波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

米公共放送局PBSのAL Qaeda's New Frontを見て

2005-07-09 15:26:11 | 雑感

 今年の一月末,米公共放送局PBSの老舗報道番組Frontlineは,欧州におけるAl Qaeda系過激派の動向を取材した以下の番組を放映した:

AL Qaeda's New Front
http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/front/

当該番組は上記網站で全部視聴可能となっている.一月末の初公開時に見逃していたので,二週間程前に見ようとしたが,裏番組の方を選択してしまい,結局当番組を見たのは昨夜だった.御存知の通り,一昨日は英国の首都で連続爆破事件が出来したため,波士敦地区での視聴率は其れなりに高かったに違いない.一昨日の連続爆破事件の犯行声明については完全に裏が取れていないが,現在のところ,過激派回教徒系団体が犯行声明を出している.当番組を見ると,やはり,英国も隙を狙われたか,即ち,来るべきものが来たという印象を持たざるを得なかった.EU国内の旅券審査の簡素化等の最近の政策から,過去の緩い難民受け入れ政策等様々な政策が今になって裏目に出ていることは間違いない.また,貧乏暇なしという諺ではないが,爆破事件等に関与している連中の出自は往々にして中流であり,極貧の難民層からは出ていないことだ.結局,今日明日の生活の糧に事欠くような家族には,家族を支えて生きていくことが精一杯で,政治活動に関与するような時間的余裕が無いに違いない.回教国から留学生として欧州に渡った際は非宗教的であった人物が,留学に伴う様々な試練により,心の支えとして回教徒の礼拝所に立ち寄り,そこで巡回の過激聖戦派説教師や其の忠実な弟子達と運命の出会いとなるという例がよく見られると元CIA分析者が述べていた.
 番組中にドイツに在住している過激聖戦派回教徒の主張が挿入されていたが,欧米という言論・学問の自由と基本的人権が保障されているところで難民として受け入れてもらい祖国で認められなかった自分の生存権を保障されたにもかかわらず,過激聖戦主義を主張して,その様な暴力主義の個人的表現を可能にしたところの受け入れ国家体制を打倒せよとを叫ぶのは,全くの自己矛盾でしかない.言論の自由で縛られている欧米や日本は,自由民主主義体制の転覆を目的とした暴力の行使に対して法的な規制を適用することは可能だが,体制転覆という考えや意見の表現という段階においては,言論の自由を保障している以上,法的規制をかけることが出来ない.暴力の行使を躊躇しない相手との非対称の関係において自由民主主義体制がとれる対策といえば,各種の予防的対策(現状に対する不満その他を暴力以外手段・経路によって発散・解消させる他)と暴力行使が発生した場合の厳しい処分という飴と鞭の両方で対処するしかないのではないか.日本の場合,鞭の行使が緩みがちで,更なる暴力行使の出来を誘引していて,また,飴的対策も「日本」の目指すものに対する国論の分裂により効果的に作用せず,目指すべき同化方向に向かわず,むしろ隔離を煽って現状を強固化する方向に進んでいるのではないか.

© 2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:07/09/2005/ EST]