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がん細胞狙い撃つ粒子線治療 前立腺がんに保険適用拡大

2020年12月05日 18時31分18秒 | 病気
重粒子線や陽子線と呼ばれる放射線を使い、がんを治療する「粒子線治療」が今年4月、前立腺がんに保険適用が広がった。X線を使う従来の放射線治療に比べ、がん細胞をねらいうちできるのが特徴とされる。治療施設はまだ限られるが、保険適用によって、「高額な医療」というイメージは変わりつつある。

 関東地方に住む70代男性は昨夏、健康診断の血液検査で前立腺がんの腫瘍(しゅよう)マーカー(PSA)の数値が少し高かった。その後、前立腺がんのステージB(早期がん)と診断された。

 手術や従来の放射線治療の選択肢もあったが、インターネットで、「重粒子線治療」が今年4月から保険診療で受けられることを知った。主治医に希望を伝え、放射線医学総合研究所(放医研)病院(千葉市)を受診した。

 地元の病院で3カ月間、ホルモン療法を受けた後、放医研病院に4月、3週間入院。火曜~金曜日に毎日約10分間、重粒子線治療を受けた。今のところ、再発も副作用もなく、順調だ。

 重粒子線治療が専門の鎌田正・放医研病院長は「今の時代、患者本人や家族は治療法を詳しく調べている。知人などから情報を聞くなどして来院する人が大半です」と話す。

 重粒子線治療は、専用の施設にある加速器で、炭素イオンのビームを光速の約70%まで加速させ、患部に照射する。放医研で1994年に臨床試験が始まり、2003年、検査費や入院費など一部に保険が使える「先進医療」になった。

 最初の保険適用は16年。筋肉や脂肪組織にできる「骨軟部腫瘍(しゅよう)」の一部が対象になった。一方、それ以外のがんでは、「先進医療」のうち、日本放射線腫瘍学会による統一の治療方針で進める「A」として、実施してきた。

 学会のまとめでは、16年5月~17年6月に先進医療Aで重粒子線治療を受けた患者数は1861人。このうち6割は前立腺がんの患者だった。

 厚労省の今年初めの会議では、前立腺がんへの有効性と安全性が議論された。転移がないなどの患者に対しては、すでに保険適用されているIMRT(多方向から高い精度で放射線を当てる強度変調放射線治療)と比べ、上回ることは示されていないものの、同等性は示されている、と判断され、保険適用が決まった。

 重粒子線治療が受けられる施設はほかに、群馬、神奈川、大阪、兵庫、佐賀の計6カ所。施設数は少ないが、従来の放射線治療に比べ、照射する回数は少なくて済む。

 鎌田さんは「20年以上やってきて、副作用や治療頻度が少なくて済む『良い治療』だと実感している」と話す。統計的にきちんとした差が出るには、まだ時間がかかり、IMRTと「同等」となっているという。「通院の手間や治療期間などを踏まえ、患者さんが自分の価値観で治療を選ぶ時代になっている」と語る。

■従来の自己負担約300万円

 前立腺がんと頭頸部(けいぶ)がんは、水素イオンを使う「陽子線治療」も4月から保険適用になった。陽子線治療施設は全国に17カ所ある。

 昨年開業した大阪陽子線クリニック(大阪市)では現在、陽子線治療は前立腺がんの患者だけに限っている。このクリニックはIMRTの施設もあり、来院した患者にはIMRTと陽子線治療の両方の治療計画を示して詳しく説明する。もともと陽子線治療を希望してくる患者が多いこともあり、大半が陽子線を選ぶという。ほかの多くの施設でも、粒子線治療の主体は前立腺がんだ。

 先進医療の場合、陽子線、重粒子線ともに、治療にかかる300万円前後は自己負担になる。保険が適用されると、高額療養費制度の対象となり、患者の負担は所得に応じて数万円で収まる場合もある。

 このため、がん保険の「先進医療特約」をアピールする動きもあった。だが、先進医療の実績では、4月に保険がきくようになった前立腺がんが粒子線治療の大半を占めていたことを考えれば、特約の利点は小さくなったというとらえ方もある。

 この点について、生命保険会社の関係者は「がんになっても実際に先進医療を受けた人は数%」と説明。特約の給付を受ける人数がそれほど多くないため、特約にかかる保険料は月100円前後という。「がんになってお金がかかるのは入院と通院と三大治療(手術、薬、放射線)なので、そこに備えることがまず重要」と指摘する。そのうえで、まだ保険適用されていないがんがあることも踏まえ、「先進医療の特約はあくまでプラスアルファとして考えてほしい」と話す。

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