為責任を問うことになりますが(平成19年最高裁判決・参照)、
住民の側で不法行為責任の成立要件を証明しなければなりません。
工事の発注者である売主の責任を問うことも、難しくなります。

冒頭のケースは違いますが、長期修繕の調査が構造欠陥発見のきっかけになったという話は、耳にすることがあります。
売主の関連会社が管理を行っている多くの場合、長期修繕計画の案は管理会社が作っているのではないでしょうか?
10年以内の調査を管理会社が提案するなどということは、おそらくあり得ないでしょう。

一方、売主らが10年超で対応してくれるとしても、それは(一般的には)法的責任に基づくものではありません。
本来は、所有者らが解決すべき問題のはずです。
無茶振りはホドホドにしないと、最後は泥沼の裁判になってしまいますので、ご注意。
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