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いろいろな想いを残してくれたお気に入りを紹介しています

愛の年代記 塩野七生

2011-04-27 22:57:11 | ★さ・た行の作家
愛の年代記 (新潮文庫)
塩野七生
新潮社

中世末期からルネサンス期 激動のイタリアで 激しい恋に身を焦がしたさまざまな女性達の生涯を描いた短編集

男性を描くのが上手な作家さんというイメージがあったけど 女性も上手い 
この本に描かれる女性達もみなひたむきで 儚いようでいて強く美しく魅力的

どんな障害があり どんな過酷な状況でも恋をすることをやめない 
いつの時代も女は同じだなと思う
哀しい最期にもかかわらず 
女性達はみな 愛されている間は 満たされていてとても幸せそう


自分の中が空洞のような気がして
まるでうろの空いた丸太にでもなってしまったようで
鏡を見て自分が人の形をしてることを確かめてみる
ちゃんと 目も口も頬もある 肩も腕も指も 髪もある
なのに 
どうしていつも そのどれにもろくに触れてもくれないんだろう
触れるどころか 顔すらほとんど見ようともしない
見てるのはいつも背中だ

なぜ そこにいる私の目を見てくれないんだろう

私はいったい何に見えてるんだろう 人の形に映ってないんだろうか

私を見てないなら どこを見てる? 何を見てる?
目の前の私の背中の向こうに 誰を見てるんだろう


続・星守る犬 村上たかし

2011-04-26 22:43:20 | ★ま・や行の作家
続・星守る犬
村上たかし
双葉社

『あの日、拾われなかったもう一匹の子犬がいた―。』
もう一匹の星守る犬
「星守る犬」の続きというよりは 前作と随所で繋がるもうひとつのお話

人と犬と人 そしてまた犬と人と… 繋がる 生きる 繋がる…
相手を大切に想うその気持ちに違いはない
人でも犬でも同じ

犬だって子どもだって 誰だって
勝手気ままに扱っていいものではない 
暇つぶしのおもちゃじゃないし 欲を満たすための道具でもない
飽きたから煩わしいからと 捨てたり放ったらかしにしていいわけないのに
それでも 世の中にはいろいろな事情があるのだろう
幸せなことばかりじゃないし 生きるのはラクじゃないかもしれない
でも 寄り添い支え合いながら生きることはできる
誰かを大切に想う気持ちは必ず伝わり いつかきっとどこかで実を結ぶ

ひとりぼっちだった犬も 少年も おばあさんも 桜の下で幸せそうだ
満開の桜に囲まれたラストシーンでは ほっと安堵の思いが胸いっぱいに広がる


暖かい日差しの中 今ハナミズキが満開で
桜はもう終わりかと思っていたのに 頭上から花びらが落ちてきて
ふと見回すと高台に大きな八重桜の樹があり 時折強い風にあおられて花びらが舞い降りてくる
嬉しくて思わず花吹雪の中でくるくると回る私を見て 「子どもみたいだ」と笑う人がいて
その笑い顔を見て なんだかさらにふわりと温かい気分になる

こんな風にやわらかく過ぎる時間が好き

例えば 花をみてきれいだねと笑い合ったり 
ほろ酔いで ゆるりと好きな話をしたり聞いたり
嬉しかったよ 悔しかったよ 楽しいことがあったよ…
ちゃんと私を見てくれて 些細なことにも応えてくれる
そういう 気持ちの繋がるようなやりとりが好き

大切なのはそういう時間 欲しかったのは多分そういう時間


村上たかしさんが記されたあとがきより―

『「誰かが自分のことを必要としてくれている」…と感じたり、「誰かが自分のことを待っててくれる」…と思えることは、きっと何よりも「幸せ」なことなのだと思います。』


誰かが自分のことを大切に想ってくれていると実感できる瞬間があれば きっと笑って生きていけるんだと 私も思う
 

「星守る犬」 村上たかし
星守る犬
村上たかし
双葉社


心を整える 長谷部誠

2011-04-18 00:03:57 | ★な・は行の作家
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
長谷部誠
幻冬舎

長谷部誠 

目立たないサッカー選手だと思う
本田のように華があるわけでないし 中澤のように体格に恵まれてるわけでもない
長友のようにずば抜けた身体能力があるわけでもないし 内田のように甘いイケメンでもない

でも 好き

よく 真面目すぎだとか頭が固いだとか言われてからかわれるそうだけど
私はその真面目さがいいと思ってる

その長谷部が出した本
“プロサッカー選手初の自己啓発書”“誰もが実践できるメンタル術”などと帯には書いてある
でも 自己啓発書というよりは 長谷部の「僕はこう思う。だからこうしてきた。」を記したエッセイのようで
最近の自己啓発書のような “こうすれば必ず運はよくなる!感謝すれば道は開ける!”といった 行動や感情の押し付けやこじつけは一切ない

文章も 華美な装飾や煽るような大袈裟な表現はなく 淡々と長谷部の日常が綴られている

本もやっぱり真面目(笑)
名前のとおり誠実 真面目でストイック 女の子と話すのも実は苦手だそう

本が好き
ミスチルも大好きだそう
本の中の気に入ったフレーズを書き残したり 気に入ったページの角を折るのも一緒♪
図々しいけど 勝手に 似たもの同士の匂いを感じる


群れない
でも誰に対しても公平な態度でいつもフラットな目線 チームの潤滑油的な存在
穏やかだけど 言うべきことはきちんと伝える
努力はするけどひけらかさない 見えない土台の部分を尊重する
強力なリーダーシップやカリスマ性はなくても みんなから信頼され可愛がられるリーダーたる所以はここらへんにあるんだろうなと思う


さて そんな真面目な長谷部くんでも 一度だけ茶髪のロン毛にしてた時期があったそう
周囲から不評で 自分自身でもこれは違う!と思ったそうで(本書中に詳細あり) すぐやめてしまったらしいけど

…見てみたかった 長谷部の茶髪ロン毛(笑)

私自身も 茶髪の巻き髪が流行りはじめたその昔 
美容師さんに「髪茶色くして、パーマかけたらどうかな?」って聞いたら
「ダメ。あなたの良さが消えちゃう。わざわざみんなと同じにする必要ないでしょ?」と真剣にダメ出しされたことがあり…

人間それぞれ自分の良さがある みんなと同じに合わせたり真似したりなんて無意味なこと
華やかさには欠けても 
黒髪のストレートもOK!くそ真面目もOK!!なのだと ちょっと安心したりする


『僕は「心」を大切にしています』

でも よく言われるような「メンタルを強くする」「心を磨く」とはちょっとは違い
心を「調整する」「整える」という感覚なのだそう

『心を整える』


長谷部選手 これからも活躍を楽しみにしております

八日目の蝉(再読) 角田光代

2011-04-11 12:53:43 | ★か行の作家
八日目の蝉 (中公文庫)
角田光代
中央公論新社

角田さんの中でも今までで一番好きな本
映画化されたのをきっかけにもう一度読んでみる

やはり好きなのは 思いがけず八日目を生きることになった蝉のくだり

蝉は何年も土の中にいるのに地上に出たらたった七日で死んでしまう

『七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉の方がかなしいって、あんたは言ったよね。私もずっとそう思ってたけど、それは違うかもね。八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。見たくないって思うかもしれないけれど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ。』


何も知らずに七日で死んでしまうのも それはそれで幸せだと思う

普通なら生きることのできなかったはずの 八日目
困難が伴うのは仕方のないこと
でもだからこそ生きる悦びも大きいのかもしれない

いつ終わるとも知れない 八日目
辛くても切なくても もう七日目には戻れない
知ってしまったら もう知らない頃には戻れない

それなら今この目の前の八日目を大切に生きよう
限りないものも 変わらないものも 在りはしない
時は経るもの
いつかきっと通り過ぎて 静かに終わる時はきてしまうのだから



瑠璃の波風 かわぐちかいじ

2011-04-05 17:32:17 | ★か行の作家
瑠璃の波風―沈黙の艦隊~海江田四郎青春譜 (1) (モーニングKC (610))
かわぐちかいじ
講談社

『大地は人間のゆりかごである…しかしいつまでもゆりかごの中で暮らすわけにはいかない』
ロシアのロケット研究者コンスタンチン・ツィオルコフスキーの言葉だそう


人はこの星に生れ落ちて ゆりかごの中で育つ

大きくなって いろんなものを見聞きするうちに 
もっとたくさんのものを見たいと思う
行ったことのないところへ行ってみたいと思う
まだ知らないことを知りたいと思う

そうしてゆりかごを出て 舟を漕いで広い海に出る

宝物を見つけたり 嵐にあって壊れたり
途中でたくさんの港に立ち寄ったり

華やかな港で刺激的な経験をしたり 豊かな港で食料を調達したり
腕のいい職人がいれば傷ついた舟を直してくれるだろうし
もしかしたら宝の地図をもらえることもあるかもしれない
ゆっくりと疲れを癒せる静かな港もあるだろう

次々と海を渡って いろいろな港を回って そのうちきっと大事な自分の港を見つける
舟を降りてそこに住み着いてしまう人もいれば
旅に出ては戻り 出てはまた戻りを幾度となく繰りかえす人もいる
あちこちのお気に入りの港を一生ふらふらと廻る人もいるのかもなぁ(苦笑)


「瑠璃の波風」このマンガの主人公は 海江田四郎
中学生の男の子
戦艦に乗っていた父を亡くした四郎は 母と一緒に 父の生まれ故郷の南の小さな島に移り住む
海と大地と空と風 家族や島の人たちに囲まれて のびのびと育つ四郎

母親をはじめ 四郎の出逢う女性達が皆それぞれいい 
彼女達と四郎の関わりが 彼を成長させていく様子がまたいい

それは 旅の途中でいっとき立ち寄った港での出来事 
その港はまだ終着点じゃなくて ただ通り過ぎるだけなんだろうだけど
でもその経験は 人生の中でとても大切なものとして積み重なっていく
男の人は 出逢う女の人にずいぶんと影響されるもんなんだなと あらためて思う


どんな港で在れるだろう…
豪華な宝物はなくても 終の港でなくても 
できれば
どこにいても ふと見上げた空に浮かぶ月を目にしたときに 

“あぁ帰りたいな”と

そう思い出してもらえるような港でいられたらいいなと思う


『知った人は知らなかった自分には戻れないってこと… 発見の喜びの裏には苦しみと悲しみが満ちているのよきっと でも海江田くん知ることを恐れてはダメよ 生きることは知ることなんだよ』 

悪人 吉田修一

2011-04-05 17:28:21 | ★ま・や行の作家
悪人(上) (朝日文庫)
吉田修一
朝日新聞出版

悪人(下) (朝日文庫)
吉田修一
朝日新聞出版


一体誰が悪いんだろう

自分の気持ちを踏みにじった女を殺してしまった男が悪いのか
殺されても仕方がないほど身勝手な女の方が悪いのか

それともまだ幼い頃に男を捨ててしまった母親か
娘の乱れた生活に気が付かなかった純朴すぎる親か
あるいは 垢抜けないフツーの女を小馬鹿にし うざったいからと放り出す男か
そんな男を 華がありお金持ちだからというだけでちやほやした周囲か
誰かに幸せにしてもらいたいと 運命的な出会いを待つだけの女の子達か

それとも 残された家族に中傷の電話や嫌がらせをするような人たちか
何でも知ってるような顔をして無責任な発言をする知識人やTVのコメンテーター達か…


読み始めたときは なんて嫌な女なんだろうと思った
殺されても文句言えないでしょと思ったくらい
出会い系サイトで会った何人もの男と簡単に寝る 
でも本当は自分の人生を丸ごと上げてくれるようなお金持ちのイイ男と付き合いたくてしつこくつきまとってる 
地味でモテない友人達を内心見下してて 嘘をついたり見栄を張ったり その場にいない子の悪口ばかり
あまりにくだらなくて安っぽくて…

でもそんな女の子にも親はいて
彼らなりに娘を可愛がって 大切に育てて
どんな酷い人間でも 殺されても仕方ないなんて 私の驕りだなと思った

娘を殺されたお父さんの言葉が心に突き刺さる

『今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。』


後味の悪い本だ

でも 最終章はとても切ない

会って別れたその瞬間からもう寂しくて 次いつ会えるのかを考えてしまう
先には何もない あと何日一緒にいられるのかさえわからない
それでも 今までの一年とこの一日のどちらを取るかと聞かれたら 迷わずこの一日だという

お互いそんな大切な人を見つけたふたりの想いに胸がぎゅっとなる

何のとりえもなかった ついてない人間だった だから何も欲しがらなかった
素敵なことなんか何もなかったそれまでの寂しい人生の中で たったひとつ幸せにしてくれそうなものを見つけてしまった
どんな人間でも 誰だって幸せになりたいんだ
幸せになりたいと思うのは 悪いことなんかじゃない

一体誰が悪人だったんだろうか