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いろいろな想いを残してくれたお気に入りを紹介しています

黒と茶の幻想 恩田陸 (再読)

2009-10-25 20:49:07 | 恩田陸
黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)
恩田 陸
講談社

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2・3年前に読んだのだけど ある登場人物の記憶がスッポリ抜け落ちてることに気がついて 再読

屋久島を旅する学生時代の同級生だった4人の男女
旅の目的は『非日常』と『美しき謎』
普段の生活から離れ ときに思い出話に花を咲かせ そしてそれぞれが提示する美しい謎を解きながらゆっくりと旅は進んでいく

何か事件が起こるわけではない

ただ4人がそれぞれの視点で語っていくだけ 
過去と自分の内側を深く深く見つめなおし掘り下げる作業が続く

それだけなんだけど
恩田陸さんの本の中ではかなり好きな作品
登場人物たちと一緒に考え込んだり共感したり 自分でも見えてなかった自分に気付かされたり…


で 抜け落ちていたのは
主人公達4人ではなく そのうちの一人・容姿端麗な彰彦の姉

紫織

これがまた強烈な印象の女性 
読み返してすぐ思い出したけど なんでキレイに忘れてたんだろ…

絶対に手に入れられないものに恋をしてしまった彼女は
その相手を誰の手にも入らないようにすることで 逆に自分の手に入れてしまってる
その行為は 直接寝てしまうより はるかに官能的だと思う
なんて情の深さなんだろう
こういうふうに相手の心を自分に縛り付けてしまう方法もあるのかと ちょっと恐ろしくなる

受け入れられないとわかってる想いを秘めてる そんな眼差しで見つめられて
でもいくら抱いても 心はそこにはない 

そりゃ 男は虜になるだろな。。。



4人ともみな頭もよく冷静で 客観的に物事を見られるタイプなのだけど
不思議と自分のことは わかってなかったりする

誰でも一番わからないのは自分の心

いちばん『美しい謎』は 自分自身なのかもしれないと思った


◇◇◇

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剣岳<点の記> 新田次郎

2009-10-22 16:22:42 | ★な・は行の作家
劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
新田 次郎
文芸春秋

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剣岳
“弘法大師が草鞋三千足を使っても登れなかった”と
“登れない山 登るべき山ではない”と言われ 地獄の針山に喩えられていた越中剣岳

明治時代 まだろくな地図がない頃
前人未踏の剣岳への登頂を挑む測量隊 
熱い男達のドラマです

地図を作る その測量のための三角点を山頂に設置する
その目的のために剣岳に挑む
初登頂を目指す山岳会との先着争いや 立山信仰を妄信する人たちや県職員からの嫌がらせもある中
なにより厳しいのは 剣岳そのもの

実際には相当昔に登った人があることを示す形跡が山頂に残されてて
その言い伝えは行者に伝承されていたのだけど
行者の言葉『雪を背負って登り、雪を背負って帰れ』に導かれて 登頂に成功するのが印象的


偉業というのは 案外ひとつひとつは小さな地味なことの積み重ねなんだろうと思う
測量官の柴崎や案内人の長次郎 誠実にこつこつと地道な努力を積み重ねる人たちの姿がいい


◇◇◇

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桜宵 北森鴻

2009-10-19 21:48:08 | ★か行の作家
桜宵 (講談社文庫)
北森 鴻
講談社

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「花の下にて春死なむ」に続く 香菜里屋シリーズ2作目
前作と同じく 香菜里屋というビアバーのマスター工藤が 客が持ち込む謎を解いていく

5つの話からなる連作ミステリー


そこにあるのは さまざまな人の強い思い

子を思う親の気持ち 
年に一度だけ会える女性への思い 
夫を思う妻の本心
そして 嫉妬や執着や悪意 歪んだ思い

いろんなもんを抱えて 危うい均衡を保ちながら生きてて
ときに 思いの強さにバランスを崩して転がり落ちることがある
そうして残り増幅された悪意は 人を蝕んでく

でも 
歪みきってる人の心を目の当たりにしても 
それでも工藤は人間ってもんを信じてる
心の中全部が悪意で満ちてて真っ黒なわけがない
『人の悪意をそこまで認めたくはない』
と そう穏やかに信じてる

裏切られたり失くしたりしても大丈夫なように 普通はどこか逃げ道を作ってしまうもんだと思うけど

人を心底信じられるというのもひとつの才能だなと思う
 

印象に残るのは表題作の「桜宵」

御衣黄という薄緑色の桜の樹がある
年に一度満開の頃にやってくる女性に心惹かれ 同時期に訪れて 逢って話をするようになった神崎
その後しばらくして彼は病死した妻の遺品から手紙を見つける

『香菜里屋というバーをたずねてみてください。最後のプレゼントを用意しておきました』

最後のプレゼントだという手紙や桜飯など手の込んだ妻の演出
すべてが繋がって 手紙の意味と妻の真意が見えてくると 切ないような温かいような不思議な気持ちになる 


bk1投稿書評はこちら
http://www.bk1.jp/review/0000479026

◇◇◇

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花の下にて春死なむ 北森鴻

2009-10-05 14:18:17 | ★か行の作家
花の下にて春死なむ (講談社文庫)
北森 鴻
講談社

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静かで品のある全6編の連作短編ミステリー

美味しい料理とアルコール度数の異なる4種のビール 
いつも柔らかい笑顔を浮かべ穏やかな話し方で人を魅了するマスターの工藤
香菜里屋という名のその小さなビアバーに通う客達が 自身や周りで起こる謎を持ち込む


話の断片を聞くだけで 安楽椅子探偵のように謎をさらりと解く工藤
すべてを見通してしまうその目と明晰な頭脳にただ感嘆するけど

工藤の素敵なところは 理知的に謎を解くだけではなく
その答えを ときに 謎の提供者にあえて渡さないところ

正解を出さないこともやさしさだろう


生きてるかぎり繰り返される 質問と答え

質問をしておきながら 正解は最初からわかっていながら
でも 答えを見たくないことだってある
突きつけられるその答えが真実に近ければ近いほど深く心は沈みこむ
明らかに矛盾してるし 
だったら 見なければいいと言われればそれまでだ

心痛めるとわかってる答えならば 目の前で“これが正答だよ”とひけらかさないでくれと思うのはわがままだろうか


『―祈り、願い、願望、希望、切望、憧憬。人が長い人生の中で口にする、こうした言葉のうちのいくつが現実になるのだろうか。きっとそれはあまりにささやかな数量に違いない。だからこそ、「宗教」とはとても言えない軽くて、ややもすれば無責任な気持ちで、人は信仰を求めるのである。』

宗教なんて大げさなものでなくても 誰だって何かを信じてるし
日々のいくつものちっぽけな祈りを大切にしてる

『せっかくの祈りを曇らせてはいけません』

そんな工藤の言葉が心に残る
曇らせないよう 曇らせないよう。。。



2作目「桜宵」続けて読んでみたいと思います


bk1投稿書評はこちらから
http://www.bk1.jp/review/0000478651

今週のオススメ書評

2009-10-02 15:41:45 | 番外編
以前このブログでもご紹介した オンライン書店ビーケーワン
一週間で投稿された書評から よく書けてるものを10本 
「今週のオススメ書評」↓として紹介してくれます
http://www.bk1.jp/contents/shohyou/osusume

嬉しいことに また選んでいただけました
毎週更新されてしまうので記事は一週間限定の掲載ですが…

今回は 坂木司さんの「夜の光」
http://www.bk1.jp/review/0000478383

そして選ばれるともらえる3000ポイント!!
3000円分の本が買えるという 本読みにはとても嬉しいご褒美です

さて 何の本を買おうかなぁ

花まんま 朱川湊人

2009-10-02 10:32:14 | ★あ行の作家
花まんま (文春文庫)
朱川 湊人
文藝春秋

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懐かしい雰囲気の ちょっと怖い 不思議なお話

昭和30年代の大阪の下町
差別や暴力が蔓延する貧しく荒んだ生活の中で 懸命に生きる子ども達が体験する不思議なできごと

6つの短編集

表題作でもある「花まんま」がじんわりと心に残る

わが子を失った親の喪失感というのは言葉で言い表せないほどだ
ましてや事故や理由なき殺人だったりしたらやりきれないだろう
どこにぶつけていいのかわからない怒りは 大抵の場合 
自分に向かう
悔やんだところで戻ってくるわけではないけど
それでも自分を責めることで心の均衡をようやく保てるようなことはある

失くした心をうめるものは温かい思い


見えるものと見えないもの

この世には見えないけどあるものはたくさんある
その見えないものを形にして見せてくれてる素敵な本だと思う