たった一人の夜のバスルーム。
読みかけの本や飲み物を持ち
込んでバスタブに身を沈める。
夜更けのバスルームは、朝、歯
を磨き、顔を洗う空間とも、昼、
洗濯をし、化粧を直す空間とも
異質のものだ。
“日常”の中にありながら、“生
活”とはかけ離れている。
夫以外の男と午前零時に重ねる
グラスの氷のように、溶け合い
そうでとけないコップの中の時間。
捕らえどころのない不安と、掴み
どころのない安らぎがごっちゃに
なって・・・。
そのうち頬は上気し、動悸が激し
くなり、要するに、のぼせたのだ。
扉を開ける。
廊下を挟んで、寝室と居間が見通
せる。あれ、そこからは急に別次
元の世界に迷い込んだような気が
した。
生活という昼がうずくまり、夜が
横たわっている。
「殺しのドレス」という映画の冒
頭。アンジィ・ディキンスンが、
湯気で曇ったガラス張りのシャワ
ールームで、隣室の男に微笑む
シーンがあった。もうもうと立ち
込める湯気のおかげで、女の体は
妙に実在感がなく、そのくせ、毛
穴のひとつひとつまで開いている
のが分かるほど、生々しかった。
まさにサスペンスの始まりに相応
しい、ミステリアスな場面だった、
などということを何の脈絡もなく
思い出したりして・・・・・。
読みかけの本や飲み物を持ち
込んでバスタブに身を沈める。
夜更けのバスルームは、朝、歯
を磨き、顔を洗う空間とも、昼、
洗濯をし、化粧を直す空間とも
異質のものだ。
“日常”の中にありながら、“生
活”とはかけ離れている。
夫以外の男と午前零時に重ねる
グラスの氷のように、溶け合い
そうでとけないコップの中の時間。
捕らえどころのない不安と、掴み
どころのない安らぎがごっちゃに
なって・・・。
そのうち頬は上気し、動悸が激し
くなり、要するに、のぼせたのだ。
扉を開ける。
廊下を挟んで、寝室と居間が見通
せる。あれ、そこからは急に別次
元の世界に迷い込んだような気が
した。
生活という昼がうずくまり、夜が
横たわっている。
「殺しのドレス」という映画の冒
頭。アンジィ・ディキンスンが、
湯気で曇ったガラス張りのシャワ
ールームで、隣室の男に微笑む
シーンがあった。もうもうと立ち
込める湯気のおかげで、女の体は
妙に実在感がなく、そのくせ、毛
穴のひとつひとつまで開いている
のが分かるほど、生々しかった。
まさにサスペンスの始まりに相応
しい、ミステリアスな場面だった、
などということを何の脈絡もなく
思い出したりして・・・・・。