建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

「建築家・山田守の住宅」展(南青山・自邸公開)所感

2017年04月24日 | 見たもの雑感

建築弁護士の豆蔵です。

「聖橋」を設計した建築家・山田守。
その没後50周年を記念した「建築家・山田守の住宅」展に行ってきました。表参道から少し入った場所にある自邸の公開です。

山田守は、大正末期から郵便・通信などの公共施設を中心に活躍していた建築家で、建築史の教科書でもお馴染みの作品が沢山ありますが、
現存する有名どころでは、日本武道館と京都タワー。
しかし、豆蔵が衝撃を受けたのは、地盤の藤井衛先生を訪問するため赴いた、東海大学の藤沢キャンパスでした。
ここはロシアか!と…。(スケール感が伝わらず、あまりよい写真ではありませんが、参考まで。)

南青山の自邸は、これらと同じ昭和30年代中ごろのモダニズム建物で、当時の写真から、ピロティの上に白い翼を広げた形の住居部分と屋上の大きな庇が浮遊しており、かなりトンがった建物という印象でした。
現在はピロティ部分と3階に増築されたため、浮遊感やトンがった感じはなくなりましたが、その分、大きく育った樹木と一緒に、周囲に溶け込んでいます。

建物はRC造なのですが、スパンを飛ばす、見た目の印象を軽くする、等の工夫で、部分的にS(鉄骨)が使われているそうです。
和室の真ん中の木の柱、実は中に鉄骨が仕込んであると聞き、驚きました。

建具と塗り壁の取り合いなど、ディテールが美しいです。
こういった「逃げ」のないディテールは、もちろん大量生産の建物では採用できません。
個人邸などで、仮に完成時に美しく仕上がったとしても、地震の揺れも含めて経年劣化が気になるところですが、築50年以上を経て、なおも美しい。
これは、経年による狂いがないのか、維持管理がよいのか、どちらなのでしょうかね。

古くて美しいもの。憧れです。

到着した時は朝イチのガイド中で、床が抜けるくらい大人数が和室にびっちり座って、説明に耳を傾けていました。
週末なので、子供さん連れの建築親子も結構いました。図面も沢山出ていて、面白かったです。

外に出ると、玄関からずーっと、入場待ちの行列ができていました。
やはり多くの人にとっても、魅力のある建物なんですね。


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四号建築物を考える日弁連シンポジウム 4/21一部追記

2017年04月21日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。

(追記)
下記シンポジウムの詳細については、日経アーキテクチャーのホームページにて、日経ホームビルダーの記事として、録音書き起こし並みに詳細なものを掲載中です。
読むのには、無料の会員登録が必要ですが、なかなか面白いです。
4/14、21の二回で終わらなかったので、来週(金)頃にも続きが出て、完結すると思われます。 

豆蔵からもコメントしたいことがあるのですが、正確性を期するためには上記の詳細が出揃ってからの方がよいと思いますので、連休中くらいに雑感を述べる予定です。

(以下、4月3日掲載)
本日は、お知らせのみ。雑感は、次の機会に。 

熊本地震での住宅被害と、四号建築物に関する確認制度・仕様規定の問題とは、間に地震の特殊性という事情が介在するものの、向かうべき方向性の議論として重なり合うことは確かです。
建築サイドではなく、消費者問題という目線での弁護士サイドからのシンポジウムで、興味深いと思います。
今週末、4月8日(土)開催。

日弁連 シンポジウム「木造戸建住宅の耐震性は十分か?」
-熊本地震を契機として4号建築物の耐震基準を考える-

「熊本地震における建物被害状況とその原因分析の結果報告(仮称)」石崎 和志氏 (国土交通省住宅局建築指導課長)
「熊本地震の建物被災状況の調査報告」安田 周平弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会委員)
基調報告「4号建築物の耐震規定の問題~欠陥住宅訴訟の現場から~」神崎 哲弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)

パネルディスカッション 「『4号建築物』に関する建築基準法令の構造規定の在り方について」
◆パネリスト
石崎 和志氏 (国土交通省住宅局建築指導課長)
金箱 温春氏 (日本建築構造技術者協会[JSCA]前会長・工学院大学特別専任教授)
大橋 好光氏 (東京都市大学工学部建築学科/専攻:木質構造)
石黒 一郎氏 (大阪府堺市職員)
神崎 哲弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)

◆コーディネータ
吉岡 和弘弁護士 (日弁連消費者問題対策委員会土地・住宅部会幹事)
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2017/170408_2.html


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NHKスペシャル・地盤リスク特集 所感

2017年04月10日 | 建築物の安全

建築弁護士の豆蔵です。
弁護士会の四号建築物シンポジウムの感想についても諸々あるのですが、先に、Nスペの話をします(盛り沢山な週末)。 

4月9日(日)放送のNHKスペシャル「大地震 あなたの家はどうなる?~見えてきた”地盤リスク”」は、
非常に興味深い内容であり、かつ、模型を使った実験が多数で分かりやすい説明でした。
 
建築関係者、特に木造(中大規模を除く)を扱っている設計者・施工者、販売会社(特にココ!)は必見!
→4月11日深夜に再放送予定
また、戸建に住み、または戸建の購入を考えている一般の方々にも、広く見ていただきたい内容だったと思います。
 
おさらい(→は豆蔵の補足)
 
・建物は、構造や規模に応じて最も揺れやすい固有周期というものを持っており、それに近い波を多く含む地震波が到達した時に共振して揺れが大きくなり、損傷や倒壊の原因となる。
→東日本大震災(海溝型)で問題となった、超高層の長周期地震動に対する揺れの増幅も、その一つです。
・木造は比較的短い周期(0.5~1秒)の揺れに共振する。中→高層になると、一般に周期は長くなる傾向がある。
→阪神大震災(直下型)の膨大な木造家屋の倒壊も、このような特定周期の地震波(キラーパルスとも呼ばれます)によるものと言われています。一方で、東日本大震災では、木造の倒壊はそれほど多くありませんでした。 
 
以上は、今までも言われていた話です。ここからが本題。
 
・熊本地震では、表層地盤(やわらかい粘土層)が10m程度の地区に倒壊の被害が集中しており、その原因の一つとして表層地盤でのキラーパルスの増幅が考えられる(隣接地区との比較)。
・表層のやわらかい地盤が浅いと、もっと短い周期のまま建物に伝わり、逆に表層地盤が深くなると、地表面に到達するころには長い周期の波となる。
(この点も、番組では模型で説明。)
 
・首都圏など平野部では表層地盤(関東ローム層など)が数mから数10mに及ぶが、従来の揺れやすさ予測には表層地盤による増幅を考慮していなかった。
・今回、首都圏を先行して国が詳細に調査(実地、及び過去のボーリングデータをとりまとめ)。その結果を用いて、揺れやすさ予測を変更し、年度内に公表予定。
 
首都圏の調査を先行して報じた、同日のニュース記事をリンクしておきます。
 

番組は、重い内容の割には時間不足で、知識ゼロからの方には消化不良、誤解を招く点もあったかもしれません。
引き続き、第二段をお願いしたいです。
 
もう少し深堀りしてほしかった点としては、以下。
 
・今回の警告は木造を中心としたものだが、中高層はどうか? RC・S造はどうなるか?
→中・高層バージョンも作成しているとのことですが、番組チラ見せの限りでは、影響は木造よりは小さいように見えました。
 ※説明は入りましたが、マンションなどに住む一般の人には、少し説明不足のように思いました。
とはいえ、中高層建物では、ボーリング調査で、土の種類、深さ、層厚などを把握しますが、
超高層や免震など時刻歴応答解析が必要な建物は別として、通常の保有水平耐力計算では、地盤の種別(硬軟)が構造体にほとんど影響しないようです。
建築時の想定との違いが生じないのか、気になります。
 
・耐震診断や補強に生かすには、具体的にどうすべきか?
→固有周期の点に引っ張られると逆に危険かもしれません(後述)。
 
・熊本(益城町)では深さ10mで増幅が生じたが、表層地盤の内容によってはキラーパルスが増幅する深さは変化するのではないか?
ex.関東ロームではどうか、含水率(地下水位)の違いではどうか?
揺れやすさ予測の変更には、深さ・層厚だけでなく、具体的な地盤の性状の違いが反映されているのか?
 
・主に直下型での問題であって、海溝型(比較的長周期)での影響は限定的と考えてよいか?
 
 
結局のところ、
揺れやすさの想定についても、確率の高い特定の震源、地震動を設定して想定しているのであって、
それと同じ地震が来るとは全く限らないのであるから、小手先の対策ではダメで、やはり建物の強度を上げようという話になるのだと思います。
 
いずれにしても、
・建築基準法は最低の基準であること(一度きりの震度7で倒壊を免れる性能でしかなく、想定外の事態は常に起こり得る)
→住宅性能表示の耐震等級の割増しや保険などで補う必要があること
・戸建住宅の「杭」は、基本的に地盤の支持力を補うための地盤補強であって、耐震性とは無関係であること(杭基礎ではない)
(現在行われている地盤調査が、支持力の評価であり、耐震性の評価ではないこと)
は、これを機会に、住宅業界の方々も改めて認識し、かつ、一般の方々にも知っていただきたいところです。

想定に対する安全・安心はあり得るが、自然災害に対して絶対的な安全・安心はあり得ないのだということを、
売る方・作る方もきちんと説明し、 買う方もきちんと受け止める。
個人的には、そういう社会や制度が望ましいと考えています。

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