今年ほどウィスキーを飲まなかった年はありませんでした。
相変わらず需給逼迫によるウィスキー市場のバブル化が続き、
価格が軒並み高騰しただけでなく、総体的なクオリティの低下も
目に付くようになって、強く嗜好をそそられるものに出会わなく
なってしまったことも、縁遠くなった理由の一つです。
しかし、慣例ですので、今年良かったウィスキーと、その対極
だったものを選んでみました。
良かったのは、バルブレアのプライベートボトルで、熟成が
14年と若かったのですが、バルブレアらしい麦芽の籾と胚芽の
味がきちんと残りつつもしっかり熟成し、さらにそれらに負けない
アルコールの香味が切れ上がる極上の一本でした。
対極だったのは、ボウモアのテンペストで、今となっては何故
これを買ったのか分からないほどですが、記憶を遡ってみると、
昨年末にオフィス近くのバーで、ダルヴィニーの後に続けて
飲んだときに感心したからではないかと思います。ダルヴィニーの
強力なヴァニラ香が後を引くなかで、痩せたボウモアが反って
バランスよく、かつてのカスク・ストレングスを想起させる、古き
良きボウモアの個性を思い出させたからだと思います。
現実は到底そのレベルに辿り着くものではなく、10年の熟成
表記に目を疑うほどの痩せぶりで、相当にコスト優先でブレンド
されたものだと思います。
ウィスキーというのは商品としては困った存在で、ここ10年の
ように新しい客層が殺到すると、あっという間に供給力が不足
するため、ブランド基準でみるとスタグフレーションが進行して
しまうことが起こります。その逆も起こります。これまでもこの
歴史を繰り返してきましたし、これからも起こるでしょう。
現在が従来と違うのは、メーカがグローバル化してマーケティ
ングに注力していることで、ワイン同様に「飲みやすい」という
商品紹介ができるよう、かんたんにブレンドを変更してしまう
ことです。
ここ数年は、原価の高いシェリー樽原酒を入れ、同時にコストを
下げるためにパンチョン樽物とグレーン原酒の割合を増やし、
バレル樽物でバランスを取るというブレンド方法が流行のようです。
この流行のお陰で、メーカはシェリー樽原酒を安いコストで
最大限活用するブレンドミックスを発見したようですので、もう
かつてのような香味と熟成が深く両立するような豪華なウィ
スキーには滅多にお目に掛かれなくなるでしょう。こうなったら、
もはや本当に美味しいブレンデッドモルトは自分で作るしか
なくなります。そういう岐路に近づいた年だったかなと思いました。
もし大手メーカに期待できる可能性があるとすれば、サントリーが
ビーム買収を機に、日米で蒸留酒製造をコラボレーションさせる
と表明していることです。この一連の協業のなかで、ブレンドが
イノヴェーションを起こして新しいマジックを発見できるとするなら、
いつか再びボウモアもIslay Original Maltのプライドを持った
製品を産み出して一線に復帰してくるものと思われます。
あと5年か10年くらいでしょうか。
感謝!