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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

日本沈没(上)~小松左京~

2020年09月14日 16時51分22秒 | 読書・文学
アナザーストーリーズ 運命の分岐点▽“復活の日”の衝撃~コロナ“予言の書”~

コロナ禍のパンデミックを半世紀以上前に予見した小説があった!小松左京の「復活の日」。
日常に潜む恐怖とウイルスとのリアルな闘い!小松はなぜ未来を予言できたのか?

新型コロナウイルスの猛威を半世紀以上前に予言した小説があった!
小松左京のSF小説「復活の日」。
人を死に至らしめる未知のウイルスが世界中にまん延し、人類が滅亡の危機に立たされる!
小松は「日本沈没」でも大震災後の日本の危機を予見。
なぜここまでリアルに未来を予想できたのか?
そして、現実がその小説世界を後追いしたとき、彼はどうしたのか?
原点となる戦争体験、絶望の果てに見た未来への希望を解き明かす。

「どうも、最近の日本は、身震いしてるみたいだぜ。コンニャクみたいにな・・・」

明神礁
スミス礁
ベヨネーズ列岩
太平洋海嶺
「太平洋の火の環」環太平洋地震帯、火山帯

「太平洋海底山脈スカイラインってとこかね」

カナカ語、ウラカス島

「平穏の海」マーレ・パシフィック
この暗い海底に、南北3000キロにおよぶ”火の帯”がかくされ、
人間の眼のとどかぬ軟泥のさらにずっと下のほうで、
大蛇のように細長い火の巨人が、かたい岩石と、激しい格闘を続けているのであった。
・・・時に、そのとばっちりが、地殻を噴きやぶり、海面をけやぶって、
人間の眼をおどろかせることもある。
だが、それは巨人の汗の一雫、荒々しい息吹きの一吹きにすぎない。

物理学者オーギュスト・ピカール 「浮力の天才」ピカール!
彼は、水素の浮力で自由に空を飛ぶ気球のように、自由に海中をただよう気球を夢みた。
この重い、不便で危険な鋼鉄の絆をはなれ、バラストを落として、また水面へ浮き上がってくる「水中の気球」。
コルクでさえ、深く潜れば、石のように圧縮され、石のように沈んでいく。
彼が考えたのは、高圧を受けてもほとんど圧縮されない物質、液体ガソリンを浮力材に使うことだった。
バチスカーフタイプの潜水器

水中の音波の速度は秒速1500m
フォノン・メーザー波を使った水中探知機
地図で見れば、ひどい急斜面に見える海溝の大陸側斜面も、実際に潜ってみれば、
最大斜度で30度くらいの、ごく緩やかな斜面だった。
大洋底側の斜面はもっと緩やかで、10度から15度ぐらいなものだ。

「海溝底です。深度7640m」
ここでは、海水でさえが、圧縮されて、その密度が4%も増えている。
雑音がひどく、減衰もひどい。
上層を、金属元素をたくさん含む、プランクトンのぶ厚い雲が横切っているとみえて、時々フェーディングが起こる。
8000mの海溝底に、こんな激しい、底層流があるなんて・・・こいつは新発見だ。
海溝は、まだ果てしなく続いている。狭いところで数十キロの幅。

その細長い高圧水の南はマリアナ海溝の海底につらなり、
南半球のトンガ=ケルマディック海溝から導かれた南極海の冷水は、
この巨大な「大洋底の暗渠」を通じて、海洋の下に潜り込み、
赤道を越えてはるかに北半球北緯30度以上にまで北上する。
日本海溝!
太平洋の底7000mの深さに長々と横たわる、世界最大の海溝(トレンチ)。

熱気が災厄のように天から落ちかかってきた。
なま暖かい、ベトベトと湿った眼に見えない手が、襟元や袖口から、冷房で冷えたシャツをおしのけて、もぐりこんできた。
まるで、ぶくぶく太って、汗だらけの、腋臭女の裸に抱きすくめられるみたいだ。
その気持ち悪くべとつく、熱っぽい抱擁に、思わず口が歪む。たちまち汗が吹き出してくる。

「権力欲が、性欲みたいに本能化してるんだよ。下心がなけりゃ、指一本動かさない男だ」

「気にいるいらないを決めるのに、付き合う必要があって?私、あなたが気にいったわ。
私、セックスは猛烈に好きなほうだけど、まだ、結婚したいって意志が起こらないの。
セックスが、結構満ち足りてるうえに、いくらでも手に入るのに、どうして結婚する必要があるのかしら?」

「何してるの?抱いてよ。」
「そう、さっき会ったばかりで早すぎる?
セックスは、嫌いじゃないって言ったでしょ?」

玲子は、しわがれた声で「唇をずっと離さないで・・・」と言った。
「私、とても大きな声で叫ぶの」

災厄は、何事につけても、新旧のラジカルな衝突をいやがる傾向のあるこの国にとって、
みしろ人為的にでなく、古いどうしようもないものを地上から一掃する天の配剤として、受け取られてきたようなフシがある。

「だが、日本が壊滅する場合も想定しておいたほうが、いいかもしれません。
場合によっては、日本がなくなってしまうことも・・・」

「ツバメじゃ」
「科学者にとって、いちばん大切なことは何かな?」
「カンです」
「カンと申し上げたのです」
「カンの悪い人間は、けっして偉大な科学者にはなれません。偉大な発見もできません。」

「確率過程の枝わかれ現象」「トリガー効果」
「麻雀で、九連宝燈ができたら死ぬっていうぜ」
唯々諾々(いいだくだく)

「海底に何本も溝のようなものが走っているね。あれは何だい?」
「海底断裂帯だよ」

メンドシノ海底断層・マレー破砕帯・クラリオン破砕帯・クリッパートン破砕帯

地震の震源が、島孤付近では浅く、大陸側に近づくにつれて深くなっていき、
そこに地表に対して浅いところで角度30度、中深度においては60度に達する「震源分布斜面」

マントル断層面
チャンドラセカール
大陸移動がはじまって2億年、アルプス造山運動をいう大きな地殻変動の最盛期が終わってから6000万年、
未曾有の激しい火山活動を伴ったといわれるグリーンタフ造山運動から2500万年前。
1815年、死者56000人を出したインドネシア、スンバワ島タンボラ火山、
1883年、死者36000人を出し、世界的凶作冷害の原因となった、ジャワ、クラアトカ島火山、
高温衝撃波と秒速150mの熱雲により、一瞬にしてサン・ピエールの町民28000人を殺した、
西インド諸島マルチニック島モンペレー火山の1902年の大爆発。

「最悪の場合、日本列島の大部分は、海面下に沈む」

上下動がいったん静まった後、次の本格的な横揺れ、主要動がやってくるまでの間、わずかに時間がある。
上下動を起こすP波、粗密波が地殻を伝わるスピードは、横揺れを起こすS波のシピードよりずっと速いからだ。
そして、地上破壊力はあとからくる横波のほうがはるかに大きい。
震源地が近ければ近いほど、最初の上下動と、次にやってくる横揺れとの間の時間間隔は短くなる。

そしてこの地帯に密集している零細な化学樹脂加工工場が火事のために加熱されて吐き出す各種の毒ガス、
塩素、青酸ガス、フォスゲン、一酸化炭素などが、火の中を逃げようとする人々をバタバタと倒した。
のちの調査によれば、これらの地区だけで、約40万人の人々が、ほとんど瞬時に死んだのだった。
災厄は、晴海から品川、大森にかけての港湾部でも起こった。
大森海岸で、石油貯蔵タンクのいくつかが、地盤亀裂によって破壊し、そこへスパークが飛んで引火した。
羽田に着陸寸前であった国際線のジェット機が滑走中転倒し、火災を起こした。
坂が多く、狭い裏通りが多い東京中心部では、道に塀の一部か電柱の一本が倒れかかれば
たちまち車が立ち往生する。特に交差点での衝突が致命的な交通麻痺を起こした。
今や道路上は、至るところで火の海になりかけていた。
狼狽した人々は、大勢が車のエンジンをかけっぱなしで逃げ出し、それが引火の原因になった。

地震~~それは、突然大地の底から襲い掛かり、一挙に下のほうから心臓をつかむ冷たい恐怖であり、
一瞬にして人々の理性も思考力も麻痺させてしまう。
災厄は増幅されるコースに乗り入れてしまうのだ。
そしてまた一方、生き馬の眼を抜く活気と、快楽追求のあざとい欲望の錯綜によって
膨張を続けてきたこの大都会では、「突然の大災厄」に対する防護措置とデザインが、
あれほど繰り返し叫ばれながら、ほとんどの分野で未完成のままだったのである。

そのうえ、消化作業は、眼を血走らせ逃げてくる群衆や、車によって遮られ、困難を極めた。
運転していた人間は、たちまち怒り狂った群集に引きずり出され、殴られ、踏みにじられ、血みどろの肉魂と化してしまう。
「線路があっちこっちで、飴みたいにひん曲がってるんだ。
渋谷でさ、満員の国電が、走ってる最中、高架の上で脱線して、死体も何も、まだほったらかしのままだよ」

「ペルーの大地震のときも、あの窓ガラスで、首を切られたりして、地震が終わって
だいぶたってからでも、よく人が死んだ」

死者、行方不明者は、東京都内だけで約150万人、
ほとんどが下町地帯の毒ガス、火災、ラッシュ時のターミナルにおけるパニック、
それに交通事故で死んだ人々だった。
津波の被害の大きかった千葉、神奈川、静岡県東部から、茨城、埼玉を含めた被害を合わせると、
死者、行方不明者は、優に250万人に達するだろうといわれていた。
日本の総人口の2.3%が、一瞬にして死んだのだ。
大正12年9月の関東大震災当時の東京都の人口が約220万人に対し、死者10万人。
東海道新幹線も、場所によっては線路が上下に70cmも浮いてしまい、当分使用できなかった。
自動停止装置が働いたが、脱線、転覆、追突事故が合計6列車起こり、即死者は1000名を超えた。

いったん社会全体が危機に陥ると、至るところに、贅沢で、わがままで、傲慢になった人々によって、
混乱と無秩序がひき起こされる。
地下鉄はほとんど焼けただれ、また水びたしになっており、
その水の中に何万という死体がゆっくり腐りはじめていた。
東京電力は、地域外送電に頼りながら、一日わずか3時間の夜間送電という形になった。

「銀座一帯で、ずいぶんホステスが死んだそうですな・・・・」
「慌てて飛び出して車に轢かれたり、踏み潰されたり、建物の中に閉じ込められたみたいになって、
蒸し焼きにされたのもずいぶんいるらしい。
かわいそうに・・・若い、きれいな娘たちがね・・・」
「なにか、においますね」
「死体がまだだいぶ残っていますね」
「それでも、夏場に向かってるんじゃなくて、幸いだったよ。
これが真夏だったら、必ず伝染病が大発生している。ただでさえ、怪我人で病院がいっぱいなのに・・」

築地の中央市場と芝浦、品川付近の冷凍倉庫が壊滅状態になったため、
都内の生鮮食品供給は、半身麻痺状態だった。
港湾機能が破壊され、地域外からの輸送の大部分は、当分陸路に頼らざるえなかったが、使用不可能な道路が多かた。
「首都移転」の噂が、今度こそかなりな真実味を帯びて流布しはじめ、
周辺都市、たとえば、山梨、群馬、栃木、長野では、地価が一挙に3倍から5倍になった。
板ガラスは大変な品不足で、窓の修理ができていないビルが多かった。

雪洞(ぼんぼり)









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