あなたのすきな本は何ですか?

桔梗です
訪問ありがとうございます
いろいろな想いを残してくれたお気に入りを紹介しています

雷の季節の終わりに 恒川光太郎

2009-02-27 09:44:00 | 恒川光太郎
雷の季節の終わりに
恒川 光太郎
角川書店

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異世界ファンタジー

異世界といっても現実とまるっきり違う世界じゃなくて
今でも日本のどこかにあるんじゃないかと思えるような
千と千尋の神隠しのように うらぶれた苔だらけのトンネルを抜けると広がっていそうな空間です


中盤『トバムネキ』がでてくる辺りだけ急に現実的な描写になって 現実に引き戻される感があるのが残念だけど
そこだけ時間の流れが違うかのような『穏(おん)』という世界にどっぷりはまります


現実に見えてるのが全ての世界でなく 認知されていない空間には何かがあるんじゃないだろか
ふとした瞬間の揺らぎとか光とか よーく意識してみるとこんな世界への入り口が見えるんじゃないだろうか?
そんな錯覚さえ覚えました


空を飛ぶトンビやカラスが『風わいわい』に見えてしまいそうです


「夜市」に続いて二冊目ですが とても興味深い作家さんです


『「知っている」と「思う、感じる」はまた別の話』

『きっと人の振る舞いは何もかも演技なのだ。それが許せぬ自分は子供なのだろうか。』

『その日、私の胸の中の特別な場所に居座った穂高は、以後消えることはなかった。』
ドカッと居座られてしまう瞬間ってあって多分それは一生抱えてくんだろな

『悪さをしたのは風わいわいに憑かれているからだ、と決めつけたがる。繋げてしまうのですね。』
繋げてるのは自分の勝手な思い込みなのかもしれないけどでもやっぱり繋いじゃう

つきのふね 森絵都

2009-02-25 09:14:07 | ★ま・や行の作家
つきのふね (角川文庫)
森 絵都
角川書店

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心あたたまるお話です

仲の良かった中学生のさくらと梨利はあることをきっかけに離れてしまう
ひとり悩むさくらと ノアの箱舟のごとく人類を救う宇宙船の設計に夢中の青年・智さん ストーカー紛いの行動を繰り返しまとわり付く同級生の勝田君
彼らの関わりが物語を動かしていく

さくらも梨利もお互いに 自分が相手を裏切ったと思っていて 自分を許せなくて素直に仲直りすることができない

宇宙船にのめりこみ徐々に壊れていく智さん

自分の大好きな梨利とさくらを仲直りさせよう 智さんを助けようと 古文書まで偽造して 一生懸命走り回る勝田君


以前智さんが助けた友人からの手紙とさくら達が 壊れそうになった智さんを引きとめる
智さんと勝田君のおかげで さくらと梨利も背負ってた苦しみとお互いの温かさを知る

人の苦しみを救うのは宇宙船なんかじゃなく 人の優しさだ

竜馬がゆく 司馬遼太郎

2009-02-25 08:34:07 | ★さ・た行の作家
竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

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言わずと知れた坂本竜馬の生涯を描く長編小説の第一巻

竜馬が土佐から江戸に出て剣術の修行をしながら いろいろな人と出会っていく
まだ二十歳前後の若い竜馬
とても天真爛漫 学問はなくても人を惹きつける抜群の魅力がある

すごく無邪気で茶目っ気がある
藩の先輩を自分の身代わりに布団蒸しにしてしまったり
黒船を見たいからと夜中に脱走したり
山中で会った敵藩の桂小五郎と友達になってしまったり
好きな女性に夜這いをかけようとしたら友人達の計略で別人のところに夜這いかけたり(こっちでもまぁいいかと即切り替えてしまうのも可笑しい)

どこまでが本当の話でどこからが司馬さんの創作なんだろう?と思ってしまうほど エピソードのひとつひとつがリアルでおもしろい

切羽へ 井上荒野

2009-02-23 09:52:16 | ★あ行の作家
切羽へ
井上 荒野
新潮社

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「切羽(きりは)」とはそれ以上先へは進めない場所。…

帯にあったその言葉と表紙の色使いに惹かれて衝動買いした本
本好きの人なら皆経験あると思うけど 一目惚れした本は大抵はずれない
この本も世間の評価はイマイチのようだけど 私は好き
男性にはとくにセイの心の揺らぎがピンとこないのかなぁと思います


静かな島で絵描きの夫と幸せに暮らすセイ 島に新しく赴任してきた教師・石和
奔放な女友達とその愛人や近所の一人暮らしの老婆
彼らの生活が 淡々と描かれていく
実に静かに人の心に沈む淡い想いや揺さぶられる様子を描き出していく

夫を穏やかに愛していて幸せな生活をしているはずのセイが つかみどころのない石和に惹かれていく

なんとなく心惹かれる

あり得ることなんだろう

お互いになんとなく惹かれあうセイと石和 そしてそれをわかっていながら気づかないふりをする夫
夫だけではない 周りの誰もがそのことには気がついてる

大勢でその場にいるのに お互い目の前にいる別の人と話してるのに
それでも心の中の意識はお互い相手のところにある そんなことがある
セイと石和もそんな感じ
言わなくても触れなくても伝わる想いはある


すべての出逢いには意味があるという

いくら考えても答えは出なくても
でもいつかは見つかるのかもしれない

セイも石和も答えを見つけたんだと思う いや 最初からわかってたのかなぁ…

長いお別れ レイモンド・チャンドラー

2009-02-20 12:20:06 | ★ら・わ行の作家
長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))
レイモンド・チャンドラー
早川書房

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初チャンドラー 初ハードボイルドです

ハードボイルドな推理小説なんだけど でも男同士の友情物語でもあるのかな

街で礼儀正しい酔っ払いレノックスを拾った私立探偵フィリップ・マーロウ
一見自堕落なレノックスが何となく気になり放っておけないマーロウ
ふたりは度々バーで静かにお酒を飲み語り合うようになるが 厄介な殺人事件に巻き込まれる

マーロウのキザな台詞も これくらい自分の信念をまっすぐ貫いてて これくらいロマンチストであれば許されちゃいますね
まぁこんな人は小説の中か映画の中にしか存在しないだろうし
これくらい徹底的にカッコよくしちゃってOKだと思う


ラスト 『ギムレットには早すぎるね』という有名な台詞から一気に明らかになる一つの真実
これには“やられた~!そうだったのか!!”と思っておもしろかった


いつからか私は「さよなら」という言葉を使わなくなった
「さよなら」って言うともう会えなくなるような気がして一瞬だけ怖くなる

“こいつなんだかわかんないけど好きだなぁ”とか“言わなくてもなんか通じ合うんだよなぁ”と思えるような人って一生で何人も出会えるもんじゃない

でもせっかくそういう人を見つけても ずっと近くにいられるとは限らなくて さよならしなくちゃいけないときもあって

さよならするときは 自分のどっか一部分が無くなっちゃうような そんな痛みを覚える

『さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ。』っていうのはその痛みのことなんだろう

田村隆一エッセンス 田村隆一

2009-02-04 21:11:13 | ★さ・た行の作家
田村隆一エッセンス
田村 隆一
河出書房新社

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Amazonの本紹介より
『98年8月惜しまれつつ逝った現代最高の詩人の、時代を画した代表的詩篇と詩論、ユーモアあふれるエッセイを精選した待望の一巻本選集。』

まったく知らなかった田村隆一さんという詩人
ひとことでいうと“かっこよい”だと思います “ダンディー”の方が近いかな
詩ってもっと甘ったるかったり切なかったり柔らかかったりするものと思っていたけど
この人のは すごく硬質な感じ


一番印象的だったのは
「帰途」

『言葉なんかおぼえるんじゃなかった
 言葉のない世界
 意味が意味にならない世界に生きてたら
 どんなによかったか

 あなたが美しい言葉に復讐されても
 そいつは ぼくとは無関係だ
 きみが静かな意味に血を流したところで
 そいつも無関係だ

 あなたのやさしい眼のなかにある涙
 きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
 ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
 ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

 あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
 きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
 ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

 言葉なんかおぼえるんじゃなかった
 日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
 ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
 ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる』


言葉という形にしようとすればするほど嘘っぽくなることがある
それでも言葉にしないと伝わらないからと頑張るのだけど うまくいかなくてイライラする

ただ文字を並べて できた単語を目や耳で捕らえようとするだけじゃ 言葉に意味を持たせることなんかできやしなくて
大事なのは 言葉を発した側と受け取る側の間にある繋がりや意識みたいなものなんだと思う



「歯」

『いくら白い紙をひろげたって
 言葉は生まれてくるとはかぎらない
 
 言葉が生まれたところで
 文字にすぎない
 乾ききった文字 呼吸もしてない言葉
 
 …(中略)
 
 消えない言葉
 溶けない文字
 
 そんなものは
 ぼくは信じない
 
 …(後略)』


最近は なんの意味も感じ取ることができなくて虚しくなるような
うわべだけ飾ったキレイな言葉が氾濫しすぎじゃないのかな
呼吸もしてない言葉のなんと多いことか…

舞姫 森鴎外

2009-02-01 22:31:59 | ★ま・や行の作家
舞姫 集英社文庫
森 鴎外
集英社

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初めて読んだのは高校生だったと思う

優柔不断で無責任な豊太郎も 愛した人に捨てられて精神を病んでしまう弱いエリスも大嫌いだった
自分は絶対こんな女にはなりたくない 絶対こんな男にもひっかかるまい そう思った


自分の将来や故郷と自分の子どもを宿す恋人を天秤にかけ 迷いに迷う豊太郎
真実をなかなか告げられずにいる彼の痛みもわかる

自分を壊してしまうほど一途に恋を貫くエリスの想いもわかる 
すがるしか生きる方法のない女性もいるという事実も受け入れられる

二人の生き方に以前ほど嫌悪感を感じない自分にちょっとびっくりする


若い頃は頑なで見えなかったものがふと見えるようになる
これが歳をとるってことなのかなぁとも思う


『~浮世のうきふしをも知りたり、人の心の頼みがたきは言ふも更なり、われとわが心さへ変り易きをも悟り得たり。きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写して誰にか見せむ。~』

きのうの世界 恩田陸

2009-02-01 22:30:27 | 恩田陸
きのうの世界
恩田 陸
講談社

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平凡な一人の男が失踪し 暮らしていた遠く離れた場所で殺されていた
その町は古くからの塔と水路がある町
その町で何かを調べていたような男 
捨てられていた地図 駅の掲示板の不思議な張り紙 壊れたままの塔

語り手が次々と変わりながら 現れる物語の断片と増えていく謎
いったいこれがどうつながるんだろう?と思いながら ぞくぞくして読み進めたんですが…

長かったわりに結末は肩透かしと言うか また風呂敷たたみ切れませんでしたね 恩田さん
そんなのも含めて恩田ワールドなんでしょうか

殺された男は実は平凡ではなく 特異な能力を持っていた
一度目にしたものを全部映像として記憶することができる能力+α
抜群の記憶力というのは ときに便利でときに残酷なものらしい


恩田さんの本には度々印象的な文章があるので 抜書きしておきます

『ある日誰かがいなくなるということは、もはや言葉を交わすことも、あの穏やかな笑顔を見ることもなくなるということなのだ。あの不思議な空白、何かが断ち切られたような淋しさを、今なら生々しく思い出せる。自分の一部がもぎ取られたような、あの暴力的な不在のことを。』

『人の心の動きというのは不思議なものだ。』

『ほんの少し。ほんの少しのところで、人々は精神と生活の均衡を保っている。』

『人間を人間たらしめるのは、遠い過去からの記憶の蓄積であり、その蓄積を認識できる精神のみである。気の遠くなるような無数の過去によって、世界は成り立っているのだ。』