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街場の文体論 内田樹

2012-10-17 19:35:39 | ★あ行の作家
街場の文体論
内田樹
ミシマ社

愛がない

最近 言葉に対して人々の愛が足りないよと思ってた
読む側も そして 書く側も

たくさんの人がいろんなところでいろんな文章を書いているのに
せっかく書かれたものでも 読んでて何がおもしろいのかわからず心に響かないものが多い

言葉はただ情報伝達や行動記録の道具であり 言葉は使い捨てるものである
そんなふうに扱っている人が多いように思うのだ

もちろん それも間違いじゃない
それも言葉の持つ機能や性質のひとつだし
いかに速く正確に大量の情報をやり取りできるかが重要な世の中で 言葉の扱いが変わっていくのも自然なことかもしれない

それも仕方ないってわかってても 私の中には何だか小さな違和感があったり

でも この内田樹さんの「街場の文体論」を読んで もやもやが晴れた感じ


『言葉にも「命のある言葉」と「命のない言葉」がある。書き手や読み手の「生きる知恵と力」を高める言葉があり、生きる力を損なう言葉がある。その違いを熟知して、生命力が感じられる言葉だけを選択的にたどってゆく能力は、これからの時代を生き延びるためには必須のものだと思います。』

命のある言葉というのは 「生きた言葉」であり 読み手に対する「敬意のある言葉」で 
そういう言葉こそが相手に「届く言葉」なんだそう

『情理を尽くして語るという態度が読み手に対する敬意の表現であり、同時に言語における創造性の実質だと思うんです。』

『読み手に対する敬意と愛は技術でもあるし、心がけでもある。「他者」とのコミュニケーションという言語活動の本質にかかわる知見にも深くかかわってきます。』

今私たちの周りで行き交っている言葉の多くは「届く言葉」ではなく
ただ「自分を尊敬しろ」と命じる言葉でしかないんだそう

修辞的で論理的で 充分に意味のある立派なことを言っているけど
でも悲しいほどにその文章からは “私”に敬意を示せと読みとれる
そしてその敬意にふさわしい威信やポストや財貨を私のもとに運んでくるようにという 隠されたメッセージが透けて見えたりもする

そこには読み手に対する敬意なんかまるでない


『書きながら、自分が何を言いたいのか、何を知っているのかを発見する。書き始める前に頭の中に書くことがそろってるわけではない。』

『自分の中に自分とは違う言葉を使って生きているものがいて、その人に向かって語りかけている、言葉はいちばん生き生きとしてくる。言葉を作りだすというのは、そのようなうちなる他者との協同作業なんです。』

誰かが書いたものや有用な情報の大事な部分だけを切り取って貼り付けるコピペは とても便利な方法ではあると思う

でもそれは「生きた言葉」にはならないということだろう


私たちは文章を読むときに ただ情報を取り入れるためだけに読んでいるわけではない
楽しいとか悲しいとか 喜びとか怒りとか 自分の中に湧きあがってくる感情や 他人の感情を共有して どきどきわくわくしたいから読んでるんだと思う
命のある言葉を楽しんでいるんだろうと思う

自分自身の言葉で綴られた考えや想い それを伝えようという熱意 
相手のことも知りたいという欲求 そして読み手への敬意


私も 命ある言葉を使えるように 心がけていようと思う

びいどろの火 奥山景布子

2012-02-28 22:44:02 | ★あ行の作家
びいどろの火
奥山景布子
文藝春秋

時代は江戸 舞台は名古屋
佐登は武家の娘とはいえ 先代が奉公人に産ませた子
日蔭者としてひっそりと暮らす佐登だったが 迷い子を助けたことから呉服商の主に見込まれて 若主人の嫁として迎えられる
優しい若主人に愛され 持ち前の才覚で呉服屋の商売を盛り立て 誰の目から見ても幸せで充実した佐登の新しい生活
ところが実は 佐登の心に暗い影を落とす 思いもよらない悩みがあった
誰にも相談することはできない
夫にも問いただすことができず ひとり悩む佐登は ふとしたきっかけで女ったらしの役者に誘われるまま その役者との関係に溺れていく

ひとことで言ってしまえば不倫
でも そこに至る動機は 寂しさだとか生活への不満だとか そんな単純なものではない
佐登は軽はずみに通りすがりの男と深い仲に堕ちるような女ではない
金目当てで口説き落とした大勢の女の中のひとり はじめはそんなふうに佐登を軽んじていた役者でさえも 彼女の生真面目さや一途さに次第に心惹かれていく
いつも優しい笑顔を向けてくれる夫と 激しい情熱をぶつけてくる役者と 二人の間を彷徨う佐登の心は…


男と女というのは どうしてこうも 簡単にはわかりあえないんだろう
お互いを好きで大切に思っているはずなのに どうしてなんだろう
本当はわたしのことをどう思ってるの? ひとことそう問えば こんなことにはならなかったのかもしれない
でもきっと 好きだからこそ怖くて聞けなかったんだろう
親が決めた相手 好きでもなんでもない たいして大事にも思ってない お前だってそうだろう?
もし 当たり前のようにそんなふうに笑いながら言われたら―


人を好きになるというのは その人を信じることなんだと思う

ただ闇雲に信じろと言われても難しいけど
最初は何もわからないその人と向かい合い くりかえし言葉を交わして
何をして何を考え 何を喜び 何を憂うのか 
何を美しいと思い 何を不快に思うのか
そんなことをひとつひとつ見つけながら 少しずつ知っていくこと知ってもらうことが大事で 
そうすることで お互いがわかるようになってはじめて
好きな相手を信じていられるようになるのではないかなと思う

そうやって 時間をかけた繋がりこそ強いのではないかなと思う

縫製人間ヌイグルマー 大槻ケンヂ

2011-01-27 16:05:42 | ★あ行の作家
縫製人間ヌイグルマー (ダ・ヴィンチ ブックス)
大槻 ケンヂ
メディアファクトリー

幼い日のクリスマスに 古ぼけた黄色いクマのぬいぐるみを買ってもらったひとりの少女
事故で父親を亡くし 以来生きる目的も意味も見出せずに ただ漫然と日々をやり過ごしていた彼女は突如 世界制服を狙う巨大な組織の陰謀に巻き込まれてしまうことになる

そして その少女を守るために悪に立ち向かうのは なんと― 
彼女が幼い頃から大切にしていた 古ぼけた黄色いクマのぬいぐるみ
でもこの黄色いクマ 実はただのぬいぐるみではない その愛らしい体は仮の姿 
『糸ほぐれ 綿もはみで 布破れ 体もげてさえ』  愛と友情を守るため 勇気とプライドをかけて
悪と戦う正義の味方 “縫製人間ヌイグルマー”なのだ―

ふざけてる?
いえいえ ふざけてなんかいません 大真面目です
黄色いクマのぬいぐるみと 黒いクマのあみぐるみや赤ちゃん人間たちとの血みどろの激しい攻防戦
ありえない設定と スピード感あふれるハチャメチャな展開 
血ドバでかなりグロだし(+ちょっとエロだし)荒唐無稽な物語だけど 油断してるとホロリと泣かされる破目になるのです

その昔少女に 大人になるまで命がけで守ると誓った黄色いクマのぬいぐるみ「ブースケ」
とにかく このブースケがかっこいい

少女はこの戦いの中で たくさんのものを失っていくと共に 大切なものを見つけて 強く成長していく
大人になるというのは 辛い思いも受け止め 自分の選択で自分の人生を切り開いていくことだろう
そして もうひとつ
“命をかけてでも守り通したい” そう強く思えるような 大切なものの存在に気がつくこと
だと思う

『汝如何なる時も自虐を選ぶことなかれ!!』『自虐を選んだ時、汝は真の敗者となる』
『布破れ!綿もはみで!糸ほつれ体もげてさえ!!ボタンの瞳にかけて、命をかけて守ってみせよう!正義と君を!!そう、我が名は友情の戦士…縫製人間!ヌイグルマアァー!!』

猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子

2010-09-09 20:40:18 | ★あ行の作家
猫を抱いて象と泳ぐ
小川 洋子
文藝春秋

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“幸せ”ってものに定義は要らないと思う
何が幸福で どんな時に幸せを感じるかなんて たぶん人それぞれでいい


ちょっと異質な容姿と独特の気質のせいで 周囲に馴染めずにいたひとりの少年
学校にも友達なんかいない彼が ふと帰り道でマスターというチェス好きのおじさんと出会ったことから チェスの世界にのめり込むようになる
マスターの手ほどきを受け メキメキと腕を上げていく少年は
やがて“リトル・アリョーヒン”というチェス人形として 小さな箱の中で様々な相手と対戦する日々を送るようになる


『最強の手が最善とは限らない。チェス盤の上では、強いものより、善なるものの方が価値が高い。』

マスターのくれた言葉どおり 彼の指すチェスはいつも思いやりにあふれそして美しい
盤の上に静かに広がるチェスの世界は無限に大きく優しく まるで詩的な思考の海のよう

小さな小さな箱の中で無理に体を折り曲げて 来る日も来る日もチェスをする
そんなのさぞ辛い退屈な暮らしだろうと 人は思うかもしれない
でも 
美しいチェスの世界を自由自在に泳ぐリトル・アリョーヒンの姿は 不思議なことにとても幸せそうだ


アリョーヒンのチェスを見守り 棋譜をつけ 
戦いを終えて箱から出たアリョーヒンの痛む身体をさする
いつも傍らにいるミイラという名の女の子

ミイラとアリョーヒン このふたりの関係もとても静かだ
ほんの短い時間そばにいて少しの言葉を交わすだけ
会えない時にやりとりする手紙に記されているのも たった数文字
でも それだけでもお互いの気持ちは通じあって
その手紙は相手への敬意と慈愛に満ちてる
ふたりの間にある繋がりは どんなものよりも深くて強いんじゃないかと思えてくる
想いを伝え合う方法も確かめる方法にも 決まりなんか要らない

自分自身にもしくは自分達にちょうどいい形を見つければ 人とは違っていても それも幸せ


小さくても狭くても そして切なくても
リトル・アリョーヒンとミイラの人生は とても豊かで幸せ
きっとそうだったに違いないと思う

◇◇◇
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天地明察 冲方 丁

2010-07-13 19:17:00 | ★あ行の作家
天地明察
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)

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はじめから自分の道が見える人というのは稀だろう

人は 人と出会っていろいろなことを考えて 悩みながら何かを探して
そして見つけていくものなんだと それでいいんだと
この小説を読むとあらためてそう思う

江戸中期の泰平の世 
名門の碁打ちの家に生まれた渋川春海の仕事は “安井算哲”の名を受け継ぎ碁を打つこと
碁の才はある 
とはいっても 仕事で打つ碁は真剣勝負ではなく 代々伝わる決まった譜をただ再現するだけ
相手に勝つために自由に打てる碁ではない
安泰たる勤めではある

だが 春海は 餓える

碁を打つことを一生の仕事と定め 情熱を傾けることがどうしてもできない春海
繰り返される同じような日々の中で ふつふつと湧きあがる 己の人生への飽きと餓え

唯一の救いが 大好きな算術そして天体観測と暦学
ふと神社で耳にした『からん、ころん。』という算額絵馬の音 
その転がるような音に導かれるように 様々な出会いがあり 春海の運も転がりはじめる
そうして 見つけた己の道は 天を測り地に起こることを明らかにし 新しい暦を作ること

たかが暦 されど暦
八百年以上も使われてきた暦を捨て 新しい暦を作りだすという国を挙げての一大事業は 
朝廷や幕府それぞれの思惑が絡み 一筋縄ではいかない

長い年月をかけ 算術や観測の師たちからいろいろなことを学び 将来を託され
同志たちとはときにぶつかりながらも認め合い 互いに精進し 
保科正行や水戸光圀などの力ある者や 妻の存在や憧れの女性への想いに支えられ
そして 自らが得たものをあとから歩いてくる者たちへ残し 伝える

人は人と関わることで生かされてるんだと思う


『雁鳴きて菊の花咲く秋はあれど 春の海べにすみよしの浜』

“春海”という名はこの伊勢物語の歌からとられているそうだ
『雁が鳴き、菊の花が咲き誇る優雅な秋はあれども、自分だけの春の海辺に、“住み吉”たる浜が欲しい。居場所というだけではなく、己にしかなせない行いがあって初めて成り立つ、人生の浜辺である。』

自分だけの春の海辺を探すこと それが生きるってことだと思う



それから 印象的だったのは 
春海が想いを寄せていた女性“えん”との再会
一度は違う道を歩き始めたふたりが 再び出会うことになる不思議な縁
生真面目で えんを待たせてばかりの春海がもどかしくもあったけど
安易に踏み出せずにいたのは それだけ彼女が大切な存在だったんだろうとも思う
最後に ようやく見つけた春の海辺を穏やかに笑いながら歩いているかのようなふたりが 羨ましく思えた


ほかにも心に残ったところをいくつか

神道についての春海の言葉
『天地に神々はあまねく存在し、その気は陰陽の変転とともに千変万化しながらも常にこの世に漲っている。捨てる神あれば拾う神あり、というが、その正しい意義は星の巡りであり神気の変転である。神気が衰えることは古い殻を脱ぐ用意を整えるということであり、蛇が己の皮を脱いで新たに生まれ変わるのとまったく同じなのだ。』
『神道は、ゆるやかに、かつ絶対的に人生を肯定している。』

神道というのは すべてのものをゆるやかに肯定し大きく包み込んでしまう
そんな宗教なんだろうなと思う

天測や暦についての春海の語り
『星はときに人を惑わせるものとされますが、それは、人が天の定石を誤って受け取るからです。正しく天の定石をつかめば、天理暦法いずれも誤謬無く人の手の内となり、ひいては、天地明察となりましょう。』


「天地明察」このすっきりと晴れやかな言葉の印象どおりの 素敵なお話でした

花まんま 朱川湊人

2009-10-02 10:32:14 | ★あ行の作家
花まんま (文春文庫)
朱川 湊人
文藝春秋

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懐かしい雰囲気の ちょっと怖い 不思議なお話

昭和30年代の大阪の下町
差別や暴力が蔓延する貧しく荒んだ生活の中で 懸命に生きる子ども達が体験する不思議なできごと

6つの短編集

表題作でもある「花まんま」がじんわりと心に残る

わが子を失った親の喪失感というのは言葉で言い表せないほどだ
ましてや事故や理由なき殺人だったりしたらやりきれないだろう
どこにぶつけていいのかわからない怒りは 大抵の場合 
自分に向かう
悔やんだところで戻ってくるわけではないけど
それでも自分を責めることで心の均衡をようやく保てるようなことはある

失くした心をうめるものは温かい思い


見えるものと見えないもの

この世には見えないけどあるものはたくさんある
その見えないものを形にして見せてくれてる素敵な本だと思う

文学賞メッタ斬り! 大森望・豊崎由美

2009-09-25 21:26:10 | ★あ行の作家
文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)
大森 望,豊崎 由美
筑摩書房

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「読者のための文学賞ガイド」です

三度の飯より本が好きという書評家・評論家であるふたりが 有名な文学賞から地方の小さな文学賞まで おもしろ可笑しく懇切丁寧に解説してくれてます

特に芥川賞と直木賞
この権威ある両賞を裏話満載でメッタ斬り!
選考委員の作家さんたちもそして彼らの選評もメッタ斬り!!
ジュンちゃん(渡辺淳一)とテルちゃん(宮本輝)についてはもう言いたい放題で ふたりでいじりまくってキャラ萌えして完全に遊んでます
飲み屋で一杯引っかけて繰り広げているかのような リラックスしたやりとりで それがまたおもしろいです

各章についてる「文学賞の心得」を拾うだけでも 的を得ていて感動です

『直木賞は、賞を与えるタイミングを間違えている。』

なんてホントそのとおり 
なんで北村薫さんにもっと早くあげてなかったんだよと思っちゃいます


それにしても すごいですねこのおふたり
こんなに言いたいこと言っちゃってこの業界で生きていけるんだろうかと 余計なお世話なことを思っちゃいますが…
2008年度版も出てるとこをみると 愛されてるんでしょうね

読んだのは文庫化されてる古い方ですが 全然古さを感じず面白かったです

水の迷宮 石持浅海

2009-09-17 23:53:24 | ★あ行の作家
水の迷宮 (光文社文庫)
石持 浅海
光文社

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水族館が舞台のミステリー
3年前に水族館で不慮の死を遂げた職員 その命日に水族館の館長宛に脅迫メールが届き 魚達の水槽に次々トラブルが発生する

その中で起きるひとつの殺人事件

職員達は事件の真相をつかみ解決するために奔走する
奔走といっても 主に頭脳を使って論理的に解決を導いていくのが この作家さんの特色だろうか
今回も登場人物たちの頭のキレがすばらしい
私なんかがここの職員だったら 多分最後まで真相に気がつかず 皆に教えてもらってやっと“あぁ納得”っていう使えない役になりそう…


都合よく行き過ぎるとか登場人物が善い人過ぎるとかそんな意見も多いようだけど 私は基本的にこういうハッピーエンドはキライじゃない


みんなが事件をきっかけに一歩踏み出していって 夢のバトンを繋いでいく

夢を夢で終わらせない 

そんなラストがとても清々しく 読後感さわやか


「水の迷宮」に行ってみたくなる


bk1投稿書評はこちらから
http://www.bk1.jp/review/0000478888

単純な脳、複雑な「私」 池谷裕二

2009-07-14 22:38:51 | ★あ行の作家
単純な脳、複雑な「私」
池谷裕二
朝日出版社

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今流行りの脳科学
脳といえばぱっと思い出されるのは茂木健一郎さんだろうけど 私は池谷さんの方が好き
「ゆらぐ脳」もそうだったけど とてもわかりやすく脳についてのお話をしてくれる
“難しいことを簡単にわかりやすく説明する”ワザ 私もちゃんと身につけないとなぁと常々思ってますが これがなかなか…


『私とは何か。心はなぜ生まれるのか。ため息が出るほど巧妙な脳のシステム』について 池谷さんが高校生を対象に講義・議論した内容を本にまとめたもの


印象に残ったことをいくつか

まずひとつめ

ひらめきと直感とでたらめは違うということ
ひらめきというのは後からその理由を言えるが 直感は何となくそう思うだけなので理由が言えない
それでも『直感というのはわりかし正確で、正しい結論を導いてくれることが多い。』のだそう
なぜかというと 
無意識にかつ自動的に積み重ねられた学習や経験が“直感”という形で表われるから 
確かに“でたらめ”とは全く別物ですよね


ふたつめ

『記憶には即物的に「役立つ」以外の、別の側面があると思う。もっと根本的なところで記憶は「自分自身を創造している」』
池谷さんに同感です


みっつめ

脳において自分の意思と行動の関係をみると
『自由なつもりでいるのは、あくまでも自分の意識の上だけである。本人は自由だと思っているんだけど、実は、脳に操られている、あるいは環境に操られているだけかもしれない。』
という結論に至ってしまう
でも『知覚されたら存在する』というスタンスの池谷さん
『自由は感じるものであって、本当の意味で自由である必要はない。』


よっつめ

『「正しい」というのは、それが自分にとって心地いいかどうかなんだよね。その方が精神的には安定するから、それを無意識に求めちゃう。自分が心地よく感じて好感を覚えるものを、ぼくらは「正しい」と判断しやすい。』


などなど
おもしろかったところを挙げるとキリがないのですが…
いささか哲学的ですかね

では実用的なのをひとつ
好きな人を振り向かせたければ「何かを手伝わせる」作戦がいいそうです 
ただし「使いっ走り」にならない程度に(笑)
理由は…
書くと長いので 知りたい方は読んでみてください


精巧にできていると思っていた脳が 案外いい加減で曖昧だったり 
不要と思われるようなゆらぎやノイズを賢く有効利用しちゃったり
びっくりするような話や感心する話 くすっと笑っちゃうような話がぎっしり!!

脳科学なんて今までちっとも興味がなかったけど?というような方にもおススメです♪

14歳の君へ 池田晶子

2009-05-18 22:28:29 | ★あ行の作家
14歳の君へ―どう考えどう生きるか
池田 晶子
毎日新聞社

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好きな作家さんです というより哲学者さん?
でもこの本は哲学なんて小難しい感じはなくエッセイ風

去年娘の誕生日に買ってあげたんだけど 娘は1ページしか読まず本棚で寝かせてしまっていて
ヤマヤマさんの日記でふと思い出し また本棚の目立つところに置きなおしました(笑)

自分自身を大事にすることや自分を信じることの大切さ
幸せも不幸も自分の心次第 
大切なものは外ではなく自分の内にある



などなど この方の考え方の軸のようなものや 言葉に対する愛情を感じられる文章が好きです


『正しい言葉を話す人は正しい人だし、くだらない言葉を話す人はくだらない人だ。その人の話す言葉が、その人をまぎれもなく示していると気がつくだろう。』

『もし君が自分の人生を大事に生きたいと思うなら、言葉を大事に使うことだ。』


人と話をするのはキライじゃないのだけど

その場限りの軽ーいノリの会話が下手で 
次々と畳み掛けられる言葉に テンポ良く答えられない自分にイラっとする
機関銃のように一方的にしゃべりちらかされるのも苦手
つぎつぎ通り過ぎてく言葉に 無理に合わせて疲れるだけでに何も残らなかったりする
もちろんそれは場を盛り上げたりするのに必要不可欠だとわかっているのだけど…


反対に
ゆっくり ときどきこちらの様子を確認するように話をする人というのは 
話のテンポが自然に合う(合わせてくれてる?)というのは
とても居心地がいいものだなぁと思う
こういう話し方をしてくれるから言葉がちゃんと届いて残るんだろうなと思う


大事にしよう
自分も人も 物も 言葉も

切羽へ 井上荒野

2009-02-23 09:52:16 | ★あ行の作家
切羽へ
井上 荒野
新潮社

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「切羽(きりは)」とはそれ以上先へは進めない場所。…

帯にあったその言葉と表紙の色使いに惹かれて衝動買いした本
本好きの人なら皆経験あると思うけど 一目惚れした本は大抵はずれない
この本も世間の評価はイマイチのようだけど 私は好き
男性にはとくにセイの心の揺らぎがピンとこないのかなぁと思います


静かな島で絵描きの夫と幸せに暮らすセイ 島に新しく赴任してきた教師・石和
奔放な女友達とその愛人や近所の一人暮らしの老婆
彼らの生活が 淡々と描かれていく
実に静かに人の心に沈む淡い想いや揺さぶられる様子を描き出していく

夫を穏やかに愛していて幸せな生活をしているはずのセイが つかみどころのない石和に惹かれていく

なんとなく心惹かれる

あり得ることなんだろう

お互いになんとなく惹かれあうセイと石和 そしてそれをわかっていながら気づかないふりをする夫
夫だけではない 周りの誰もがそのことには気がついてる

大勢でその場にいるのに お互い目の前にいる別の人と話してるのに
それでも心の中の意識はお互い相手のところにある そんなことがある
セイと石和もそんな感じ
言わなくても触れなくても伝わる想いはある


すべての出逢いには意味があるという

いくら考えても答えは出なくても
でもいつかは見つかるのかもしれない

セイも石和も答えを見つけたんだと思う いや 最初からわかってたのかなぁ…

頭のうちどころが悪かった熊の話 安東きみえ

2008-09-07 22:22:38 | ★あ行の作家
頭のうちどころが悪かった熊の話
安東 みきえ
理論社

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以前新聞に載っていた小泉今日子さんの書評が印象的で ずっと読んでみたいなと思っていた本

いろいろな動物が出てくる七つの寓話 つかみどころのない不思議な話

でも『七つの寓話の動物達は、みんな誰かのことを思って生きている』という素敵な書評どおりの話

「ないものねだりのカラス」がおもしろかった 健気な切ない話かと思ったら 肩透かしくらった…

むずかしく考えることはない 大事なことはそう多くはないんだと思う

イニシエーション・ラブ 乾くるみ

2008-08-06 22:47:51 | ★あ行の作家
イニシエーション・ラブ (文春文庫 い 66-1)
乾 くるみ
文藝春秋

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ラスト2行で脳天かち割られました
あなたは一体誰?!

そりゃ2回読みたくなるよ

恋愛小説としては内容は真新しいものではないと思う
げにおそろしきはおんななりってとこか

どの恋愛も通過点 死ぬ前に最後にしてた恋が本物だねきっと

雪の夜話 浅倉卓弥

2008-07-02 09:23:32 | ★あ行の作家
雪の夜話 (中公文庫 あ 63-1)
浅倉 卓弥
中央公論新社

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雪の夜の奇妙な明るさ
あれは空に満ちてる見えない無数の結晶たちが乱反射して
雪が自分で光を放っているように見えるそうだ
見えなくても ここにいるよと光る無数の粒子

自分の形をつかもうと必死にもがく男の子
商業デザイナーとしての才能を花開かせながらも
会社で人になじめず 社会からはじかれてしまうが
雪の中で出逢った少女との交流の中で徐々に自分を見つけていく

雪の粒と男の子と少女が重なる

『自分だけでは自我の形をつかめないから、人は他者にそれを補強してもらうことを必要とする。
個など差異の中にしか存在しないのに理解という名の共通項を求めてやまない。
~理解することが目的ではない。理解したいと思っていることを相手に伝えることが目的なのだ。
それしかできないのだから。』

『思いとか言葉とかそういうのは想起された瞬間にそこにあるのよ。
だから辺り中にそういうものが漂っている。本当はあなたにもわかるはずなの。
だって全部繋がっているんだから。~だからそういうのは伝わるの。』

劇的な展開があるわけでなく やや哲学的な静かな話だ

出てくる写真家の文章が印象的
『私はこの予感と成就というプロセスを楽しんでいるのだと思う。それに伴う高揚感を。
~私にとって写真の喜びはすべてそこにある。
一生をかけて追い求める価値のあるものだと考えている。』

イン・ザ・プール 奥田英朗

2008-06-18 20:02:26 | ★あ行の作家
イン・ザ・プール (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋

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おもしろかった

風変わりな精神科医・伊良部のもとを
少々ココロを病んだ人々が訪れるが
カウンセリングとか投薬とかありきたりな治療は一切しない
治療どころか 悩める患者を巻き込んで一緒に人生楽しんじゃってる
患者もこれでいいのか?治るのか?
と思いながらズルズルと伊良部のペースに引きずられて
最後には皆こんなものかとお気楽に生きられるようになるのが爽快

人間誰でも何かに依存して生きてる
これに出てくる患者達も 泳ぐこととかケータイとか
様々なものを心の拠りどころにしてる
かなりデフォルメされてるが ケータイ依存の子なんて
本当に現実にもいそうだ
普通と異常の境界線ってムズカシイかもと思った
私だって今 本とテニス取り上げられたら壊れるかもしれない…

まぁ まっとうに生きなくてもいいんじゃないか?
伊良部見てるうちにそう思った
テキトーに力抜きながら 楽しく生きようね