わたしたち、あの時、なぜだか
ずーっと黙って、歩いたよね。
波の音、聞きながら。
すると、音のなく、ハイビスカ
スの花が、砂の上に落ちてくる
のです。
ぽとっ。ぽとっ。ぽっ。ぽっ。
って、
実際には音はしないんだけど、
そんな気配だけがして。スコ
ールのあとの夕暮れ時には、
特にたくさん落ちてたよね。
どの日も、どの場面も、素敵だっ
たけれど、黒砂のピーチと、そこ
に静かに落ちてきたお花のことは、
なぜだかほかの風景よりもくっき
りと、覚えているのです。
きっと、あれが、わたしにとって
の楽園の原点かもしれません。
楽園というのは素敵なところだけ
れど、人が楽園のまっただ中に
いる時、その素敵さには、あまり
気づいていないような気がします。
楽園の素晴らしさは、楽園を去った
時、あるいは失った時、初めて
気づくものものなのでしょうか。
つまり、楽園は記憶の中にだけ
存在する、と。今、バリ島を思い
出しながら、そんなことを考えて
います。
なんだかとりとめのないお手紙に
なってしましました。
あなたがこれを読んでいるのは、
大阪のホテルのお部屋だと思いま
す。
手紙を読んで、バリで過ごした
あの熱い日々のことを、思い出
してくれたら嬉しいです。
元気でね。お仕事、うまく行き
ますように。
はやくもどってきて。
愛をこめて