建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

駆け込み民法改正対策

2020年03月11日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。

新型コロナウィルス対策でイベント・会合のほとんどが中止になる中、民法改正セミナーは意外なほどに無事、開催していただいており、改正直前の時期ならではの空気を感じます。
(もちろん参加者数は想定より激減していると思いますが)

民法改正の注目度は非常に高く、既にあちこちのセミナーをハシゴして、今回が何回目、という方もいらっしゃるほど。

建築関係では請負の話が中心となりますが、法律の細かい話を聞くのはなかなかツライらしく、こちらも、どの塩梅でお話をするのがよいか、毎回悩むところです。

法律の話は基本的な枠組みをシンプルに、あとは具体例をたくさん盛り込んで、眠気防止対策を図っています。

 

さて、表題の駆け込み対策について。

とりあえず民間連合や中建審などの標準約款を使っていれば、民法改正に合わせた改定版を使うということで、慌てなくてよいでしょう。

契約書は元請から提示される、という下請の会社さんにとっても、HPで公開されている約款の変更点はとても参考になります。

オリジナルの約款を使用している場合も、もちろん改正に合わせて改定するのが望ましいですが、契約の条項が民法に優先することからすれば、とりあえず古い約款でしのぐという判断もあり得るところです。

 

問題は、慣習として発注書・発注請書だけの契約が横行していて、又は契約書そのものがなく、細かい事項が何も決まっていないうような場合。

改正の影響を直接受けることになります。

特に、瑕疵担保期間が、契約不適合責任の消滅時効(引渡しから最長10年)に変わる点は、注意したいです。

 

一方、契約書・約款があれば安心、というものではありません。

結局のところ、契約で一番大事なのは、契約内容、つまり責任範囲を明らかにしておくことだと思うのです。

形式的な契約書はあっても、定型文言がやたら羅列されているばかりで、個別契約で意味のある事項が何もない、という契約が(大きな企業さんも含めて)非常に多い。

契約に適合するか否か(契約不適合責任)の基準となり得る具体的な事項を、設計図書の特記仕様書でも、業務委託書でも、見積条件でも何でも、明記しておい欲しいのです。

 

駆け込みで行うべき、かつ一般にあまり出来ていない民法改正の準備は、この点に尽きると思います。


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重層長屋の新しい規制について

2018年06月15日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。
すっかり更新が滞っており、すみません。

最近の東京都の建築ニュースで気になったところ、重層長屋の新しい規制についてです。

現在、東京都のHPにて、「東京都安全条例に基づく長屋に係る建築基準等についての見直しの考え方(案)」というものに対するご意見募集が掲載されています。

東京都報道発表

長屋と共同住宅の違いは、建築物の部分(外ではない)に共用部分があるかどうかです。
現代版の長屋、特に重層長屋といわれる別の住戸が2階以上縦に積みあがるタイプのもの(⇔縦に積まないのがテラスハウス)は、実質的に、使用状況が共同住宅と変わりません。
ところが、長屋は、特殊建築物の規制を受けません。
防火・避難に関する制限が緩く、旗竿地(接道条件が悪い敷地の一種)であっても建てられる、目いっぱい容積・戸数を詰め込める、という特徴があります。
例えば、投資物件としては、非常に効率が良いのです。

都心の密集かつ狭小地には大規模重層長屋が続々と誕生し、近隣や確認申請をめぐるトラブル(最高裁平成211217日判決・新宿たぬきの森事件、確認の取消)も少なくありません。
個人的には、建築物の制限=私権の制限は過度であるべきではない、と考えていますが、
この種の開発については、市民の一人として、また、建築に関わる一人として、ストレートに胸が痛むというのが正直なところです。

旗竿地における大規模長屋の規制は、既に平成24年より世田谷区で始まっていますが、敷地が300㎡未満や戸数14戸までは対象にならないなど、多くが規制にかかりません。
今回の安全条例改正(予定)も、同様に、中大規模なものの規制に止まります。
現在予定されている建築基準法改正によって、接道の規制を条例で上乗せできるようになりますが(例えば、3階建以上、行き止まり道路に接する150㎡超の長屋など)、規制の網をすり抜ける物件はまだまだ減らないのでしょう。

ご意見募集に寄せられた都民の声、きちんと聞いて欲しいですね。


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日弁連・四号建築物シンポジウム 改めて所感

2017年05月02日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。
GWで、事務所の周りも新緑あふれております。

さて、4月8日に行われた日弁連主催の四号建築物シンポジウム。
遅くなりましたが、日経アーキテクチャーHPが詳細に紹介してくれましたので(購読には会員登録が必要)、代表的な意見をおさらいし、豆蔵なりに私見をコメントしてみようと思います。

なお、「四号建築物」とは、建築基準法6条1項4号に該当する建築物で、その代表が木造2階建てです。
昨今は3階建てやS(鉄骨)造も増えているとはいえ、依然として、戸建て住宅の圧倒的多数は四号建築物に当たります。

主催する弁護士側(日弁連消費者問題対策委員会の弁護士)の提言は3つ。

① 構造の仕様規定を廃止し、構造設計者による構造計算を義務付けすべき
② 仮に仕様規定を残す場合、対象・内容を厳格化すべき
③ 建築確認における構造審査の省略は廃止すべき

対する建築側パネラーは、国交省(建築指導課長・石﨑和志氏)、構造設計者(金箱温春氏)、研究者(都市大教授・大橋好光氏)、行政(堺市・石黒一郎氏)。

①構造計算の義務付け

弁護士側の提案理由
・構造計算の義務化によって、全物件に構造設計者を関与させることが、欠陥住宅の防止になる。

これに対する建築側の反応
・仕様規定も、定形的な建物では有用である。→非定形建物は、②の適用の問題
・構造計算に頼ることの弊害(ブラックボックス化、重要なのは構造計画)。
・構造技術者の不足。廉価な設計料に対し、新たなコスト負担が問題。

(私見)
構造に関し大局的な視点を欠いた設計者が多いとの指摘もありましたが、同感です。
その点は計算の義務化では解決せず、むしろ小手先の対応による弊害も少なくないと思われます。

②仕様規定の厳格化

建築側からも、以下の指摘がありました。
・仕様規定の要求水準が低く、構造計算を採用するとかえって自由度が狭まるという逆転現象が生じている。構造計算を行うインセンティブがない。
・定形的な箱体を前提として経験的に発展した仕様規定が、吹抜けや不整形建物などの非定形特殊なケースにも用いられることで、弊害が生じている。 

(私見)
同感です。仮に、仕様規定の適用除外を設けるとして、その基準、判断のルール作りは、③の構造審査の省略廃止と併せて行う必要があるように思います。 

③審査の省略の廃止

多くの物件で、構造図が作成されず、構造躯体の実務を、資格を持たず責任も負わないプレカット業者が行っている。
というのは、全体の問題意識としてありました。
また、関西方面では、事実上、壁量計算などの仕様規定の図書を提出させているというお話も出ました。
もっとも、国は、制度変更については慎重です。性能表示・瑕疵保険の第三者チェック等の代替手段を優先する考えのようです。 

(私見)
急激な制度変更は、耐震偽装後の平成19年大改正の二の舞になりますので、慎重であることは理解します。
ただ、基準法の最低レベルすら守っていない物件が少なからずあることは、紛争実務から強く感じており、審査省略廃止の議論は進めるべきだと思います。 

その他の意見として、以下をご紹介しておきます。

・建築基準法の基準のあり方
建築基準法は、熊本地震の一部地域で観測されたような大きな揺れには対応していない。
また、倒壊・崩壊しないことを目的とする強度であり、「地震後に軽微な補修で利用できる」ものではない、という点で、一般人のイメージ、要求とのギャップが生じている。
基準法の定める「最低限の水準」のレベルを上げるべきではないか。

・確認行政の在り方
確認等取扱い件数が減少し、現場での問題を審査にフィードバックする力が低下している。
そういう現状においても、行政が指定確認検査機関に対する監督権限をもっている。 

(議論全体についての私見)

「安全な住宅」という目的に対するアプローチとしては、
・基準法全体のレベルアップ
・(審査されないで確認を取得している)違反建築の防止
があり、それらは、切り離して考えるべきだと思います。
そして、急ぐべきは違反建築の防止だと思います。(併せて、既存不適格のボトムアップ=耐震改修も一層推進すべき) 

時代遅れ感が否めない「最低限」の基準法には批判もありますが、私有財産を直接規制する法律でもあることから、(役人が作る)政令・告示でやみくもに厳しくするということには否定的です。 

色々思うところはありますが、本日はこの辺で。


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四号建築物を考える日弁連シンポジウム 4/21一部追記

2017年04月21日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。

(追記)
下記シンポジウムの詳細については、日経アーキテクチャーのホームページにて、日経ホームビルダーの記事として、録音書き起こし並みに詳細なものを掲載中です。
読むのには、無料の会員登録が必要ですが、なかなか面白いです。
4/14、21の二回で終わらなかったので、来週(金)頃にも続きが出て、完結すると思われます。 

豆蔵からもコメントしたいことがあるのですが、正確性を期するためには上記の詳細が出揃ってからの方がよいと思いますので、連休中くらいに雑感を述べる予定です。

(以下、4月3日掲載)
本日は、お知らせのみ。雑感は、次の機会に。 

熊本地震での住宅被害と、四号建築物に関する確認制度・仕様規定の問題とは、間に地震の特殊性という事情が介在するものの、向かうべき方向性の議論として重なり合うことは確かです。
建築サイドではなく、消費者問題という目線での弁護士サイドからのシンポジウムで、興味深いと思います。
今週末、4月8日(土)開催。

日弁連 シンポジウム「木造戸建住宅の耐震性は十分か?」
-熊本地震を契機として4号建築物の耐震基準を考える-

「熊本地震における建物被害状況とその原因分析の結果報告(仮称)」石崎 和志氏 (国土交通省住宅局建築指導課長)
「熊本地震の建物被災状況の調査報告」安田 周平弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会委員)
基調報告「4号建築物の耐震規定の問題~欠陥住宅訴訟の現場から~」神崎 哲弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)

パネルディスカッション 「『4号建築物』に関する建築基準法令の構造規定の在り方について」
◆パネリスト
石崎 和志氏 (国土交通省住宅局建築指導課長)
金箱 温春氏 (日本建築構造技術者協会[JSCA]前会長・工学院大学特別専任教授)
大橋 好光氏 (東京都市大学工学部建築学科/専攻:木質構造)
石黒 一郎氏 (大阪府堺市職員)
神崎 哲弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)

◆コーディネータ
吉岡 和弘弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2017/170408_2.html


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富山といえば、コンパクトシティ。

2015年10月04日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

ところで、富山といえば何を連想しますか?
北陸新幹線で注目の地域ですが、まだまだ関東圏では馴染みの薄い地域。
豆蔵も、立山黒部アルペンルートの通り道で立ち寄ったくらいで、
改めて訪れたことはありません。

なんでも、ヨーロッパから輸入したカッコいい路面電車がぐるぐる走っているらしい。
ウィーンみたい。乗ってみたいですね。
この路面電車は、今回のテーマに大いに関係があります。

富山は、町の中心部に集まって住むことを誘導するコンパクトシティ化を、政策として行っています。
そのカッコよい路面電車は環状線になっていて、
その環状線の内部に集まって住もう、ということになっているようです。

コンパクトシティの話は、前にも書いたと思いますが、
町の中心部がさびれていき、
一方、車での利便性を前提に郊外に大規模店舗が出店するなど、町が外側に広がってしまうと、
公共交通機関、除雪やごみ収集、病院・学校など、
行政サービスを提供するのに余計に金がかかるようになるという問題が生じる。
過疎がさらに過疎になってしまう訳です。

コンパクトシティは、国交省を中心に国が音頭を取って推奨していますが、
「住みたいところに住む」という基本的な権利と衝突する側面もあるため、
議論は紛糾し、なかなか理解を得るのは難しいようです。

富山市のニュースは、
中心部に住むことについての助成等を積極的に行った結果、
中心部の人口が増加に転じた、という話です。
新幹線の追い風もあったのだと思います。

ただ、中心部の人口増加は、新築マンションの建設と分譲によって支えられているらしく、
それはどうかな?と思いました。
まあ、工事によって経済は活性化するのかもしれませんが、
空家は増える一方でしょう。

個人の住宅取得にも50万円の補助金が出るらしいです。
リフォームは30万円らしい。
リフォームして空家を減らしましょうよ。

なお、今更ですが、
北陸新幹線の富山のキャラクター「きときと君」が抱えている「ぶりと君」がツボです。
魚なのに、ブリなのに、新幹線のカラーリングですよ。
青に金のラインというのも、青魚ヒカリモノっぽくて合ってません?

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税制改正に空家対策。

2015年08月23日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

お盆休み、中央線、山に向かって小さな旅をしてきました。

畑の中を歩いていると、子どものころの夏休みのようでとても懐かしい気分だったのですが、
暑いこともあって、日中、外を歩いている人は全く見かけませんでした。
過疎というほどの地域ではありませんが、若い人がいる気配はあまりありません。

なんて他人事のように言っていますが、
実は、東京郊外の住宅地である豆蔵の実家の近所も、高齢者ばかりが目立ちます。
近い将来に、最も高齢者向けサービスが受けられなくなる地域なのだと言われました。
最近、びっしりと並んだ住宅地の中に、
歯が欠けたように小さな駐車場や更地を見かけるようになりました。

空家問題は、もはや地方だけの問題ではないということです。

今朝の新聞ですが、来年度の税制改正に、
空家の撤去・改築にかかる費用の一部について所得税から差し引く等の優遇措置を
盛り込む方針のようです。
5月に施行された空き家対策特別措置法では、市町村による強制撤去が可能となりましたが、
そこに至るまでのハードルはとても高い。
そこで、所有者が、相続などの機会に、相続税について思いを巡らすのと同時に
そのまま放置するのではなく、撤去するなり、改築して住むとか貸すとかするなり考えるようにする、
という動機づけになることが期待されます。

それはそうと、
今朝のテレビでは、涼しい釧路に長期滞在という素敵なシステムを紹介していました。
釧路長期滞在
長期、というのは1か月程度を指すらしいのですが、
それだけの期間、安心して暮らせるよう、行政や地域がサポートをしており、
既に年間300人くらいが滞在する実績が上がっているのだそうです。
ちなみに、春の花粉症対策でもお勧め、と書いてありました。

ここでも空き家が活用されているようです。

長期滞在できるのは、主に60歳以上の会社を退職した世代なのだと思いますが、
それでも町が活性化して喜ばしいとのこと。
イマドキ、60歳というのは若造の部類なのですね。

豆蔵も、いずれは夏冬移住生活、いつでもどこでも仕事と遊びが満喫できるようになりたいです。

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建築技術の民法改正短期連載

2015年08月13日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

お盆ですね。
7月末からの猛烈な暑さも一段落で、少しほっとしています。

さて、2年ほど前の耐震本※づくりの頃からお世話になっている
硬派な?建築雑誌、建築技術さん。
※「耐震化の法律読本」という拙著。

その昔、構造設計の部屋に行って、よく読んでたものです。
(スミマセン、買っていませんでした。)
主な読者層としては、組織設計事務所、構造設計、官庁など。らしい。
構造色が強いかと思っていたのですが、省エネ関係など実質的なテーマが多く、
執筆陣も学者から建設会社の研究者など信頼できる手堅い感じで、
結構、ただ読んでも面白いです。
(マニアックではありますが)

で、今般、民法改正について書きませんか?と
6頁×4ヶ月分いただきまして、
事務所の有志メンバー4名ほどで交代しながら、
6月号から9月号まで、書かせていただきました。
今、本屋さんに出ているのが、ようやく終わった9月号です。

豆蔵が実際に書いているのは、うち2ヶ月分だけですが、
4ヶ月に渡り、テーマと当番を決めて、書いてもらって、ダメ出しして、議論して、直して、
技術さんとのやりとりを取りまとめて、入校の遅れを謝って、
なかなか大変な作業でした。

なにせ、弁護士というのは、全員超ワガママですから。
おまけに、通常業務だけでめちゃくちゃ忙しいし。

まあ、本当に大変なのは、いつも出版社の方々ですけどね。
ホント、皆さん忍耐強くて、頭を上げられません。

ガチ建築の場で、普通に法律の話をしているので、
「難しい...。」と友達には指摘されましたが、
一応、豆蔵のパートはできるだけ読みやすく書いたつもりです。

残念ながら、国会の紛糾で、今年度の改正法成立は怪しい状況ですので、
タイミングが早すぎたような感じになっていますが、
また来年、1年遅れで成立したころにでも、思い出して読んでみてください。

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免震ゴム交換中の法的扱いについて

2015年08月02日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

免震ゴムの不正発覚後、4か月半が経過し、
現在のところの対応としては、製造会社が全数を交換することになっていますが、
全部交換するのに少なくとも数年は期間がかかると言われています。

というのも、
交換するための免震ゴムの大臣認定も取り消されていますので、再取得が必要ですし、
それから製造に着手するとしても、
対象となる棟数が100棟程度と非常に多く、必要な免震ゴムの個数も数千個程度に上るようですから、
とてもすぐに製造できるような分量ではない、ということのようです。

一方、製造会社は、建物の設計はできませんので、
不正材料を使用した建物の構造上の安全性の検討は、設計者に協力を求める形で行われているようです。
また、免震ゴムの交換の具体的な施工方法や、工事中の構造検討なども、
施工者や設計者に委ねられている状況です。

免震ゴムは、不測の事態に備えて交換できるように設計しなければなりませんので、
理論上は交換が可能ですが、
現実には、施工や搬入スペース、ジャッキアップの箇所や方法など、いろいろ難しい問題があるようです。

工事に際しては、
所有者・設計者・施工者・製造会社で合意書を作成して、
費用やリスク等を製造会社が負うことを明確にする必要がありますが、
具体的にどのような工事を行うのかが、一部の設計者・施工者以外に見えにくく、
不安をさらに広げていたようです。
(合意書を作成する弁護士に理解させるのは、とにかく大変でしょう)

今般、国交省が、
新築工事中に事件が発覚した建築物に関する「仮使用認定」の取扱い等について
「免震材料の交換改修工事中の建築物の安全性のガイドライン」というものをまとめ、
その中で、具体的な交換方法のモデルケースを示しました。
ガイドライン

共通理解の前提となるものであり、
また、紛争になった場合の評価基準となり得るものとして注目したいです。

また、6月に会社が発表した外部弁護士による第三者委員会報告書に続いて、
7月末に、国交省の第三者委員会の報告書が公開されました。
国交省 第三者委員会
大臣認定という制度がそもそもどうなのか?など、
会社側の目線とは全く違うので、なかなか興味深いものです。

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空き建物の利用緩和へ?

2015年06月28日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

昭和40年代頃の古い建物のデザインが結構好きで、
その古さを生かしつつ現代のデザインで改装をしているビルなどは、非常に心地よいです。
丸ノ内辺りには、そんな感じのビルが多いですね。
前にも書きましたが、古い町屋や住宅を、宿泊施設に改装するなどのケースもあります。

ところが、古い建物は、
耐震基準をはじめ多くの項目で、容易に適法化できない現行基準法への不適合が生じており、
増築のみならず、用途変更や大規模修繕をする上での制限となっています。

この点について、日曜の日経に、地方創生の一環として、
国交省が、古い建物の増築に関する現行法の適用を緩和する方針であると報じられていました。
基本的に、必要な耐震性を有していることが条件のようですが。

まあ、公共性のある建物は、やはり安全面を優先して適法化をしてほしいですが、
杓子定規に現行法を適用すると、古い建物は生き残れないということになる。

具体的にどのような場合に利用できる制度なのか、気になるところです。
地方創生の一環ですからね、
例えば、例として、木造校舎の宿泊施設への転用などというケースが出ていましたが。

ところで、
今週は、改正建築士法が施行されました。
一定規模以上についての設計契約の義務化や一括再委託の禁止などを内容とするものですが、
この改正に関する情報を、いつものように国交省に探しに行くと、全く出てきません。

通常、施行に合わせて、法令の解釈の参考になる通達がHP上で公開されるのですが、
見当たらず。検索をかけても平成19年改正のものばかり。

どうしてこういうことになっているかというと、
今回の改正法が、日本建築士事務所協会連合会などの業界団体を起点として、議員立法で成立したものであり、
いつものように国交省から挙げた法案ではないから。
…としか考えられません。

うーん、不親切だなあ。国交省。

ちなみに、先の通達は、日事連 のHPに置いてありました。
建築士事務所の無登録業務に関する記載は、期待したほど明確なものではなかったです。

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住宅性能表示における液状化の情報提供義務

2015年06月15日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

住宅の設計を行う上でたびたび登場する住宅性能表示制度、
改正されました。

省エネ関係や必須項目の削減などの変更があるようですが、
豆蔵的な注目点は、液状化に関する情報提供義務が供給側に課せられたことです。

改正のきっかけは、言わずと知れた東日本大震災。
浦安に代表される首都圏各地での、甚大な液状化被害です。

とはいえ、
地盤の問題はただでさえ予測が難しく、液状化をがっちりと制度に組み込むのは困難。
色々と業界内での綱引きもあったようですが、
最終的に、一定内容の「参考」情報の提供義務にとどまることで、落ち着いたようです。

つまり、あくまで参考情報であって、
「契約のみなし内容に当たらない」位置づけと明確に言われていることです。
液状化判定や対策に関し、性能表示に関する説明から直ちに契約上の責任を負わないということ。

国交省の出している概要ですが、
国交省 改正概要
液状化の情報に関する考え方について、重要なポイントを押さえています。

液状化可能性というプレの情報については、マクロ(広域情報)とミクロ(個別情報)の二段階があるということ。
その二つの山を乗り越えてNGとの結論となった場合に、具体的な対策を検討する必要性がでてきます。

また、対策についても、
液状化そのものを抑制するのか、液状化による不同沈下を抑制するのか、
これまた二通りの道があるわけですが。

戸建て住宅に関しては、液状化は、まだまだ技術的に弱いですね。。


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建物と道路との切れない関係。

2015年04月26日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

先週は、持ち帰った宿題を泣きながら(ウソです)やっており、
更新をサボってしまいました。
すみません。

今週も、連休前スケジュールで、公私共々バタバタとしております。
やたらと気は焦るのですが、人間、一日にできることは限界がありますね。
(特にトシを取ると…)
今日は、もう諦めました。

先週は、空き家関連の話題が2つありました。
一つは、空き家対策特別措置法の全面施行に先立ち、
国交省が市区町村による特定空き家の指定、必要な措置のガイドライン案を公表したというもの。

そして、もう一つは、新宿区の無接道住宅の建替えに関する運用の緩和、というニュースです。

そもそも、
建物敷地には「接道」といって、4m以上の「道路」に面してなければならず、
即ち、道路がなければ建物は建てられない、
今ある建物は、建て替えができないのが原則です。

しかし、
新宿区では、建築基準法43条1項ただし書きの許可を得て、建築が認められることになっている。
その許可の基準を、緩和したというのが今回の話題。

接道に変えて、自分ちの前の通路の幅を4mに拡幅するのだけれども、
従来は道路から敷地までずっと、通路幅が4m必要だった。
それを、道路からの通路への入口部分で狭いままになっていても、許可を認めるというのです。

入口部分の住宅は、元々道路に面しているので、通路の拡幅に何ら利益がない。
むしろ敷地の一部を奪われるという損失しか生じない。
だから、入口部分の所有者の承諾を得るのは困難で、それが建替えのネックとなっていたのです。
(しかも、そういう入口の敷地を、「喉元」敷地というらしい。)

ちなみに、似たような話で、自分の家の前だけしか拡幅できない道路を「ヘビ玉道路」といいます。
(へびが玉子を飲み込んだような形の道路、という意味)

緩和の趣旨は、木造密集地の建替え促進、不燃化です。
今までの大きな原則を緩和し、通路の入口が狭いという多少の危険が残ったとしても、
目の前の危険を少しでも解決したい、ということなのでしょう。


この種の道路の話、二項道路指定によるセットバック義務などは、トラブルが多い。
近隣同士の利害関係が鋭く対立しますからね。

道路付きが弱いのは、不動産としてはリスクあり、といったところです。

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民法改正はタイヘンです。

2015年03月01日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

大昔から掛け声ばかりが聞こえていた(ような気がする)民法の改正が、
いよいよ現実味を帯びてきました。
新聞でも報じられるようになりましたね。

平成21年から改正を議論し続けてきた法務省の法制審議会民法(債権関係)部会は、
去る2月10日の第99回会議で「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」を決定し、公表しています。

法務省 要綱案

中間試案だの要綱案(案)だのヤヤコシイのが過去に沢山ありましたが、
今度こそ本当でしょうね???

民法といっても、改正の範囲は、契約関係を規律する債権法に限られる訳ですし、
判例実務でカバーしてきたものを明文化するに過ぎず、内容的な変更は少ないと言われていますが、
影響は非常に大きい。

法曹界は「言葉が全て」といっても過言ではない業界なのに、
その用語が変わってしまうのです。
建築紛争でおなじみの「瑕疵」という言葉もなくなります。
時効や法定利率も変わります。

現在、自分の担当する部分について、審議会の資料を遡りながら趣旨・解釈を確認し、
建築業界に特化した民法改正ネタを準備中です。
事務所総出でやってます。滅茶苦茶タイヘンです。

まあ、色々な事務所や組織の弁護士さんたちが、同様の苦労をしている最中だと思いますが、
ウチはウチなりの、さらに豆蔵は豆蔵なりのオリジナルな資料を作成中です。

夏前頃には何らかの成果をご披露できるよう、頑張ります。

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応急危険度判定と罹災証明は別モノである。

2015年01月25日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。
地震ネタが続きます。

先日、ケンプラッツ(日経BPの建築・土木サイト)で、
昨年末の白馬村の地震に際し、現地に入った建築士の方々の活動が、紹介されていました。
建物ごとの危険性を判断すると同時に、雪が降るまでの間に応急措置を行ったという話です。

傾いて倒壊する危険のある建物でも、傾きを修正して補修することは可能であるのに、
補修する前に雪が降ってしまえば、倒壊して元には戻せなくなってしまいますからね。
雪が降るまでの一刻を争う事態だったようです。
非常に興味深い記事でした。

その記事の中で、
一般の方々の間で、地震直後の被災判定(赤・黄・青の色付け)と、罹災証明における判定が
よく理解されていないという点が指摘されていました。
確かに、豆蔵も、阪神大震災までは全く区別がついていませんでした。

応急危険度判定は、行政に代わって民間の建築士のボランティア(応急危険度判定士の登録建築士)が行う
スピード重視の暫定的な判断です。
しかし、被災判定で赤紙を張られてしまうと、もう手の施しようがないとあきらめてしまう方もいるとか。
応急危険度判定の赤紙とは、「危険」という意味で、建物内に入るのには専門家の助力を得ることが前提ですが、
決して取り壊しが必要となるというものではありません。

一方、罹災証明は、災害対策基本法に基づくもので、市町村が発行するものです。
税金の減免や補助金の申請など、被災者支援を受けるときに必要になりますので、比較的慎重に、
場合によっては複数回の調査で、判断が見直しになる場合もあります。

地震において想定外の被害が発生すると、判断基準が見直される場合もあります。
東日本大震災における液状化も、そうした見直しによって罹災が認められるようになった経緯があります。

罹災判定によって、場合によっては数百万円もの補助金の有無が変わってしまうのですから、
公正かつ公平に判定が行われるべきなのですが、どうも調査・判定の限界もあるような印象です。



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危険な建築物に撤去命令を出せる場合とは?

2015年01月18日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

先日、空き家問題の公開討論会をNHKでやっていました。
残念なことに、途中からしか見られなかったのですが。

コンパクトシティに対する反発は、想像以上に強かったという印象です。
(国交省の方が、2~3世代かけて実現しようというもので、急激な変化を求めるものではないという説明をされていました。)
コンパクトにする代わりに、どうしたらよいのか?という点には、答えは出ていません。

空き家問題と地方活性化、高齢化。
この先、どこへ向かうのでしょうか。

ところで、
国土交通省が今、パブコメ(法案を提出するに当たり行うご意見募集)で、
「既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン(案)」というものを公表しています。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155140726&Mode=0
1月23日まで。

建築基準法10条3項では、倒壊の危険性がある建物等に関し、特定行政庁が撤去・使用禁止命令を出せることになっていますが、
前にも述べたように、個人の財産権に対する強力な制限になるということもあり、おそらく、ほとんど使われていません。

これを、具体的な基準を策定することによって、
行政の濫用を防止しつつ、実際に使えるようにしようというものです。

基本的な考え方として、以下を勘案して判断するとしています。
(1)建築物において、劣化が原因で倒壊等するおそれがある
(2)建築物が倒壊等した場合、付近住民や通行人等に被害が及ぶおそれがある
(3)是正命令を行う社会的必要性

しかし、ガイドライン(案)で示されている写真の建物の朽ち果てぶりが、あまりにすさまじくて、
ここまで朽ち果てないと手が出せないのか、と逆に驚きました。
倒壊の危険性には、地震と火災を考慮することにはなっていますが(何もなくても崩れそう)。

なお、これらはあくまで建築時には適法だった「既存不適格」を対象したものであって、
違法建築に対する是正命令(建基法9条)はまた別の話のはずです。

もっとも、実務と世の中的には、古い建物は既存不適格建築物と違法建築物があまり区別されているとは思えませんね。
地震時の安全性の確保には、もっとシビアに取り組んでいただきたいものです。

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省エネ基準に頭を抱える。

2014年12月14日 | 法制度
ケンチクベンゴシの豆蔵です。

弁護士としての仕事の一つに、
新しい商品(物だけでなくサービスを含む)に関する法令解釈や、
そうした商品の新しい広告の表現に関するチェックなどがあります。

各社が知恵を絞って打ち出してくる新しいビジネスのお手伝いをできるのは、なかなか楽しいです。
論点がマニアックであればあるほど、普通の弁護士はサジを投げてくれるでしょうから、
豆蔵の存在意義が認識できるってものです。

建築基準関係法令は、多くの場合、全てを明確な規定しているわけではありませんので、
白黒はっきりつけるのは難しい。
既存の問題と照らし合わせながら、また、関係個所に問い合わせなどをかけつつ、
グレーの中でもどういう位置にあるか、どういう手続きを経て何を行えばリスクを最小化できるか…。

そういう中でも、法令の基準や言っていることが難解で、判断に頭をかかえるものもあります。
たとえば、省エネ基準などもその一つ。

かつては、地域ごとに定められた厚さの断熱材を入れていればOK、という感じだったものが、
次世代省エネ基準、トップランナー基準などという妙なネーミングを経て、
今では、太陽光発電などエネルギーを作り出す量、エネルギーの創出と、
窓や壁の量と断熱を考慮したエネルギーの損失、
それらのバランスを、計算式で評価するような内容になっているようです。

建築基準関係法令の平成12年以降の性能規定化の一つでしょうか。
一定の仕様を守れという仕様規定から、具体的な性能で評価する性能規定に移行したものが、数多くあります。
実態に即した規制という意味では良いのでしょうが、まあ、
とにかく分かりにくいんですよね。

建築物の省エネ関係規定は、経産省と国交省の相互乗り入れのような形になっているので、
それも分かりにくい原因の一つかもしれない。

勉強不足ということは間違いないので、勉強します。

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