年度末は忙しい。それが分かっているので仕事が集中しないようにしようと思ってはいるのだけれど、周りはそんなことを考えてくれる訳もなく、また考えているという前提を置きつつも仕事を回してくる。とはいえ、プライベートの時間を削りすぎてしまうと自分が自分でいられなくなるような、そんな気持ちに日々追い立てられているように感じるし、それは年々より大きくなっている。
そんな中、瀬尾まいこさんの『その扉をたたく音』を読んだ。
瀬尾さんの本は昨年秋に読んだ『夜明けのすべて』以来で、こんなに早く次の作品が読めるのか?!と思ったものの、最近使い始めた読書記録用のアプリでこの本のことを知り数日後、仕事の切りがいいタイミングをみて書店に向かい手に入れた。まだ読みかけの本があったけど、手に入れることで安心したかった。
さて、ようやく読み始めると、瀬尾さんの本で感じるものがこの本には無いかな…というか、少し違和感を覚えた。主人公の宮路は29歳で無職。僕の頭が固いのか、その設定が違和感の原因だったのかもしれない。そして、主人公が誰かの強引な行動によってきっかけを掴むというのが瀬尾さんの作品に惹かれる理由だったなと思いながら、読み始めはもたもたしてしまった。
それでも、宮路が出会った渡部君の魅力に引っ張られ、そして、その出会いによって宮路が変化していく様子に、ページを捲る手も軽やかになっていくのを感じた。と同時に、僕の心の中でも何かが変わっていくような気がした。
舞台は老人ホーム。そこにどんな出来事が起きるのかは微かにでも想像はできる。瀬尾さんもそれを通じて主人公の変化を描こうとされたのだろう。避けては通れないことだけど、正面から受け止めるのは辛い。それでも、逃げるだけでは先へは進めない。
物語は、ある別れとそれをきっかけに宮路が変わろうとするところで幕を下ろす。ただ、宮路の変化は周りに影響されてのものだったのか。当然そういう要素はあっただろうけど、それだけではない。
10数年前、仕事の合間を縫い、僕は一回りも二回りも年下の人たちとイベントの手伝いをしていた。その時、仲間からの誘いを受け断るのではなく、できるだけ応じようと思った。気が引けることもあったけど、今思うとあの頃のそんな時間がかけがえのないものに思える。失業をきっかけに仲間とは疎遠になってしまったけど。
自分を変えようと思うとき、誰かにそっと背中を押してもらうと足取りが軽やかになる気がする。今、僕の周りにはそんな人はいないけど、僕が誰かの力になることはできるかな…と思うし、そういう人でありたいなとも思う。
瀬尾さんの作品を読み終えた後にしては、心を揺さぶられる感じは少なかった。だからといって、それだけが感想に繋がる訳でもなく、読んだ後に僕の心の中に、そして行動に染み込んでいくのかなと思うと、楽しみでもある。
そう、9年前に読んだ『あと少し、もう少し』を改めて読んでみようと思った。先ほど少し流し読みしたんだけど、それだけで涙が溢れてきた。そして、見逃していた瀬尾さんの『君が夏を走らせる』を読もう。
それと、追い立てられることに少しずつでも抵抗していこう。自分を変えていくことも含めて。