徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

研ぎ次第で生まれ変わる刀

2008-11-26 11:33:22 | 刀身研摩
このような表題で投稿を行うと、語弊があるかもしれません。

ちまたの日本刀の中には、多くの無鍛錬造兵刀が含まれています。(本来、登録されないこれらの刀剣類ですが、何らかの事情で登録書が発行されている刀剣類が多く存在します。それらの多くは一代限りといった恩情登録であると聞いたことがありますが、定かではありません。)
少々鑑定に造詣のある方ならまだしも、初めて日本刀に触れる愛刀家は、刀の良し悪しを刀剣店の店員や知識のある人の意見に頼らざるを得ません。
その結果、高い勉強料を払わされる結果になることは多々あるわけですが、そもそも刃切れや切っ先の抜けた刀身などの欠点刀は別として、嗜好性の高い日本刀の世界に良し悪しなどあるのでしょうか?
自分が惚れ込んで買い求めた武士の魂に、優劣をつけるというのは寂しい気がします。
特に、時々「他人に言われたからいやになった」といった方もお見受けいたしますが、他人に自慢するために購入する刀剣にどれ程の値打ちがあるのでしょうか・・・。

などと、持論を展開したところで、刀剣に関する世間の見方が変わるわけでもないので、理屈はここまで!

今回は、今までの私の経験から、名刀に生まれ変わる近代刀についてご紹介いたします。
何度か述べさせていただきましたが、日本刀の中には無鍛錬などの、伝統技法を用いずに作刀された刀がございます。それら日本刀もどき?の中には、鑑賞研ぎによって素晴らしい刀に生まれ変わる代物が含まれています。

ここでは、悪意のある加工が施された刀身は別として、持ち主に大切に扱われて生まれ変わった刀についてご紹介します。

皆さんは、満州刀などと呼ばれる造兵刀をご存知でしょうか?
中心には、興亜一心満鉄之作と銘が彫られており、中心仕立てもなかなかに上手です。これらは、大戦中に旧満州にて製造された寒冷地仕様の軍刀身です。

非常に詳しく紹介されているサイトがございますので、ご興味をお持ちの方は下記URLより飛んでみてください。
旧日本帝国陸海軍 軍刀

満州刀は、現在の登録制度では登録の対象にならず、市場に出回ることも滅多にございません。しかしながら、数十年前までは登録が可能であったらしく登録書の付いている満州刀もあります。私が拝見した満州刀も、そんな刀でした。

刃渡りは二尺二寸弱、浅めの反りでバランスもよく、手持ちもしっかりしています。三式軍刀拵と呼ばれる行軍に適した拵を着た美しい刀でした。
刀身には、鑑賞研ぎが施され入念に地艶が施されています。
本来、無鍛錬・半鍛錬の造兵刀に、地艶を引いても意味がないと誰もが思うところですが、私はこの刀身を見たときに固定概念が吹き飛ばされる思いをしました。
なんと、無地肌風の梨地の肌(実際には肌とは言えないのかもしれませんが・・・)が見えます。
直刃は刃縁が良く締まり、少々厚化粧の気がありますが、不味くない仕上がりです。

一見して肥前刀かな?と思う節があり、柄を外して中心を見るも何度も上を見てしまう程でした。
造兵刀の代表格満州刀ですら、入念な研ぎにより鑑賞に堪えうる刀に生まれ変わるという事実を突きつけられた今では、むしろ近代刀を楽しむ余裕が生まれたのも事実です。

ただし、注意したいのは、悪意のある加工により作為的に時代をあげた刀身です。特に直刃に多い気がします。
某協会の発行する鑑定書が付いており鑑定書が偽造でないにも関わらず、研ぎの依頼で預かった刀剣の中に、研ぎ味が時代と明らかに違う刀身があります。例えば、肥前刀などは皮鉄が薄いので、あまり目の粗い砥石を使わないのですが、砥石を当てた瞬間、背筋がゾッとします。見た目と研ぎ味が余りにもちがうからです。
よくよく見れば、上と下の雰囲気が微妙に違かったり、錆が若かったりと、加工者?の悪意を感じます。
どうか皆様も、鑑定眼を研ぎ澄まして、怪しい刀に取り付かれない様、ご注意ください!

職人を取り巻く環境(その1)

2008-11-04 14:45:24 | 拵工作
職人さんと言うと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?

一つの技術を時間をかけて習得し、一途に作品作りに没頭する頑固なおじいさん。←これが一般的なイメージでしょうか?
確かに正解かもしれませんが、全員が全員そういう訳ではありません。

そこで、そんな職人さんたちの素顔を知っていただくために、職人さんたちが実際どのような環境で働いているのか?ご紹介していこうと思います。

まず、職人の種類は多岐におよぶので、独自に地域毎の職人に分類して考えてみたいと思います。
例えば、都会の職人さん、地方の職人さんなどの大雑把な分類です。

まずは、地方の職人さんについて。
地方の職人さんは、先祖代々職人をしている方が多く、土着の技術を継承する傾向が見られます。
特に漆器や焼物などの技術は、地方色が強くその土地毎に独特な技術が発達してきました。そんな地方の職人さん達を取り巻く環境として、もっとも深刻な問題は、後継者不足です。

職人の後継者不足は、田舎の過疎化とも関係がありそうですが、過疎化が進む地方の町では、特色をいかした地域振興を積極的に進めており、町興しや若者の人口増加に力を注いでいます。
その中でも、特に伝統工芸を前面に押し出し、産業化を進めている地域では、職人の技術が地域振興のカギです。
例えば、○○塗りや○○焼きなど、地域限定の技術や製品が従来から存在し、ある程度名産地として知名度のある土地では、有効な町興しとなるでしょう。

ちなみに、町の活性化を進める地方では、大概、地方財政の危機的状況を打開するため、企業の積極的な誘致なども推進しているのが通例です。

皆さんは、実際に伝統産業に頼る過疎地域へ行かれた事がありますでしょうか?そういった町へ行くと、必ずといっていいほど大きな工場があります。ここでいう工場というのは、昔ながらの家内工業とは違った、大量生産が主流の会社のことと定義しておきましょう。
これらの工場は、伝統工芸で有名な町には、必ずと言っていいほど見受けられますが、あれはいったい何でしょうか?

ここで少し脱線しますが、皆さんは『シャッター街』をご存知でしょうか?突然、大きなスーパーマーケットが出現し、地元の商店街にお客さんが来なくなった結果、地元の商店街が破綻する現象です。今、地方の町では伝統文化の『シャッター街』化が進んでいます。

通常、伝統工芸の産地というのは、細々と一つのものを作って生計をたてていますが、逆に考えるとそれほど貧しいということです。つまり、地元民の唯一の糧が伝統工芸なのです。

そこに、財政がひっ迫し危機感を募らせた地方行政が、企業誘致に乗り出します。ここで登場するのが資本家です。外資系などもその一例ですが、それら事業者が、献身的な?工場設立を行います。
地方行政としては、企業誘致は振興につながるので大喜び!です。しかし、なぜ過疎化が進行する、さびれた片田舎に投資家が目をつけるのか…。
地元の人を雇用して雇用促進につなげようとしているのでしょうか?
実際に工場の中をのぞいてみると、労働者は中国などからの労働者がほとんどであったりします。

目的はどうやら他にある様ですね。

ここで、またまた脱線して、商品を購入する一般消費者の心理を考えてみましょう。量販店に並ぶ安価な商品を買う場合、皆さんなら、どのような判断基準で商品を購入されますでしょうか?
例えば、AとBの商品があります。Aは昔からこの商品の名産地として有名な地方ブランド、Bはメイドインチャイナ。実際は、AとBは全く同じものです。
安くて品質の悪い商品でも、すでにネームバリューのあるご当地ブランドなら、無名のメイドインチャイナよりはマシだろうと感じませんか?
結果Aの商品を選んでしまいます。

もうお分かりですね。投資家は地域の活性化など全く興味がなく、ご当地ブランドというネームバリューを手に入れることが目的なのです。

卸業者さんが、まず始めに、安かろう悪かろうでも名産地製という怪しい商品に飛びつきます。品質の良し悪しは、価格次第ということになります。
企業の計画に、初めに気付くのは職人さん達かもしれません。
「あれ?昨日まで頭下げて買い付けに来ていた業者さんが、町であっても知らん顔してるぞ…」
「あれ?先月まで買い付けに来ていた業者さんが、今月は来ないなあ…」
気付いた時にはもう手遅れです。

業者さんはお金のにおいに敏感なので、安くて同じ流通に乗りそうな商品があれば、仕入れ先を変更することは造作もないことでしょう。

職人さん達は、今まで守り続けてきた仕事以外はできません。作ったものが売れなかったら、売れるまで値引きするか、売らないか、どちらかしかありません。
結果、安い外国製に押され、ご当地ブランドも奪われ、職人さんが激減しているというのが現状です。

ちなみに路頭に迷った腕の良い職人さんは、その後どうなるか?
行き着く先は、工場に泣きつくしかありません。今度は、工場がその人たちの看板を買い取ったり、その人たちが作った本物の最高級品を自社製品として販売するのです。
ここで、更なる富の集中化が始まります。

以上が、地方の町で実際に起きている伝統文化の『シャッター街』化です。
ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。

最後になりますが、これはフェアでしょうか?