あなたのすきな本は何ですか?

桔梗です
訪問ありがとうございます
いろいろな想いを残してくれたお気に入りを紹介しています

氷菓 米澤穂信

2009-05-28 20:25:10 | ★ま・や行の作家
氷菓 (角川スニーカー文庫)
米澤 穂信
角川書店

このアイテムの詳細を見る

さくさく読めちゃう軽めのミステリー
日常の謎系という点では 北村さんや加納さん・若竹さんなんかと近いですかね でも良くも悪くももっとあっさり
軽いんだけど 軽薄というのではなく
誰もが少しは抱えてるような屈折感とか劣等感みたいなものをさらりと書き出してる感じがしました
「青春」とは「いつも熱く爽やかで薔薇色」と定義されがちだけど ちょっと違う空気の青春をうまく描き出してると思います

『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければならないことは手短に』をモットーに生きる何事にも熱くならない高校生ホータローが
ひょんなことから「古典部」という文化系ブカツに入り 好奇心旺盛な騒がしい友人達に巻き込まれて いろいろな謎を解いていく

北村さんの円紫シリーズと似ているようで 表と裏のよう
主人公の二人が 立ち位置は同じなのに向いている方が逆で背中合わせになってる そんな感があります
部活や恋に熱くなる同級生達をシニカルな目線で見つつも そんな自分にちょっと疑問を持ってもいる奉太郎くんの 揺らぎや悩みには誰もが共感を覚えるかもしれない


「氷菓」の謎は 明かされても“え?”といった感じで どうしてそれをおじさんから聞かされた千反田が泣き叫んだのかよくわからなかったのですが。。。
かつぎあげられ犠牲となったのに声すらあげられなかったおじさんの無念ってことでしょうか?


『きっと十年後、この毎日のことを惜しまない。』

まだ続きがあるこのシリーズ 友人達の影響で 自分のモットーに疑問を持ち始めたような感じの省エネ少年ホータローくんが どのように成長していくのか楽しみです

八日目の蝉 角田光代

2009-05-27 22:32:04 | ★か行の作家
八日目の蝉
角田 光代
中央公論新社

このアイテムの詳細を見る

愛するひとの赤ちゃんをその手に抱くことができなかった不倫中の希和子は 不倫相手の子どもを連れ去り 数年間逃亡生活を続ける

立ち退きを迫られる家や新興宗教団体や瀬戸内の小島
この子と一緒にいられるなら他にはなにもいらない ただ静かに幸せに暮らしたいと
誘拐した子どもを実の子のように慈しみながら ひたすら逃げる 

希和子のしたことは許されることではない
私は今希和子とは全く違う立場なのに 彼女の思いが手に取るようにわかるのはやはり女だからなんだろう
自分の愛しいものを守りたいという抗いようのない強い思い これを単純に母性と言ってしまってよいのか…
角田さんは女性特有のダークな面と逆に温かい面とをきれいに共存させて書くひとだなぁと思う


結局 希和子は捕まり 誘拐した娘は本当の親のところに戻り
後半はその娘の物語
誘拐事件で心にいろんな荷物を抱えたまま生きている彼女の葛藤と自立

好きな男の子どもを宿した彼女が生むことを決意して 『今までありがとう。本当にありがとう。』とその男と別れるところが印象的
メールをくれた 誕生日を祝ってくれた 大好きだと言ってくれた…と 彼からもらったたくさんのことに感謝して 潔く別れる

目に見えるもの見えないもの あらためて考えてみるとすごくたくさんのものを貰ってることに気がつく
自分が持ってないないものを数えて過ごすより 持ってるものや してもらったたくさんのことに 感謝していけたらいいなと思う


蝉は何年も土の中にいるのに地上に出たらたった七日で死んでしまう

『七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉の方がかなしいって、あんたは言ったよね。私もずっとそう思ってたけど、それは違うかもね。八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。見たくないって思うかもしれないけれど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ。』

確かに見たくないものもあるし しなくていいつらい思いだってするだろう
それでも 温かな想いを感じられることに 空や海や花や周りの景色がより一層綺麗に見えることに感謝しつつ その一日を過ごせたら幸せだと思う


なんだかじんわりといろいろなことを考えさせられた本でした


ちょっぴり痛みを感じながらもおめでとうと笑えること
その穏やかな幸せを一緒に喜んであげられること
いつまで続くかわからないひとときを慈しんで過ごせること
そうできる自分でありたいと思う

14歳の君へ 池田晶子

2009-05-18 22:28:29 | ★あ行の作家
14歳の君へ―どう考えどう生きるか
池田 晶子
毎日新聞社

このアイテムの詳細を見る

好きな作家さんです というより哲学者さん?
でもこの本は哲学なんて小難しい感じはなくエッセイ風

去年娘の誕生日に買ってあげたんだけど 娘は1ページしか読まず本棚で寝かせてしまっていて
ヤマヤマさんの日記でふと思い出し また本棚の目立つところに置きなおしました(笑)

自分自身を大事にすることや自分を信じることの大切さ
幸せも不幸も自分の心次第 
大切なものは外ではなく自分の内にある



などなど この方の考え方の軸のようなものや 言葉に対する愛情を感じられる文章が好きです


『正しい言葉を話す人は正しい人だし、くだらない言葉を話す人はくだらない人だ。その人の話す言葉が、その人をまぎれもなく示していると気がつくだろう。』

『もし君が自分の人生を大事に生きたいと思うなら、言葉を大事に使うことだ。』


人と話をするのはキライじゃないのだけど

その場限りの軽ーいノリの会話が下手で 
次々と畳み掛けられる言葉に テンポ良く答えられない自分にイラっとする
機関銃のように一方的にしゃべりちらかされるのも苦手
つぎつぎ通り過ぎてく言葉に 無理に合わせて疲れるだけでに何も残らなかったりする
もちろんそれは場を盛り上げたりするのに必要不可欠だとわかっているのだけど…


反対に
ゆっくり ときどきこちらの様子を確認するように話をする人というのは 
話のテンポが自然に合う(合わせてくれてる?)というのは
とても居心地がいいものだなぁと思う
こういう話し方をしてくれるから言葉がちゃんと届いて残るんだろうなと思う


大事にしよう
自分も人も 物も 言葉も

桜の森の満開の下 坂口安吾

2009-05-08 22:46:38 | ★さ・た行の作家
桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)
坂口 安吾
講談社

このアイテムの詳細を見る

表題作の「桜の森の満開の下」と「紫大納言」「夜長姫と耳男」がよかったです

「桜~」と「夜長~」はちょっと似た雰囲気の話

共に 残酷さを併せ持つ美しい女とそれに惹かれ狂っていく男の話

狂ったように咲き儚く散る桜と 女の狂気と 壊れていく男の一途な想いとが重なり合って 思い浮かぶ情景の美しさにクラクラする

男ってもんは恋する女性の無邪気な笑顔を見るためなら何でもしてしまうものなんでしょうか
『真に怖ろしいものは、この笑顔にまさるものはないのだから。』
『好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。』(夜長姫と耳男)


「紫大納言」は美しく切ないお伽話
これ読んだことあるなー でもどこで見たのか思い出せないー
酒井駒子さんの絵で絵本にして欲しいなぁと思いました

月の姫君の笛を落とし困っている天女に恋をする 笛を拾った男の話
どうしても天女をその手に抱きたいと恋焦がれる男は 笛を返さず 襲われた盗賊に渡してしまう
嘆き悲しむ天女に触れたとて 心まで手に入れられなければ意味がないことに気が付く男 いくら乞うたところで想いは…
だんだん切羽詰っていく男の想いに読んでて胸が苦しくなる


坂口安吾
言葉が文章がとても美しいです
そして美しさと狂気とが渾然一体となったこの雰囲気が何とも言えず 
いいです

冷たい校舎の時は止まる 辻村深月

2009-05-07 19:27:14 | 辻村深月
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
辻村 深月
講談社

このアイテムの詳細を見る

ある雪の日にいつもどおり登校した8人の高校生
他にはだれも来ない そして学校からは出られない 止まったままの時計

数ヶ月前の学園祭で起きた生徒の自殺 でも死んだ同級生の名前も顔もみな思い出せない …死んだのは誰?
進学校のクラス委員をする仲の良い8人は閉ざされた学校の中で精神的に追い詰められ やがてひとつの真実に行き当たる


恩田陸さんや吉田秋生さんが描く高校生となんとなく似てる

出てくる高校生達がみな優等生 勉強は当然できてプラスαの才能 容姿も整い性格も良くて優しい
でも そんな恵まれた人間はさぞ幸せだろうと思うと 実はそうでもない
みないろいろな事情や苦悩を背負い込んでる


羨望と一緒に投げつけられる敵意や悪意をかわす要領の良さも 跳ね返す強さも持たないこの時期
まともに正面から受け止めて擦り傷だらけになってる女の子達
そして彼女らを穏やかに守る男の子達


「優等生」と勝手に押された烙印に対する優越感と劣等感がぐるぐる入れ替わる

いっそ取り乱したり思いっきり甘えてしまったりできれば楽なんだろうけど いつも正しく生きてしまう

周囲が勝手に作り上げる自分の像のウソ臭さに嫌気がさす

それでも本物に出会ってやっと余計な力を抜いて生きられるようになる

「私はこれでいいんだ」

そうやって強くなっていく女の子達が好きだ


『明るい絶望と前向きな諦め』

とても素敵な言葉だと思う


この本を読んでてふと思い出したこと

「どうしてリストカットなんかするんだろうねー?!」
「そうですねー。」
リストカットを繰り返していたある女の子について 以前耳にした友人達の会話

聞いていて“なんて幸せな人たちなんだろう”ちょっと眩しく思った

自傷行為を繰り返さずには生きていられない 
そんなギリギリの状態があるってことが想像すらできない人もいるのかと少し驚いた
彼らは 常に陽のあたる場所で幸せに生きてきたのかもしれない

私はリストカットしたことはないし しようとも思わない
リストカットが良いことだとも当然思ってない 
それでも そうせずにはいられない気持ちを理解できると思うのは驕りだろうか

自分を傷つけて自分を壊してまで 生きたいと願う
そうやって自分の弱さと向き合いながら 痛みを抱えて歩く女の子達の姿は愛しいと思う