~第五章 沈み行く国~
「ブラウン運動」
「ラプラスの魔」
まるで大統領が毛だらけの尻をむき出して、便器にしゃがんでいるところを見たように、
汚らしい臓腑みたいなプライバシーに、うっかり踏み込んでしまったバツの悪さが、彼を狼狽させた。
日本という国は滅びるかもしれないのだ。
国土を物理的に喪失し、多数の国民が死に、
生き残った国民も「故郷」を失い・・・
大正12年の大震災のとき、被災者救援の名目で入ってきたアメリカの軍艦が、どさくさにまぎれて、
東京湾内の水深測量をやったことを、覚えている連中がいたのである。
特にアメリカでは、トレーラー・ハウスを含めて、常時5千戸のストックがあった。
同時に日本の政府は、世界各地の中古船を買いあさりはじめた。
ほとんど言い値で買い集められ、なおカネに糸目をつけず捜されていた。
そのため世界各地の造船株は、新規受注をあてこんで、急騰したほどだった。
もちろん、緊急に「被災者住宅」にあてる、という名目だったが・・・
「もうひとつは・・・おそらく本格的なインフレだ。
スタグフレーションの中の、インフレだけが、これまで以上に暴走をはじめるおそれがある」
「鉄鋼、セメント、石油などの市場価格は、相当な騰貴ぶりですね」
「この国には、近代最初の関東大震災があった。
10万もの人が死に、何千という朝鮮人が、流言によって民衆に殺され、また天皇政府ににらまれていた社会主義者が暗殺された。
「日本将棋は、チェスよりずっと複雑で面白いぞ。
なにしろ敵の駒をとったら、今度はそれを味方の駒として使えるんだからな。
毛沢東やボー・グエン・ザップのゲリラ理論みたいだ。」
「日本政府はダミーを使って、かなり手の混んだやり方で、海外の土地を買い続けています。
この間の累積が出たのを見ると、世界各地で相当な面積になります。」
「いや、その他に、未開拓平野部をかなり買っています」
「政府の動きの裏に・・・何かおかしなものが横たわっているみたいだな」
石油にかわって石炭が、暖房燃料として、また脚光をあびはじめた。
海中航路標識
高マンガンスチールの耐圧殻
水中照明弾
海膨・・・海底の隆起部分
バラストを次々と落としていった。
浮上速度ぎりぎりの安全限界を計算し・・・
あまり浮上速度が速くなりすぎると、圧力の急激な減少のため、フロートに異常が起こることも考えられる。
そうなれば、数トンのゴンドラはそのまま、海底へ今度は浮き上がる望みもなく沈んでいくのだ。
「対潜哨戒機PS1は艇首に消波装置をもってて、波高3.5mまでの離着水ができるんです」
「MAD(磁気潜水艦探知装置)の針が振り切れるほど強い反応があったよ」
TW型重力測定器・・・飛行機に積んで高度1万mで飛びながら検出できる装置。
「日本海溝付近の負の異常値が、三陸沖から九十九里沖にかけては、今、おそろしい速さで東へ動いている。
富士火山帯の東では、逆に西へ動いている。
関東沖のマイネス異常値は、刻々と強まっている。
日本海溝の海溝底は、東側で、もう二、三百mも深くなったんじゃないかな」
「重力の大異常帯と、あの濃霧発生地域とはほとんど重なりあっている」
「重力異常と、濃霧?」
「重力が、極端に大きな勾配でもって減少しているから、
あの付近の海面は、測地線(ジオイド)からみて、かなりへこんでいるんだ。」
「海水温度の垂直分布もずいぶん違っている。
重力が小さいため、深部の冷たい海水が上のほうに上がってきている。
いくぶんは断熱膨張だってきているかもしれん。
だから負の重力異常帯に沿って、大冷水魂が出現し、そいつに黒潮がぶつかって濃霧を発生しているんだ」
「まぁ、地球全体の大きな重力分布の変動は以前にも見つけた実績をもっているが・・・」
「このオーストラリアは、カンガルーとアボリジニしかいない流刑大陸だった
そこに送り込まれた白人たちは、相対的に無限といっていいスペースの中で、
羊を快、牛を飼い、ゆっくりのんびり住める領域を拡大してきた。」
「ご希望は?どのくらいですかな?」
「できれば、将来二百万人ないし五百万人を受け入れて頂ければと思います」
「本当に・・・あの日本が・・・アトランティスのように沈んでしまうのですか?」
「難民キャンプ、強制収容所、ゲットー・・・どんな形になるか知りませんが、
とにかく将来にかけて、たいへんな厄介事を引き受けることになりそうですな・・・」
「半分以上・・・助からんかもしれませんね。」
「移住できた連中も、これから先、世界の厄介者にされて、いろんな目にあうでしょう。
迫害されたり、遺棄されたり、仲間同士殺しあったり・・・
自分たちの国土というものが、この地上からなくなるんですからね。
私たちユダヤ人が、何千年来、全世界で味わいつくしてきた辛酸を、彼らはこれからなめつくすでしょう。
あの東洋の、小さな、閉鎖的な島で、ぬくぬくとした歴史を楽しんできた民族が・・・」
田夫野人(でんぷやじん)
拱手傍観(きょうしゅぼうかん)
「富士山に警報が出たそうです」
「大沢くずれの噴気が激しくなって、宝永火口のすぐ下でも噴気が始まったそうです。
山頂測候所は非常要員を残して、全員退避しました」
歙州石(きゅうしゅうせき)・・・硯
「地域別ではなく、三つのケース別に分けてあります」
「一つは、日本民族の一部が、どこかに新しい国を作る場合のために、
もう一つは、各地に分散し、どこかの国に帰化してしまう場合のために、
もう一つは。。。世界のどこにも容れられない人々のために・・・」
「宝永火口がとうとう噴いたな・・・だが、あの程度なら大したことはあるまい」
「関西はこのところ地盤沈下で大変なんだ。
場所によっては一日2cmもの割合で、地面が下がっている」
熱い煩悶となって・・・
大儀滅親
突然ずっしりと重みを増す紐帯が・・・
蹣跚(まんさん)と歩く紳士・・・よろよろと歩くさま
「完全に沈んでいる」
「しかも、沈む前に、裂けている・・・」
「トンネル効果って・・・原子核の場合に考えられたモデルだろ?」
「固液2相の臨界領域付近で起こるエネルギー移動だ」
「氷河だ」
「考えてもみろ。地下のマグマは、どうしてあんなに、トンネル状の穴をうがって噴出してくるんだ?
富士の風穴は、溶け残った溶岩があとから流れ出した跡だと考えられているが、
じゃぁ、どうして液相溶岩が、あんなに見事なトンネルをうがつんだ?」
壷井唯男「地震体積モデル」
「太平洋岸で地震発生源の垂直分布から推察されるマントル流の下降分枝は、下降開始面において、
23度、深度百キロを越えるあたりで急に角度が増して、約60度の傾斜で、大陸に向かって、潜り込んでいる。」
「今までどうしても、日本海溝の東側で海底隆起が起こらない原因がわからなかったが、
このモデルから考えるとすっきりする・・・」
「日本はやや回転しながらひきずりこまれる・・・」
「さらに、おそらくこのエネルギートンネルに沿って、日本海側から日本列島深部に斜めに深くなっていく、
破砕帯なり、液相マグマを潤滑剤とするすべり面なりができて、
日本列島は海溝へ向かって滑っていく・・・日本海側に蓄積されたエネルギーに横に押されて・・」
「もう国際投機筋では、かなり円が売り込まれ、外債にも投げが出そうな徴候です。
欧州では、日本向け決済を一時停止した所も出始めているし・・・
どうも特使派遣先から、情報が漏れ出したと見ていいようですな」
粉骨砕身
「欧州市場の機関投資のやり口を見ていると、公社債回収はいささか宋襄の陣(そうじょうのじん)の観がありますがね」
徒手空拳・紐帯(ちゅうたい)・
不定期船(トランパー)
「富士山の爆発は、かなり早くなると思わなきゃならんだろう」
「静岡=糸魚川構造線の南部で、かなりエネルギーがたまりだしている。
地温も、異常に上昇中。・・・構造線の西側が、南南東へ水平移動している・・・」
「予想される形式は、宝永山と愛鷹山(あしたかやま)をむすぶ山腹噴火。
だがわからんぞ。大爆発する可能性も依然強い」
「宝永=愛鷹ラインとすると、沼津がもろにやられるな・・・」
「富士火山帯が本格的に暴れはじめたら、日本の東西陸上交通は断ち切られるぞ」
彼らの闊達(かったつ)さ、寛闊(かんかつ)さ、さわやかさを、誰が非難できそう。
1 性格や気持ちがおおらかで、ゆったりしていること。また、そのさま。「寛闊な心」
. 2 服装や性格・気質などがはでなこと。また、そのさま。
とたんに酔いの底から、どっと欲情がこみ上げてきて、彼は遮二無二玲子を抱きしめ、荒々しく乳房をもみしだき、
唇をかみ、舌をからませ、激しく突き進み、ついに長い激しい絶叫を、何度も何度も絞り出すまでやめなかった。
「あとで、とても恥ずかしくなったわ。
あなたが私のこと、誰とでも寝てみたがる色情狂(ニンフォマニア)と思ったりしないかって・・・」
「私、小さいときドミエか誰かの”失楽園”の銅版画が好きだった。
天使の中でもっとも美しかったのに、その驕慢(きょうまん)さから神に背いて地獄に落とされ、
醜い悪魔となったルシファーが、神への復讐の念に燃えて、エデンの園にまっしぐらに飛んでいくシーンがあるの。
エデンの園に向かって、蝙蝠みたいな大きな羽を広げて、真っ逆さまに降りていくのよ。」
そして今、何度目かの潜水と浮上のあち、くしゃくしゃのシーツの上に、
泳ぎのあとの放縦さでぐったりと体を投げ出していると・・・
近く、市場の長期閉鎖がある、という噂が兜町、北浜でささやかれはじめ、
今度こそパニックだ、どうしようもない、というつぶやきが聞こえ始めたが、
人々は、まだ方向性を見定めきれず、不安の中に立ちすくんでいた。
街の書店では、地震や地学関係の一般解説書がとぶように売れた。
札びらで横面を叩くような中古船、老朽船の買い付けは、世界の船舶海運業界の注目を集めはじめていた日本の保有船腹の増大ぶりを、いっそう際立たせはじめた。
日本の猛烈な「買い」ぶりは、世界の船価、下取り価格の高騰を招きそうになり、
国際船主協会にクレームが殺到しはじめた。
アジア東部の大陸棚、とりわけ日本列島弧を中心として、巨大な地殻変動が起こりかけている、
というアメリカ測地学会の発表が電撃のように世界を揺すぶったのは、
3月11日、当初予定されていた政府発表の期日の三日前だった。
「我々は、アトランティス大陸伝説のことを考えている」
「日本列島付近に地殻の大変動。日本はアジアの”アトランティス”になるか?」
「日本消滅の日せまる」
という、衝撃的な見出しのニュースを全世界に流した。
AFP通信の記事は長文のもので、より進んだ解説を加え、日本列島の主な四つの島が、
列島下部に起こりつつあるマントル流変動によって、近く、急速に海底に沈み、
それ以前に、地上の火山爆発と地震によって日本国土は壊滅的な破壊を被るだろうと、図解まで添えて詳しく報道していた。
「スイスか。スイスなら君の働き口はあると思うな」
「あの国は山国のくせに、海底調査や海洋開発に不思議と熱心だしな。
深海用潜水艦も建造してるし、スキューバーダイビングの記録保持者もいるはずだ」
「この変動は、ここ一年以内の間に起こり、その変動の結果、
地震その他によって国土全域が破壊されるばかりでなく、
日本はそのほぼ全域が、海中に没し去ることになる、ということであります。」
「一国の首相の国会演説が、地学をテーマにしてなされるなんてことは歴史的にみて、前代未聞だろうな・・・」
「日本の首相の演説が、同時通訳付の宇宙中継で、世界各国のテレビ、ラジオに生中継されるのは、これが初めてだろう・・・」
「富士山がいよいよ噴火するらしいぞ。」
「宝永火口の下で三箇所、噴気がはじまった。箱根の神山と大涌谷も、今朝から噴気と小爆発をはじめているらしい」
この日、3月12日午後1時11分、宝永火口の真下、海抜2500m付近の山腹からはじまった富士山の大噴火は、
側火山の宝永山を吹き飛ばし、宝永4年1707年の大噴火以来、実に二百数十年ぶりに富士休火山は大活動をはじめたのである。
山腹噴火とほとんど前後して、南東山麓の越前山、愛鷹山、箱根神山なども爆発を開始した。
付近には大量の灰と火山弾が降り、東名高速は御殿場付近で不通になり、東海道線、東海道新幹線は、沼津~富士間と、
三島付近で架線切断、列車転覆を起こし、火山弾のため、富士~小田原間が不通になった。
噴火は二時間続き、いったん小康状態に入ったあと、午後3時40分頃から、再び頂上付近から大爆発が起こりはじめ、
今度は大沢くずれあたりからの爆発が、頂上部を完全に吹きとばした。
二度目の大噴火時は、今度は、箱根愛鷹方面と反対の、山梨県側北東部の太宝山と頂上との間に火口が出現し、
ここからは、永保3年1083年の噴火以来、実に九百年ぶりに大量の溶岩が噴出し、山麓に向かって流れはじめ、
青木ヶ原樹海を再び火の海と化し、付近の町やホテル群を呑みこんで、西湖、本栖湖の二つの湖になだれこんだ。
だが、この二回の大噴火は、後に続くさらに大きい、貞観(じょうがん)6年864年の噴火を遥かに凌ぐといわれる大爆発の序章にすぎなかった。火山爆発に付随してよく起こる現象だが、10時簡に火山灰まじりの泥水のような豪雨が降った。
富士山は頂上部を高さ三百mにわたって吹きとばす爆発を起こした。
山頂に北北西から南南東にかけて生じた裂け目は、富士山を真っ二つに引き裂き、山容は一瞬にして変わってしまった。
「小富士噴火」とのちに呼ばれたこの噴火は、富士山の下に隠れて二万年以上も活動しておらず、
もう噴火することはない、といわれていた古富士が起こした爆発であった。
三回の爆発で、降灰、火山弾、溶岩、衝撃波などによって死亡した人々は、
山梨、静岡、神奈川西部で二万人を超えた。
富士山は、頂上部が吹きとばされたあと陥没し、全体として七百mも低くなり、さらに噴火のあと、
付近一帯の地域が1m以上も沈下した。
山容はまったく変わってしまい、あの美しい円錐形のコニーデ、万葉のころより歌い続けられ、
語り続けられてきた日本の象徴ともいうべき名山は、ギザギザになった火口壁と直径数キロにわたる地獄の釜のようなカルデラ、
そして北北西から南南東にかけて生じた火口壁の裂け目によって、神奈川、山梨から見ると二つの山になってしまったように見えた。
降灰は小田原付近で2m、甲府で1m、東京都内でも東部は20cm。
富士山爆発の三日後、今度は浅間山が大爆発を起こした。
今度は群馬県北部の武尊山(ほたかやま)が活動を開始、
さらに武尊山北方の燧ケ岳、日光の奥の白根山、那須高原の大佐飛岳(おおさびだけ)など、
北関東の火山群も一斉に活動を開始した。
西日本と東日本がフォッサ・マグナを境に、かなりな速度でずれはじめた。
「とりあえず、極右の連中が、中国やソ連が攻めてくるとか、あんな所へ移住したら、
奴隷のようにこき使われるとか、悪質なデマをとばして、国民を脅かしているのを取り締まれないかね」
流言蜚語(ひご)罪
やがて、阿蘇と十勝岳が、ほとんど同時に活動を開始した。
中部地方では、焼岳(やけだけ)、立山の噴火がはじまった。
人の心が一筋の芋をめぐって豺狼(さいろう)のごとくいがみあうあの地獄を味わわさないために・・・
1 やまいぬとおおかみ。
2 残酷で欲深い人。むごたらしいことをする人。
シリアの蝗害(こうがい)・・・バッタの被害は「蝗害(こうがい)」と言われ
蠢動-しゅんどう-
1 虫などがうごめくこと。また、物がもぞもぞ動くこと。
2 つまらないもの、力のないものなどが騒ぎ動くこと。「不満分子が蠢動している」
寸毫(読み)スンゴウ・・・きわめてわずかなこと。ほんの少し。「寸毫も悪意はない」
ナイビア・・・もとはドイツ領で「南西アフリカ」と呼ばれていたこの地域は、
南アフリカの差別政策(アパルトヘイト)が問題となり、エチオピア、リビアの提訴もあって、
国連総会は1968年までに南西アフリカの独立を決めた。
「ブラウン運動」
「ラプラスの魔」
まるで大統領が毛だらけの尻をむき出して、便器にしゃがんでいるところを見たように、
汚らしい臓腑みたいなプライバシーに、うっかり踏み込んでしまったバツの悪さが、彼を狼狽させた。
日本という国は滅びるかもしれないのだ。
国土を物理的に喪失し、多数の国民が死に、
生き残った国民も「故郷」を失い・・・
大正12年の大震災のとき、被災者救援の名目で入ってきたアメリカの軍艦が、どさくさにまぎれて、
東京湾内の水深測量をやったことを、覚えている連中がいたのである。
特にアメリカでは、トレーラー・ハウスを含めて、常時5千戸のストックがあった。
同時に日本の政府は、世界各地の中古船を買いあさりはじめた。
ほとんど言い値で買い集められ、なおカネに糸目をつけず捜されていた。
そのため世界各地の造船株は、新規受注をあてこんで、急騰したほどだった。
もちろん、緊急に「被災者住宅」にあてる、という名目だったが・・・
「もうひとつは・・・おそらく本格的なインフレだ。
スタグフレーションの中の、インフレだけが、これまで以上に暴走をはじめるおそれがある」
「鉄鋼、セメント、石油などの市場価格は、相当な騰貴ぶりですね」
「この国には、近代最初の関東大震災があった。
10万もの人が死に、何千という朝鮮人が、流言によって民衆に殺され、また天皇政府ににらまれていた社会主義者が暗殺された。
「日本将棋は、チェスよりずっと複雑で面白いぞ。
なにしろ敵の駒をとったら、今度はそれを味方の駒として使えるんだからな。
毛沢東やボー・グエン・ザップのゲリラ理論みたいだ。」
「日本政府はダミーを使って、かなり手の混んだやり方で、海外の土地を買い続けています。
この間の累積が出たのを見ると、世界各地で相当な面積になります。」
「いや、その他に、未開拓平野部をかなり買っています」
「政府の動きの裏に・・・何かおかしなものが横たわっているみたいだな」
石油にかわって石炭が、暖房燃料として、また脚光をあびはじめた。
海中航路標識
高マンガンスチールの耐圧殻
水中照明弾
海膨・・・海底の隆起部分
バラストを次々と落としていった。
浮上速度ぎりぎりの安全限界を計算し・・・
あまり浮上速度が速くなりすぎると、圧力の急激な減少のため、フロートに異常が起こることも考えられる。
そうなれば、数トンのゴンドラはそのまま、海底へ今度は浮き上がる望みもなく沈んでいくのだ。
「対潜哨戒機PS1は艇首に消波装置をもってて、波高3.5mまでの離着水ができるんです」
「MAD(磁気潜水艦探知装置)の針が振り切れるほど強い反応があったよ」
TW型重力測定器・・・飛行機に積んで高度1万mで飛びながら検出できる装置。
「日本海溝付近の負の異常値が、三陸沖から九十九里沖にかけては、今、おそろしい速さで東へ動いている。
富士火山帯の東では、逆に西へ動いている。
関東沖のマイネス異常値は、刻々と強まっている。
日本海溝の海溝底は、東側で、もう二、三百mも深くなったんじゃないかな」
「重力の大異常帯と、あの濃霧発生地域とはほとんど重なりあっている」
「重力異常と、濃霧?」
「重力が、極端に大きな勾配でもって減少しているから、
あの付近の海面は、測地線(ジオイド)からみて、かなりへこんでいるんだ。」
「海水温度の垂直分布もずいぶん違っている。
重力が小さいため、深部の冷たい海水が上のほうに上がってきている。
いくぶんは断熱膨張だってきているかもしれん。
だから負の重力異常帯に沿って、大冷水魂が出現し、そいつに黒潮がぶつかって濃霧を発生しているんだ」
「まぁ、地球全体の大きな重力分布の変動は以前にも見つけた実績をもっているが・・・」
「このオーストラリアは、カンガルーとアボリジニしかいない流刑大陸だった
そこに送り込まれた白人たちは、相対的に無限といっていいスペースの中で、
羊を快、牛を飼い、ゆっくりのんびり住める領域を拡大してきた。」
「ご希望は?どのくらいですかな?」
「できれば、将来二百万人ないし五百万人を受け入れて頂ければと思います」
「本当に・・・あの日本が・・・アトランティスのように沈んでしまうのですか?」
「難民キャンプ、強制収容所、ゲットー・・・どんな形になるか知りませんが、
とにかく将来にかけて、たいへんな厄介事を引き受けることになりそうですな・・・」
「半分以上・・・助からんかもしれませんね。」
「移住できた連中も、これから先、世界の厄介者にされて、いろんな目にあうでしょう。
迫害されたり、遺棄されたり、仲間同士殺しあったり・・・
自分たちの国土というものが、この地上からなくなるんですからね。
私たちユダヤ人が、何千年来、全世界で味わいつくしてきた辛酸を、彼らはこれからなめつくすでしょう。
あの東洋の、小さな、閉鎖的な島で、ぬくぬくとした歴史を楽しんできた民族が・・・」
田夫野人(でんぷやじん)
拱手傍観(きょうしゅぼうかん)
「富士山に警報が出たそうです」
「大沢くずれの噴気が激しくなって、宝永火口のすぐ下でも噴気が始まったそうです。
山頂測候所は非常要員を残して、全員退避しました」
歙州石(きゅうしゅうせき)・・・硯
「地域別ではなく、三つのケース別に分けてあります」
「一つは、日本民族の一部が、どこかに新しい国を作る場合のために、
もう一つは、各地に分散し、どこかの国に帰化してしまう場合のために、
もう一つは。。。世界のどこにも容れられない人々のために・・・」
「宝永火口がとうとう噴いたな・・・だが、あの程度なら大したことはあるまい」
「関西はこのところ地盤沈下で大変なんだ。
場所によっては一日2cmもの割合で、地面が下がっている」
熱い煩悶となって・・・
大儀滅親
突然ずっしりと重みを増す紐帯が・・・
蹣跚(まんさん)と歩く紳士・・・よろよろと歩くさま
「完全に沈んでいる」
「しかも、沈む前に、裂けている・・・」
「トンネル効果って・・・原子核の場合に考えられたモデルだろ?」
「固液2相の臨界領域付近で起こるエネルギー移動だ」
「氷河だ」
「考えてもみろ。地下のマグマは、どうしてあんなに、トンネル状の穴をうがって噴出してくるんだ?
富士の風穴は、溶け残った溶岩があとから流れ出した跡だと考えられているが、
じゃぁ、どうして液相溶岩が、あんなに見事なトンネルをうがつんだ?」
壷井唯男「地震体積モデル」
「太平洋岸で地震発生源の垂直分布から推察されるマントル流の下降分枝は、下降開始面において、
23度、深度百キロを越えるあたりで急に角度が増して、約60度の傾斜で、大陸に向かって、潜り込んでいる。」
「今までどうしても、日本海溝の東側で海底隆起が起こらない原因がわからなかったが、
このモデルから考えるとすっきりする・・・」
「日本はやや回転しながらひきずりこまれる・・・」
「さらに、おそらくこのエネルギートンネルに沿って、日本海側から日本列島深部に斜めに深くなっていく、
破砕帯なり、液相マグマを潤滑剤とするすべり面なりができて、
日本列島は海溝へ向かって滑っていく・・・日本海側に蓄積されたエネルギーに横に押されて・・」
「もう国際投機筋では、かなり円が売り込まれ、外債にも投げが出そうな徴候です。
欧州では、日本向け決済を一時停止した所も出始めているし・・・
どうも特使派遣先から、情報が漏れ出したと見ていいようですな」
粉骨砕身
「欧州市場の機関投資のやり口を見ていると、公社債回収はいささか宋襄の陣(そうじょうのじん)の観がありますがね」
徒手空拳・紐帯(ちゅうたい)・
不定期船(トランパー)
「富士山の爆発は、かなり早くなると思わなきゃならんだろう」
「静岡=糸魚川構造線の南部で、かなりエネルギーがたまりだしている。
地温も、異常に上昇中。・・・構造線の西側が、南南東へ水平移動している・・・」
「予想される形式は、宝永山と愛鷹山(あしたかやま)をむすぶ山腹噴火。
だがわからんぞ。大爆発する可能性も依然強い」
「宝永=愛鷹ラインとすると、沼津がもろにやられるな・・・」
「富士火山帯が本格的に暴れはじめたら、日本の東西陸上交通は断ち切られるぞ」
彼らの闊達(かったつ)さ、寛闊(かんかつ)さ、さわやかさを、誰が非難できそう。
1 性格や気持ちがおおらかで、ゆったりしていること。また、そのさま。「寛闊な心」
. 2 服装や性格・気質などがはでなこと。また、そのさま。
とたんに酔いの底から、どっと欲情がこみ上げてきて、彼は遮二無二玲子を抱きしめ、荒々しく乳房をもみしだき、
唇をかみ、舌をからませ、激しく突き進み、ついに長い激しい絶叫を、何度も何度も絞り出すまでやめなかった。
「あとで、とても恥ずかしくなったわ。
あなたが私のこと、誰とでも寝てみたがる色情狂(ニンフォマニア)と思ったりしないかって・・・」
「私、小さいときドミエか誰かの”失楽園”の銅版画が好きだった。
天使の中でもっとも美しかったのに、その驕慢(きょうまん)さから神に背いて地獄に落とされ、
醜い悪魔となったルシファーが、神への復讐の念に燃えて、エデンの園にまっしぐらに飛んでいくシーンがあるの。
エデンの園に向かって、蝙蝠みたいな大きな羽を広げて、真っ逆さまに降りていくのよ。」
そして今、何度目かの潜水と浮上のあち、くしゃくしゃのシーツの上に、
泳ぎのあとの放縦さでぐったりと体を投げ出していると・・・
近く、市場の長期閉鎖がある、という噂が兜町、北浜でささやかれはじめ、
今度こそパニックだ、どうしようもない、というつぶやきが聞こえ始めたが、
人々は、まだ方向性を見定めきれず、不安の中に立ちすくんでいた。
街の書店では、地震や地学関係の一般解説書がとぶように売れた。
札びらで横面を叩くような中古船、老朽船の買い付けは、世界の船舶海運業界の注目を集めはじめていた日本の保有船腹の増大ぶりを、いっそう際立たせはじめた。
日本の猛烈な「買い」ぶりは、世界の船価、下取り価格の高騰を招きそうになり、
国際船主協会にクレームが殺到しはじめた。
アジア東部の大陸棚、とりわけ日本列島弧を中心として、巨大な地殻変動が起こりかけている、
というアメリカ測地学会の発表が電撃のように世界を揺すぶったのは、
3月11日、当初予定されていた政府発表の期日の三日前だった。
「我々は、アトランティス大陸伝説のことを考えている」
「日本列島付近に地殻の大変動。日本はアジアの”アトランティス”になるか?」
「日本消滅の日せまる」
という、衝撃的な見出しのニュースを全世界に流した。
AFP通信の記事は長文のもので、より進んだ解説を加え、日本列島の主な四つの島が、
列島下部に起こりつつあるマントル流変動によって、近く、急速に海底に沈み、
それ以前に、地上の火山爆発と地震によって日本国土は壊滅的な破壊を被るだろうと、図解まで添えて詳しく報道していた。
「スイスか。スイスなら君の働き口はあると思うな」
「あの国は山国のくせに、海底調査や海洋開発に不思議と熱心だしな。
深海用潜水艦も建造してるし、スキューバーダイビングの記録保持者もいるはずだ」
「この変動は、ここ一年以内の間に起こり、その変動の結果、
地震その他によって国土全域が破壊されるばかりでなく、
日本はそのほぼ全域が、海中に没し去ることになる、ということであります。」
「一国の首相の国会演説が、地学をテーマにしてなされるなんてことは歴史的にみて、前代未聞だろうな・・・」
「日本の首相の演説が、同時通訳付の宇宙中継で、世界各国のテレビ、ラジオに生中継されるのは、これが初めてだろう・・・」
「富士山がいよいよ噴火するらしいぞ。」
「宝永火口の下で三箇所、噴気がはじまった。箱根の神山と大涌谷も、今朝から噴気と小爆発をはじめているらしい」
この日、3月12日午後1時11分、宝永火口の真下、海抜2500m付近の山腹からはじまった富士山の大噴火は、
側火山の宝永山を吹き飛ばし、宝永4年1707年の大噴火以来、実に二百数十年ぶりに富士休火山は大活動をはじめたのである。
山腹噴火とほとんど前後して、南東山麓の越前山、愛鷹山、箱根神山なども爆発を開始した。
付近には大量の灰と火山弾が降り、東名高速は御殿場付近で不通になり、東海道線、東海道新幹線は、沼津~富士間と、
三島付近で架線切断、列車転覆を起こし、火山弾のため、富士~小田原間が不通になった。
噴火は二時間続き、いったん小康状態に入ったあと、午後3時40分頃から、再び頂上付近から大爆発が起こりはじめ、
今度は大沢くずれあたりからの爆発が、頂上部を完全に吹きとばした。
二度目の大噴火時は、今度は、箱根愛鷹方面と反対の、山梨県側北東部の太宝山と頂上との間に火口が出現し、
ここからは、永保3年1083年の噴火以来、実に九百年ぶりに大量の溶岩が噴出し、山麓に向かって流れはじめ、
青木ヶ原樹海を再び火の海と化し、付近の町やホテル群を呑みこんで、西湖、本栖湖の二つの湖になだれこんだ。
だが、この二回の大噴火は、後に続くさらに大きい、貞観(じょうがん)6年864年の噴火を遥かに凌ぐといわれる大爆発の序章にすぎなかった。火山爆発に付随してよく起こる現象だが、10時簡に火山灰まじりの泥水のような豪雨が降った。
富士山は頂上部を高さ三百mにわたって吹きとばす爆発を起こした。
山頂に北北西から南南東にかけて生じた裂け目は、富士山を真っ二つに引き裂き、山容は一瞬にして変わってしまった。
「小富士噴火」とのちに呼ばれたこの噴火は、富士山の下に隠れて二万年以上も活動しておらず、
もう噴火することはない、といわれていた古富士が起こした爆発であった。
三回の爆発で、降灰、火山弾、溶岩、衝撃波などによって死亡した人々は、
山梨、静岡、神奈川西部で二万人を超えた。
富士山は、頂上部が吹きとばされたあと陥没し、全体として七百mも低くなり、さらに噴火のあと、
付近一帯の地域が1m以上も沈下した。
山容はまったく変わってしまい、あの美しい円錐形のコニーデ、万葉のころより歌い続けられ、
語り続けられてきた日本の象徴ともいうべき名山は、ギザギザになった火口壁と直径数キロにわたる地獄の釜のようなカルデラ、
そして北北西から南南東にかけて生じた火口壁の裂け目によって、神奈川、山梨から見ると二つの山になってしまったように見えた。
降灰は小田原付近で2m、甲府で1m、東京都内でも東部は20cm。
富士山爆発の三日後、今度は浅間山が大爆発を起こした。
今度は群馬県北部の武尊山(ほたかやま)が活動を開始、
さらに武尊山北方の燧ケ岳、日光の奥の白根山、那須高原の大佐飛岳(おおさびだけ)など、
北関東の火山群も一斉に活動を開始した。
西日本と東日本がフォッサ・マグナを境に、かなりな速度でずれはじめた。
「とりあえず、極右の連中が、中国やソ連が攻めてくるとか、あんな所へ移住したら、
奴隷のようにこき使われるとか、悪質なデマをとばして、国民を脅かしているのを取り締まれないかね」
流言蜚語(ひご)罪
やがて、阿蘇と十勝岳が、ほとんど同時に活動を開始した。
中部地方では、焼岳(やけだけ)、立山の噴火がはじまった。
人の心が一筋の芋をめぐって豺狼(さいろう)のごとくいがみあうあの地獄を味わわさないために・・・
1 やまいぬとおおかみ。
2 残酷で欲深い人。むごたらしいことをする人。
シリアの蝗害(こうがい)・・・バッタの被害は「蝗害(こうがい)」と言われ
蠢動-しゅんどう-
1 虫などがうごめくこと。また、物がもぞもぞ動くこと。
2 つまらないもの、力のないものなどが騒ぎ動くこと。「不満分子が蠢動している」
寸毫(読み)スンゴウ・・・きわめてわずかなこと。ほんの少し。「寸毫も悪意はない」
ナイビア・・・もとはドイツ領で「南西アフリカ」と呼ばれていたこの地域は、
南アフリカの差別政策(アパルトヘイト)が問題となり、エチオピア、リビアの提訴もあって、
国連総会は1968年までに南西アフリカの独立を決めた。