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学問 山田詠美

2012-08-19 20:14:50 | 山田詠美
学問 (新潮文庫)
山田詠美
新潮社

『ひとりっきりの秘密は、役に立たない秘密なんだ。』

学校の帰り ふたりで寄り道した蓮華畑 
蓮華を編んで作った紐のはしっこを お互いが握りしめて歩いた

ふたりの間をつなげていたのは蓮華の紐だけじゃない
裏山での出会い 社宅でのお祭り 生徒会室でのふたりきりの会話

秘密の共有という甘美な時間のひとつひとつは 
お互いを確かにつないでる
結びつきを証明するものは何もない きっと他人にはわかるまい
でも つなぐ何か
名前さえないそのつながりを ふたりは感じ とても大切にしているのがわかる

恋ってのは 堕ちるものだと思ってた
けど
本当は 囚われるものかもしれない

見えない蓮華の紐をふたりで持ち合う そんな感じなのかもしれないと思う


学校で教えてくれないものはいっぱいある

自分の身体の感覚や感情を頼りに 自分で学ぶのが 生きるってこと

囚われたり 放したり 結んだり 断ち切ったり 葬り去ったり
生きるってのは そのくりかえし
そうして 自分なりに まっとうして死ぬのが 生きるってこと

なんだろなと思う

吉祥寺の朝日奈くん 中田栄一

2012-08-19 20:06:22 | ★な・は行の作家
吉祥寺の朝日奈くん
中田栄一
祥伝社

吉祥寺に住む朝日奈くんは 役者への道をあきらめて バイトをしながらなんとなく毎日をすごしている
ルックスのいい朝日奈くんはもちろんモテるけど
どこか煮え切らないとこがあり 女の子とつき合ってもいつも数ヶ月で自然消滅
そんな朝日奈くんがうっかり恋をしてしまうのだけど その相手は実は…
 

これは私のただの推測だけど

彼はかっこよすぎるが故に 誰かに恋をする前に いろんな女の子から好きになられてしまい 
つき合ってと言われて断る理由もなく なんとなくつき合い始めるけど
それほど相手に対して強い想いがあるわけでもないので 
執着もしないし深く関わろうともしない

女の子の方でも 最初は彼の優しさを好意と勘違いしてるけど
それほど鈍くない女の子なら じきに気がつくもんである 
彼にとって自分は他ならぬ人ではないし それはこの先も変わらないだろうということに

応えてくれない相手に対する気持ちなんていとも簡単にしぼんでくもので 
愛想尽かした女の子からのさようならか はたまた自然消滅の繰り返しとなるわけか

かっこよすぎる男の子ってのも不憫だなと思う
ふと恋に堕ちる機会を 次から次へと寄ってくる女の子達に奪われてしまって
恋愛経験豊富に見えて実は 本当に人を好きになったことなんかないかもしれない

誰かを想って夜眠れないとか 人知れず涙を流すとか 
目が合っただけでドキドキするとか ひと言話せただけで一日中嬉しかったりとか
普通の人が経験するそういうありふれた想いを 知らないかもしれないのだ


けれど 朝日奈くんは 遅ればせながらだけどやっと本当の恋をした

よかったね そういう他ならぬ相手が見つかるってことは 幸せなんだよ


『いつまでものこるものは信仰と希望と愛で、一番すぐれているのは愛。けれど、僕たちの心の中は、どうしようもないほどはかない。永遠とか、絶対とか、そういうものはないのだ。愛があったはずなのに、それがいつのまにか消えてなくなっている。』

そうかもしれない

『あらゆることはすべてうつろうのだ』

そうだと思う

でも そうならないこともあるかもしれないし いつまでも残るものもあるかもしれない
理屈じゃなくて そんなふうに思えるようになることが 
本当に人を好きになるってことなんじゃないかなと思う


この表題作「吉祥寺の朝日奈くん」の他にも
「交換日記はじめました!」
「ラクガキをめぐる冒険」
「三角形はこわさないでおく」
「うるさいおなか」

全部で5編が収録されたほんわかとした読後感の短編集