徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

錆びた刀の修復

2016-05-20 17:09:39 | 刀身研摩
鉄は、錆びます・・・。

厳密に言うと、純鉄は原子的な結合が安定しているので酸化がおき難いのですが、世の中のほとんどの鉄製品(人類が作り出す鉄には微量のほかの元素が混入している)は、川の水が低いところへ流れるのと同様に、より安定した立ち位置に戻っていく性質があります。この呪縛からは、純度が極めて高いことで知られる鉄の芸術品「日本刀」といえでも、逃れることはできません。
特に、炭素が電極として作用するため、炭素を多く含有している日本刀は酸化が加速度的に起こります。
では、ステンレス製ナイフはなぜ錆びないの?というと不動態皮膜と呼ばれる表面の錆びの層がそれ以上の錆びの侵食を食い止めているのですが、それはまた別の機会に・・・。



というわけで錆び易い刀剣の修復は、錆を除去するための研磨以外に方法がありません。

この刀身は、全身アバタ状の錆がうっすらと表面を覆っていました。



この手の錆び身は、想像以上に錆が深いことが多く、一見光って見えても購入には注意が必要です(錆びがあるがゆえに安く買える場合は別問題!)。ちなみに、錆びていても切れ味に違いはありませんが、元来武家は腰のものが錆びていることを非常に嫌いました。



研ぎあげてみると、映りっ毛のあるとてもよい御刀でした。



体配からは、慶長~寛文期の実戦刀であることが判ります。
研いだ感触からは、もう少し古い感じがしました。地金は、古刀期の鉄味です。



引き続き、拵えの新規作成に移ります!

刀剣外装のお直し・リメイク

2016-05-16 02:23:28 | 拵工作
拵えのリフォームが完了しました!



この度のご依頼は、近年に別の御刀のために拵えられた外装を、お客様の愛刀に着せるという変わったお仕事です。(注意:時代の上がる外装を着せることはできません。鞘の中に錆が落ちている可能性もあり、外装から刀身の破損が進行することがあるからです。)



全く別の刀身のために作られた拵えですので、偶然でもない限り無加工で取り付けることはできません。今回はご予算が限られることと、ある程度鞘の反りが合うことから、極力拵えを生かしたリフォームに挑戦します!



鞘は、この度の御刀よりも若干腰反りの体配(現存するツナギからも、このことが伺えます)であったことから、鯉口の角度を修正して新たに鯉口を作りました。



柄前は、一度バラバラに分解し、刀身に合わせて下地から作り直します。
(時々、柄の中を専用のヤスリで削ったり、詰め物をして刀身に合わせる加工をする業者や職方がいますが、居合や抜刀に用いる場合には避けたい工作です。)



この際に、刀身に合わせることはもちろんのこと、使用者や用途に合わせて仕立てることも重要です。今回は、以前の状態よりも柄下地を薄く仕立てましたので、新たに鮫皮の加工が必要です。



この手の工作では、鞘の形状がそもそも刀身の体配に合っていないことから、納めた状態で柄前と鞘の位置が若干ずれるという問題が発生します。
拵えの据わりが悪いということは、職方としては一番気になってしまいます。
当然ながら、新しい鞘をオーダーされた方が、拵え全体のバランスと言う意味で完成度が上がりますが、限られたご予算の中で極力良いものをお作りするためには、外見のスマートさよりも使用感や安全性の向上に注力します。
用は優先順位を明確にし、重要な箇所に技術を集中させる踏ん切りが必要になります。
特に鞘は消耗品ですので、今回は将来的に新しい鞘に変えることも視野に入れて柄前を製作しました。もし、現行の鞘に合わせて柄前を仕立ててしまうと、新しい鞘に変更した時に、またもや柄縁と鯉口の位置がずれて不恰好になりかねませんので、長い目で見たリペア性も加味して工作します。

あとは、納品を待つばかり!