冬になると北京は11月中旬から3月中旬まで市全体で暖気(ヌァンチー:セントラル・ヒーティング)が始まるからです。市政府では法律で室内最低温度を18度に決めています。私の北京自宅部屋の中はいつも22度ぐらいでした。
こんな時期、北京のレストランではあちこちで、人々が小さな煙突のついた湯気の立つ鍋を囲み、紙のように薄い肉をひっきりなしに鍋に入れて、すすいで食べている姿を目にします。これが北京名物の羊肉のしゃぶしゃぶで、実は有名な北京ダックよりも、地元ではポピュラーな料理なのです。
羊のしゃぶしゃぶは、おいしく値段もリーズナブルな上に、体を暖める効能があって、寒い冬、体に抵抗力をつけるには最適です。
日本では、日常的に食べる習慣があまりない羊ですが、北京でしゃぶしゃぶに使われている羊肉の殆どは、内モンゴル中部や河北省北部産の、去勢して2、3年経った雄羊を使っていて、柔らかくて羊特有の臭みがありません。
また、しゃぶしゃぶに使うタレにもこだわりが見受けられます。それぞれの家庭で十数種類の調味料を使って、独自に自家製の自慢のタレを調合しているのです。
そして、羊肉の他の具材として、白菜、春雨、にんにくの砂糖漬け、凍り豆腐、羊肉餃子、緑豆めん、ごま付き焼きパン、などで食卓を賑わせます。
これら全てが揃って初めて、伝統的な本場の羊のしゃぶしゃぶが完成するわけです。
話は少し変わりますが、万里の長城へ行かれた方、或いは映像で見た方で、
「おや?」と違和感を感じたことのある方はいらっしゃいますか?
確かに、とてつもなく大規模な建造物なのですが、意外と高さがないのです。頑張れば、人間はその壁を乗り超えることも可能な程度なのです。
それでは、他民族の侵略を阻止するための防壁の機能が働かないかというと、それは違います。実は、この長い壁は人間が超えるのを防ぐためのものというよりも、羊が入ることが出来ないようにするためのものだったのです。当時、軍隊は遠征するときに、食料として体力がつく羊の群れを連れていたのですが、これを封じてしまえば、侵略されることもないと目論んだという訳です。
このように、昔から重宝されている中国の羊肉の料理、機会があったら是非試してみてください。