徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

拵え製作の悩み(パート2)

2011-04-22 17:12:05 | 拵工作
以前、「拵え製作の悩み」(2010年12月16日)にてご紹介しましたが、拵えを作っていると技術的な悩みが絶えません。

前回の様子↓
http://blog.goo.ne.jp/kosiraeshi/e/6f994d5c6e775d85ed6a462a78ae6f44

現在工作中の柄前にて、同様の悩みが発生しましたのでパート2を書きたいと思います。

当該お刀は、先反りごころの太刀体配が好ましく、鑑定的には戦時下の近代刀と見ますが一応の鍛錬も見られることから、当時は高級品であったことが偲ばれます。
刀身は、戦時中に相当働いたのか・・・はたまた近年試斬に多用されたためか、素人研磨が施されており鎬筋が丸まっていますが焼刃もよく見え、新刀然とした良い波紋が好印象です。研ぎ直しを施せば、鑑賞に堪えうるお刀に生まれ変わるでしょう。
ナカゴの形状は慶長摺り上げ風に仕立てられているものの、マチをおくった形跡が認められないことから、不自然さは拭えません。
鑑定に不慣れな方ですと、古刀室町として手を出してしまいそうなお刀です。

この度のご依頼は、現在のあわせの柄前はそのままに、新しく柄下地から柄前を製作します。

柄前製作は順調に進んでいますが、悩みの種は又もやDIY鞘にあります。
今回のDIY鞘も掟が守られていないため、作成上の悩みが多発します。鯉口の角度が違う方向を向いているのです。
本来、鯉口は鞘の反りに合わせて自然な位置になければならないのですが、今回のDIY鞘は鯉口が極端に峰側に折れ込んでいます。
大げさに言えば、竹やりの様な形状がユニークです。

打刀の拵えの図

DIY塗鞘に柄前を作った場合の完成予想図

柄下地を作るにあたって、天正拵風に鍔元から角度を持たせることで美しい拵えに仕上げることにしました。
この手の鞘に柄前を作るのが楽しくなってきている今日この頃です。

ドンと来いDIY鞘!

番指風寸伸び短刀拵え

2011-04-11 20:03:06 | 拵工作
ご依頼いただいている寸伸び短刀の拵え下地が完成しました。
柄前はすでに完成しており、後は鞘の塗りだけです。



当該拵えは、番指の掟に従って製作いたしました。
「番指」とは、「裃指」あるいは「殿中指」とも呼ばれ、武家の儀式用の拵え様式を言います。例えば、登城時、正月、節句、婚礼などの祝儀のときや、葬儀、法事などの不祝儀のときなどに着用します。

ちなみに、諸大名が将軍家から拝領する打刀や、逆に諸大名から将軍に献上される打刀も同一の様式の拵えとされています。
このことから、「献上拵」とも呼ばれています。



番指拵の掟は、柄を白鮫で包み、縁金具には腰高の烏銅磨地または七々子地の物などを用います。柄頭は水牛の角で作り、黒漆を塗って光沢を出します。
さらに、角製の頭には「掛巻き」という巻き方を用います。これは、柄糸を柄頭に筋違いに掛けて諸捻りで巻く技法です。
目貫は、金無垢の容彫りの物または家紋を用います。
柄糸の色は、黒を用い、諸捻り巻きを施します。
菱の数にも掟があり、菱の部分が奇数になる様に仕上げます。
脇差ですと、九つが標準的な巻き方になります。



当該拵えを「番差風」と表現したのは、あえて柄頭に掟通りの加工を行わず水牛の角を特殊な形状に加工し、掛巻きとしなかった為です。
その理由は、居合などの添え差しとしてお使いになると、どうしても大刀や服、身体との接触により、柄頭上の柄紐の劣化が早くなり、実用的ではないからです。
そのため、角頭の中に柄糸を通しました。

いよいよ鞘の塗りです。ご依頼内容は、黒蝋色です。
完成しましたら再度掲載します。

なお震災により、一部材料の入手及び施工に遅れが発生しております。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご依頼いただいている皆様、納品が遅れております。
申し訳ございません、もうしばらくお待ちください。

下げ緒

2011-04-04 23:03:38 | 拵工作
前回完成した拵えの納品にて、お客様に大変喜んでいただくことができました。

お客様のご友人の中には、地震で実家が被害にあい、今だ消息知れずの方もいっらっしゃるとか・・・、暗い話題ばかりの中、当工房のブログを見て、拵え完成の明るい話題を周囲に提供できたとの御礼の言葉までいただき感無量でした。

皆様のお気持ちを和ませるお手伝いが出来ているとしたら、このブログを続けてきたこともけして無駄ではなかったのだと、確かな手応えを感じます。
職人冥利に尽きる良い仕事ができたことを感謝すると共に、引き続き刀身の研磨を実施するため、お刀をお預かりし続けています。

そんな中、先日お客様より下げ緒が届きました。
鶯色を基調に紫色のラインが入った、とても美しい下げ緒です。



早速、装着してみましたので、アップいたします。
拵えのイメージとバッチリ合います!