徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

粟田口?

2008-05-18 15:50:34 | 刀身研摩
以前、軍刀身の鑑賞研ぎに挑戦したことがあります。

軍刀というと語弊があるかもしれないので、昭和19年頃までに製造された日本刀(以下、昭和刀)と言い換えましょう。
これら昭和刀の生産目的は、ほとんどが言わずと知れた戦闘用です。
現代刀作刀の目的が、美術工芸品の制作であるのに対し、昭和刀は非常にわかりやすい目的を持っているわけです。そのためか、長年芸術性に欠けるとされ、ほとんど鑑賞の対象にはなっていません。

ちなみに、本来の作刀姿勢とは、いかに戦闘において使い易く、丈夫で長持ちであるか?にあったはずなので、昭和刀のそれは本来の作刀姿勢に近いのかもしれません。鎌倉期やそれ以前の儀礼用の細身の太刀の中には、戦闘を意識していない造りのものもあるので、一概には言えませんが…。

ところが、昭和刀=戦闘用と甘く見てはいけない!と感じることがありました。

半鍛錬?無鍛錬?と言われる伝統的な作刀技法を用いない昭和刀身の中にも、アッと驚くほど美しい姿のものがあるのです。
それらおしい刀身は、肉置きや姿を少し整形するだけで見違える程、気品溢れる刀へと生まれ変わります。
特に直刃の無地肌風の物や、濤乱刃の荒煮の焼刃を持つ物は、時代物に混ざる程の冴えを見せてくれます。私が研いだ昭和刀も、そんな隠れた名刀でした。

皆さんは、軍刀研ぎという研磨方法をご存知でしょうか?
戦地におもむく軍刀を、出来るだけ長斬れする様に研ぎ方を検討したのでしょう。例えば、使用によって錆が肌に浸透することを防ぐため?鎬地以外にも全体的に磨きをかけてしまう方法があります。
当然、化粧も施していませんので、刃紋は曇ってしまい油焼きの様に見えます。地刃ともにピカピカで、長年の放置で曇っています。
表面を研いで見ると、中から良く練れたチリチリとした鍛え肌が浮き上がってきました。
正直、研いでいる本人も、あれ?っと驚くわけですが、体配を修正しながら研ぎ上げると、鑑定刀並みの存在感を示します。研ぎ味も、現代刀や新々刀の様なガリガリ感は無く、サクサクと研げます。

研ぎあがった刀身は、直刃の刃縁が締まり、肌の健全さも相まって、鑑定上新々刀と見ることができます。
さらに、狙いを新刀に捉えるなら、体配を換えれば、新刀になるでしょう。
さらにさらに、恐るべきは研ぎ方を変えることで、室町や鎌倉へも時代が上がるのでは無いか?とすら感じるのです。

鑑定自慢の友人らが、全員が全員名刀に間違えるほどなので、その出来の良さは折り紙付きです。

斬って良し、眺めて良しの実用兼美な昭和刀は、まだまだ評価が低いのが現状です。
一度、ご自分の試斬刀を見直してみてはいかがでしょうか?