手話通訳者のブログ

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ドラえもんの手話

2017-01-12 07:13:37 | 手話
地元の手話通訳者Gさんのことは、密にミスター・レジェンドと呼んでいる。
以後、略してMLさんと呼ぶことにする。
このブログにはろう者のGさんも登場するので、通訳者の方は、今後はMLさんでいこう。

奴は天才だ、と思ったのは、実は30年前。
あの時代、俺は手話通訳者(有資格者)になったばかりのヒヨッコだった。
MLさんは既にベテランだった。
カリスマ手話通訳者が現場での通訳でも手話通訳問題研究会での研究でもトップを突っ走って、既にカリスマと呼ばれて輝いていた、あの時代である。

MLさんはいつも言っていた。
「派遣者が主催する研修に出ても意味がない。俺は有志を集めて独自に手話技術を高めていく」

ある日、通訳現場で一緒だったMLさんに聞いた。

独自に手話通訳技術向上のための研究会を開いているんですか?
「そう。手話通訳者仲間数人と、ろう者数人でね」
どんな研究ですか?
「うーん・・・わかりやすく教えようか」
お願いします。
「昨日はドラえもんの手話をテーマに討論した」
はいー? ドラえもん?
「論より証拠だ。たいし君、ドラえもんみたいに両手をグーにして、手の形はそのままで、手話で話してみて」
・・・・
「お手上げだろ?」
はい・・・
「手話表現で表情が大切なのは言うまでもないが、最も重要なのは手の表情なんだ」
なるほど・・・
「手話を知り、手話を理解し、学ぶために、様々な角度で考え、意見交換する必要がある」
面白い発想ですね。
「そうだろ? 手話通訳者はクソ真面目な奴ばかりで、つまらん。自由な発想ができない奴は伸びない」
・・・・・
「たいし君もクソ真面目だから、気をつけろよ。ガハハハ!」


それから、お互い忙しくてなかなか連絡できなかったことや、その他諸々で、研究会に参加させていただく機会はなかった。
上記は冗談みたいな話だが、実は大真面目で、その後もMLさんの独自の研究は続いた。
最初は通訳者仲間とろう者の仲間で討論することが中心だったが、やがて大学教授まで巻き込んで研究は続いた。
やはり、天才だった。
しかし・・・・
こんなことを言ったらMLさんに叱られるだろうが、やがてMLさんは村八分にされ、彼の研究が開花することはなかった。


はっきり言う。
今の手話世界は天才が出現してもつぶされてしまう。
許せない。
三流のテレビドラマのように黒幕がいて人材をつぶしているのではない。
事態は非常に複雑だ。

俺はMLさんのような天才じゃない。
蟷螂の斧だが、それでも、この得体の知れない現実と闘わずにはいられない。