Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

がんの診断と自殺

2012-04-09 08:52:02 | 認知症の看取り
昨日、CEMCジャーナルクラブのツイートで、以下の記事に関する
ものがありましたので、少し考えた事をお書きしようと思います。

がん告知の1週間で自殺リスクは12.6倍、心血管死亡は5.6倍
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1110307

記事はニューイングランドジャーナルオブメディスンという英国
の雑誌からです。15年間に癌と診断された607万人以上の
スウェーデン人の患者様を追跡したところ、(そうでない人と
比較して)診断された直後の1週間で、自殺のリスクが12.6倍に上昇。
引き続き最初の1年間では、3.1倍であったという事です。
当然のことですが病状が深刻であるほどこの傾向は強かったという
ことです。

この手の論文は初めてではありません。2010年にもJournal of the
National Cancer誌で前立腺癌の診断後の自殺についての記事が
ありました。これは一般集団と比べた自殺のリスクは、診断後
1-3ヶ月が1.9倍、4-12ヶ月が1.3倍と高かったというものですが
今回の研究ではこの時の数字よりも深刻でした。
前立腺がんは一般的にがんの進行が緩やかで治療法の多いがんで
あったからか、米国とイギリスの国民性であったか…男性はむしろ
自殺が増えそうなものですが…原因は分かりません。
ちなみにこの前立腺癌の研究では単身や配偶者と離別・死別している
男性の自殺リスクがより高かった、ということ。当然ながら支える
人、大切な人がいるかどうかで異なると思います。
余談ですが心血管疾患は直後に増加するもののやがて減少に転じており、
健康に配慮するからではないか、という考察がありました。


かつて我が国で、高名なお坊さんが告知を望んだので告知した
ところ、翌日に自殺してしまった。だから癌の告知はしては
いけない、という有名な話がありました。私が勤務する先々で
告知の話になると必ずと言って良いほどこの逸話が出て来ます。
相当有名な話だと思いますが、逆にひとりの患者様の話
にしてはあまりにも有名過ぎて不自然であり都市伝説的な印象を
持ちますし、だから告知しないというのは違います。
しかし、今回のような研究がある事を考えると
稀とはいえ告知直後に自殺するリスクが上昇するという認識が
改めて必要だと考えさせられます。
あまり軽視しない方が良いという事です。

私はここから、今の告知のスタイルを見直す切っ掛けになれば
良いと思います。内視鏡後に廊下で軽く「癌だよ」と告げられた
という患者様がいらっしゃいました。他にも告知が
また、告知法があまりに配慮がなく傷付いたという話はよく
お聞きします。配慮にかけるとして、患者様の自殺後に訴訟
になったケースもあります。「訴えられるから」ではなく、
それだけ患者様にとって重大な内容だという事です。
…実に当然のことなのですが、それがなされていないのです。

我が国ではサイコオンコロジストが少なく、告知された方全員
が精神科的なサポートを受けるのは難しいです。
しかし、主治医が精神面の変化を「気にする」ようになる
だけで、言葉遣いや「眠れている?」「食事出来ている?」等の
質問を診療に加え、適宜診療内科にコンサルトする等で
自殺のリスクは減らせるのではないか、と私は思います。


6 コメント

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ありがとうございます (ストーン)
2012-04-10 07:11:43
前回のコメントに返信ありがとうございました。最後の眠れているか、食事をとれているかの声かけに共感しました。
特に眠れているかは重要だと思います。抗がん剤治療中は特に軽視されていました。そのため癌と告知され手術をし翌月には抗がん剤治療が始まりましたが、不眠症状が著明に出現しました。抗がん剤は外来治療が一般的ですが、医者も看護師も不眠症状が出ているとわからず又声もかけませんでした。そのため、家族が生活状態を医者、看護師に話さないといけないと痛感しました。
うつ病を発症させてはいけまいと睡眠の確保につとめました。眠剤を処方されてからはしっかりと睡眠を確保でき、食欲も保ちました。しかし、再発で痛みが増すとますます睡眠の確保が難しくなりました。在宅医療に移行したときも睡眠について聞かれないので、よく代わりに薬を受け取る時に話しましたがやはり軽視されていました。生前主人が痛みは本当に萎える、命をそぎおとされる気持ちだと言っていました。睡眠、休息がこんなにも大事なことだと思いました。在宅医療では限界になり残りを緩和ケア病棟に移行しました。家族の話を良く聞いてくれたので、睡眠についてはよく配慮してくださいました。緩和ケアなのに癌になった時点からこの差があるのにはまだまだ緩和ケアが浸透していないんだなぁと思いました。外来から患者さんとの緩和ケアは始まっているのだと痛感しました。
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Unknown (こたろう)
2012-04-10 08:01:10
ストーンさん、本当にその通りですね。
病気と向き合うためには精神的なコンディション
を良好に保つ必要があり、そのためにも休息は
不可欠です。不眠は、不安・焦燥・せん妄・
抑うつの原因になり、更に不眠を煽るという
悪循環になります。このため、適切な眠剤や
安定剤はプラスになる事も多いと思います。

問題は眠剤・安定剤を「適切」に扱うことで、
多くの内科・外科などの医師はそれが苦手な
方が多いですね。
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Unknown (ストーン)
2012-04-10 13:30:47
確かに内科、外科医は苦手なようでした。サイコオンコロジーの必要性があるなと思いました。在宅医療の医者に精神科の介入をお願いしてみましたが、否定的でした。やはり予防の観点から必要性があると私は思いました。疼痛コントロールで精神科薬をよく使いますが、本当に合っているのかと不安になってました。
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Unknown (こたろう)
2012-04-11 17:21:26
在宅で往診に来てくれる精神科の先生は少ない
ですし、地域に良い先生がいるとは限りません
ので…難しいのかもしれませんね。

緩和ケアをする上で精神科領域の薬は本当に
良く使います。使う側の意識が変わるだけでも
だいぶ違うと思うのですが。
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はじめまして (みはる)
2012-06-02 19:33:42
偶然こちらを知り、勉強させていただいてます。
この春から在宅担当になった新人看護師です

愚問を承知の上で、質問させてください。

なぜ、終末期の患者様にジクロフェナクナトリウム(ボルタレン座薬など)を使用すると、チアノーゼが進行するのでしょうか

そもそも、腫瘍熱に効果がないのは理解しているつもりなのですが、自分の中で未消化な疑問なのです。
どうか教えてください
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Unknown (こたろう)
2012-06-06 11:39:03
みはる様、御訪問有難うございます。
ボルタレンとチアノーゼ、ですが…。
直接的にはボルタレンが血管拡張作用を持つ
「プロスタグランディン」産生を阻害するから
ではないかと思います。

腫瘍熱に効果がない、というのはボルタレンの話
ですか?それは初耳です。腫瘍熱に「ナイキサン」
という薬が良い、と昔誰かが言い出して、今でも
良く使われていますが、ナイキサンは
ボルタレンと同じNSAIDsです。
腫瘍熱も炎症を伴う発熱であり、ある程度効果
はあると思いますよ。
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