岩井俊二監督の作品は、これまで『リリィ・シュシュのすべて』と『花とアリス』の2作を観ている。『リリィ・シュシュのすべて』には強い衝撃を受けたのを今も覚えている。『花とアリス』も、鈴木杏さんと蒼井優さんの恋を描く中に所々に鋭い棘のような部分があった。
この作品を観ようと思ったきっかけは、Coccoさんが出演されることを知ったからだった。彼女は最近では塚本晋也監督の『KOTOKO』や、舞台『ジルゼの事情』など役者として活躍されているけど、お祖父様が琉球芝居の役者さんだったことも影響しているのだろうか。彼女のライブも観たいけど、役者としての彼女の演技(なのだろうか…)にも引き込まれる。
主演を務める黒木華さんは、朝ドラ『純と愛』での二面性を持ったホテル従業員役が印象深い。その後の活躍について僕は、同じく朝ドラ『花子とアン』やCMくらいしか知らなかったけど、今月から主演ドラマが始まるなど、注目の実力派女優だ。
そして、綾野剛さん。彼の作品を多数観ている訳ではないけど、作品ごとに異なる魅力を見せる彼の演技に注目している。昨年「ミューズシネマセレクション」で観た『そこのみにて光輝く』で彼が演じた達夫という男がとても魅力的だった。
3時間という上映時間は長い方だろうけど、最初から最後まで作品の世界に引き込まれた。椅子の座り心地が悪く、また前の座席との間隔が狭かったのには難儀したけど… もしかしたら、黒木華さん演じる七海とともに、綾野剛さん演じる安室という男に乗せられていたのかもしれない。
この映画の魅力は、黒木華さん演じる七海が変わっていく姿と、その七海が巡り合った本物の「愛」だと思う。彼女が結ばれた人とのキスシーンの美しさに魅了された。ラストシーンに『リップヴァンウィンクルの花嫁』というタイトルが重なった。
そして、綾野剛さん演じる安室という男がまた魅力的だった。できれば関わりたくないような男だけど、そんな男を彼は楽しんで演じていたのではないかと思いながら観ていた。
映画館を出るとすぐ、好きな人と歩いた街が迎えてくれた。もう何年も会えず、最近では連絡も取れなくなってしまった彼女は、僕にとってどのような存在なのだろうかと少し考えながらその街を歩いた。そして、その答えを急いで出そうと思ったけど、止めた。
ふとした時に、この作品のことを思い出すかもしれない。いや、そんな時が来るのを楽しみにしてみよう。