徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

工芸品の新しい流通

2007-03-23 16:40:53 | 拵工作
前回までの記事で、伝統工芸品を取り巻く環境が、因習にちかい硬い地盤の上に成り立っていることが判っていただけたことと思うが、このことは必ずしも悪いことばかりではない。

伝統工芸に携わる人々が、極端に分業化していることで、逆に付加価値を発生させている可能性も考えられるからである。

多くの人が関与することで、工芸品は初めて店頭に並ぶ。
これは、販売に至るまでに、関わった人の一人一人が、責任を持って商品を取り扱った結果とも言える。これは簡単な事のようで、実は非常に難しい。

その理由は、取扱い方のわかる人間でなければ、正しい取り扱いが出来ないからである。
取扱い方のわかる人間とは、その商品の価値がわかる人間であって、その道の専門家なのである。
つまり、製造工程から販売にいたるまで、専門家が流通を担当しているのだ。
そうなると当然、その分の手間賃が商品に付加されることも想像できる。

そこで、付加価値を省くために、職人による直接販売を行った場合、どのような問題が発生するか検討してみた。

職人が前面に押し出す宣伝文句は、「高品質低価格」であろうか。
この宣伝文句は、一般消費者にとっては非常にありがたいが、先ほど説明したように、伝統工芸品の性格上、取り扱い者が限られる。

一般消費者が、安いからという理由だけで高級品を購入した場合、取扱い方法が分からずに適切な管理がされないことも想定させるのだ。
適切な管理がされない伝統工芸品は、耐久性や有用性が極端に低下する。

そのため、使い手を選ぶ高級品を、薄利多売方式で販売することは逆効果であり、伝統工芸品の適正な評価を陥れる結果にも繋がりかねない。

では、職人が自ら作った物を売るには、どうすればよいか?考えてみた。

従来の工芸品ではなく、まったく新しい製品を創作してみてはどうだろうか?
すでに既存の流通チャンネルが確立している物を、あえて新規販売経路拡大に努めることよりも、新製品を開発し、1から市場を開拓するのである。

工芸品の新しい流通を考えるに、まず新しい流通に合う製品の開発を行わなければならないのである。

以上の考えにいたったことが、私たちが新しい創作を始めるきっかけとなった。

つづく…。

職人のトレーサビリティ

2007-03-16 11:36:32 | 拵工作
昨今、トレーサビリティという言葉をよく耳にする。
トレーサビリティとは、製品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態をいう。
そもそも注目が集まったきっかけは、食品分野であった。
食品アレルギーへの関心、偽装表示、産地偽装問題などが引金となって、食品の安全性や、消費者の選択する権利に対する関心が高まったことが要因だ。

先日、スーパーマーケットの有機野菜コーナーにて、生産者の写真と簡単な自己紹介のプラカードを目撃した。
これこそが、今話題のトレーサビリティの一端である。
本来、伝統工芸作品もトレーサビリティを導入するべきなのだ。
しかしながら、実情として作者は判るものの、どのような流通経路を通って消費者の手に収まっているのか、不明瞭な場合が多い。
また、気に入った商品が見つかって購入したものの、経年変化や故障が発生した場合、ドコに問い合わせていいのやら皆目検討がつかないというトラブルも発生している。
もしも、生産者と最終消費者が直接連絡を取り合っていたなら、回避できたはずの問題も散見される。

それでは、生産者と最終消費者が密接に連絡を取り合っていたら、すべてが解決するかというとそうでもない。
ここで、職人によるトレーサビリティの欠点について考えてみた。
職人がトレーサビリティを全商品に実施した場合、全ての商品に責任を持つということになる。
これは当然のことであるように感じるが、実はそうではない。
職人を取り巻く環境は全てディストリビューターが握っている。
職人はディストリビューターからのオファーに応じてコストや納期を調整しているので、ディストリビューターが中間搾取を多く行なおうと思えば、職人への依頼金額が安くなる。
請けた仕事の対価が低ければ、職人はそれだけ材料や細部の技巧で手抜きをしなければならない。そうなれば、製品の品質が悪化することは避けられない。
このような悪循環の中で、製造者責任を追及された場合、職人のみに負荷がかかることが安易に想像できる。

つまり、既存の販売チャンネルを用いていたのでは、ことさら伝統工芸職人には限界があるのだ。

つづく…

伝統工芸職人だから出来ること

2007-03-15 22:30:09 | 拵工作
伝統工芸職人だから出来ること、だからこそ出来ること。
こんな事を考え出すとワクワクして寝る時間ももったいなくなってきますが、意外と方向性が限られていることも事実です。
その理由は、固定概念として伝統技法や掟に縛られるがあまり、突拍子もない物・奇抜な物を作ることに抵抗を感じるためではないでしょうか。
意外にも、己の中の継承の血が、視界を曇らせる要員となっているのかもしれません。

そこで、思考を鈍らせないために、ネット市場調査を実施することにしました。
インターネット上には、世界中の工芸品、売れ筋商品が所狭しと陳列?されています。
そんな中で、私がまず第一に興味を持ったことは、あまりにも伝統技法を用いた商品が少ないという現実です。
伝統技法を宣伝文句として用いる製品はたくさんあるのですが、それらが本当に伝統技法を用いて作成されている!とは言いがたく、完成度も低いのです。

確かに伝統技法を用いれば、素晴らしい工芸品を世に送り出すことが出来るでしょう。
しかし、生産性とコスト面を考えると、断然手抜の量産品に押されてしまうのです。
市場のニーズが求める完成度と職人のコダワリとの間には、あまりにも大きな隔たりがあるということなのではないでしょうか。

特に、世に出回る高級品と称する商品の完成度の低さには、驚かされます。
例えば、鍛造打刃物の和式ナイフというジャンルを検索すると、非常に多くの実用ナイフが確認できます。
刀剣職人である以上、当該分野には興味があるわけですが・・・。
そのほとんどが伝統技法を用いていないことは、職人ならずともすぐに気付くところでしょう。
ひどい物になると、外装の工作は小学生の夏休み工作レベルで、刀剣職人であったならば商品として市場に出すには抵抗感を感じることもあります。
それでも、製作者は伝統工芸士であったりするから、二度びっくり!

そして、最終的に感じたことは、職人が自ら販売を手がけるサイトの少ないこと。
ネット販売は商業ベースの無店舗販売が幅を利かせており、結局ディストリビューターが市場を掌握しているという事実は、リアルと変わらないと思います。
当然、そこには中間マージンが発生しますので、エンドユーザーは適正な製品の対価を支払っているのか、はたまた職人は仕事に応じた対価を受け取っているのか、甚だ疑問に感じます。

つづく・・・

伝統と創作

2007-03-06 11:16:41 | 拵工作
今年初のブログ更新です。
更新作業が一向にはかどらず、ごくごく少数の更新を楽しみにしていただいている方々には大変ご迷惑をおかけしております。
言い訳をさせていただきますと、現在店舗展開を検討中でして、特色のある商品を取り揃えるべく、いままで市場にありそうでなかった面白いものを作るため、日々奮闘中です。

ここまでに至った経緯を、簡単にご説明します。
私たちの周りにも、職人が少しずつではありますが、集まってきてくれるようになりました。
特に刀剣関係職人は一連の職人が集いつつあります。
物造りの職人が集まれば、考えることはただ一つ、何か作ろう!ということで、今回の挑戦が始まりました。

日本の伝統工芸と雑貨の融合、和と洋の調和など、掟破りにちかい挑戦ですが、新しい日本の美を創作しつつ、それでいて純和風テイストを破壊しない新しい工芸品の創作が現在の課題です。

工作においては、末端にいたるまで古来の伝統技法を用いておこないます。
最高の伝統技術を結集し、完成度の高い商品を世に送り出すことにより、一生愛用していただけるような、実用の美も追求していきたいと考えています。

実は趣旨を同じくする動きが、国内の各地で産声をあげています。
その中の代表的なものに、日本の大手企業が集まって結成した「新日本様式」なるものがあります。
新しい文化を、伝統的な文化の中から模索しようという動きは、とてもすばらしい発想だと思います。
しかしながら、ここまでの伝統創作?のムーブメントは、商業ベースの企画であることが共通しています。
この流れに一石を投じる意味も込め、私たちは、伝統工芸の職人であることを最大限に発揮し、差別化を図っていきたいと考えています。

つづく…